人形探偵セシル

陽翔

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11-人体切断連続殺人事件Ⅶ

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人形は無機質な瞳でセシルを見つめ語りだした。

――悪い人、人を壊す。たくさん壊れた。

「その『壊す』って、殺すってこと?」

――そう。悪い人、家に隠してる。壊れた人、たくさん。

「家に……死体を隠してる?それがどこかわかる?」

――真っ暗、真っ暗なところ。私達、そこで生まれた。

「……生まれた?」

つまりシャルウッドは、自宅の暗い部屋で死体をため込み、そこで人形を作っているというのか。
しかも被害者は公になっている三人だけでない。もっと、もっと大勢――。

「……その暗い部屋で、何が行われているかわかる?」

――人形造り。私達、人間から生まれた。

「っ……!?」

その言葉にセシルは口元を覆う。自分の体には臓器などないはずなのに、吐き気がした。
シャルウッドは人間を殺し、その亡骸を材料に人形をつくっている。目の前のこの人形もまた、その犠牲から産まれた存在だったのだ。

「君も……もとは人間だったの……?」

――多分、そう。でも。人間の記憶、もう、ほとんどない。ほとんど、感じない。もう…………疲れた。

その言葉を最後に、何を問いかけても人形は話さなくなってしまった。
セシルは拳を握りしめ、震える唇を噛みしめる。
胸の奥に渦巻いているのはどうしようもない怒りだった。

セシルは人間ではない。だが、命の尊さを知っている。
その尊ぶべきものを、シャルウッドは自分の欲望のために奪い、弄んでいる。
人間も、人形も、誰一人として救われない。
到底許せるものではない。

さっきまで自分に笑みを浮かべ、口説くようなセリフを吐いていたシャルウッドの姿が脳裏にちらつく。
ぞっとするほどの嫌悪感とともに、セシルは決心した。

(この手で、必ず捕まえる)

セシルは深く息を吐き、ぎゅっと手を握りしめる。
人形の話によればシャルウッドの自宅にはこれまでの犠牲者が隠されているという。
それこそが決定的な証拠。白日の下に晒すには、その自宅に踏み込み押さえるしかない。
だがシャルウッドは腐っても貴族の子息。警察とて、断定的な証拠なしに家宅捜索を行うことは出来ない。

どう動くべきかと思案していると、廊下から足音が近づいてきた。
椅子へと戻り平常心を装う。ほどなくしてティベリオを伴ったシャルウッドが院長室へ戻ってきた。

「いやぁ、院長のおかげで助かりましたよ」
「いえいえ。私は診察して薬を処方しただけですから」

ティベリオがちらりとセシルを見やる。
セシルは小さく頷き、目的を果たしたことを目線で伝えた。

「本当にありがとうございます。さて、聞きたいことは聞けたし、腹痛も治りましたし……そろそろ戻るか」
「……うん」

帰ろうとするセシルにシャルウッドが声をかける。

「ぜひまた、いらして下さい。今度は警部抜きで……ね」

穏やかなのにゾッとするような声色と、絡みつくような視線に嫌悪しかない。
セシルは掴みかかりそうな衝動を必死に抑え込む。
証拠を押さえるためシャルウッドの家に踏み込む機会を作るためには、油断させておいた方がいい。
ここで迂闊に手を出すのは愚策だ。

「……考えておくよ」

吐き捨てるようにそう答え、セシルはティベリオの背を追って院長室をあとにした。






警察署に戻った二人は、まず院長室から回収してきたペンを鑑識へ提出した。
モルスが「むむっ!新たなる証拠品ですかな!?なるほど指紋鑑定とな?お任せを!!」と張り切って引っ込んでいったので、そんなに時間はかからないだろう。

鑑定を待つ間、セシルとティベリオは署内の休憩室で休息することにした。

「……あの人形の子と、話せたよ。あの子は元人間だったんだ……」

ティベリオの目が見開かれる。

「どういうことだ……?」

セシルは言葉を選びながら、しかし抑えきれない怒りをにじませて語った。
シャルウッドが人間を殺し、死体を材料に人形を作っていること。
犠牲者は公になっている三人以上で、かなりの数が犠牲になっていること。

