【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
667 / 809
15歳の飛翔。

オビリケ軍将との打ち合わせ。

 翌朝、アールが手配してくれていた王軍の詰所へ向かった。石畳を渡る靴音がまだ冷たい。詰所前で整列していた兵が道を開け、銀の飾緒を下げた壮年の将が一歩進み出る。

「オビリケ軍将、拝謁いたします。伯爵閣下、本日は外遊随行の件、航路と警護体制の最終すり合わせを」

 僕は軽く会釈し、要点だけ告げる。こちらの事情、向こうでの振る舞い、そして僕の護衛線の考え。軍将は姿勢を崩さないまま、言葉は終始丁寧だった。身分は僕が上…その距離感を崩さず、しかし実務は速い人だ。

 奥の訓練庭へ通される。黒い外套の一団が待っていた。王軍特務部隊。部隊長はナーラドと名乗り、無駄のない目をしている。僕の背の三人…アインス、ツヴァイ、フュンフを見た瞬間、彼の目がわずかに見開いた。

「……青の技」

 互いに一礼。言葉少なに握手が交わされるや否や、特務と青の技はそのまま合同訓練に入った。弓は音を殺し、合図旗は最小限、崩しと捕縛は二呼吸で終わる。砂塵の向こう、手信号が次の手順を刻む。ナーラドが一度だけ親指を立てるのを見て、僕は庭を辞した。

 会議室。壁に固定された大図面の前で、オビリケ軍将が航路を示す。棒の先が、港と港を順に叩いた。

「乗艦は新配備の大型戦艦オシュヴァルト。王都港を発ち八日でサテラージャ国の都バーデー。そこから二日かけて首都モルダーへ。滞在後は再びバーデーから六日でシトルウェル大公国の港町、さらに二日で首都シトルウェル。ここで歓迎式典、会談、見学。続いて三日で南域連合国の首都アミダ。式典、会談、見学。その後六日でミッソリーナ王国王都ソリーナ。訪問を終え次第、カリム国国都カリムへ。最後は十四日航行して王都港に帰還…全行程、概ね二ヶ月半を見込んでおります」

 指揮棒が静かに下りる。

「出発式は三日後、出航は五日後の朝。以後、特務と青の技は毎日合同訓練を続けます。なお国外では、閣下が平素お使いの速文の仕組みは使えません。現地法を最優先に、隊の回線で統一を」

「承知しました。外では君たちの線に乗る」

軍将が小さく頷いたあと、少し表情をほぐした。

「それと…オシュヴァルトの名は、船の名だけではございませんな。海軍船舶用ザワークラウト『オシュヴァルト』。あれのおかげで、長期航海で倒れる者が目に見えて減りました。艦の者ども、皆感謝しております。閣下もきっと感謝されるでしょう」

「酸も塩も、約束を守る性格でね。船倉で喧嘩をしないのが取り柄なんだ」

「はは…実に頼もしい」

ふと思い出して、ナビのことを切り出した。ナビがミレイユの肩から軍将の目の前に行く。同行の旨、登録の段取り。軍将の厳めしい顔が、ふっと綻ぶ。

「……おお。まあ、可愛い。健康証明と搬入申請は済んでおりますな。航海中は私の責任で甲板立入の刻を定めましょう。猫は船の守り神…いや失礼、私は猫が好きでして」

「助かります。ナビ、礼を」

「にゃ」

 場がやわらぎ、すぐまた実務に戻る。侍医の件を告げると、軍将は軍医を呼んだ。濃紺の肩章を付けた軍医は資料を数枚広げ、ナミリアの手技と携行する薬箱、診断の手順を確かめる。問答は端的で、核心ばかりを水際で洗うようだった。

