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六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑬

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「まだ俺のターンだ、連続で行くぞ」

 さっきと同じぐらいの魔力を込めた斬撃をイメージして、右上から魔剣を振った後、連続で左上からも魔剣を振る。二発の斬撃はイメージ通り飛び出しバツ印のように見えた。
 ロイは羽を広げ素早く飛び上がり直撃寸前で回避した。斬撃はそのまま飛んでいき奥の壁に激突して大爆発し、岩壁に大きな穴をあける。この爆発で天井や地面など空間全体に大きく深いヒビが入った。
 これはちとヤバい。下手したら自分の攻撃で生き埋めになるかも。長引かせるのは得策じゃない。本気の一撃で決めるか。

「魔力を瞬時に高めそれほどの斬撃を連続で出せるとは、流石に魔剣使いと称されるだけはある。だが連続で技を出せるのは、こちらも同じことだ」

 ロイは天井近くまで飛び上がりながら魔力を高める。そして両手の平を俺に向けて突き出す。すると手の平の前に、物凄く強大な魔力を感じる巨大な炎の玉が作り出される。
 これはあれか、ただの初心者攻撃魔法だけど魔人が使えば上位魔法級の威力になっちゃうよ、っていうファイアーボールか。

「食らえっ‼」

 ロイが言い放つと同時に魔力の塊である巨大な炎の玉は猛然と落下し襲い掛かってくる。
 見上げていると太陽が落ちてくるように見えた。だがイスカンダルとの戦いで似た経験をしているのでそれほど恐れはない。

「撃ち落としてやる」

 斬撃を小さくイメージしてファイアーボールに向けて魔剣を振り抜く。
 イメージ通りに飛び出した斬撃は見事にファイアーボールと激突すると互いに大爆発した。
 よし、上手くいった。ホンと飛び道具使えるって最高だな。魔剣様様ですよ。だがロイは巨大なファイアーボールをやけくそのように何発も撃ってくる。

「無駄だっての」

 こっちも斬撃を撃ちまくり応戦し、全て空中で爆発させた。
 なんだかシューティングゲームやってるみたいで楽しくなってきた。でも次から次に大爆発が起こるのでその場は凄惨な光景になり、もうぱっと見では研究室とは分からない。と言うより煙と炎しか見えない状態だ。

「あっ、しまった⁉」

 何やってんの俺。さっきから斬撃何発も撃ってんのに、またカッコいい技の名前言ってないじゃん……てか全然思いつかないけど。
 とかバカなこと考えてたら、ロイはこれまで以上に魔力を高めていて、なにやら必殺技を出そうとしている。

「メテオ・ディザスター‼」

 ロイの前方にファイアーボールっぽいものが十発以上現れ、まさに流星のように一斉に落ちてくる。
 これはもう全部は撃ち落とせない。と、普通なら思うけど、俺は普通じゃなくて訳ありなのさ。
 魔力の強さは今まで通りだけど斬撃のイメージを巨大かつ横長にして、縦横斜めに連続して放つ。落ちてくる無数の炎の玉と中間地点で激突した巨大な斬撃は、物の見事に爆発させて無効化した。
 またしても大成功だ。魔剣のスペック高すぎて笑えてくる。流石金貨千枚、三千万の実力は伊達じゃない。

「おわっ⁉」

 天井からデカい岩が落ちてきた。この空間ヤバいかも。ダメージが大きすぎて崩れそうなんだが。

「やってくれるな、漆黒の魔剣使い。魔法攻撃が通じないなら剣で勝負をしてやる」

 ロイは急降下して猛然と襲い掛かってくる。この時に突然、魔法の道具袋から取り出したように、どこからともなく大剣が現れる。
 出た、魔人族のチートスキル、どこでも兵器。便利なんてものじゃない、その魔法空間反則だろ。更にロイは体に取り付けていた魔石を全て体内へと取り込んだ。すると次はシルバーの全身鎧を装備した状態で呼び出す。
 鎧カッケー、まさにドラゴンの戦士、超絶強そう。
 ロイは眼前に着地すると同時に両手で持った大剣を振り下ろす。三メートルの巨躯が繰り出す大剣の迫力は凄まじいものがある。チート超人じゃなかったらチビってるところだ。
 臆することなく盾を突き出し大剣の一撃を受け止める。甲高い金属音が空間を突き刺すように轟き、体にズシっと重い衝撃が伝わる。そして足元の地面が陥没した。

