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15歳の飛翔。
リョウエスト博物館。
次の日、僕達はボガードさんが見せたいものがあると言われ迎賓館を出た。ボガードさんに先導されて門をくぐると、白い布に墨で太く書かれた横断幕が風に鳴っていた。「ようこそ、リョウエスト・バァン・スサン伯爵」。門番の獣人が胸に拳を当て、エルフの書記が板札を抱え、ドワーフの監督が口笛を鳴らす。七種族協働工場……ミッソリーナ・ベース。高い煙突は共用排煙塔に繋がれ、床には二重目盛りの測線。通路は幅広で、片側に踏み台と低い手すりが並ぶ。
「まだ発展途上です。課題は山ほどある」ボガードさんが肩をすくめる。「同じ“良品”でも、種族で良しとする理由が違う。どう反映するか、ずっと試し中で」
「各種族同士で、現場の言葉のまま話せる場……があると良いですね」
僕はそこで口を閉じた。内部の火加減を知らずに蓋を持ち上げてはいけない。ミザーリは黙って安全帯の結びを見て回り、ナミリアは救急箱の位置を確かめ、アインスたちは通路の死角の数を数えた。ピレーションは機械の列を前に目を丸くし、「この軸受け試したい」と小声で呟く。
次に見せられたのは王宮の厨房。仕込みの奥キッチン、手前は劇場型の仕上げ場。火口は塔の吸い込みへ、流しは低い側にも段差付き。「外交の席では、できたてで驚かせたい。あなたの“やり方”が骨組みになりました」と料理長。僕は頭をかき、「便利なら何より」と笑うしかなかった。カウンター越しに、若い見習いが鍋の前で真剣に揚げ物をしている。遠くで王の笑い声が響いた気がした。
そして、リョウエスト博物館。入口の壁面に、僕の名が掲げられている。目を逸らしたくなるほど、ぎっしりだ。初期のキッチン道具から工業用品、活版印刷の原板、アシスト付き馬車の車軸、保温装置と冷却装置、蒸留銅鍋、冷凍馬車の小型模型、空の船の船部の実物大模型、瓶詰の酒、見つけた料理材料の模型、料理レシピの写しなど……ケースの前に立つたび、背中を押されるような気分になる。
「やりすぎだろ」
思わず口からこぼれ、付き添いの係が笑った。「ここは“過去形”を並べる場所です。これからは皆さんの“現在形”で埋めます」
ボガードさんは足を止め、こちらを向いた。「あなたのやってきたことは、あなたの考え。押し付けではない。それでも……腕と頭で道を開き、民間から伯爵になった。あなたはこの国では、それだけでヒーローです」
「……ヒーローは性に合わないですよ。僕はいつも、できないことをできる人に頼ってきただけです」
「だからこそ、です」
奥の展示室で足音がぱたぱたと近づいてきた。学校帰りの子供たちが列を作り、目をきらきらさせて僕を見上げる。
「どうやって伯爵になったの?」
僕はしゃがみ、視線を合わせた。「できないことは、人に頼む。みんなの話を聞く。みんなが求めるものを、一緒に用意する。ずっと、それを続けた」
「じゃあ、そうする!」
声が重なって、小さな胸が弾んだ。ミレイユが微笑み、メモにさらりと書き留める。ピレーションは子供たちの後ろでこっそり頷き、ツヴァイが肩越しに展示のネジの頭を数えている。ナビは肩の上で喉を鳴らし、近づいてきた小さな手に鼻先をすり寄せた。
館の出口に耳箱が二段で据えられていた。上の札には「次の展示で見たい仕事」、下の札には「今日、面白かったもの」。低い方から抜いて読んだ札に、震える筆致で「うちの村にも冷凍箱がほしい」「お母さんに楽してほしい」とある。僕は係にうなずき、ボガードさんに視線を送った。
「表に願いが貼られている」
「うちの執政が形にし、王が承認したやり方です。あなたの手紙の通りに」
外に出ると、夕映えが工場群の排煙塔を朱に染めていた。交差点の掲示板では、新しい“耳の座”の募集が貼られている。欄外に小さく「見習い歓迎」と書かれていて、誰かの配慮を感じる。