「実地の反射がよろしい。回復魔法は切り札に、まずは常識的手順を。記録の書式は軍式に合わせ、重大事は二重記録。船医の線にも繋ぎます」

 ナミリアは一つ一つ頷き、最後は落款の押された推挙状を胸に抱えた。その足で王立医療局へ向かう。回廊の大窓から差す光、受付の羽根ペンの軽い音。軍医の太鼓判の書類を差し出した途端、窓口の係は席を立ち、上席の机へ運んだ。

 待ち時間は、拍子抜けするほど短かった。

「臨時認証、侍医。外遊期間中、王軍艦船内および儀礼行事における侍医として従事を許可します。記録は帰還後に正本へ編綴を」

 透かしの入った許可証が差し出される。ナミリアは一度深く頭を下げ、外に出ると小さく息を吐いた。

「よかった…責任、分かってる。やるわ」

「頼りにしてる。現地の空気と人の顔色を、よく見て」

 夕刻、再び詰所へ戻ると、中庭ではまだ訓練が続いていた。縄梯子を駆け上がる音、砂を裂く足の擦過音、短い笛信号。ナーラドとアインスは合図一つで間合いを詰め、ツヴァイとフュンフは特務の二人を挟んで転身させ、砂上に極短の「型」を刻む。見ているうちに、互いの癖が馴染んでいくのが分かった。

 詰所の脇で、オビリケ軍将が言う。

「護衛線は堅い。あとは閣下の時間の線だけ。三日後の出発式、式辞は短く…それが何より効きます」

「耳に心地よい忠告だね。短く、返す」

「もう一つ。国外へ出れば、速文も沈黙。かわりに、人の顔と声の手触りがすべてになります。私どもは軍の線を張る。閣下は…いつものように、相手の目を見てお話を」

「それなら、得意だ」

 別れの握手。軍将は姿勢を崩さず、けれど猫の話題になったときと同じ柔らかさで微笑んだ。

「ナビ殿にも、よろしく」

 タウンハウスへ戻る道すがら、王都の空は薄紫に傾いていた。ナミリアは許可証を大事そうに抱え、ミザーリは翌日の護衛割を口の中で反芻し、ミレイユは出発式の次第を頭の中で並べ直している。

 玄関をくぐると、廊下の突き当たりでナビが丸くなった。僕がしゃがむと、ふわりと肩へ跳び乗る。

「行くぞ、ナビ」

「にゃ」

 出発式まで、あと三日。出航まで、あと五日。速文は届かない海の上で、約束と段取りと、息を合わせた動きだけが頼りになる。けれど、今日交わした握手の数だけ、結ばれた線は確かに増えた。僕は肩の温もりを感じながら、短い式辞の言葉を心の中に並べ始めた。短く、要を置く。必ず、返す。
感想 9

あなたにおすすめの小説

十年使い潰された元英雄は、転生魔王に執着(愛)される。

兎崎スライム
ファンタジー
英雄として使い潰され、異界の森に捨てられた青年・コノエ。 感情も尊厳も摩耗し、死を待つだけの彼の前に現れたのは圧倒的な魔力を纏った「魔王」だった。 「……ようやく見つけた」 なぜか自分を執拗に甘やかす魔王と、その側近たち。孤独な元英雄が、魔族の国で「生きていい理由」を取り戻していく、BL異世界ファンタジー。 ※序盤、主人公が不遇な扱いを受ける描写があります。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ダンジョンホテル 

雷神様
ファンタジー
大阪府某所。 中堅クラスのホテルで働くホテルマン 「指宿 蛍」いぶすき ほたる(25) は、薄給長時間労働の末、命を落としてしまう。 だが、気が付くとそこは森の中だった。 理由もわからず彷徨い、その先に見出したものとは、、、 【作者より】 物語の内容は非常にゆっくりと進みます。 ゆっくり楽しんでもらえたら幸いです。 毎日0時に更新 現在 80話まで進行中 お気に入り登録やいいね下さった方々ありがとうございます! コツコツと頑張りますのでよろしくお願いします!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化する。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、進化の成り上がり物語。