【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

移動三日目。

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 移動三日目。夜明け前に陽炎隊の二人を送り出し、街々の代官所へ先回りしてもらう。昨日と同じやり方で人の流れを整理するように、と要点を書いた札を渡した。紐と粉線、待合の位置、子どもと年寄りの誘導──手短に伝えれば十分に働く。

 先王妃様がいつもより早く起きてこられ、庭を歩きたいとおっしゃる。露がおりた小道を並んで進むと、先王妃様がふと空に目を向ける。

「向こうへ着いたら、お友達が欲しいわ」

「身分のことは……お気になさらないのですね?」

「全然良いわよ」

「では、お祖母様をお連れします。お話の合う方です」

「まあ、あなたのお祖母様? それは楽しみ」

 僕はその場でお爺様へ速文を打つ。お祖母様に接待役をお願いしたい、と。返文は短く力強い。

「任せとけ」

 胸の内でひとつ頷き、今日の道に気持ちを戻す。広い街道を行くぶん気は楽になるが、油断は禁物だ。装具を締め、列は定刻に動き出した。前はミザーリ、後ろには騎士団長とレウフォ叔父さん。互いに目だけで調子を確かめ合う。馬の息は揃い、車の軋みは僅かだ。

 街道は両脇が開け、畑の緑が続く。風は柔らかい。要所要所には先行の陽炎隊が立ち、代官所の若い者が粉線の脇に札を掲げているのが遠目にも見えた。うまく回っている。そう思ったちょうどその時、前方の畦から数人の農民が道へ出た。手に鍬、腰に縄。目は真っ直ぐ、足は迷わない。列の先へ立ちはだかるつもりだ。

 直訴だ、と直感が先に言葉になった。だが今ここで列が崩れれば、後ろの人波まで波が伝わる。僕は槍を胸に寄せ、馬を半歩だけ進め、農民との間合いを取り魔術を使う。彼らの眼前に薄い霧のような気配が走る。誘眠の術だ。相手の心身を傷つけない、浅い眠り。農民は膝を緩め、その場に静かに座り込む。倒れぬよう腕を支え、路傍の草地へそっと退ける。近くの陽炎隊が黙って肩を貸し、宿の担ぎ手を呼んで薄布をかけた。

「後で必ず代官所で話を聞く。今日はここを通す」

 小声で告げ、宿の者と代官所への伝令に、直訴の受け口を臨時に設けるよう頼む。耳箱の札を掲げ、夕刻に短い聞き取りの刻を作ってもらえばよい。列は速度を落とさず、波紋ひとつ残さず進む。

 ミザーリが斜め後ろから近づき、視線だけで問いかける。大丈夫、と顎を僅かに引いて返す。後方ではレウフォ叔父さんが騎士団長と目を交わし、層の厚みを一段だけ増やした。近衛の列も自然に間合いを詰める。余計な刃はどこにも見えない。

 午前の行程は滑らかに過ぎ、昼の休憩は広い街道脇の木陰に張った天幕で取った。先行の陽炎隊がすでに水を用意しており、器の受け渡しも無駄がない。先王妃様は短く歩いてから腰掛けへ。侍従が衣の裾を整え、料理番が温の具合を見て器を置く。香りは薄く、風が背から抜けていく。陛下も表情を緩め、言葉少なに水を口に運ばれた。

 午後、再び列は伸びる。街々の入口には、代官所の者と宿の手が立ち、粉線と紐の内側に人波を収めている。子どもは後ろ、年寄りは端、荷車は裏手。朝の伝令が効いているのがよく分かった。先行のアインスとフィアは要の角に立って、ただ目で状況を渡す。無用の手振りはない。

 丘を下る道で、伝令が息を弾ませて駆け上がってきた。

「次の街も人が多く集まりはじめています」

「よし」

 僕はレウフォ叔父さんのところへ馬を寄せ、人手を三人借り受ける。陽炎隊と合わせて先行させ、街口での交通整理に回す。粉線の補充、紐の張り直し、待合の位置の札替え。声は短く、手は迷わない。人の渦は、芯が細ければ揺れない。

 夕刻、道の熱が少し落ちるころ、今日の宿に着いた。門の影からゼクスが現れ、軽く会釈する。

「裏手へどうぞ。馬の手入れ場、済ませてあります」

「助かる。次も頼んだ」

「はい」

 陛下と先王妃様が屋内へ進まれるのを見届け、中庭を一巡。水、荷、灯の高さ。どこにも尖った音はない。控えの間では、侍従が今日の出来事を短く整理している。直訴の件も記されていた。代官所が夕刻に受け、明朝に返答の札を出す段取りになったという。ひとまず胸を撫で下ろす。

 裏庭で馬の汗を拭っていると、ミザーリが手綱を肩にかけて近づいた。

「眠りは浅かった」

「うん。目覚めれば歩ける。話は代官所で受ける」

「それが良い。列は滞らせない、でも人はそのままにしない」

 短いやり取りで十分だった。陽炎隊の若い者が粉線の袋を抱えて戻ってくる。指先は白くなっているが、顔に疲れは少ない。代官所の者が礼を述べ、宿の主が深く頭を下げる。流れは綺麗だ。

 部屋に戻る前に、もう一本だけ速文を打つ。お爺様へ。お祖母様の件、明後日の午後に静養の家の庭で短いお茶の用意を頼みたい、と。返事はやはり早かった。

「承知。庭の影と風の向き、よく見ておく」

 灯が入り、宿の廊下に柔らかな影が落ちる。控板には今日の走り書きと、明日の行程。粉線の補充、紐の張り替え、陽炎隊の先行刻、代官所への連絡先。どれも短い文で、紙は軽い。外では騎士団と近衛の交代が静かに行われ、砂利の音が一定に続く。

 寝具に背を預けると、昼の畑の匂いと粉線の白さ、先王妃様の笑顔がいっぺんに胸に戻ってきた。広い街道は助けになる。けれど、今日の一本が明日の一本へと途切れず続くように、手を放しすぎないことだ。まぶたを閉じ、短く息を整える。耳の奥に、馬の穏やかな鼻息が残っていた。
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