「伯爵様!」
振り返ると、さっきの子が駆けてきて、息を弾ませながら言う。
「ぼく、できないこと、友だちに頼んでみる。恥ずかしくない?」
「恥ずかしくない。頼むのは勇気だよ。頼られたら、もっと勇気だ」
「うん!」
握り拳が空に上がる。僕は胸の奥に小さく灯るものを感じた。ここは、変わった。けれど、変わり続けることの方が難しい。だからこそ、今日見た“現在形”がうれしい。
宿への帰り道、ボガードさんがぽつりと言う。
「七種族の考えを反映させる会所、近いうちに作ります。名は……“寄り合い炉”。火のところに集まる、という意味で」
「良い名だ。火は見えるし、あったかい」
「あなたが言葉を短く置くから、わたしたちも短く置ける」
僕は笑って肩をすくめ、空を見上げた。群青に変わる手前の空に、早い星がひとつ流れた気がした。ナビが「にゃ」と短く鳴く。明日はまた別の場所へ行く。けれど、今日ここで交わした短い約束が、あしたの誰かの背を押すだろう。そんな確信が、足取りを軽くした。
「まだ発展途上です。課題は山ほどある」ボガードさんが肩をすくめる。「同じ“良品”でも、種族で良しとする理由が違う。どう反映するか、ずっと試し中で」
「各種族同士で、現場の言葉のまま話せる場……があると良いですね」
僕はそこで口を閉じた。内部の火加減を知らずに蓋を持ち上げてはいけない。ミザーリは黙って安全帯の結びを見て回り、ナミリアは救急箱の位置を確かめ、アインスたちは通路の死角の数を数えた。ピレーションは機械の列を前に目を丸くし、「この軸受け試したい」と小声で呟く。
次に見せられたのは王宮の厨房。仕込みの奥キッチン、手前は劇場型の仕上げ場。火口は塔の吸い込みへ、流しは低い側にも段差付き。「外交の席では、できたてで驚かせたい。あなたの“やり方”が骨組みになりました」と料理長。僕は頭をかき、「便利なら何より」と笑うしかなかった。カウンター越しに、若い見習いが鍋の前で真剣に揚げ物をしている。遠くで王の笑い声が響いた気がした。
そして、リョウエスト博物館。入口の壁面に、僕の名が掲げられている。目を逸らしたくなるほど、ぎっしりだ。初期のキッチン道具から工業用品、活版印刷の原板、アシスト付き馬車の車軸、保温装置と冷却装置、蒸留銅鍋、冷凍馬車の小型模型、空の船の船部の実物大模型、瓶詰の酒、見つけた料理材料の模型、料理レシピの写しなど……ケースの前に立つたび、背中を押されるような気分になる。
「やりすぎだろ」
思わず口からこぼれ、付き添いの係が笑った。「ここは“過去形”を並べる場所です。これからは皆さんの“現在形”で埋めます」
ボガードさんは足を止め、こちらを向いた。「あなたのやってきたことは、あなたの考え。押し付けではない。それでも……腕と頭で道を開き、民間から伯爵になった。あなたはこの国では、それだけでヒーローです」
「……ヒーローは性に合わないですよ。僕はいつも、できないことをできる人に頼ってきただけです」
「だからこそ、です」
奥の展示室で足音がぱたぱたと近づいてきた。学校帰りの子供たちが列を作り、目をきらきらさせて僕を見上げる。
「どうやって伯爵になったの?」
僕はしゃがみ、視線を合わせた。「できないことは、人に頼む。みんなの話を聞く。みんなが求めるものを、一緒に用意する。ずっと、それを続けた」
「じゃあ、そうする!」
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「表に願いが貼られている」
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振り返ると、さっきの子が駆けてきて、息を弾ませながら言う。
「ぼく、できないこと、友だちに頼んでみる。恥ずかしくない?」
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