【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

真珠は貴重なんです。

 見学の日、僕達はナディアさんに案内されて街の中を歩いた。海風が石畳をなで、白い漆喰の壁に陽が反射してまぶしい。まず訪れた国営蒸留所では、銅鍋の腹が静かに脈を打ち、蒸気が細く指先のようにのびていく。職人たちは声を荒げず、泡の表情だけで会話しているらしかった。繁華街では香草の束、干した魚、柑橘が山になり、店主はのんびりとした口ぶりで客と値段を決める。農業の特区では用水がよく通り、畦に腰かけた老夫婦が新しい苗を眺めていた。

「普段あんまり行かないんですけどね」と前置きして、ナディアさんが一番に連れていったのは、小さな屋内市だった。青い布の天幕の下、貝細工、ガラス玉、珊瑚の欠片が光を集め、その奥に真珠のアクセサリーが整然と並ぶ。値札を見て、思わず声が漏れた。

「ナディアさん、いくらなんでもこれは安すぎだよ」

「あー……本当ですね」いつもの調子のまま、彼女の目だけが真剣になる。

「これ、輸出できる品質だ。粒の揃い、巻きの厚み、艶……十分に通用する。遠くの国なら、この何倍でも」

「まずいですね、これは。帰ったらすぐ担当に伝えます。産地と選別、流通の線を立て直さないと」

 店主に断って、僕は箱を三つ用意してもらった。薄桃に転ぶやわらかな光はエメイラに、青みをふくんだ乳白はミザーリに、瑞々しい小粒はナミリアに。包む間、ナビが棚の上で前足をそろえ、じっと首飾りを見つめている。

「似合うかな」とミザーリが首に当てると、店主の老婦人が笑って頷いた。「あんたは海の色が似合うよ」

 ナミリアは宝物袋を胸に抱え、そっと息をついた。「ありがとう。大事にするね」

 迎賓館に戻ると、国主から直筆の手紙が届いていた。今夜、ささやかな歓迎の宴をひらくという。礼服に身を包んで迎賓の間へ向かうと、集まった人々の装いは驚くほどゆったりしていた。布は軽く、色は柔らかく、縫目は目立たない。カリムらしいなあ、と思う。

 卓にはこの国の味が並んだ。白身魚を柑橘と塩で締めたもの、柔らかい豆の煮込み、香草を練り込んだ薄い餅、スパイスを控えめに効かせた山羊乳のスープ。蒸留酒は喉を刺さず、胸の中でふわりと広がる。

「ようこそ」と商務大臣が杯を掲げた。「輸出品目が増えました」

「真珠は他の国では貴重ですからね」と僕は念を押す。「値付けと選別、それから品質表示を整えれば、大きな柱になります」

 国主がうんうんと頷く。

「あれはどこでも採れるものではないのだな」

「ええ。水と貝と手間の賜物です。だからこそ、丁寧に扱ってください」

「そちが来てから、この国は幸運続きだ」国主は朗らかに笑った。「海も機嫌がよい」

 宴の間を回れば、政庁の役人や数少ない貴族が次々に挨拶に来る。皆、声は穏やかだが、目はまっすぐで、やる時はやる人たちだとわかる。リブは現地語で礼を返し、ミレイユは挨拶の定型を手早く書き留める。ピレーションは料理の盛り付けと器の口縁を観察して、ひそひそと新しい機構のヒントをメモしていた。アインスたちは杯を傾けながら、自然な視線で出入口と窓を見張る。ナビは国主の膝に乗り、喉を鳴らしてすっかりくつろいでしまった。

 夜が更けると海鳴りが近くなる。庭に出ると、月の光が波の鱗をひとつずつ撫でていた。僕は明日の出立の段取りを頭の中で並べ直し、親書の封蝋を確かめる。潮の匂いの奥に、柑橘の甘さがほのかに残っている。

 旅立ちの日、桟橋は朝の光に濡れていた。国主と政庁の面々が並び、僕達が降り立つと、国主が小さな箱と巻紙を差し出す。

「そちの国の国王に渡してくれ。親書と……箱は真珠だ」茶目っ気たっぷりに笑う。

「ありがたくお預かりします」

「それから、これはそちに」もうひとつの箱が開かれ、勲章の光がこぼれた。国で三番目に高い位のものだという。僕は胸の位置を正し、ゆっくりとそれを留める。国主はもうひとつ、小箱を僕の手に置いた。「中身は……見てのとおりだ」

「重みまで、美しいですね」

「我々は我々の歩幅で歩く。また立ち寄ってくれ。この国は、いつでもそち達を歓迎する」

 言葉に嘘がない。握手はしっかりして温かかった。ナディアさんが最後に駆け寄ってきて小声で言う。「真珠の件、動きます。ありがとうございました」

「こちらこそ。良い潮になりますように」

 タラップを上がると、甲板の上でオビリケ軍将が顎を上げる。「帰路だな」

「やっと、ね」ミザーリが髪を結い直し、ナミリアは海図の余白にメモを書き込む。ミレイユは親書の控えを重ね、封の順を確認している。リブは風向きを読み、合図を小さく送った。ピレーションは帆の方角へ耳を澄まし、何やら新しい寸法を書きはじめた。ナビは手すりに飛び乗り、海にきらめく粒を追って尻尾をふる。

 鐘が鳴り、舫いが外れる。甲板にゆるい震えが伝わり、港が少しずつ遠ざかる。桟橋で国主が手を振り、役人たちが帽子を掲げる。僕達も手を振り返し、胸の勲章にそっと触れた。箱に収めた真珠の重みが、今回の縁の確かさを静かに告げている。

「帰ろう」僕が言うと、皆がうなずいた。オシュヴァルトは潮の道を北へ取り、白い航跡を長く引いた。風は優しく、海は機嫌が良い。カリムの味と匂い、それから人々の穏やかな眼差しが、しばらくのあいだ甲板に残り続けていた。
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