5 / 61
アル②
しおりを挟む
「お前さ、髪も顔も煤だらけだし、髪の毛なんて煙臭ぇ。風呂用意してやるから入ってこい」
弄んでいた髪の一房に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。
リューネをこの状態のまま城に帰すわけにはいかない。
(湯舟に浸かれば少しはリラックス出来る筈だ。香油はあったか?)
思考を巡らせながらリューネをソファへ下ろし、風呂場へ向かう。
ふと振り返ると、リューネは捨てられた子犬のような表情でこちらを目で追っていた。
(……なんか妙に懐かれてんな…吊り橋効果ってやつか?)
そんなことを独り言ちて、浴槽へ湯を張る。
蒸気が立ち上り始めるのを確認しながら、浴槽の縁に腰を下ろし、ため息をつく。
魔力を消費したせいか、体が重い。倒れるほどじゃないが――
(風呂入って、飯食って、さっさと寝て……リューネを城に返しに行く。面倒事には関わりたくねぇ)
「おい、立てるか?風呂入れ」
ソファから様子を伺っていたらしく、声をかけるとコクリと頷き、ふらつきながら浴室へ向かう。
「これが髪用の石鹸、こっちが身体用。タオルは棚にある。ゆっくり浸かるんだぞ?」
「ええと…はい…」
歯切れの悪い返事を返されたが、何か分からなければ呼ぶようにと伝え、クロゼットへ向かう。
リューネが着られる服があっただろうか?
背丈はアルの胸ほどで、随分華奢だ。
とりあえず綺麗めなシャツとロングパンツ――当然、生地は黒。
新品の下着もあるにはあるが……ないよりマシか。
恐らくどれもリューネには大きすぎる。
買いに行くにしても転移しないと無理な距離だ。早々にその考えは捨てる。
「あの、アルさん……その……」
不意に声を掛けられ、振り向く。
そこには――困ったように立ち尽くすリューネの姿。
「お風呂……どうやって入っていいか分からなくて……」
「……は?」
「いつも御付きの方に洗ってもらっているんです……なんとかなるかな?って思ったんですけれど……」
へにょん、と眉を下げ、苦笑する。
「……は?」
(まさか一人で風呂に入れない?昨今の王族ってそんな感じなのか?勝手が分からないのか?いや、それより俺が手伝うしかねぇのか?)
ここにはメイドもいなければ侍従もいない。
リューネを放置するわけにもいかず――八方塞がり。
「……分かった」
動揺を押し隠し、ようやく一言絞り出した。
リューネと共に風呂場へ戻り服を脱ぎ捨てる。
「こっち」
シャワーの出る位置へリューネを連れて行き、背を向けさせる。
「蛇口をこう回すとお湯が出る。最初は冷たいからな、少し待て……ああ、もういいな」
湯が降り注ぐと、リューネが呑気に言った。
「わぁ、暖かいです」
こちらの気も知らずに……。
さらに眉間の皺を寄せ、髪用の石鹸を泡立てる。
「王族でも一人で風呂くらい入れたほうがいいぞ。泡立ててやったから、少し自分で洗ってみろ」
シャワーを止め、リューネの髪に指を差し込み、優しく根元から洗い上げる。
「こんな感じで、爪は立てるなよ。肌に傷がつくからな」
リューネは素直らしく、一つ頷くとぎこちないながらも洗い始めた。
その間にアルも自分の髪を洗うことにする。煙の臭いが染み付いているだろう。
さっさと洗い流し、ざっくり身体も済ませる。
リューネの髪もそろそろだろうと、シャワーで丁寧に泡を落とす。
指通りのなめらかな髪だ。毛先も傷んでいない。
肩より少し長いので、簡単にリボンでまとめる。……手間のかかる奴。
「身体は自分で洗えるよな?顔も忘れるなよ」
たっぷりの泡を作り、肩から流してやる。
リューネは泡を手に取り、前面を洗い始めた。問題なさそうだ。
背中は洗いにくいだろうと、勝手に洗い進める。肩幅が狭い――腰も妙に細い
足の裏を洗いづらそうにしていたので、肩を貸してやる。
ようやく全身の泡を洗い流し終わった。まったくやれやれだ。
「湯にゆっくり浸かって温まってから出てこい。その間に簡単だがメシの支度をしてくる」
そう言い放ち、風呂場を後にしようとした――が。
リューネが手を掴んだ。
「アルさんも……一緒に温まってください。ひとりにしないで……?」
不安そうな瞳がじっとこちらを見つめる。
確かに、いきなり知らない場所に連れてこられた不安はあるだろう。
だが、しかし――
「男二人はこのバスタブじゃせめぇんだよ」
「でも、一人になると心細くて……どうしてもダメですか?」
潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
ああ、もう――色々考えるのも言い訳するのも面倒だ。
「……勝手にしろ」
俺はあらゆる思考を放棄した。
弄んでいた髪の一房に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。
リューネをこの状態のまま城に帰すわけにはいかない。
(湯舟に浸かれば少しはリラックス出来る筈だ。香油はあったか?)
