人形探偵セシル

陽翔

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05-人体切断連続殺人事件Ⅰ

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その連続殺人は、ある日突然始まった。

最初の被害者は娼婦の女性。娼館の仕事仲間によれば二十歳を迎えたばかりだったという。
発見された時、肘から先の腕が切断されていた。

その二日後、二人目の被害者が出た。
宿屋の下働きをしていた十六歳の少年。彼は膝から下の脚が切断されていた。

殺害方法はどちらも絞殺。切断面が専用の器具でも使ったかのように驚くほど整っており、同一犯による連続殺人と判断された。

二人目の被害者から数日後の今日、三人目の被害者が見つかったらしい。

三人目の被害者は、劇団の男性劇団員。彼は胴体だけが消え、手足や頭だけが残された無残な遺体として発見されたという。
現場は屋外と屋内を繋ぐ倉庫。
最初に発見したのは劇団団長の息子。
現場以外の屋内に凶器や血痕などは見当たらず、稽古にほとんどの団員が参加していた為アリバイのない者はいなかった。その上、遺体の状況が前の二件の事件と同じことから警察は連続殺人事件の被害者と断定したようだ。



―――
「またやられたか……」

セシルと共に現場に到着したティベリオは、警官の報告を受けて低く息を吐いた。
劇場の裏手に設けられた倉庫。そこに横たえられた遺体は布で覆われていたが、布越しでも異様な輪郭が伝わってくる。

「……胴体なんて何のために持ち去ったんだろう。それにこんなに綺麗に切断する意味は?」

セシルが布をめくり、首を傾げる。
切断面を覗き込んだティベリオは、顔をしかめた。
残酷さよりも異様な几帳面さを感じさせる切り口だ。

「……わかるわけねぇだろ、殺人犯の考えなんて」
「それを調べて犯人を捕まえるのがテディの仕事でしょ」

セシルは淡々と返し、遺体に視線を落とす。そして小さく息を飲んだ。

「……ねぇテディ、おかしくない?」
「何がだ」
「これだけ大掛かりに切断されているのに、血が少なすぎる。普通ならもっと床が真っ赤になっているはずだ」

ティベリオも倉庫内を見回す。
たしかに、四肢と首まで切断された遺体にしては血痕があまりにも少ない。

「つまり、別な場所で殺して、ここに運んできたってことか?」
「可能性はある。でもわざわざこんな場所に運ぶかな?遺体を発見してほしかったにしても、運搬中に目撃される危険が高すぎる」
「切断した胴体を持ち運ぶにも目撃される危険はあると思うが」
「それはそうだけど、人間一人丸ごと運ぶよりは目立たないんじゃない?」
「なら……ここが仮に現場だとして、血が少ない理由は?」
「被害者が死んでから切ったんだと思う。そうすれば心臓が止まって大量出血にはならない……犯人が出血を押さえた理由は何だろう。切断面も綺麗だったし残された遺体にも乱暴に扱われた形跡はない……。まさかとは思うけど、遺体を綺麗に残したかったから、とか」

セシルの言葉に、ティベリオの眉が険しくなる。
その歪んだ意図を想像するだけで、背筋に冷たい物が走った。

「……まだ、遺体を動かした跡がないとも限らん。現場周辺を確認しておく」

ティベリオは立ち上がり現場検証中の部下に指示を飛ばした。

「遺体が移動された痕跡がないか、周囲を徹底的に調べろ」

それを確認したセシルは自分も捜査に加わろうとする。

「僕も探してみるよ」
「セシル」

低く呼び止められ、振り返るとティベリオがこちらをじっと見据えていた。

「お前は少し休め、疲れてるだろ」
「まだ捜査中だけど?それに僕は人形だから肉体的な疲労とは無縁だよ」
「体は人形だとしても心は人間だろうが。心の疲労は目に見えない、今のうちに休め」

淡々とした口調だったが、その奥にティベリオなりの気遣いが見える。
有無を言わせずセシルの肩を押し、車の方へ連れて行く。

「寝ろ。目が覚めた頃には報告も上がってる」
「……はいはい」

助手席に押し込まれたセシルは、ため息をつきながらも目を閉じる。
決して口にはしないが、ティベリオの気遣いは好ましく思えた。




少しだけ目を閉じたつもりがいつの間にか眠っていたらしい。
どれくらいたったのだろう、まだ捜査員があちこちで操作中のようだ。
車の近くで部下から報告を聞いていたティベリオがセシルのもとにやってきて短く告げた。

「周辺を調べたが、遺体を移動させた痕跡は見つからなかった。遺体のあった倉庫が現場で確定だ」

セシルは眠気を振り払いながら伸びをする。

「じゃあ次は劇団員に話を聞かないとだ。被害者の人間関係とか足取りとか、何か情報が欲しい」
「そういうと思って関係者を一カ所に集めてる。行くだろ?」
「もちろん」


倉庫の隣にある稽古場には、三、四十人ほどの劇団員達が集められていた。
誰もが不安げにざわめき合っている。張り詰めた空気の中、貫禄のある中年男性が両手を広げて何とか団員達を落ち着かせようとしている。
ティベリオとセシルが稽古場に足を踏み入れると、すぐにその男性が気が付き歩み寄ってきた。

「警察の方ですか?あの、ゲイルを殺した犯人は、捕まったんでしょうか……?」

ゲイル――今回の被害者の名前だ。
ティベリオは男性に向き直り、落ち着いた口調で答えた。

「私はこの捜査を任されているティベリオ・ディアスです。犯人はいまだ逃走中ですが、必ず我々が捕まえます。その為に、まずはこちらの責任者からお話を伺いたいのですが」
「……申し遅れました。私がこの劇団の団長を務めております、マシューと申します」
「ありがとうございます、マシュー団長。早速ですが、被害者――ゲイルさんについてお聞かせいただけますか?」

マシューはわずかに肩を落とし、口を開いた。


「ゲイルは真面目な青年でした。孤児院出身で、十五の頃からこの劇団で働き始めて十年たちます。うちの劇団では役者の補助から雑務まで、あらゆることを引き受けてくれて。嫌な顔一つせずに誠実に働いてくれていたんです」

その言葉に周囲の団員達がうなずき、口々に付け加える。

「重い荷物を持っていたら、さりげなく助けてくれて……」
「口数は少なかったけど困ってるとすかさずフォローしてくれました」
「人の輪に入るのは得意じゃなかったけど、意地悪なんて絶対しない人です」

ぽつぽつと証言が積み重なり、浮かび上がるのは"無口だが誠実で、殺されるほどの恨みを買うような人物ではない"という像だった。
ティベリオが腕を組んで短く相づちを打つと、マシューが付け加える。

「……特に仲が良かったのは、衣装係のモニカと私の息子のネオシュです。二人なら彼の人となりを一番よく知っているはずです」

セシルとティベリオは視線を交わし、うなずく。

「じゃあ、次はその二人に話を聞かせてもらおう」



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