ミミズ

タコヤリイカ

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カガク工場とカルトと一般人

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ヤマダ・タローは浮かない顔で同僚に話していた。
「いよいよって感じだな…最近ゲンソの出も悪いし…」
「ああ、カメサマが弱ってきてるからなぁ」
「この前も事故があったんだろ? 大丈夫なのかよ?」
「さあね……まあ俺達は言われた通りに仕事をするだけだ」
「そりゃそうだが…」
ここはカガク工場。
ここでは僕達の生活を支えている魔法のような「カガク」の元となる「ゲンソ」を回収する工場だ。
今日も僕はこの工場で働いている。
この工場はキカイと人間が一緒に働く不思議な場所だ。
「そういやゲンソ足りないからB型採掘キカイは停止しろってさ。」
「マジかよ!? ゲンソ不足もそこまで来てるのか!?」
「そんなことないでしょ。あのハゲがケチってるだけだろ」
「やってらんねぇよなぁ…給料上げてくんねぇかなぁ……」
「無理だろうなぁ」

◆◆◆

仕事を終えたヤマダ・タローは家に帰る途中だった。
トシン部のネオンはギラギラと輝いていた。
「はー疲れた……早く帰ってビールでも飲みたいな…」
ヤマダはいつもより足早に道を歩いていた。
その時、路地裏の方からなにやら叫び声が聞こえた。
「カメサマはすべてを見ておられるぞ!!悪いことはやめろ!!」
(やべーやつがいるな…)
そう思ってタローが通り過ぎると建物と建物のあいだで不良に絡まれているエルフの少女が見えた。
そしてそれをつい見てしまった。
「うるせぇ!テメェ見てるとイライラするんだよ!」
「カメサマの言葉なんです!!」
「黙れオラァッ!!!」
「暴力は良くな…うぐっ!」
少女が殴られて地面に転ぶ。
その様子を見た通行人は見て見ぬふりをする。
(あーあ…こりゃ誰も助けないだろうな…)
「もう二度とこんなことすんなよ、次会ったらぶっ殺すからな。」
不良が去っていく。
少女が残されている。
「何見てんだよ!テメェも殺すぞ!」
不良に気づかれたみたいだ。
タローはまずいと思いそのまま反対に向き不良を振り切るようにふたたび帰路についた。

◆◆◆

家に帰りついたタローはテレビをつけながら缶ビールを飲み始めた。
「今日のニュースです。先日、A区で行方不明になっていた女性が遺体となって発見されました。警察は殺人事件として捜査を続けています。」
「最近カメサマといい物騒だよなぁ……」
タローはそう呟きながらチャンネルをザッピングする。
どの局も同じような内容の報道をしている。
「はぁ……なんか面白い番組やってないかなぁ…」
これが僕の一日だ。
カガク工場で働いて帰ってきてぼやきながら安いビールを飲む。
なんてことない一般人だ。明日も明後日もそのまた次の日も変わらない日々を過ごす。
そう思っていた。
あの事件が起きるまでは。

◆◆◆

今日も今日とてお仕事です。
心を無にして僕は作業をする。
「今日がんばってるじゃん」
突然の同僚の声にハッとなり驚く。
「びっくりしたなもう…お前かよ。」
「俺で悪かったか?」
「悪い」
「おい。」
同僚は笑いながら話を続ける。
「で、最近どうよ?」
「どうって?」
「最近仕事にやる気出してるみたいじゃん」
「まあね」
「もしかして彼女できたとか? なわけないかw」
「うっさいな……流石に落ち込むぞ」
「ごめんごめん。でもほんとなんで急にこんなに変わったんだ?」
「変わらない生活に飽き飽きしてさ。」
「うん」
「まずは自分から変えようと思ってね。」
「えらいじゃん」
「…で、お前は仕事どうしたんだよ」
「いっけね、今日はサボれない日だったわ。じゃあな!」
そう言うと同僚は自分の部署に戻っていった。

◆◆◆

(またいるよ…あのエルフ…)
帰り道にタローが出会ったのは、この前不良に絡まれていたエルフの少女だった。
「カメサマはすべてを見ておられるぞ!!悪いことはやめろ!!」
彼女はそう言いながら街角に立ち、人々に訴えかけていた。
「君、さすがに迷惑なんじゃ…」
僕はことなかれ主義なはずなのにそう口走っていた。
えっ…僕が…?
「……あなたは……誰ですか……?」
「ごめん、こないだ不良に絡まれてるの見たから…」
「そう……だったんですか……」
「今後はまた痛い目にあわないように別のところでするといいよ…」
タローが去ろうとすると、少女はタローを呼び止めた。
「待ってください!」
「……ん?僕に何か用があるのか?」
「あの……私に力を貸してくれませんか!?」
ん?
why?
なんで僕に?
僕はただの一般市民だ。そんな大層なことはできない。
「そんな大層な…僕はただの通りすがりだから。他を当たるといいと思うよ。」
「いえ!貴方には特別な何かを感じた…んです…。」
だんだん声が小さくなっていった。
今ノリで適当に言っただけなのか…マジかこの子…。
「いや、でも僕にできることなんて何もないし……それに僕は普通の人間だし。」
「お願いします!手伝って下さい!」
「いや、でもなぁ……」
この子すごい強引だ。
だが彼女の真剣な眼差しを見ると、つい協力したくなってしまう。
これもカメサマの力…なのか…?
「……わかったよ。できる範囲で手伝うよ…。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
少女は満面の笑みを浮かべた。
「私の名前はトモ、「トモ・アキラ」です。
よろしくお願いいたします!」
「僕はタロー、よろしくね。」
こうして僕は「トモ」という謎の女の子に協力することになったのだ。

◆◆◆

「…ってことがあって…。」
と僕は翌日同僚に打ち明け…れる訳なんてなかった。
「お前すごい顔してるぞ…?」
「いやなんでもない。ただの考え事だよ。」
「それならいいんだけどさ。なんかあったら言ってくれよな。俺はお前のこと親友だと思ってるからさ。」
「ああ、その時は頼むよ…。」
(言えるわけがない……。)
僕は内心そう思いながら作業を続けた。

◆◆◆

その日の夕方、タローとトモはタローの行きつけの準喫茶「キッサテン」で話していた。
「…困っちゃうよなぁ…。また演説してるんだもん…。」
「演説じゃありません!布教活動です!」
「あーはいはい。」
「むぅ……」
「で、どうすんの? キミの手伝いをするって決めたけど具体的に何をすればいいわけ?」
「それは……ですね。
私たちの仲間のカムイの元に来てください。」
ゲッ…カムイといえばカルト教団じゃん…。
「えぇ……。」
「大丈夫ですよ。みんな優しい人ばかりですから!」
「僕、用事ができ…」
「タローさんはこないだの人たちみたいに私の事ひどく言わないですよね…?」
うぅ…すごいキラキラした瞳…。
「…でもカルトだろ…?」
「そんなことありません!!ただの生活協同団体です!!」
露骨に怪しい名称が出てきたぞ…。
「やっぱり行かなきゃダメか…?」
「はい、もちろんです♥
カムイに入れとは言ってないんです。
ただ私たちの集会に来てくださいってだけで。」
キャピキャピしながらすごいことを言う。
トモちゃんすごい得な性格してるよなぁ…。
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