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三章

「永遠のライバルは二つ名ロリっ子⁉」その①

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 運がいいのか普通なのか分からないが、砂漠横断の旅は快適に終了した。
 ヨットはこちら側のヨットハーバーに自動的に停泊され、無職と奴隷と盗賊のパーティーは南のサンドブールの町に降り立った。
 北側の町で得た情報では、ここから数時間も歩けば村があるらしい。早く大きな街へ行って女神の祝福とやらを受けたいし、こっちの町はスルーした。
 スカーレットはご機嫌で尻尾を振りながら先頭を歩き、チラチラと頻繁に後ろを振り返る。もう完全に犬だよね。
 小一時間ほど平原を歩いた後、森林地帯に切り替わり更に数時間歩いた。

「そろそろ村があってもいい頃だよな」
「ご主人、こっちの方から料理の匂いがします。それに色々な匂いが混じっているので人間が多くいるかと」

 スカーレットが指差す先は道から外れた森の中だった。

「気になるし、ちょっと行ってみるか」
「ご主人、私が先に行って安全かどうか様子を見てきます」
「あぁ、そっちはスカーレットに頼む。クリス、お前はこの道をもう少し進んで村があるか見てきてくれ」
「はいにゃ。お任せなのにゃ」
「俺もこの辺りを探索してみる。後で合流しよう」

 二人が行くのを見届けた後、森の方へと足を踏み入れた。するとすぐに綺麗な泉と、側の大きな木の下に荷物があるのを発見した。

「こんなところに剣と服が……」

 これはまさか、水浴びしている美女が出てくるテンプレのイベントなのでは。と期待しながら泉に近付く。

「えっ⁉ お、男、きゃああああっ⁉」

 裸の美少女キターー‼ しかもエルフさんですよエルフ。長い耳を見れば一目で分かりますとも。

「いや、あの、別に怪しい者じゃ」
 やっぱエルフ可愛いし超美形だ。キラキラオーラ半端ねぇ。
 身長は150センチないぐらいで胸はツルペタなスレンダー体型。大きな瞳はグリーン、長い髪は美しい金色で、ツーサイドアップの変則ツインテールをしている。透き通るような色白の肌なので、ノーマルのエルフと思う。首にはクリスタルっぽい石が付いた金のペンダントをしていた。
 見た感じ小学6年生だけど、エルフなだけに歳は分からない。何百年と生きているロリババアの可能性もある。

「ってゴラっ‼ いつまでガン見してんだ、この変態‼」

 ひえぇぇっ、いきなりエルフさんブチキレて突撃してくるんですけど。しかも顔面目掛けて跳び蹴りしてきた。
 あまりに豪快な跳び蹴りだったので反射的に躱した。すると全裸のエルフ少女はその勢いのまま大木に正面衝突して崩れ落ちた。
 なにこれ、エルフってこんなに凶暴なの? イメージと違う。男女ともに穏やかな感じかと思ってた。

「くっ……普通は避けずに食らうのが礼儀だろ」

 エルフはよろめきながらも立ち上がり睨み付けてくる。
 まあ漫画やアニメなら礼儀だな。だが俺は避ける。だって色々とガッカリしたんだもん。知り合った初のエルフが凶暴とか残念すぎる。とはいえ裸を見てしまったし謝っておこう。

「ごめんごめん。わざとじゃないし。てか服、着たら」

 エルフさんは自分が裸であることを思い出し、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに手で胸と股間を隠した。今更だがモジモジして隠されると、急に可愛さが倍増する。

「見るなよ、こっち絶対に見るなよ」

 慌てて服を着るエルフが眼前にいる。なのに見ないわけないでしょ。
 この後ボコられようとオタなら見る。見ない理由が分からないし、見ないオタがいるものか。異世界に来てファンタジーを代表する生物を前に、見るのが我ら変態紳士の礼儀なのですよ。

