ひさめんとこ

zausu

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6章~ひさめんとこのお父さんとおじいちゃん~

その8

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「えー、では…なんやかんやあったが…」
「わが娘、穂香の誕生日を祝って!乾杯!」
乾杯!と、あちこちから大きな声が上がる。
「それにしても…すごい人数ですね…」
大広間に五重数人ほどが居る。
「そうだね。でも昔はもっと居たんだよ」
「なんで減ったんすか?」
「おじいちゃんがクビを切った」
「それってリアルな意味ですか?それとも比喩的な意味ですか?」
「後者で」
「へぇ、こんな業界にもクビはあるんすねえ」
「まぁ色々あってね」
「でもこうやって誕生日を家族…一族?まぁいいや、みんなで祝うのってなんか新鮮っすね!」
「…新鮮?」
「あぁ、いや、なんでもないです!どこの家もみんなで祝いますよね!」
「堂出さん!口調!口調!」コソコソ
「あっとととと…」
「…どうかしたの?」
「なんでもないっす!」「なんでもないです!」
「…そう」

(それにしても…)
那由多はぐるりと回りを見渡す。
(まさか、紫園さんのお祖父さんの家が893だったなんて…)
小さくため息をつく。
(…紫園さんには悪いですが…来ない方がよかったかもしれません…)
「…あー、紫園」
おじいちゃんが話しかけてきた。
「何?おじいちゃん」
「そこの嬢ちゃんは紫園の友達か?」
「うん、そう」
「…そうか…君、名前は?」
今度は那由多に話しかける。
「え…わ…わたしですか?」
「そうだ」
「え…えと、守手熊那由多…です…」
「わかった。では那由多さん、少し話たい事がある、来てほしい」
「ふぇ!?」
驚きを隠せない。
「大丈夫、すぐに終わる話だ」
「あ…あの…私…は…」
「…待った」
横から声が割り込んできた。
「ん?なんだね?」
「なゆちゃんになにするつもりっすか」
「…こっちの嬢ちゃんも紫園の友達か?」
「そう」
「大丈夫だ、少し二人きりで話たいだけだ。少々気になることがあってな」
「本当っすか?」
「あぁ、本当だ」
いつの間にか回りは静かになっていた。
「…もし、仮に那由多に少しでも危害を加えたら…」
微妙に声が震えている。一旦深呼吸して、
「…ここにいる全員に恨まれようと、殺されようと構わない。ただし、殺される前にお前はブッ殺す」
誰もが黙っている大広間に、その声はとても響いた。
「…威勢の良い嬢ちゃんだな…構わない。もし危害を加えたようであれば、やってみたまえ」
「…堂出…さん…」
「その言葉、忘れるんじゃないっすよ」
「あぁ、忘れねぇさ…」
「…」
二人が大広間の外へ出ていった。
「…ふにゃぁぁぁ~」
出ていった瞬間、その場にへたり込んだ。
「こ、怖かったぁ…」
「あ、怖かったんだ」
「そりゃそうすよ!だって…ブッ殺すとか…ああああああああ」
「アッハッハ!度胸あるなぁ!嬢ちゃん!」
突然おじいちゃんの部下の一人が話しかけて来た。
「はじめて会うオジキにあんなこと言うなんてなぁ!すげえよ!」
「…全然凄くないっすよ、足なんか…震えて立てそうにないっす…」
「…まぁ安心しろ!オジキは有言実行の男だ!やるといったことは絶対にやる!手を出さないっつーことは絶対に手は出さない!」
「そうだそうだ!オジキは約束を破らねぇ!」
「オジキ最高!」
「オジキイケメン!」
「オジキ!」「オジキ!」「オジキ!」「オジキ!」
「イジメかっ!」
これはカズマの突っ込み。
「…ていうかあんたのボスにあんなこと言ったのになんでそんなフレンドリーなんすか?」
「んー、まぁオジキを信頼してるからな!さっきも行ったがあの子は絶対無事に帰ってくる!」
「ただいま、戻ったぞ」
「あ、帰ってきた!オジキ!お帰りなさい!」
「なゆちゃん!何もされてないっすか!?」
「…」
「な、なゆちゃん…黙ってどうしたんすか!?なゆちゃん!」
「…は…」
「…なんすか?良く聞き取れないっす!」
「紫園さんのお祖父様は素晴らしいひとです」
「洗脳されてる!?」
「何があったの…?」
「ちくしょう!あいつ手を出して…」
「堂出さん落ち着いて!…あの事…」ボソッ
「え…」
「…どうしたの?」
「なんでもないっす!」「なんでもないです!」
「…そう」


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