【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

移動四日目。

 移動四日目。夜の冷気がすっと引き、白み始めた空の下で宿を発つ。街道はよく掃き清められ、粉線の白がまだ残っている。ほどなく境を示す小標が現れ、列はルステイン領へ入った。合図ひとつ、先導の列が滑らかに入れ替わる。これまで先頭に立っていた僕達の前へ、レウフォ叔父さん率いるルステイン騎士団が無駄のない動きで進み出る。馬の鼻息、鐙の微かな音、それだけが重なって、先導の交代はあっけないほど静かに済んだ。

 僕ら陽炎隊は近衛の層に寄り、列の呼吸に合わせる。役目を渡した安堵と、最後まで崩せない張りが胸の中でつり合う。ふと前を見ると、陛下と目が合った。言葉はない。ただ、目がご苦労と言っていた。十分だった。

 正午前、昼の休憩を取る宿に入る。裏庭の木陰に馬をつなぎ、水桶の縁に薄い輪ができるころ、侍従が僕とマックスさんを呼びに来た。通された小間で、陛下が短く要件を告げられる。

「明日、民が志を合わせ道を繋いだところで、一度止まって見渡したい。王の安寧を願って働いた場所を、目に焼き付けておきたい」

「承りました。道の流れを滞らせないよう、刻と位置を整えます」

 紙でやり取りしていた願いが、ようやく口の形になった。民の労志と静養の家が一本につながる場所……そこで列は短く止まり、陛下はただ眺める。明日の段取りが胸の中で小さく組み替わる。

 部屋を辞すと、廊の曲がり角で先王妃様に呼び止められた。お茶を、と微笑まれる。庭に面した明るい間で、湯気の薄い茶をいただく。昨夜の顔合わせの感想、旅の疲れを残さないための工夫、静養の家の庭の花……話題は軽やかに移り、けれど芯はいつも安寧に向いている。短い刻だったが、頬の緊張がほどけたのが自分でも分かった。

 再び出立。広い街道に風が通り、列は一定の歩度で伸びる。先行の陽炎隊は要の角に立って目で状況を渡し、代官所の若い者たちが紐と粉線で人の流れを柔らかく整える。午後は突発もなく、予定どおりに今日の宿へ到着した。

 門の影からゼクスが現れる。髪に汗の筋はあるが、目は冴えている。

「全部、段取り終えてあります。裏手からどうぞ」

「ここまで見事だった。助かったよ」

 礼を言うと、ゼクスは僅かに照れて笑い、すぐ真顔に戻る。

「このまま静養の家の警備に回ります。門と裏手、受けます」

「頼む。現地は人も多い。君の勘が要る」

「はい」

 背中が門の向こうへ消える。その足の軽さに、こちらの肩も軽くなる。

 控室に戻ると、アインスとフィアが待っていた。二人とも声は抑え、目だけが鋭い。

「今夜の顔合わせに混じる地元の有力者の中に、動きの怪しい者が一名」

「名と特徴を」

 紙に短く落とし、騎士団長へ持参する。団長は一読して頷き、侍従への報告を即座に通す。そこからの動きは早かった。顔合わせは予定どおりに始まり、警戒は厚く、しかし目立たない。ほどなく噂が廊に漏れる。例の人物が場に不相応な要求を口にし、周りの空気を逆なでする言葉を重ねたという。侍従が静かに手を上げ、近衛が二歩だけ踏み込み、騎士団の者が脇を固めた。客人の礼を失さぬ範囲で、余計を持ち込んだ者は外へ出される。場の波は一度きり、すぐに収束した。

 廊の角でミザーリが肩をすくめる。

「バカはどこにでもいるね」

「いるね。けれど、弾くべき時に弾けた」

「そういうこと」

 騎士団長と侍従がそれぞれこちらに歩を向け、短く礼を述べる。

「報せ、助かった」「先に紙があると、場が早い」

「お役に立てて良かったです」

 言葉はそれだけで十分だ。誰も感情を大きくしない。大きくしなくて済むように、準備を重ねてきたのだから。

 夜の支度が静かに回り出す。侍従が明日の行程に赤い印を入れる。民の労志で繋いだ道の地点……列を止める刻、遠巻きの人の位置、近衛の立ち位置、騎士団の層。ゼクスはすでに現地の詰所へ向かっている。レウフォ叔父さんは門と裏手の交代の刻を見直し、ルステイン騎士団と近衛の間に隙が生まれないよう、層の厚みを微調整した。陽炎隊は表と裏に散り、アインスとフィアは顔合わせの余波が残っていないかを最後に確かめる。

 僕は短い速文を二通だけ打つ。ひとつはルステインの詰所へ、明日の停止地点の最終確認と、沿道の人の流し方。もうひとつは静養の家へ、明日の到着刻の幅と、庭の影の具合。返しはどちらも早い。詰所は了解、粉線と待合の札を増やす手筈。静養の家は庭の影は浅く、風は南寄り……必要な言葉だけが並んでいた。

 廊の灯が一つ、また一つと増える。器の触れ合う音は薄く、床板は鳴らない。控板には今日の走り書きと、明日の行程。赤い印の場所が、明日の要を静かに示す。

 外へ出ると、門の向こうで交代の足音が一定に続いている。レウフォ叔父さんの号令は短く、列はすぐに整う。夜気は冷たく、星は低い。明日は止まる。止まって、見る。そのために、ここまで走ってきたのだと、胸の内で言葉が形になる。あとは、揺らさず運ぶだけだ。

 ミザーリが気配だけ近づいてきて、隣に立った。

「明日は、いい日になるよ」

「うん。そうさせよう」

 二人で短く空を見上げる。明かりは低く、風は穏やか。準備は足りた。道は前に延びている。明日の赤い印が、静かにこちらを待っていた。
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