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14歳の助走。
フィグさんとの別れ。
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思いがけず踏査隊の骨が固まり、会議棟を出てからすぐ、礼状の持参先を洗い出した。王城は必ず伺わねばならない。六伯のところへも……と考えて、僕は首をひねる。今また旅に出れば刻が足りない。六伯の所は遠いからなぁ、とつぶやくと、隣のローランが紙束を整えながら言った。
「それぞれの出身の者に親書を持たせればよいのではないでしょうか」
視線が集まる。ヂョウギ、アコンキット、ティルシェード、ミリカ、ジレイガ、クルムが即座に頷いた。各々の部下に託すのが最速で確実だ。
「護衛はこちらで出します」とミリカ。「水路で行ける所は水路。山越えは潮と水の街で獣人隊商を借りる段取りを」
「移動線の手配は私が」とストーク。札に二行、港と隊商の受け渡しの刻を書き込んで回した。
すぐさまローランの指示で親書の起草へ移る。僕は一人ひとりの顔を思い浮かべ、文頭を整えた。王都標準と六種族標準の二重表記で日付を記し、末尾は短く、しかし面目が立つように。贈り物は別包にする。エルフ伯へは良材の乾き見本と二重表記の定規。ドワーフ伯へは新型の検印型板。水竜人伯へは港で使える合図札の新案。獣人伯へは騎馬用の簡略路標。火の民伯へは吟醸の方法の概略。小人伯へは掲示枠の折り畳み式の試作。それぞれ手に取ったらすぐ役に立つものだけを選んだ。
包み紙に薄い麻布を添え、封蝋を落とす。持参者の名と受け渡しの刻を札に刻み、ミリカの護衛隊とジレイガの隊商、ティルシェードの水路班へ順に引き渡す。合図が重なり、荷が軽やかに出ていった。
ここで一つ、僕はスサン商会のペランスを呼び、奥さんのフィグさんの家へ連れていってもらった。戸口を開けると、部屋は柔らかな匂いで満ち、フィグさんは大きなお腹を抱えて椅子に腰掛けていた。もうそろそろ出産、という時期だ。
「ご機嫌よう、フィグさん。報告が二つあります」
僕は姿勢を正し、伯爵となること、アトリエを出て隣の領を拝領することを告げた。フィグさんはうなずき、穏やかに微笑む。
「では、王国特別料理人の役目も、ここでいったんお終いですね。分かりました。王城に報告して、辞める手続きをいたします」
「すまない」
「いいえ。あなたなら、また面白い台所を作るでしょう?」
ペランスが笑い、僕は深く頭を下げた。二人に礼を述べ、安産を祈って家を辞す。短い訪問だったが、胸の中で一つの区切りが音を立てて収まった。フィグさんとはこれで会うことはなくなるのかもしれない。
アトリエに戻ると、ギピア、キーカ、サッチ、セルブロ、メディルを呼び、移転の段取りを告げる。
「アトリエを片付け、王都へ移る。荷は人足を使い、運河貨物船と運河船を借りる。到着の刻は速文で知らせてほしい」
ギピアが嬉しそうに目を細める。
「またストークとお仕事ができますのね。承りました」
キーカとサッチは顔を見合わせ、弾む声で言った。
「王都に住める……やった!」
「準備、すぐ始めます!」
セルブロは実務らしく、すぐ庭のことを尋ねる。
「タウンハウスの庭は、どんな造りで?」
「南に小さな芝と、北に菜園の枠。水は浅い溝で回す。君なら変えられる」
「任せてください」
カレルが帳から顔を上げ、ギピアに小袋を渡す。
「費用はこちら。人足の賃と船賃、箱と紐は現地で足りない分を。到着刻は必ず速文で」
「後は任されました。二、三日中に用意して出ます」
ギピアが明るく答え、四人はすばやく持ち場へ散った。どの足取りにも迷いはない。台所の音、箪笥の引き出しの音、紐を締める音が、軽やかに重なっていく。
僕らは一度ルステイン城に寄り、アトリエの鍵をレイさんに手渡した。鍵は冷たく、重い。けれど、掌の中でその重さは安心に変わる。
「別荘の扱いで管理いたします。刻の合わせは城の連絡線で」
「頼みます」
それから、ナミリアに会いに行く。廊下の角で待っていた彼女は、僕の顔を見るなり笑った。言葉は少なくてよかった。これから少しの間、離れるだけだ。
「気をつけてね。戻ったら、また一緒にご飯を」
「うん。すぐ戻る」
手を取り合い、短い別れを交わす。言葉の後ろに、同じ景色があるのが分かった。
桟橋へ出ると、借り受けた運河船が陽に光っていた。荷は少ない。必要な紙束と印、測量具の控え、贈答の残り……身軽な方がいい。ミザーリが乗り口で頷き、トーマスが馬の繋ぎを確かめ、アインスとフィアが先の合図所へ走った。ローランは連絡札の束をもう一度撫で、ストークは見送りに来た人たちへ短い礼を述べる。
「では、王都へ」