「コラっ、なに見てる‼ 見るなって言っただろ、この変態‼」
「いやいやいや、全然見てないし、お兄さん見てないからね」

 両手で顔を覆ったが目の部分は指を開くというお約束をして覗いていた。

「指の隙間から見てんだろ。お前は国民的アニメの風呂好きヒロインか‼」

 それそれ、そのツッコミが欲しかった。ってまてまて、異世界のエルフがなんでそんなこと知ってんだよ。

「だからこっちを向くなっての。てかそこ動くな、ぶっ飛ばしてやる」

 エルフは激オコ状態で素早く着替えを終え、鬼の形相で剣を引き抜いた。
 なんだかヤバい雰囲気だ。漠然とした感覚だがこのロリっ子エルフはトンでもなく強いかも。
 エルフの恰好だが、白い半袖ブラウスにチェックの赤いプリーツミニスカート、白のニーハイにロングブーツ。軽装備の鎧は白を基調としたもので、パーツのフチは金色でカッコイイ作りになっている。マントは内側が赤で外が白、腰には剣を携えている。あとダークブルーのウエストポーチ、恐らく旅の必需品、魔法の道具袋だ。

「お前のその服、ジーパンにTシャツ、スニーカー、向こうの世界の人間だな。勇者召喚で来たって感じか」
「色々と詳しいんだな。あっ、そうか、召喚者とパーティーを組んでて教えてもらったのか。それか奴隷になってたとか」
「ハズレだ。私は誰とも組まないし、奴隷にもなったことはない。エルフがみんな人間に従順だとでも思っているのか……いやまあ、エルフはドMの変態ってのがほとんどだけども」
「へ~、そうなんだ。ある意味イメージ通り」
「うるさいっ‼ 今はそんなこと関係ないだろ。私を捕まえてエッチな事するつもりだったな、この変態め。なにがドMだ」
「お前が勝手に言ったんだろ。てか誰だよお前」
「どこの国から来た。見たところ日本人っぽいけど」
「確かに俺は日本人だけど……国の名前まで知ってるのかよ」

 なんだこのエルフは、何もかもお見通しって感じだ。

「向こうの人間なら教えてやってもいいか。同郷だし」
「同郷? お前エルフだろ、別の世界と間違ってるんじゃないの」
「間違ってない。私も日本人だ」
「え~っと、エルフにしか見えませんけど。俺の居た世界には存在しないぞ」
「転生したんだ、異世界転生。聞いたことぐらいあるだろ、漫画とかアニメで」
「マ、マジか……」

 勇者召喚の他にそんなのまであるのか。この世界面白過ぎじゃね。
 で、ここからエルフさんの話が始まったんだが、かなり余計な情報が多くて分かりづらい。
 話を整理するとこのエルフは元々は俺と同じ世界の人間で、十七歳の時に交通事故で死んだらしい。だがどういう訳か記憶だけ持ったまま、エルディアナにエルフとして異世界転生した。
 転生の影響で特別に魔力が強くチート状態だったため、ゲーム感覚で冒険者の道を選び、既に色々な大陸を旅して、本当かどうか分からないが魔王も討伐している。てか凄すぎるんだが。もう勇者じゃねぇかよ。そんな感じだからこの世界では相当な有名人らしい。
 そこまで強くなったことと、人間に服従せず気に入らない奴がいたら街でも城でも暴れまくっていたら、人間からも一目置かれ差別されなくなったとのこと。
 そりゃそうだろ、この暴君が。みんな恐怖で何も言えないだけだし。ある意味それは魔王ですからね。しかも旅して動き回る魔王とかタチが悪すぎ。
 転生前は俺と同じ時代で世代の女の日本人らしいけど、転生の時に時間軸がズレたみたいで、既にこの世界で百年も生きているロリババア。
 結論として、友達にはなりたくないタイプだ。だって超面倒臭そうなんだもん。
 今現在は、冒険者として旅をしている間に、故郷の森で奴隷商人に捕まり売られてしまった姉を探している。
 そしてこのロリ暴君エルフの名前だが、アンジェリカという。
 冒険者職業は上級職の魔法剣士で、最強のS級だと自慢している。こっちに来たばかりの俺には正確に理解できないけど、まあ本当に凄いんだろう。
 しかしよく喋る生き物だ。訊いてないことまでペラペラと。

「これだけ話したんだからもういいでしょ。お花畑でもみてこい、この変態が」

 言うと同時にアンジェリカは、タンポポの綿帽子が風に吹かれたようにふわっと空へと舞い上がった。

「飛んだ⁉ あれか、風の精霊魔法ってやつか」

 スゲー、呪文とかなくいきなり飛べるのかよ。てか最強の魔法剣士とバトルとか無理ゲーなんですけど。
 空高く飛び上がったアンジェリカは剣を掲げる。すると剣から凄まじい量の炎が噴き出す。
 なにそれどうなってんの⁉ アニメ見てるみたいでカッコいいけど超絶怖い。

