【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

オムライスと面談。

 翌日、港湾ギルドとの新港規定の詰めに入った。顔ぶれはもう見慣れたものだ。長老格の港湾長、書記二名、水竜人代表、そして僕。机の上には、寄港順の抽選札と予約簿、荷扱い別の税率表、役所預かりの冷凍箱運用票が整然と並ぶ。

「開港規程、条目三十七まで合意済みだ。残りは二点。荷役の抽選日を週一から隔五日に前倒し、もうひとつは夜間の静穏帯の拡張だな」

 港湾長が言う。水竜人代表が頷く。

「夜の潮目で潜る者もおる。静穏は助かる。鐘三つから鐘六つまで、騒音器具は停止で」

「よし、書き入れてくれ。届けは三者連名で」

 最後に三人で捺印し、証書紐を結んだ。席を立つ間際、港湾長がぼそりと洩らす。

「役所預かりの冷凍箱、抽選の恨み言が減った。最初に役所預かりと言い出したのは…あんたか」

「顔役たちの智恵だよ。僕は紐を結んだだけ」

 港湾長はふっと笑い、肩を竦めた。

 タウンハウスに戻ると、黒髪を七三に撫でつけた青年が直立していた。胸元に小さくエフェルト家の徽章。

「サーンベルトと申します。エフェルト公爵様より、協働課の仕組みと工夫を伝えに参りました。御領で一年、腰を据えてよろしいと伺っております」

「遠路ご苦労様。こちらもあなた方のやり方を学びたい。宿と机は用意するよ」

 呼び鈴でローランを呼ぶと、段取りが即座に並ぶ。宿はシャングリラの新しい宿舎、机は文官棟の一角、通行証と耳役の窓口札、そして月々の手当て。サーンベルトは礼を尽くし、控えめに言う。

「代わりに、公爵様からは『そちらの取り組みを丸ごと学んで来い』と。耳役、二重表記、冷凍箱、そして…人の集め方も」

「いいとも。失敗も含めて見せる。約束は一つだけ。現場に入る前に、現場の人間に挨拶を」

「もちろんです」

 それから王寮の一画にある学匠会へ。石畳の回廊、若い学匠たちの机には紙束と木簡が山のように積まれていた。老学匠が僕を見ると、途端に講義が組み上がる。

「贈答の作法……金属器は国により禁忌あり。香は調合に気を付けよ。通貨は銀貨換算の相場帯、手形は印鑑二重。関税は港務で先に票を切る。宗教上の休みは三国とも月の巡りでずれる。現地語の挨拶は……」

 発音記号が板書され、僕は喉で音を転がす。学匠たちが身を乗り出し始める。

「ついでにこの文献も…」「現地の塩税の歴史を…」「風葬と土葬の比率を…」

「僕は親善だ。倉に籠もる暇はないよ」

 どよめきが起こる。僕は歩み寄り、いくつかだけ手を取った。

「じゃあ簡単な注文だけ。まず君の子どもの遊び歌を一つずつ。道すがら話の糸口に使おう。君の計量単位の対照表は懐に入る大きさで。それから君の敬語の定型句は短い札に。あと、君のサテラージャ国の港の方角を問う言い回し、三種類」

 学匠たちは一気に顔を輝かせた。若い筆が一斉に走り出す。帰りがけ、老学匠がそっと耳打ちした。

「ふむ。いいやり方で納得させるな。さすが親善大使じゃ」

 午後は料理ギルド本部。戸口を入るなり、イタヌさんが笑顔で迎える。

「あのおにぎり、最高やで。塩加減も握りの固さも、軍人が欲しがる。糧食に回す段取り、軍さんと詰めとるで」

「ありがたい。じゃあ何を手伝えば良いのかな?」

「一個あたり目安になる重量と運ぶ方法やな。それ、教えてくれへん?」

「わかったよ」

 僕はイタヌさん達に実際作って重さを測ってもらう。運ぶ方法は前世の知識を伝え、納得してもらった。竹、あるみたいだし工夫をしてくれるだろう。

「せや、米も炊いとる。せっかくや、もう一品作っていき」

 鍋の蒸気、卵の匂い。僕は手早くバターを溶かし、玉葱を炒め、ご飯を合わせて鶏肉と共に調味する。皿に落とした卵がふわりと半熟で包み込み、赤いロイックソースが一筋、艶を描く。

「オムライス。遠い国の家庭の味だ」

 一口、二口。イタヌさんの目が丸くなる。

「…うま。これ、即レシピ化や。屋台筋にも合う。ふわふわのんと、しっかり焼いたんと、二本立てでいけるわ。刻み野菜版は貧民街に配れる」

「卵は火の通り具合に注意してね。生だとお腹壊す心配があるから、ふわふわは新鮮なもので」

「ほんま、あんたはよう知っとるなあ」

 笑い合って席を辞す。戸口の外は夕暮れ。王都の空は薄金色から藍へ沈み、遠くの塔の鐘が三つ、静かに鳴った。

 タウンハウスに戻ると、ローランが書類の束を差し出す。

「サーンベルト殿の宿舎、手当て、通行証、すべて手配済みです。新港規定の正本も王城へ回しました。明日は親善団の出発式の予行です」

「了解。短く挨拶して、短く下がる。あとは現場に任せる」

 廊下の先で、ナミリアが侍医の箱を点検している。ミザーリは護衛割の札を貼り直し、アインスは黒布の陰から軽く手を振った。ナビが机の上で丸くなり、尻尾だけがゆっくり揺れている。
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