船頭の掛け声に合わせて、舫いが外れる。水面がほどけ、船は静かに滑り出した。岸が流れ、槌音が遠のき、代わりに水音が近づく。風が頬を撫で、胸に空白が生まれる。その空白は、すぐに次の段取りで埋まるのだろう。
甲板に立ち、僕は短く息を吐いた。今日の働きで道筋は見えた。紙は軽く、人は重く。枠を守り、風を通す。約束はすでに結ばれた。あとは、日々で支えるだけだ。
遠く、運河の曲がり角の向こうに低い橋が見えた。旗竿の先が揺れ、合図が返る。僕らの船は橋の影をくぐり、王都へ向けてさらに速度を上げた。
「それぞれの出身の者に親書を持たせればよいのではないでしょうか」
視線が集まる。ヂョウギ、アコンキット、ティルシェード、ミリカ、ジレイガ、クルムが即座に頷いた。各々の部下に託すのが最速で確実だ。
「護衛はこちらで出します」とミリカ。「水路で行ける所は水路。山越えは潮と水の街で獣人隊商を借りる段取りを」
「移動線の手配は私が」とストーク。札に二行、港と隊商の受け渡しの刻を書き込んで回した。
すぐさまローランの指示で親書の起草へ移る。僕は一人ひとりの顔を思い浮かべ、文頭を整えた。王都標準と六種族標準の二重表記で日付を記し、末尾は短く、しかし面目が立つように。贈り物は別包にする。エルフ伯へは良材の乾き見本と二重表記の定規。ドワーフ伯へは新型の検印型板。水竜人伯へは港で使える合図札の新案。獣人伯へは騎馬用の簡略路標。火の民伯へは吟醸の方法の概略。小人伯へは掲示枠の折り畳み式の試作。それぞれ手に取ったらすぐ役に立つものだけを選んだ。
包み紙に薄い麻布を添え、封蝋を落とす。持参者の名と受け渡しの刻を札に刻み、ミリカの護衛隊とジレイガの隊商、ティルシェードの水路班へ順に引き渡す。合図が重なり、荷が軽やかに出ていった。
ここで一つ、僕はスサン商会のペランスを呼び、奥さんのフィグさんの家へ連れていってもらった。戸口を開けると、部屋は柔らかな匂いで満ち、フィグさんは大きなお腹を抱えて椅子に腰掛けていた。もうそろそろ出産、という時期だ。
「ご機嫌よう、フィグさん。報告が二つあります」
僕は姿勢を正し、伯爵となること、アトリエを出て隣の領を拝領することを告げた。フィグさんはうなずき、穏やかに微笑む。
「では、王国特別料理人の役目も、ここでいったんお終いですね。分かりました。王城に報告して、辞める手続きをいたします」
「すまない」
「いいえ。あなたなら、また面白い台所を作るでしょう?」
ペランスが笑い、僕は深く頭を下げた。二人に礼を述べ、安産を祈って家を辞す。短い訪問だったが、胸の中で一つの区切りが音を立てて収まった。フィグさんとはこれで会うことはなくなるのかもしれない。
アトリエに戻ると、ギピア、キーカ、サッチ、セルブロ、メディルを呼び、移転の段取りを告げる。
「アトリエを片付け、王都へ移る。荷は人足を使い、運河貨物船と運河船を借りる。到着の刻は速文で知らせてほしい」
ギピアが嬉しそうに目を細める。
「またストークとお仕事ができますのね。承りました」
キーカとサッチは顔を見合わせ、弾む声で言った。
「王都に住める……やった!」
「準備、すぐ始めます!」
セルブロは実務らしく、すぐ庭のことを尋ねる。
「タウンハウスの庭は、どんな造りで?」
「南に小さな芝と、北に菜園の枠。水は浅い溝で回す。君なら変えられる」
「任せてください」
カレルが帳から顔を上げ、ギピアに小袋を渡す。
「費用はこちら。人足の賃と船賃、箱と紐は現地で足りない分を。到着刻は必ず速文で」
「後は任されました。二、三日中に用意して出ます」
ギピアが明るく答え、四人はすばやく持ち場へ散った。どの足取りにも迷いはない。台所の音、箪笥の引き出しの音、紐を締める音が、軽やかに重なっていく。
僕らは一度ルステイン城に寄り、アトリエの鍵をレイさんに手渡した。鍵は冷たく、重い。けれど、掌の中でその重さは安心に変わる。
「別荘の扱いで管理いたします。刻の合わせは城の連絡線で」
「頼みます」
それから、ナミリアに会いに行く。廊下の角で待っていた彼女は、僕の顔を見るなり笑った。言葉は少なくてよかった。これから少しの間、離れるだけだ。
「気をつけてね。戻ったら、また一緒にご飯を」
「うん。すぐ戻る」
手を取り合い、短い別れを交わす。言葉の後ろに、同じ景色があるのが分かった。
桟橋へ出ると、借り受けた運河船が陽に光っていた。荷は少ない。必要な紙束と印、測量具の控え、贈答の残り……身軽な方がいい。ミザーリが乗り口で頷き、トーマスが馬の繋ぎを確かめ、アインスとフィアが先の合図所へ走った。ローランは連絡札の束をもう一度撫で、ストークは見送りに来た人たちへ短い礼を述べる。
「では、王都へ」
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