「ちょっと待てって。それ確実に死んじゃうやつだろ」
「問答無用。調教してやる、このド変態が」

 アンジェリカは容赦なく炎を纏った剣を俺目掛けて振り抜く。

「ゲヘナード・スラッシュ‼」

 その瞬間、剣からは魔力の塊である三日月形の斬撃が飛び出し、炎を噴き出しながら襲い掛かってくる。
 これは超人でもヤバそうだ、回避あるのみ。しかし飛んでくるスピードが半端なく、その場から逃げ出した直後に斬撃は地面に激突し、すぐ側で大爆発した。
 もうミサイルじゃねぇかよ、って思っているこの時、爆風で遠くまで吹き飛ばされている。
 地面に何度も叩き付けられ最後は大木に激突して止まった。体の頑丈さも超人なので大ダメージを負わず生きているが、普通の人間なら死んでてもおかしくない。でも痛いことは痛い。ホンと無茶苦茶しやがる。

「最悪だ、Tシャツが破れてる」

 すぐに立ち上がり、既に着てても意味がないボロボロになったTシャツを脱ぎ捨てる。

「なにこいつ、爆風で飛ばされたのにぴんぴんしてる」

 アンジェリカは俺がダメージ無く立ち上がったことに驚いており、追撃はしてこず剣を鞘に納め、怪訝な顔をして空から降りてくる。
 良かった、止めを刺すつもりはないようだ。っていうかガチでヤベぇだろこいつ。いきなり必殺技で攻撃とか頭おかしいっての。ファンタジー世界だからなんでもアリなのかよ。あと超人の俺が本気でやっても勝てないと思う。例え冒険者設定してて無職じゃなくても。
 とにかく生存本能が今すぐダッシュで逃げろと言っている。脳内会議でも全員一致で賛成していた。
 何故だか分からないけど、凄く漠然としているけど、この転生エルフの強さが超絶ヤバいことが理解できる。見た目は可愛いロリエルフなのに、その体から放たれるプレッシャーとか存在感が普通じゃない。きっとこの感覚は恐怖なんだと思う。
 さて、どうするか。こういう時に、漫画、アニメ、ゲームのオタク知識が役に立つんじゃないの。
 エルディアナの世界観とアンジェリカのキャラからして……全然わからねぇ。こりゃもう褒めるしかない。バカっぽいし、褒めてりゃどうにかなるだろ。
 ラノベとかエロゲーなんてそれでOKだし。勘違いさせたもの勝ち。よし、やってやるぜ‼

「お前、なんでそんなに頑丈なんだ。見たところ装備は村人レベルっぽいけど」
「さあ、なんででしょうね。まだこの世界に来たばかりなので、ルールとかもよく分からなくて。とにかく裸を見たことは謝ります。あまりに美しくて、芸術作品を見るように見とれてしまったんですよ。いやらしい気持ちはなかったんです。ホンとただただ美しくて」
「と、ととっ、当然だろ。私を誰だと思っている」

 顔を赤くしてきょどってますよこの子。もしかしてチョロインなんじゃないの。

「まさに美の化身。こんなに可愛い女の子、見たことないですよ」
「なっ、い、いま、可愛いって言ったように聞こえたが」
「言いましたけど、それが何か?」
「可愛い……私が可愛い……生まれて初めて人間に言われたかも」
「嘘でしょ、なんで? こんなに可愛いのに」
「はうっ⁉ また可愛いって……」

 なにこいつ、息を荒くして興奮しすぎだ。「はうっ」とか言って超可愛いじゃねぇかよ。エルディアナの人外生物チョロすぎる。
 そうか、エルフは底辺の下級種族だから、人間に褒められることに免疫ないんだ。クリスとスカーレットもそうだった。しかもエルフとして百年も生きてるから、感覚が完全にこっちの世界に染まってるんだ。更に転生前の人間の時も言われたことないんだろうな、きっと。
 そしてもう一押しで落ちる、というか逃げ切れる、って時にタイミング悪くクリスが帰ってくる。しかも号泣している。また当然の如く嫌な予感しかしない。







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