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第二部『復活&始動編』 終章

「女神と理と使命」その④

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「ただアンジェリカはまだ、真の力に目覚めていません。死に直面するほどの窮地に立った時に覚醒するはずです」
「あっ、あれでまだ上があるのかよ」

 てか俺ってそんな化け物なのか……複雑な気持ちだなぁ。

「実はあなたが変えた未来の中に、最悪から良きものへ改変されたものがあります。アンジェリカが覚醒し、破壊神の如く暴れまわる未来です」
「な、なんですかそれ。関わり合いになりたくないんですけど。俺はアンジェリカに何もしてないですよ」
「未来が大きく変わるきっかけは、あなたがロイ・グリンウェルを倒したことです」
「ロイってあのロイか」

 そういえばロイはアンジェリカを物凄く怨んでたな。

「改変前の未来では、魔王となったロイ・グリンウェルは自ら作り上げたモンスターの大軍を、南の大国ギュスターに進軍させ戦争を起こします」

 過去にも似たような事をやってたんだよな、ロイってバカは。本当に悪い奴だよ。

「その戦争の中でロイは、天敵であるアンジェリカが近くにいることを知っていました。そして周到に罠を仕掛け油断していたアンジェリカを窮地に追い込みます」

 ロイが上手くやって油断させた、みたいな言い方だけど、あいつ強さに自信ありすぎていつでも隙だらけなんだよな。弱いスライムに捕まったり、クリスにスカートずり下ろされてパンツ丸出しになってたし。

「そこで覚醒したアンジェリカは正気を失い破壊の限りを尽くします。最終的に魔王ロイと戦い勝利しますが、その戦いで王都もあなたが住む街ゴールディーウォールも崩壊し、人も動植物も多くの命が失われます」

 お、恐ろしい未来だ。本当に変わって良かったよ。俺の初めてのグッジョブだろ。

「その後、完全に理の外の存在になったアンジェリカがどうなるのかは私の未来予知では見れていませんが、誰も止められるものがいないのですから、被害は広がっていたでしょう」
「もしかしたら、この一番大きい中央のディアナ大陸の文明が、滅んでいたかもしれませんね」
「その可能性は大きいと思いますよ」
「待てよ……もしも滅んでたら、それは革命が起こったのと同じことで、破壊から無になり、そこから新しい世界が生まれ出たのかも。その次の世界では俺がさっき言ってた身分制度が無くなってたりして」
「それもまた、可能性の一つですね」
「なるほどなぁ。未来の改変って色々と奥が深いですね。まあ超絶怖いことだけど。っていうかアンジェリカはいつ覚醒して破壊神になるか分からない状況ですよね。それ怖すぎるんですけど」
「今はアンジェリカの覚醒については心配していません。それを阻止する安全装置があるからです」
「マジっすかっ⁉ そんないい物あるとか流石女神様ですね。で、それってなんですか?」
「あなたの事です」
「えっ……え~っと、ワンモアプリーズ」
「あなたがその安全装置です」
「なんでだよっ⁉ 俺はあいつと関わり合いたくないんですよ」
「アンジェリカはあなたの事を気に入っています。そしてあなたといる時は、アンジェリカの精神は安定しています。故にあなたが近くにいることで、完全なる理の外の存在への覚醒を防げるはずです」
「そんなこと言われたって」
「愛の力は偉大ですね」
「茶化さないでもらえます。そこに愛なんてありませんから」

 女神様、俺が困るの楽しんでるだろ。

「今は付かず離れずの距離感でいいのです。あの子はエルフなので長く生きていますが、心はまだまだ子供です。だから少し構ってあげるだけで精神は安定します。そんなに嫌わないで仲良くしてあげてください」
「子供ねぇ……」

 まあ可愛いのは認めるけど、恐ろしさと面倒さがグラフ表を垂直上昇で突き抜けて上回ってるんだよなぁ。

「自分で言うのもなんですが、理の外の存在って厄介ですね」
「……そういう事です」

 女神の姿は見えないけど、きっと苦笑いしてるんだろう。ホンとすみません。

「実はまだ他にも、理の外の存在に近付いている者が何人かいて、皆それぞれ好き勝手やるので困っています」
「えぇ~、まだそんなのまで居るのぉ」

 ほんと大変だな。女神様乙です。

「あなたが連れているアイリスもその一人ですが、あの子は自分から動くことはないのでそれほど心配はしていません。それに今はあなたの側に居て精神も安定していますから」
「ははっ、またそれですか」

 俺は精神安定剤かよ。

「てかアイリスがその一人って事は……もっ、もしかして、会ったことはない例のあの人も」
「はい、今あなたが思っている者は、誰よりも理の外の存在に近い困った人です」
「ははっ、やっぱまだ生きてたか、マリウスの奴は」

 いったい何歳なんだお前は。

「いえ、あの者がまだ生きているのかは分かりません」
「女神様が分からないって、どういうことですか?」
「ある日ある時、忽然と消えたのです。女神の私ですらその存在を感知できません」
「それって死んだんじゃ」
「あれ程の魔力と存在の力を持つ者が死んだのなら、女神の私には分かります」
「……謎ですね」
「何らかの方法で転生して違う存在になったか、異世界から召喚された、もしくは自分で行く方法を作り出し旅立った、それらが考えられます」
「転生……あるかもしれないですね。それに別世界からの召喚も。てかどれも既に似たようなことやってる気がしますよね」