思考を巡らせながらリューネをソファへ下ろし、風呂場へ向かう。
ふと振り返ると、リューネは捨てられた子犬のような表情でこちらを目で追っていた。
(……なんか妙に懐かれてんな…吊り橋効果ってやつか?)
そんなことを独り言ちて、浴槽へ湯を張る。
蒸気が立ち上り始めるのを確認しながら、浴槽の縁に腰を下ろし、ため息をつく。
魔力を消費したせいか、体が重い。倒れるほどじゃないが――
(風呂入って、飯食って、さっさと寝て……リューネを城に返しに行く。面倒事には関わりたくねぇ)
「おい、立てるか?風呂入れ」
ソファから様子を伺っていたらしく、声をかけるとコクリと頷き、ふらつきながら浴室へ向かう。
「これが髪用の石鹸、こっちが身体用。タオルは棚にある。ゆっくり浸かるんだぞ?」
「ええと…はい…」
歯切れの悪い返事を返されたが、何か分からなければ呼ぶようにと伝え、クロゼットへ向かう。
リューネが着られる服があっただろうか?
背丈はアルの胸ほどで、随分華奢だ。
とりあえず綺麗めなシャツとロングパンツ――当然、生地は黒。
新品の下着もあるにはあるが……ないよりマシか。
恐らくどれもリューネには大きすぎる。
買いに行くにしても転移しないと無理な距離だ。早々にその考えは捨てる。
「あの、アルさん……その……」
不意に声を掛けられ、振り向く。
そこには――困ったように立ち尽くすリューネの姿。
「お風呂……どうやって入っていいか分からなくて……」
「……は?」
「いつも御付きの方に洗ってもらっているんです……なんとかなるかな?って思ったんですけれど……」
へにょん、と眉を下げ、苦笑する。
「……は?」
(まさか一人で風呂に入れない?昨今の王族ってそんな感じなのか?勝手が分からないのか?いや、それより俺が手伝うしかねぇのか?)
ここにはメイドもいなければ侍従もいない。
リューネを放置するわけにもいかず――八方塞がり。
「……分かった」
動揺を押し隠し、ようやく一言絞り出した。
リューネと共に風呂場へ戻り服を脱ぎ捨てる。
「こっち」
シャワーの出る位置へリューネを連れて行き、背を向けさせる。
「蛇口をこう回すとお湯が出る。最初は冷たいからな、少し待て……ああ、もういいな」
湯が降り注ぐと、リューネが呑気に言った。
「わぁ、暖かいです」
こちらの気も知らずに……。
さらに眉間の皺を寄せ、髪用の石鹸を泡立てる。
「王族でも一人で風呂くらい入れたほうがいいぞ。泡立ててやったから、少し自分で洗ってみろ」
シャワーを止め、リューネの髪に指を差し込み、優しく根元から洗い上げる。
「こんな感じで、爪は立てるなよ。肌に傷がつくからな」
リューネは素直らしく、一つ頷くとぎこちないながらも洗い始めた。
その間にアルも自分の髪を洗うことにする。煙の臭いが染み付いているだろう。
さっさと洗い流し、ざっくり身体も済ませる。
リューネの髪もそろそろだろうと、シャワーで丁寧に泡を落とす。
指通りのなめらかな髪だ。毛先も傷んでいない。
肩より少し長いので、簡単にリボンでまとめる。……手間のかかる奴。
「身体は自分で洗えるよな?顔も忘れるなよ」
たっぷりの泡を作り、肩から流してやる。
リューネは泡を手に取り、前面を洗い始めた。問題なさそうだ。
背中は洗いにくいだろうと、勝手に洗い進める。肩幅が狭い――腰も妙に細い
足の裏を洗いづらそうにしていたので、肩を貸してやる。
ようやく全身の泡を洗い流し終わった。まったくやれやれだ。
「湯にゆっくり浸かって温まってから出てこい。その間に簡単だがメシの支度をしてくる」
そう言い放ち、風呂場を後にしようとした――が。
リューネが手を掴んだ。
「アルさんも……一緒に温まってください。ひとりにしないで……?」
不安そうな瞳がじっとこちらを見つめる。
確かに、いきなり知らない場所に連れてこられた不安はあるだろう。
だが、しかし――
「男二人はこのバスタブじゃせめぇんだよ」
「でも、一人になると心細くて……どうしてもダメですか?」
潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
ああ、もう――色々考えるのも言い訳するのも面倒だ。
「……勝手にしろ」
俺はあらゆる思考を放棄した。
77
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている
水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」
アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。
この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、
「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」
その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。
同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。
キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。
辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。
そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…!
★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡
※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!)
※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます!
美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる