【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

がめつさを力に。

 政庁は潮の満ち引きみたいに人が流れ、紙が行き交い、声が重なっていた。ナディアさんに「今は戻って、まとめてください」と諭され、僕は迎賓館へ。のんびり椅子に沈む暇もなく、机を片づけて紙と筆を広げる。夕刻前、戸口に大きな魚と琥珀の瓶が現れた。若手の労務副大臣だ。「これで話しながら会談しても良いですか?」……肩の力が抜ける言い方に、つい笑ってしまう。料理人が手際よくさばき、香ばしい皮の匂いが広間に満ちる。皆で黙々とフォークを動かし、腹が落ち着いたところで本題に入った。

「この国には人、獣人、小人、水竜人がいます。国営の蒸留場は四種族で回し、異種族で開業すると税の優遇も付けています。この魚も、新しい漁船を買った者のところのものです。ただ……人族がなかなか一緒にやりたがらない。開業後に異種族を外へ押し出そうとする例もある。のんびりしているのに、懐の出し入れには目ざとい。方法はありますか?」

「あります。罰だけでは動かないなら、約束を紙に刻み、利を見える形で重ね、そして外からも見えるようにする。この三つでいきましょう」

 副大臣のフォークが止まり、眼だけが真面目になる。

「まずは紙です」

 僕は三枚の用紙を並べ、見出しを走らせた。

「協働の約束を一枚にまとめます。出資、所有、決定権、人事、収益配分、紛争の手順、抜ける時の作法。曖昧になりやすい所ほど太い字で。違反条項ははっきりと……異種族への差別の禁止、排除行為の禁止、恫喝や暴力の禁止、配分の一方的変更の禁止、告発した者の保護を義務とする。破った時は、優遇の停止、過去分の優遇は三割増しで返還、一定期間の入札参加停止。悪質なら免許取り消し。最初にこれを書いておく。後から揉めるほど高くつきます」

「三割増し返還……懐に響きますね」

「だから次に、利を並べます。協働の顔は入口にぶら下がるものにしましょう」

 僕は指で四つの輪を描いた。

「店や工房の入口に真鍮の札を掛けて、輪の数で段階がわかるようにする。二つの輪は二種族、三つは三種族、四つは四種族。輪が多いほど扱いが良くなる。入札の加点、港での接岸の順、原料の配分の順、燃料の割引、冷凍箱の共同枠の優先……財布で実感できる利を、段階に応じて配る。のんびりでも損得には早いとおっしゃった。なら『得』をはっきり見せる」

 副大臣は苦笑しながら、魚の皮をきれいにはがした。

「税ばかり見てきましたが、それだけでは足りませんね」

「金融も効きます。輪が四つまで揃った事業には利率を一段落とす。その代わり、約束を外した瞬間は逆に跳ね上がる。連帯の重さは、人族の代表に少し厚めに配分する。最初に線を引くんです。『ここを越えたら懐が痛む』と」

「厳しさと甘さの線引き……いいですね」

「三つ目。外から見えることです」

 僕は壁を指した。

「掲示は高い位置と低い位置の二段で。誰の眼にも入る高さに。真鍮の札の横には一枚紙の『要点』を貼る。出資比率、配分比率、意見の出し先、支払い日。月ごとの支払状況は短い表で。外から見える約束は、内側の抑止になる」

「見栄を逆手に取るわけだ」

「見栄は悪いことじゃない。家族に誇れる看板は、足を前へ出させます」

 副大臣が杯を置いた音が、場に小さく響く。

「運ぶ仕組みも要ります。役所の巡回は混成に。人、獣人、小人、水竜人の班で、月ごとに無作為の査察。帳簿は二通りで記す。こちらの標準と、六種族標準の桁。通報してきた者の身の上は守る。退けと命じる権限は、港や市場の常駐組に付ける。暴力が起きたら、その場で止める書きぶりにしておきましょう」

「争いになった時は?」

「三人の聞き手を指名して、期日を切って短く聴く。結論は紙一枚で当事者に渡し、要旨だけを匿名で外へ貼る。長く引きずらない。殴り合いが出たら、その場で作業停止。代わりにその日のうちに聞き取りを始める」

 副大臣は頷き、魚の骨をフォークの先で揃えた。

「人手は?」

「短い講座を作ります。帳簿の基本、安全、異文化のやりとり、争いの止め方。四つを回れば、入口に輪を増やす資格が得られる。終えたら徒弟を交換して三月だけ別の種族の工房で手を動かす。戻ったら賃金を一段上げるのを勧め、役所が半分助ける」

「事故は?」

「掛け金を出し合って補う仕組みを。けがの補償と遺族への支え。掛け金は売上に応じて。事故のない場所は翌年軽く、嘘が出たら三倍の取り立て。ここでも財布に語ってもらう」

 僕は最後の紙を取り、日付を刻んだ。

「段取りです。初日、布告。七日目、港と市場に二段の枠を取り付け、十件だけ試しに入口に札を掛ける。三十日目、国の調達の一件を、輪の多い順に加点して走らせる。四十五日目、混成の巡回。六十日目、札を掛けた事業の働きを広場で発表して次の試みを募る。九十日目、最初のまとめ。良かったところは太らせ、詰まったところは細らせる」

「測るものは?」

「輪の数、徒弟の往き来、事故の件数、賃金の滞り、港での待ち時間、税の納まり。月ごとに一枚紙で出す。役所の棚に寝かせない。広場で読み上げる」

 副大臣は笑い、けれど眼は真剣だった。

「この国に合います。……もう一つだけ。入口の札は、どんな姿が良いでしょう」

「美しく。真鍮に輪を刻み、低い方の札には、指で触れて輪の数がわかる溝も。言葉の札は四つ。人、獣人、小人、水竜人の挨拶を並べて貼る。扉は言葉でも開くから」

「すぐ彫金師と書記に回します。最後に……のんびりで、がめつい人たちの背を押す一言を」

「子どもの眼です。『父ちゃん、うちの輪は何個? もっと増やそうよ』……看板は、家の誇りになる」

 副大臣はしばし黙り、そして深く息を吐いた。

「いい国にしたいですね」

「いい台所にしましょう。味は、段取りで変わります」

 会談はそこまで。僕はミレイユに口述し、条文の素案を起こす。副大臣は真鍮札の下絵を握りしめ、政庁へ駆けていった。窓の外、港の灯が一つずつ灯る。潮の匂い。肩のナビが小さく喉を鳴らす。紙の端に、四つの輪を描いた。見える約束、感じる利、そして外へ開く掲示。のんびりの国の夜は静かで、確かに前へ進んでいた。
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