 話を聞けば聞くほど何処かへ逃げたくなる。俺の異世界での目標は、やりがいある生活をゆっくりとでも作り上げることだったはずだ。
 いったいどこ行った、俺のスローライフよ。このままじゃ365日カオスな祭りに参加させられてしまう。

「話が長くなってしまいましたが、これから使命を上手く果たすために必要な物を授けます」
「えっ、何かレアアイテム、って言うか神器とか貰えるんですか」

 女神の力が宿った神器とかなら超テンション上がる。

「期待している物とは逆になります」

 女神の言葉の後に突然、俺の左手の人差し指に封印石が付いた銀色の指輪が現れた。

「これは?」
「未来を大きく改変しないためにも、あなたの力を封印する指輪です」
「これを付けていれば普通の人間みたいになるんですか?」
「それは無理です。力を封印するといっても既に、あなたの力は大きすぎて、女神の私ですら完全には抑え込めません。少しだけ、なんとか肉体的力を弱くする程度です。頑丈さや体力、魔力などは変わりません」
「それでもありがたいですよ。日常生活だけじゃなく、バトルの時もパワーの制御が難しいので」

 一番困るのがバカみたいな腕力だし、これは普通に助かりますな。
 今や俺のパーティーは父さんの時と同じで、チートが何人も居るチーパーだから凄く危険な存在だし、少しでも超人パワーが封じられるのは良いことだ。それに無双したい時には、指輪を外せばいいだけというのが簡単で助かる。本当にいい物を貰った。
 てかチーパーってなんだよ。自分で言ってて笑えるんだけど。

「私からの話はこれで終わりです。聞いておきたいことはありますか」

「あの……母親の事なんですが、まだこの世界で生きてますか?」
「それは……生きているとだけは、教えておきましょう」
「含みのある言い方ですよね。母さんはルールを破ったわけだし、俺を生んだことで何か重い罰を受けてたりしませんか。もしそうなら、その罰は俺が受けます」
「……断言はしませんが、使命を果たしていれば、いずれは会えるかもしれません」

 その言葉を最後に意識を失っており、気が付いた時は朝になっていた。
 普通に起きた俺は夢の中の事を思い出す。
 左手の人差し指には水晶のような封印石が付いた銀の指輪がはめられている。どうやら女神との会話は本当にあったことのようだ。
 母親の事は気になるけど、これ以上考えてもどうにもならない。今はただ流れのままに進むことにしよう。いつかは会えるかもしれないしな。

 それにしても凄い話だった。まさに事実は小説よりも奇なりだ。でも憂鬱すぎるだろ。自分のせいで未来が変わって死んだ人もいっぱいいるだろうし。
 ダメだダメだ、そんなこと考えてたらうつ病になるっての。良い未来への改変だってしているし、これから使命とやらで挽回できる。
 とにかく頑張って生きよう。まだ俺の異世界生活は始まったばかりなんだし元気にいかないと。
 そんな事を考えながらテントから出ると、クリスとスカーレットとアイリスが既に起きていつも通り俺を待っていた。
 三人の顔を見ただけで物凄く癒される。憂鬱な気分は吹き飛んだよ。

「おはよう、みんな」

 愛おしくて自然と三人の頭を強めに撫でて挨拶した。

「おはようございますなのにゃ」
「おはようございます、ご主人」
「主様、おはようございます」

 三人とも喜んで満面の笑みを返してくれた。本当に可愛いよ。
 でもこんなに可愛い奴らが西の方では当たり前に殺されている。考えただけで腹が立つ。早く今の流れとやらを終わらせて西へ行かないと。

「にゃん? ご主人様の指に、見たことのない指輪がはまってますにゃ」
「よく気付いたな、クリス。これはさっき女神エルディアナから貰った指輪だ」
「女神様からの贈り物なんて、ご主人様は凄いのにゃ。特別な勇者様の証なのにゃ」

 まあある意味では特別で間違いない。しかし出生の真実を知ったら皆はどう思うんだろう。

「ご主人ほど偉大なお方であれば、女神様と会えて当然です。スカーレットは敬服いたします」
「主様、もしかして精神世界で女神様とお会いしたのですか?」
「あぁ、それそれ。アイリスはアレを経験したことあるのか?」
「いえ、私はありません。ただ賢者様や勇者様から、そういった話を聞いたことがあります」
「そうか、その二人から聞いたか」
「ご主人様、女神様の指輪にはどんな意味があるのですにゃ」
「意味も何も、女神様から頂いたのであれば神器ですよね、ご主人」
「スカーレット、残念だけど神器じゃないよ。その逆かな」
「えっ、逆ですか?」

 スカーレットはキョトンとして言った。

「これ以上は秘密だ。それよりも、これから忙しくなるぞ」
「はいにゃ。クリスチーナにお任せなのにゃ」
「私もご主人のために幾らでも働きます」
「期待してるよ。あと詳しく話せないけど、街に帰ってもまたすぐに旅立つことになる」
「はいにゃ。またお出かけできて嬉しいにゃ」
「私も嬉しいです、ご主人」
「みんな、しっかりついて来いよ」
「はいにゃー」
「御意」
「はい」

 これから大変なことが色々あるけど、こいつらと一緒なら使命でもなんでも楽しくやれそうだ。



 ☆第二部☆ 『復活&始動編』 END 




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