【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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16歳の結婚。

ロイック兄さん、保険を考えた。

 飲み会は、笑い声と酒の匂いの中でゆっくりとお開きになった。リディアとポルタックは、最後まで王様と呑み比べをしてからご機嫌で広間を後にする。

「ドナハルトはやっぱり良い男じゃなあ」

「うむ。酒も良いが、あやつの話も良い。久しぶりに“語り甲斐”のある人間に会ったわ」

 二人はそんな事を言いながら、僕とエメイラと共にタウンハウスへ戻る。夜風が少しひんやりしていて、火照った顔にはちょうど良い。

 タウンハウスに戻ると、レラサンスがお茶と軽い夜食を用意して待っていてくれたが、リディアとポルタックは酒の方を選んだ。

「良い酒だったなあ……」

「うむ、あの泡の酒、もう一樽欲しいくらいじゃ」

 二人はそう言いながら、僕が出した少し軽めの酒をちびちびとやり、そのまま満足そうに寝室に引き上げていった。

 そのあと、僕とエメイラは部屋に戻り、顔を見合わせて笑い合う。

「なんだかすごい一日だったね」

「ええ。龍二柱と王様の呑み会なんて、後にも先にもそうそう無いわよ」

 そんな会話を交わしたあと、僕らは暑い一夜を過ごした。

     

 翌朝。エメイラを起こさないよう、そっと寝室を抜けて洗面を済ませ、ヤルス君に支度を手伝ってもらう。タウンハウスの執務室に入ると、すでにローランが書類の山を机に積んで待っていた。

「おはよう、ローラン」

「おはようございます、リョウ様。昨夜はお疲れのところ恐れ入ります。本日は、国からの報告書数件と、運河ギルド関連の確認、それから……」

 そう言っているところで、侍従の一人がノックをして入ってきた。

「リョウエスト様、スサン商会王都支店より速達のお手紙が」

「王都支店……ロイック兄さんかな?」

 受け取って封を見ると、やはり兄さんの名が記されていた。急ぎの用だろう。封を切って走り読みする。

「……貿易の件で相談したい件あり、か」

 少し眉を上げると、ローランが首を傾げる。

「ロイック様からですか」 

「うん。今、王都にいるらしい。ローラン、この書類、急ぎのはどれ?」

「こちら二件だけです。残りは本日中であれば」

「じゃあその二件を先に片付けてから、兄さんを呼ぶよ」

 ローランと手早く書類を確認し、決裁と指示を書き込む。ひと段落したところで、ローランが頷いた。

「では、ロイック様へは私から連絡を」

「お願い」

     

 昼前、執務室の扉がノックされ、ロイック兄さんが入ってきた。いつもの飄々とした雰囲気は少し抑えめで、どこか改まった顔つきだ。

「よう、リョウ」

「兄さん、いらっしゃい。なんか改まってるね」

「まあな。今日は、ちょっと“兄として”じゃなく“スサン商会として”の相談だ」

 そう言って、兄さんは席に着くと、持ってきた書類を机に並べた。

「実はさ……かなり面白い商売を思いついたんだ。ぜひ聞いてもらいたくてな」

 兄さんの目が、いつもの“儲けの匂いを嗅ぎつけた”時の光り方になっている。僕も自然と背筋を伸ばした。

「船を安全に航行させる方法……仮に保険と名付けた」

「……保険?」

 聞き慣れた言葉に、思わず復唱してしまう。兄さんは頷き、さらさらと紙に図を描き始めた。

「名前は仮に“スサン保険”とでもしておこう。今、マルセイユ港と王都港を中心に、海運が一気に増えてるだろう? シトルウェル、南域連合、フェリシア、ミッソリーナ、サテラージャそのうちザルツ王国まで動き出す」

「うん。船も荷も、かなり増えてる」

「そこには、当然“事故”も付きまとうわけだ。嵐、座礁、海獣、海賊……。それで船を失った商人は、今のところ“運が悪かった”で終わりなんだよ」

 兄さんは指先で机を軽く叩く。

「だから、こうする。マルセイユ港から出る船、王都港から出る船に任意で保険をかけられるようにする。出港のたびに一定の金を“保険料”として積み立ててもらう。もし船が沈んだり、大破したりして荷を失った場合は、その積み立てから“補償金”を支払う」

 僕は、じっと図を見る。頭の中で地球の保険の仕組みと照らし合わせる。

「なるほど……リスクをみんなで分け合うわけだね」

「そういうことだ。航路、船の状態、積み荷の額を基準に、保険料を変える。危ない航路ばかり使う船は高く、安全な航路を堅実に行く船は安く」

「兄さん、資金的には大丈夫なの?」

「そこなんだがな。今のスサン商会は“金余り”状態に近いんだ。マルセイユ、アルカディアの投資が一巡して、次にどこに大口を突っ込むか考えてて……で、これを思いついた」

 兄さんは、少しだけ口元を緩める。

「商売として成り立つのは目に見えてる。事故はそうそう毎回起こらないし、航路が増えれば増えるほど、保険料は積み上がる。だがな……」

「国としてはどう思うか、わからない?」

「そういうことだ。一応、商務省には打診はしてる。『こういう仕組みを作りたい』ってな。でも、返事がなかなか返ってこない」

 僕はしばし考え、それから頷いた。

「……じゃあ、人肌脱ごうか」

「おお、助かる」

 兄さんの表情がぱっと明るくなる。

「商務大臣にアポを取って、一緒に王城に行こう。どうせなら、最初から“国と一緒にやる”形にした方がいい」

「そう思ってたんだ」

     

 午後。僕とロイック兄さんは、ローランの段取りで商務大臣との面会の場を得た。王城の一室に通され、商務大臣が書類を片手に現れる。

「スサン伯、ロイックエン殿。忙しいところすまんな」

「こちらこそ時間をいただき感謝します」

 簡単な挨拶のあと、兄さんが用意してきた資料を広げ、先ほど僕に話した内容を、もう少し数字を交えながら説明する。

「……という訳でして。現状、マルセイユ港のみを念頭に置いた試算ですが、航路の本数と船の数から考えると……」

 兄さんが淡々と説明を終えると、商務大臣は腕を組んで唸った。

「……面白い」

 その一言に、兄さんの肩がほんの少しだけ緩む。

「だが、今ここで私の一存で“よかろう”と言える話でもない。税務、軍務、内務、それに王都港の港湾局も関わる。すまぬが、宰相と他の大臣も呼ばせてもらう」

「もちろんです」

 そうして、あれよあれよという間に大臣達が集められ、急遽“大臣会議”の形になった。兄さんは同じ説明を繰り返すが、今度は質問も多い。

「もし保険金を支払えない事態になったら、誰が責任を負う?」

「最初はスサン商会が全責任を負います。ただ、ある程度仕組みが安定してきたら、国の保証枠を使う案も検討したいと思っています」

「事故の確認はどうする?」

「港ごとの証言だけでなく、船長と航海士の報告書、場合によってはワイバーン偵察の記録も利用できます」

 やり取りを聞きながら、僕はところどころで補足を入れていく。

「この仕組みが広まれば、船乗り達も“安全運航”の意味を今までより実感できます。危険な積み過ぎや、無茶な航路取りは、保険料の高さとして跳ね返る。結果的に船と人命の損失を減らせます」

 宰相が、じっと僕と兄さんを見た。

「……つまり、商人を守りつつ、王国の“海の血管”も太くできる、というわけだな」

「そう考えています」

 そんなやり取りをしている最中、扉がノックされ、侍従が頭を下げた。

「陛下がお入りになります」

 王様が入ってきて、ざっと室内を見渡す。

「なんだ、ずいぶんと面白そうな顔ぶれだな。……ロイックエン、説明を頼む」

 兄さんは軽く息を整え、もう一度最初から海上保険の説明をする。王様は時々頷きながら、最後まで黙って聞いていた。

「……ふむ」

 一通り聞き終え、王様は少しだけ口元を吊り上げる。

「ロイックエン。それがうまく回り始めたら……爵位だな」

「へ?」

 兄さんがぽかんと口を開ける。大臣達がわずかに笑い、宰相は咳払いでそれを誤魔化した。

「国の海の道を守る仕組みを作るのだ。商売であると同時に“国のための仕事”でもある。その功は軽くはないぞ」

「……も、もったいないお言葉です」

 兄さんが慌てて頭を下げる。僕は横で肩を震わせながら、姉さん達にこの話をしたら、どんな顔をするだろうと想像していた。

 こうして、ロイック兄さんの“スサン保険”は、国を巻き込んだ大きな仕組みとして、動き出すことになったのだった。
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