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09-人体切断連続殺人事件Ⅴ
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ヘレンから手に入れたカフスボタンを警察署に持ち込もう。そう提案した直後、ティベリオの腹の虫が盛大に鳴いた。
「……そういえば、朝から何も食ってなかったな」
「僕は食べる必要ないけど、テディは食事をしたほうがいいんじゃない?」
セシルの父ラッジも、仕事に没頭すると食事を忘れることが多かった。いつもセシルが無理矢理食事を作って口に押し込んだものだ。
夢中になると飲食を忘れるところはティベリオも同じらしい。
「そうだな……その辺の屋台でサンドイッチでも買ってくる」
「じゃあ僕はここで待ってるよ」
「わかった。すぐ戻る」
ティベリオを見送り、セシルは小さく息を吐く。
昨日今日で、自分の身の回りにはあまりに多くの事が起きすぎている。
本来はラッジの行方を探るために依頼を受けただけだったのに、気が付けば連続殺人の捜査に首を突っ込んでいる。
本来なら放っておいてもいいはずの事件だ。それでも手を貸すべきだという直感があった。
この事件を追えば、ラッジの痕跡にもたどり着ける――そんな確信めいた勘が。
考えを整理しようと、一人車内で目を閉じた時だった。
ふと、視線を感じる。
ゆっくり顔を上げると、通りの向こう。賑わい始めた人通りの合間に、見覚えのあるスーツ姿の男が立っていた。
数時間前に話を聞いたばかりの相手、シャルウッドだ。
距離はあるのに、まっすぐこちらを見ているのが分かる。
(なんでここに……病院からは結構距離があるはずだけど)
疑問が浮かんだその瞬間、ティベリオが買い物から戻ってきた。手にはサンドイッチの入った袋を抱えている。
「待たせたな、混む前だったからすんなり買えた」
「そう、よかったね」
答えながら視線を戻した時には、シャルウッドの姿はもう消えていた。
セシルは一瞬迷った末、ついさっき見た光景を口にする。
「テディ。さっき、通りの向こうに病院の院長がいた」
「院長?シャルウッド・ハドンか?」
「そう、あのキモい院長」
「キモ……まあ、わからなくもないが。で、そいつがここに?」
ティベリオは苦笑しつつ、袋から取り出したサンドイッチにかぶりつく。
「うん、間違いない。スーツ姿のままで、はっきりこっちを見てた。……でも、君が戻ってきた時にはもう消えてた」
ティベリオは眉を顰め、もぐもぐと咀嚼を続ける。
「ふへはへへは」
「ちょっと。食べながら喋らないでよ。君、それでも貴族?」
セシルの言葉にティベリオは口の中のサンドイッチをごくんと飲み込む。
「すまん。……もしかしたら、俺達を付けてきてるのか?」
「わからない。偶然の可能性もあるけど……どっちにしろ気持ち悪いよ」
「お前に惚れたとか?」
「うっわ、最悪なこと言わないでよ!」
セシルは本気で顔を顰め、ぞっとしたように身震いする。
その姿を見たティベリオは面白そうに笑うと、食べかけのサンドイッチを一気に平らげ警察署に戻るべく車を走らせた。
警察署に戻った二人は、押収したカフスボタンを鑑識に持ち込んだ。
担当したのは背の低い小柄な男性。ティベリオより若く、几帳面に整えられた前髪の下で分厚いメガネがギラりと光る。
「ほほう! 第一の事件の新しい遺留品ですかな! これは、これは――いやはや、吾輩の知識と技術が唸るというもの!」
学者めいた態度にセシルは眉を寄せる。
「……こんな人に任せて大丈夫なの?」
「失敬な!!吾輩を誰と心得る! このモルスにかかれば遺留品など瞬きの間に白日の下に晒されるのですぞ!では、少々お待ちを!」
モルスと名乗った男はそういうとカフスボタンを持って、機械がごちゃついている部屋の奥へと消えて行った。
ティベリオが苦笑しながら説明する。
「見た目はアレだが、腕は確かだ。うちで一番の鑑識でな。魔法科学を操作に導入した第一人者だよ」
「へえ……つまり重度の魔法科学オタクってことね」
そんな会話から十分ほど。
モルスが胸を張って戻って来た。
「ふふん!お待たせしましたぞお二方!このモルスにかかればこの程度のことなどちょちょいのちょいでありますからして」
「前置きはいいから、結果だけ」
「……むっ。簡潔に申します! 一つ目、このカフスボタンの裏には『グリモワール宝飾店』の刻印がありました。貴族向けの高級店ですな。製造元はそこで間違いありません!
そして二つ目――吾輩の魔法科学の粋をもってして、二人分の指紋を検出しました! 一人は第一被害者アニー嬢。しかしもう一人分は、これまでの被害者・関係者の誰とも一致せず! すなわち……これこそが犯人の指紋の可能性が高いと吾輩は断言いたします!」
セシルが目を丸くする。
「そんなことまで分かるんだ……すごいね」
「そうでしょうとも!魔法科学を取り入れた鑑識は、まさに無敵ですからな!」
素直に感心するセシルに、モルスはご満悦で胸を反らす。
ティベリオは手帳に簡潔にメモを取りながら言った。
「カフスボタンについては、宝飾店に行けば記録があるはずだ。既製品かオーダー品か、それで絞れる」
「……オーダーだったら、かなり絞り込めるね」
カフスボタンをヘレンが持ち帰っていなければ、この手掛かりも掴めなかっただろう。現場に残していたら万が一犯人が戻ってきた時に見つけて持ち帰ってしまっていたかもしれない。
二人はモルスに礼を告げ、再び車へ乗り込む。
次なる目的地は、グリモワール宝飾店に決まった。
「……そういえば、朝から何も食ってなかったな」
「僕は食べる必要ないけど、テディは食事をしたほうがいいんじゃない?」
セシルの父ラッジも、仕事に没頭すると食事を忘れることが多かった。いつもセシルが無理矢理食事を作って口に押し込んだものだ。
夢中になると飲食を忘れるところはティベリオも同じらしい。
「そうだな……その辺の屋台でサンドイッチでも買ってくる」
「じゃあ僕はここで待ってるよ」
「わかった。すぐ戻る」
ティベリオを見送り、セシルは小さく息を吐く。
昨日今日で、自分の身の回りにはあまりに多くの事が起きすぎている。
本来はラッジの行方を探るために依頼を受けただけだったのに、気が付けば連続殺人の捜査に首を突っ込んでいる。
本来なら放っておいてもいいはずの事件だ。それでも手を貸すべきだという直感があった。
この事件を追えば、ラッジの痕跡にもたどり着ける――そんな確信めいた勘が。
考えを整理しようと、一人車内で目を閉じた時だった。
ふと、視線を感じる。
ゆっくり顔を上げると、通りの向こう。賑わい始めた人通りの合間に、見覚えのあるスーツ姿の男が立っていた。
数時間前に話を聞いたばかりの相手、シャルウッドだ。
距離はあるのに、まっすぐこちらを見ているのが分かる。
(なんでここに……病院からは結構距離があるはずだけど)
疑問が浮かんだその瞬間、ティベリオが買い物から戻ってきた。手にはサンドイッチの入った袋を抱えている。
「待たせたな、混む前だったからすんなり買えた」
「そう、よかったね」
答えながら視線を戻した時には、シャルウッドの姿はもう消えていた。
セシルは一瞬迷った末、ついさっき見た光景を口にする。
「テディ。さっき、通りの向こうに病院の院長がいた」
「院長?シャルウッド・ハドンか?」
「そう、あのキモい院長」
「キモ……まあ、わからなくもないが。で、そいつがここに?」
ティベリオは苦笑しつつ、袋から取り出したサンドイッチにかぶりつく。
「うん、間違いない。スーツ姿のままで、はっきりこっちを見てた。……でも、君が戻ってきた時にはもう消えてた」
ティベリオは眉を顰め、もぐもぐと咀嚼を続ける。
「ふへはへへは」
「ちょっと。食べながら喋らないでよ。君、それでも貴族?」
セシルの言葉にティベリオは口の中のサンドイッチをごくんと飲み込む。
「すまん。……もしかしたら、俺達を付けてきてるのか?」
「わからない。偶然の可能性もあるけど……どっちにしろ気持ち悪いよ」
「お前に惚れたとか?」
「うっわ、最悪なこと言わないでよ!」
セシルは本気で顔を顰め、ぞっとしたように身震いする。
その姿を見たティベリオは面白そうに笑うと、食べかけのサンドイッチを一気に平らげ警察署に戻るべく車を走らせた。
警察署に戻った二人は、押収したカフスボタンを鑑識に持ち込んだ。
担当したのは背の低い小柄な男性。ティベリオより若く、几帳面に整えられた前髪の下で分厚いメガネがギラりと光る。
「ほほう! 第一の事件の新しい遺留品ですかな! これは、これは――いやはや、吾輩の知識と技術が唸るというもの!」
学者めいた態度にセシルは眉を寄せる。
「……こんな人に任せて大丈夫なの?」
「失敬な!!吾輩を誰と心得る! このモルスにかかれば遺留品など瞬きの間に白日の下に晒されるのですぞ!では、少々お待ちを!」
モルスと名乗った男はそういうとカフスボタンを持って、機械がごちゃついている部屋の奥へと消えて行った。
ティベリオが苦笑しながら説明する。
「見た目はアレだが、腕は確かだ。うちで一番の鑑識でな。魔法科学を操作に導入した第一人者だよ」
「へえ……つまり重度の魔法科学オタクってことね」
そんな会話から十分ほど。
モルスが胸を張って戻って来た。
「ふふん!お待たせしましたぞお二方!このモルスにかかればこの程度のことなどちょちょいのちょいでありますからして」
「前置きはいいから、結果だけ」
「……むっ。簡潔に申します! 一つ目、このカフスボタンの裏には『グリモワール宝飾店』の刻印がありました。貴族向けの高級店ですな。製造元はそこで間違いありません!
そして二つ目――吾輩の魔法科学の粋をもってして、二人分の指紋を検出しました! 一人は第一被害者アニー嬢。しかしもう一人分は、これまでの被害者・関係者の誰とも一致せず! すなわち……これこそが犯人の指紋の可能性が高いと吾輩は断言いたします!」
セシルが目を丸くする。
「そんなことまで分かるんだ……すごいね」
「そうでしょうとも!魔法科学を取り入れた鑑識は、まさに無敵ですからな!」
素直に感心するセシルに、モルスはご満悦で胸を反らす。
ティベリオは手帳に簡潔にメモを取りながら言った。
「カフスボタンについては、宝飾店に行けば記録があるはずだ。既製品かオーダー品か、それで絞れる」
「……オーダーだったら、かなり絞り込めるね」
カフスボタンをヘレンが持ち帰っていなければ、この手掛かりも掴めなかっただろう。現場に残していたら万が一犯人が戻ってきた時に見つけて持ち帰ってしまっていたかもしれない。
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