上 下
12 / 19
第1章 それぞれの旅立ち

第12話 唐揚げの作法

しおりを挟む
「ガチャリガチャリ」と騒々しく金属音を鳴らしながら、酒の入ったジョッキを持った精悍な男達が、ソドム達のテーブルにやってくる。音の正体は、彼らのブーツについている歯車のような滑車のような金属部品・拍車はくしゃである。
 これは騎乗時に、馬の腹を蹴って速く走らせるためのものであり、このブーツを履いているということは、騎馬兵に違いなかった。「拍車をかける」とは上記に由来するようだ。

 人数は三人、揃いの革鎧で腰には小剣を差し、背中には皮の盾を背負っている。仲間は他にもいるのだろうが、ただ挨拶しに来ただけと思われた。
 ここは、ギルドによって治安が維持されている街なので、ソドムらは無警戒でパズズ攻略の議論を展開していた。リーダー格の男は、軽い調子で話に割って入る。

「お初にお目にかかる、ガーターズ諸君。まずは、この酒に感謝を!」そう言ってジョッキを高く上げてから、豪快に飲み干す男達。
「俺たちはダンジョン攻略専門の【東北ライダース】ってもんだ。一杯奢ってもらった礼を言いに来ただけなんだが・・・」と言って、男はレウルーラと冴子をチラ見した。
 その時、ちょうどシュラが、タオルで返り血を拭きながら返って来た。いや、正確には・・・仕上げに濡れタオルで拭き上げながら。

「ただいま~。運動したら、またお腹空いちゃった」そう言いながら、ライダースの面々を無造作に押しのけて席に着いた。そして、背もたれに行儀悪く体を預けてから、
「何?喧嘩?」と、ソドムに聞いた。

「違う、一杯奢ったら律儀にも礼を言うため来てくださったウェイダースさん達だ」

「ライダース!・・・な。それはともかく、さっきお前さんが話してた魔神パズズ。ありゃ止めたほうがいい、暑くて探索どころじゃねーぞ」と、意外にも忠告してくる男。女ばかりのソドムらを見て、死なすにはもったいないと思ったようだ。
「そうだぜ、馬で駆け抜けて一気にイケると思ったんだが、あの近辺の暑さは人間じゃ耐えられねぇな」もう一人の男が、暑くて堪らなそうなジャスチャーをしてみせた。

 シュラは途中で話に混ざったからチンプンカンプンなので、考えるのを止め、煮込んだ肉を頬張りながら、手を振って酒と鶏モモ唐揚げの注文をウェイトレスに伝える。冴子は彼らの武勇伝を思い出し、とりあえず おだてようと考えた。

「ああ!ライダースといえば速攻で知られる方々ですね。確か・・・、騎馬で迅速に目的地に向かい、馬が入れるダンジョンならば、そのまま騎乗して攻略を行うのだとか。集団での騎射、そして槍による突撃チャージ、止めに剣撃!他の冒険者が辿り着くころには攻略が終わっていると聞き及んでおります」冴子は、らしくないがニコリと微笑んだ。
(友好的にして、少しでも情報を聞き出すのが正解ね)

「お・・・おう、貴公らは この街に来て間もないはずなのに、随分物知りだなぁ」
(さすがはプラチナランク、拠点をこの街に移して間もないのに、よく調べ上げてる)

「いえいえ、自然に耳に入って来たことです」と、冴子は謙遜しつつ持ち上がる。ライダース達は、美女に持ち上げられて、まんざら悪い気はしない。

「まあ、忠告はしたぜ。仮に・・・大魔術師がドラゴンを呼び出しても、暑さは平気でも相性が良くなければ決定打に欠けるだろうな。つまり、お手上げさ・・・悩むより他を目指した方がいい・・・」そう言ってから、三人は引き上げていった。


「珍しいわね、いつもなら 一悶着ありそうなものだけど」レウルーラは、少し拍子抜けであった。大概は、あの手の輩が、羽振りよく女に囲まれているソドムに絡んで、それを好機とばかりに正当防衛で逆撃して、迷惑料を搾り取る・・・という展開になるからだ。

「うん、なんかうまく言えないけど・・・引き際を心得てるって感じ」シュラは運ばれてきた唐揚げに歓喜しながらも、暗黒転生で猫舌になってしまったためにすぐには食べれず、必死にフーフー息を吹きかけて冷ますのに夢中だ。そう、ファミリー全員が猫舌であった。

「確かに厄介そうだ。うまい話があった時、騎馬で先に行かれたらどうにもならん」
(いずれ、潰さねば・・・)

「しっかし、常に馬を使うなんて贅沢な奴らだなぁ。一頭で金貨十枚(大和帝国 百万円)するし、餌代とかで月に銀貨何枚かするんでしょ?」唐揚げを少しかじるシュラ。

「ああ、だからウチには騎馬隊がいないんだ」
(基本バカだが、金に関してはさといんだよなコイツ)

「そうよね、伝令兵くらいしか乗ってないものね」と、レウルーラも唐揚げに手を伸ばした。このファミリーは、唐揚げに関しては素手で食べる。
 これはソドムが、手で感触と熱を感じてより一層味わうためにしていたのを、なんとなく皆が真似ただけで、少しも変だと思っていないクセであった。

「ええ、ソドム殿と宰相殿の節約ぶりには感服します」冴子は手甲のまま、なにげなく唐揚げをつかみ取ろうとしたが、気の利くレウルーラが食べやすく ちぎってから食べさせてくれた。身内だからいいが、やはり お行儀はよろしいとは言えない光景だ。

「ありがとうございます、ルーラ姉」と、幸せの絶頂にある冴子。メンバー全員に言えることだが、幸せのハードルは低めの連中なので、冒険者としての日々を結構満喫していた。
しおりを挟む

処理中です...