「……マジかよ。とんだサイコパスじゃねぇか」

ティベリオの言葉にセシルも強く頷く。

「一刻も早く逮捕しないといけない。あの子の話だと、あいつは『真っ暗な部屋』で人形を作っているらしい。匂いや人目を避けるなら地下室とかだと思う」
「確かに遺体の匂いなんかは簡単に隠せるもんじゃない。……屋敷で働く連中にも怪しまれるはずだ」
「……だから、僕があいつに取り入って囮になろうと思う」

セシルの言葉に、ティベリオの眉間が深く寄った。

「待て。危険すぎる」
「危険なんて承知の上だ!」

セシルは思わず声を荒げる。

「あんな奴、野放しにしてちゃいけないんだ!今すぐにでも止めなきゃ……!」
「お前らしくないぞ、セシル!落ち着け!!」
「僕は落ち着いてる!」

セシルは叫ぶ。

「テディこそ、犯人を逮捕したくないのかい!?あいつの、被害者の中に……もし父さんが居たらっ……!!」

口にしてしまった瞬間、その不安は一気に膨れ上がる。
人形の話を聞いてからずっとセシルの中には不安があった。
もしも、公にされていないシャルウッドの被害者の中にラッジがいたとしたら。

「セシル……」

ティベリオの声が険しさを帯びる。

「他に方法はないんだ!証拠はあそこにある、今すぐにでも押さえなきゃ。犠牲者はもう充分すぎるほど出てるんだよ!」

セシルは休憩室の机を叩くように言葉を吐き出した。

「セシル」

ティベリオは落ちついた声で名前を呼ぶと、震えていたセシルの手をそっと握る。
そこでセシルは初めて自分の手が震えていたことを知った。

「ラッジはきっと大丈夫だ」
「……なんでそんな事いえるのさ。父さんが生きてるかもわからないのに」
「幼馴染として断言する。あいつは生きてる。……警戒心は薄いくせに、妙に幸運だからな」
「……強運?」
「あぁ。ガキの頃、木登りで落ちた時も俺は服も破けて擦り傷だらけだったのに、あいつは怪我も汚れもなくピンピンしてた。そのせいで俺だけが叱られたんだ。それだけじゃない、他にもラッジの強運武勇伝は山ほどある。本が書ける位にな」
「ははっ……なにそれ。逆に凄いね?」
「だろ?」

手の温もりが伝わり、少しだけ冷静さを取り戻したセシルが小さく笑う。
相棒がいるのが、それがどれだけ心強いことか。

だが、決意は変わらない。

「……仮に父さんが被害にあってなくても、あいつは早く捕まえなくちゃ。テディ、僕はやっぱり囮になるよ」
「セシル……」
「犠牲になった人達にも、僕にとっての父さんやテディのように、大切な誰かがいたはずなんだ。その人達の大事なものを奪ったあいつを、僕は絶対に許せない」

ティベリオはしばし黙り込んでいたが、やがて深く息を吐いた。

「……わかった」

セシルが顔を上げる。

「その代わり、準備をしっかり整えてからだ。護身用の仕込みも持たせるし、作戦もしっかり立てる。無茶は絶対に許さねぇ」
「テディ……」
「お前が本気で覚悟を決めているのはわかった。だったら俺は相棒として全力で手を貸す」

ティベリオの真剣な眼差しに、セシルは静かに頷いた。

「ありがと。テディ、さすが僕の相棒だね、信じてるよ」
「……むず痒いこと言ってんじゃねぇ」

わずかに照れくさそうに目を逸らすティベリオに、セシルの口元が緩む。
その時、休憩室の扉が開いた。

「お待たせいたしました!指紋鑑定、終了いたしました!お預かりしたペンとカフスボタンに残されていた指紋、完全に一致しましたぞ!」

モルスの報告に、一瞬場が明るくなった。
だがすぐにティベリオが顔をしかめる。

「……これじゃまだ決定打にはならねぇな」
「そうだね……。やっぱり僕が直接乗り込むしかない」

その言葉にティベリオが反応するよりも早く、モルスが手を叩いた。

「おぉ!なんという好機!敵陣に潜入なさるのであれば、是非ともお貸ししたいものがございます!」
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