「やはり受け止めるか。ならばその盾を破壊してやる」

 ロイは容赦なく連続して大剣で盾を斬りつける。しかしその攻撃は大振りかつ単調で、素人でもカウンターを合わせられそうだ。

「いまだっ‼」

 ロイが大剣を振りかぶった時に盾を引き、振り下ろされるタイミングに合わせ魔剣で斬りにいった。
 魔剣と大剣が衝突した瞬間、鍔迫り合いにはならずロイの大剣が真っ二つに折れて吹き飛んだ。

「バ、バカな、化け物かお前は」

 ロイは隠すことなく驚愕と恐怖が入り混じった表情を見せた。って言っても顔がドラゴンみたいだからそこまで表情ないけど。
 驚いている隙をついて斬りかかる。が、ロイは俊敏に飛び上がって逃げた。ここが勝負のポイントと見た。タコモンスターを倒した時よりも大きい魔力で一撃勝負だ。
 魔力を炎に見立て大きく強く激しく燃え上がるイメージをした。魔剣はそのイメージに反応し、魔力を黒い炎のように放出する。だが明らかに今までと違う。魔剣を持つ右手前方が、刃から噴き出す黒い炎で覆われる。
 自分で出しといてなんだが、凄まじい魔力が伝わってくる。まるで暴れる猛牛の角を握ってるみたいだ。こりゃ本気で強く握ってないと、魔剣が手から吹き飛んでいく。
 このまま斬撃を出したらどんな威力になるのか分からないけど、自分のチートにビビってる場合じゃない。ここは思い切りやってやるぜ。

「これで終わりだっ‼」

 巨大な三日月形の斬撃をイメージして、飛んで逃げて距離をとったロイ目掛けて魔剣を振り抜く。
 その瞬間、広い空間全てを切り裂くような巨大な斬撃が放たれ、凄まじいスピードで襲い掛かる。
 何だよコレ、イメージより遥かに凄い斬撃なんですけど。

「魔力には魔力だ、受けきってやるぞ‼」

 ロイは瞬時に魔力を高め全身に纏うように放出すると、両手を突き出し自分から斬撃に突っ込む。

「うおおおおおおっ‼ 人間ごときに負けるわけがない‼」

 半狂乱状態なのか、ロイは眼前に広がる巨大な斬撃に臆することなく、自分の魔力をその体ごとぶつけた。
 だが一秒たりとも止めることはできず、そのまま一気に押し込まれる。

「この私が……死ぬ……」

 岩壁に激突した瞬間、斬撃は想像を絶する大爆発を引き起こす。
 その場で踏ん張り反射的に盾を前に出して身を守った。自分でもビックリするほどの爆発だ。ガチで死を感じるぐらい怖い。チートもここまでいくとただのヤバい奴でカオスすぎる。
 爆煙で何も見えないが普通の人間なら立っていられないぐらい爆発の衝撃で大きく揺れ続け、強烈な地響きがしている。
 この時、既にロイの気配は感じられなかった。爆発の中心点にいたわけだし、恐らく消滅したと思われる。てか本当にやっちまったよ。なんだか胸の辺りがモヤモヤする。悪党とはいえ元は人間だし後味が悪い。でも、ただそれだけだ。この世界に来てからどんどん今までの常識が薄れて、こっちの感覚に慣れていっている。
 程なくして煙が晴れてくると眼前の光景に驚愕した。正面奥の岩壁、というか巨大な岩山の中腹から上部が、全てごっそりと爆発で消し飛んでいる。いま俺の目には外が、青空が見えていた。

「はははっ……もう笑うしかねぇよ」

 自然と力ない笑いが出て呆れ口調でそう言った。
 魔力を強くイメージしすぎたのか……恐ろしい威力だ。まだ本気とか全開というレベルじゃなかった。恐らくもっと上の力がある。
 魔剣と超人パワー怖っ。下手したら街ごと破壊しかねない。戦闘経験が少ないうちは魔剣とか使わない方がよさそうだ。アンジェリカみたいに破壊神とか呼ばれるの絶対に嫌だし。

「ん……あっ⁉」

 ある事に気付き驚愕した。借り物の魔剣に大きくヒビが入ってる。更に刃がボロボロに欠けていた。ちょっ、これ、どうすんだよ。
 何でこんな事に。俺の強さがチートすぎて、魔剣が制御できる魔力の許容範囲を超えてしまったのか?
 べ、弁償……金貨千枚とか破産&借金の地獄のコンビネーションなんですけど。
 いや待て、これ全壊じゃないし修理すればなんとかなるだろ。盾も傷だらけでへこみもあるけど、魔法の力で自動修復するとか言ってたし、魔剣もそんなお助け能力あるはずだ。まだなんとかなる、人生諦めるな、逃げる道はある。
 それよりも今はロイの事だよ。止めを刺してしまったし、セバスチャンにどう話そうか。

「はぁ、色々と気が重い」

 とりあえず人間かモンスターか魔人族か、どれに分類されるのか分からないけど敵を倒したわけだし、ステイタスを確認する。
 レベルが二つ上がって16になっていた。なるほど、経験値が入ったのなら、ロイは既にモンスターか魔人扱いになってたわけだ。
 ただここで一気に二つ上がるとは、ロイは本当にボスクラスだ。まあ魔王を倒したって言ってたしな。って待て待て、魔王どんだけ弱いんだよ。やっぱ真正の魔王じゃなく、自分で勝手に名乗ってる奴の強さはあてにならない。
 しかしせっかくレベルが上がっても、新しい魔法もスキルもなければ身体能力も上がってない。分かっていても淋しいレベル上げだ。でもこれだけのハイペースで商人レベルを上げている奴はいないだろう。
 このまま一気に夢の大商人になってやる。まってろ男のロマン、異世界風俗&カジノ営業許可‼
 この後は帰るために下への移動用魔法陣や通路を探した。が、今のところ見当たらない。さて、どうやってこのバカデカい岩山から下りようか。
 困りながら遠くの空を見ていたら、何かが空を飛んで近付いてくるのが見えた。
 鳥? 飛行機? いや、あの見覚えのあるシルエットは、ってまたお前かイスカンダル‼ どこまでもかまってちゃんだな。アンジェリカ級の出現率だ。まだ鎧を装備したままだし警戒してるみたいだな。
 ちょっと待てよ、あいつ本物のバカだし、これは脱出に使えるかも。
 イスカンダルは上空からこちらを確認した後、安全と思ったのか、ゆっくりと降下して俺の前に悠然と立った。

「黒鬼、先程の大爆発は貴様がやったのか?」
「あぁ、そうだけど」
「えっ⁉ ……ええぇ~」

 イスカンダルは本気で驚いた後、困惑した表情になった。そりゃ驚くよな。巨大な岩山の中腹から上部が爆発で消滅しているし。

「ふっ、さ、流石、我がライバルだ。このぐらいはやってもらわないと。で、本当に本当に貴様がやったのか?」
「そうだけど、なにか?」
「そ、そうか……ははっ、流石、我がライバルだ」
「それさっきも言っただろ」

 なに焦ってんだ、落ち着きなさすぎだろ。別に襲い掛からないっての。

「ということは、あの男を倒したんだな」
「ロイ・グリンウェルの事ならそうなるな」
「貴様、よく倒せたな。あれを人間一人で倒すとは」
「強かったよ、本当に。でもイスカンダル程ではなかったかな」

 天然対策マニュアルがあるならば、ここで使うのは必殺おだて作戦、のはずだ。上手く乗せて下まで運んでもらおう。

「なにっ⁉ い、今、なんと言った黒鬼」
「だから、トンでもなく強かったけど、イスカンダル程じゃなかった、って言ったんだよ」
「ふははははははっ⁉ よく分かっているじゃないか黒鬼、その通りだ。その通りなのだよ」

 天然って何故か同じ言葉を繰り返すよね。ダチョウ並みに脳が小さいから、言った瞬間に忘れてしまうのかな。

「俺が戦った中ではイスカンダルが一番強いよ。最強だな。それに自由自在に空を飛べるし、ホンと凄いよ」
「ふははははっ、凄くて当たり前だ。なんといってもイスカンダル様だからな」

 簡単簡単、さっそくノリノリだよおバカさんは。このまま言いくるめてやる。

「一度でいいから空を飛んでみたいよなぁ。飛んでる感覚でいいから味わってみたいなぁ」

 普通の奴なら白々しいと思うところだが、いま目の前に居るのは超ド天然、餌に食いつくのは間違いない。

「なんだ黒鬼、そんなに空を飛びたいのか。仕方がない奴だ、私がその願いを叶えてやろう」

 はい釣れた。空飛ぶタクシーいっちょ上がり。

「あざっす、イスカンダルさん。流石次期大魔王。でも大魔王に甘えすぎるのも悪いので、下まで降りるだけでいいっす」
「ふははっ、それだけでいいのか」
「もうそれだけでいいんです」

 盾を持っている左手を寄せて脇を締め、そこに魔剣を挟んだ。そして宙に飛び上がったイスカンダルの左の足首を、右手を上げて掴む。
 イスカンダルは俺をぶら下げたまま軽々と上昇した後、ゆっくりと前方に進みながら峡谷の底へと下りていく。




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