【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

港町と港の変化。

 港町の手前で、見慣れた屋根の列の外側に、まるで新芽のように木組みが連なっているのが見えた。槌の音が重なり、縄で吊られた梁が空を渡る。僕が指さすと、隣のエメイラが肩越しに笑う。

「ここは新しい一角よ。あなたが魚の鮮度を伸ばしたから商売が広がってるの。それに、ここに残って店を構える人も増えたわ。拡張の許可、私が先に出したけど……大丈夫だった?」
「うれしいよ。むしろ先回りしてくれて助かった」

 町に入ると、潮の匂いに混じって、人いきれと香草の香りが鼻をくすぐる。市場の入り口は昔の倍の幅になっていて、左右に新しい張り出し屋根がずらりと続いていた。通りを一本増やしたというのは本当で、古い通りと並行に新道が走り、荷車が互いに譲り合わずとも抜けられる。

「どうしても喧嘩するから、広げちゃったの。道も一本増やした。ちょうど労志が余り気味になってきたから、いい仕事になったのよ」
「すごいな……石目も揃ってる。段差も低い」

 顔なじみの売り子が、台の向こうから手を振る。

「伯爵様、おかえりなさい!」「待ってたよ、ほら、今日は脂のってるよ」「いい魚、持ってきな!」

 どの声にも笑いが混じっている。エメイラが袖を引いた。

「そうだ、ヂョウギにも頼んで、役所預かりの箱を増やしておいたの。朝夕の抽選会、今度見て。見物よ。太鼓で合図してね、顔役が札を引くたびに歓声が上がるの。外れた人には干物の引換札を渡して穏やかに帰ってもらう。うまいこと回ってる」

 角を曲がった先、暖簾の色がやさしい店の前でエメイラが足を止めた。

「ここ、美味しいのよ。今日はここにしましょ」

 戸をくぐると、店の女将がぱっと顔を明るくした。

「あら、奥様。伯爵様とご一緒なのね。ちょうどいいのが入ってるわ。新鮮なの、すぐ用意するからね」

 やがて並んだのは、透きとおる身に刃文の残る刺身。醤油皿に一枚、二枚とくぐらせ、口に運ぶ。歯を入れた瞬間にほぐれて、脂が静かに広がる。海の甘みが舌でほどけて、思わず息が漏れた。

「……うまい」
「でしょ。氷室を広げた効果が出てる。朝獲りの温度を落とすのが、やっと板についたわ」

 箸を置いて、湯飲みで口を流す。女将が笑って「またおいで」と送り出してくれた。

「さて、港に行くわよ」

 海に開いた広場は、もうきっちり石が敷かれていた。中央に旗竿が一本、風の向きを示す旗が踊る。見張り塔は二層で、はしごの踏み板が等間。塔の上には水竜人の青年が双眼鏡を掲げ、波のきめを読み取っている。沖には杭が並び、一本目の桟橋が半分ほど海へ伸びていた。

「……すごいな」
「拡張の話、王都で決まったんでしょう? 一本でも桟橋が立てば、工事線表を一気に前倒しできる。だから昨日から労志をここに多めに回してるの」

「さすがエメイラ」

 広場の隅で、縄を巻く手を止めずにこちらへ頭を下げる若者。僕も手短に礼を返し、次へ向かう。

「次は採石場ね」

 丘の裾を回り込むと、斜面に沿って積まれた切石の山が見え、その背後に煙の筋が立っていた。近づくにつれ、焼いた土と木の匂いが濃くなる。斜面の小さな平場に、新しい家がずらりと十軒近く。棟木にまだ色の若い木肌が覗いている。

「ここにも移住者が来たの。家は先に建てちゃった。子どもがいる世帯を優先してね。薪と水場は役所が手当て、道具は貸し出し。税の取り方は少し軽くして、数年かけて普通に戻す。みんなで話して決めたの」

 門口で若い父親が帽子を取った。背後から子どもが顔をのぞかせ、こちらの真似をして小さく頭を下げる。思わず笑って手を振る。

「採石の方は?」
「グラッツは王都に戻したわ。現場は地の者に監督させてる。基準の取り方を叩き込んだら、あとは石目を読む速さが上がるのを待つだけ。今のところ問題は一つもない」

 エメイラの声は落ち着いていて、足場の上で交わされる短い合図のように確かだった。切り出し場では、線を引いた石面に楔が並び、木槌の音がゆっくりと、しかし狂いなく進む。割れ口はまっすぐで、面は素直だ。荷車の通る道は土を締め固め、側溝は石で口を守ってある。雨が降っても崩れない。

「……ありがとう」
「礼は要らないわ。あなたが海を冷やしたから、山が動いたの。だったら港と採石場は一緒に走らせるのが筋でしょう?」

 返す言葉を探して、代わりに頷く。視線の先で、積み上がった石が夕日の手前で薄い藍を帯びた。

「町と村も回りたいけど、今日はここまで。駆け足でごめんなさい。書類の束が指令所で待ってるの」

「うん。続きは明日からじっくりだな」

 帰り道、港町の抽選広場に人の輪ができていた。太鼓がどん、と鳴り、顔役が札を掲げるたび、歓声とため息が交互に起きる。抽選に外れた男が苦笑いしながら干物の引換札を受け取り、隣の女が「今朝はうちが当たったから、今日はそっちが当たる番だよ」なんて軽口を叩く。負け惜しみじゃなく、順番を信じた笑いだ。広場の端でエメイラが囁く。

「ね、活気があるでしょう」
「ある。息が合ってる」

 潮の上に、町の音が重なっていく。槌の音、笑い声、太鼓、波……それぞれのリズムが、港から山へ、山から港へ、行き来しているのがわかった。僕はその真ん中で、胸の奥に小さく灯った火を確かめる。

「明日から本番だ」
「ええ。まずは港の桟橋を一本、きっちり海へ。採石を一段、深く。宗教区の棟木をもう二本。あなたは朝から書類の山と格闘。私とナミリアは現場を走る」
「了解」

 夕闇が落ちる前、広場の旗が一度大きくはためいた。風が変わる。町が、それに合わせて体の向きをそっと変える。駆け足の視察はそこで終わり、僕らは同じ歩幅で、指令所へ戻った。翌朝の鐘が、もう耳の奥で鳴り始めている気がした。
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