【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

ミレイユの帰還と御前聞政。

 ミレイユが役所に戻ってきたのは、夕方の鐘が鳴る少し前だった。扉が開く音と同時に、机の前で書類を整理していた僕は顔を上げる。ミレイユはいつものきちんとした服装だけど、目の下にうっすら影がある。腕には分厚い書類束。

「リョウ様……ようやく外遊の報告書ができました」

「お疲れ様。ほんとによく頑張ったね」

 僕がそう言って立ち上がると、ミレイユは少しだけ肩の力を抜いて、ほっとした顔をした。

「王様が詳細な報告書を望まれていまして……かなり細かく書き込みました」

「うんうん」

「ですが外務の方は、長いと言って、短く書き直させられました」

「ありがちだなあ」

 思わず苦笑が漏れる。ミレイユも小さく笑った。

「細部を知りたい人と、要点だけ欲しい人、どちらも必要ですからね。二つ作っておくのは正しいと思います」

「それでいいと思うよ。王様は細かく、外務はすっきり。ものの見方が違うだけだ」

 ミレイユは書類束を机に置きながら、少し困ったように言う。

「それに……小人の書記頭バロムさんが手伝ってくれなかったら、終わらなかったと思います」
「バロムが?」

 小人の書記頭。几帳面だけど、さりげなく人を助ける癖がある。

「はい。私が書いた草稿を読む速度が速くて、誤字脱字も一瞬で見つけてくださいました。あと、王都式の文言に直す癖も、ずいぶん教わりました」

「そりゃ大助かりだね」

 僕は机の隅に置いていた速文用の紙を手に取る。

「ちょっと待って」

 すぐに短い文を書く。

「王都に速文で送る。バロム、よくやったって」

「ありがとうございます。バロムさん、喜ぶと思います」

 ミレイユは荷を降ろした後のように息を吐き、それから小さく首をかしげた。

「それで……私は次、何をしましょうか」

「何がしたい?」

 僕が問い返すと、ミレイユは少し考えてから、肩をすくめた。

「報告書はしばらく……見たくないです」

 即答で、僕は吹き出しかけた。

「わかる。じゃあ、一つ別の仕事を挟もう」

 ミレイユの目が期待に変わる。

「何をすれば?」
「人に伝わる形にまとめる仕事。君の得意分野だ」

 僕は使いの者に命じて、すぐにサーンベルトを呼んだ。エフェルト公爵のところから出向している実務官で、協働課の仕組みに詳しい男だ。

「お呼びですか、リョウエスト様」

「うん。ミレイユと一緒に、少し話したい」

 サーンベルトはミレイユに軽く頭を下げ、向かいの椅子に座る。

「サーンベルト。エフェルト公爵領の協働課、今も動いてるよね」

「はい。各地区に小さな協働窓口を置き、農・工・商が横断で相談できる場にしています。成果も出ていますよ」

「そのやり方を、ミレイユに話してあげてほしい」

 サーンベルトは瞬きをした。

「私が話すのですか?」

「うん。君が実際に運用してる側だから、細かい手順や注意点が分かる。ミレイユはそれを文章化して、誰でも同じやり方が再現できるようにしてくれないかな」

「協働課の手引き書を作れ、ということですか」

 ミレイユがぱっと顔を明るくした。

「喜んで。そういう形なら、外遊報告よりずっと楽しいです」

「よかった」

 僕は二人を見てうなずく。

「サーンベルト、遠慮なく細部まで話して。うまくいってない部分も含めてね」

「承知しました」

 サーンベルトは背筋を伸ばした。ミレイユはすでにメモ帳を広げ、羽ペンを構えている。

「では……どこからお話ししましょうか」

「最初の立ち上げ手順からお願い」

 ミレイユが食い気味に言って、サーンベルトが苦笑する。二人の間に、もう仕事の空気が流れ始めていた。僕は「頼んだよ」とだけ言って席を立つ。

 自分の机に戻り、別の書類を書き始めながら、ふとミッソリーナ王国での出来事が頭をよぎった。あの国は、六大神の宿題を背負って、必死に仕組みを変えようとしていた。僕も、その場にいたから試せたやり方があった。

(あれは……この領地でも必要になるかもしれない)

 今のスサン領は動きが速い。速い分だけ、贈答や口利きが増える芽も育つ。そしてそれは、いつか町の空気を腐らせる。僕はペンを置き、ストーク、エメイラ、キースを呼ぶように伝言を飛ばした。しばらくして三人が揃う。ストークは静かな顔、エメイラはいつも通り余裕ありげ、キースはすでに何かを察しているような目をしていた。

「呼んでくれてありがとう。ちょっと新しい仕組みの相談だ」

 僕が言うと、ストークが一礼する。

「お話を伺います」

「ミッソリーナ王国で僕が試したやり方なんだけど……」

 僕は机の上に簡単な図を書きながら説明した。

「まず『耳役』を僕の直属にする」
「耳役をですか」

キースが眉を上げる。

「うん。各地区の耳役を、役所の誰かの私物にしない。贈答や、口利きの類も禁じる。耳役は『領主に声を届ける役』で、どこにも属さない」

「なるほど」

 ストークの目が細くなる。

「その上で、耳役を一か月に一回、役所に呼ぶ」

「定期招集ね」

 エメイラが頷く。

「そこで公開の場で、耳役の持ってきた『お題』に答える。僕の前で、皆が聞いているところでね。僕は御前聞政と名づけた」

「御前聞政、ですか」

 キースが言葉を拾う。僕はうなずいた。

「御前で聞いて、御前で答える。耳役が持ってきた相談や不満、提案を、隠さずに扱う」

「難しいお題が来たら、どうします?」

 ストークが冷静に問う。

「その場で答えられなければ『持ち帰り』って言う。期限も宣言する。逃げないことが大事」

「公開で期限まで」

 キースはすぐに呑み込んだ。

「そして御前聞政の内容は、全部掲示板に出す。二行で」

 僕は指を二本立てた。

「要点だけ。誰でも読める形で。『誰のどんなお題に』『領主がどう答えたか』を見える場所に置く」

「二行ってのが良いわね」エメイラが笑う。「読みやすいし、言い訳もできない」

「意図はそれだよ」僕も笑った。「役所の中で完結させない。領民が『こういう声が届いてる』『こういう返事をした』って見えるようにする」

「贈答や口利きでねじ曲げられる余地が減りますな」ストークが穏やかに頷く。「耳役が確保できるなら、私の方で選定と規律の定めを整えましょう」

「頼む」

 キースが少し身を引き締めた顔で言う。

「御前聞政の場は、役所前の広場と掲示板の改修が必要ですね。人の導線と安全確保も含めて、案を出します」

「助かる」

 エメイラが腕を組み、僕を見た。

「リョウ、これをやる理由は?」

「……領地が大きくなったから」

 僕は率直に答えた。

「僕がいちいち現場に行けなくなる。だから、声がねじれない仕組みが要る。それに……僕が委ねるって決めたなら、委ねた先で腐らせない仕組みも一緒に作らないといけない」

 三人が顔を見合わせ、静かに頷いた。

「やりましょう」

 エメイラが先に言った。

「領主が領民の前で答える仕組みは、怖いけど強い。あなたに向いてるわ」

「うん。やる」

僕がそう言うと、ストークもキースも揃って一礼した。
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