5番目の王子

Moma

文字の大きさ
11 / 61

冬のとある日①

しおりを挟む
「ジュウト、この服の組み合わせはどうでしょう?」

リューネはくるりと回り、ジュウトの視線を伺う。
冬の装いとなったリューネのダークグリーンの衣は、彼のピンクブロンドの髪色を一層際立たせ、柔らかな魅力を引き出していた。

「よくお似合いです。コーディネートも完璧です、リューネ様。ですが……私の仕事がなくなってしまいますので、程々にしてくださいませ」

ジュウトは冗談めかして言うが、内心では少し寂しさも感じていた。
いつからか、リューネは自ら服を選ぶようになっていた。
以前は、ジュウトが用意したものを淡々と着るだけだったのに。
最近のリューネは、服に限らず、自分でできることを少しずつ増やしている。
ジュウトはそれが誇らしくもあり、同時に寂しくもあった。
先日からは料理長に頼み、簡単な料理を習い始めている。
味見係は専らジュウトの役目だが、そのせいか最近お腹まわりが少しきつい気がしていた。
本気で 専属の味見係を雇ってほしい と考えはじめている。

「リューネ様、本日は王太子殿下がお越しになるそうです。もうすぐいらっしゃると思いますので、お茶の準備を致しましょう」

しばらくすると、王太子殿下・レステュユルニと側近が部屋を訪れた。
相変わらずの “リューネ大好き” な兄は、部屋に入るなりリューネをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「お兄様……ほんじつ……も……ご機嫌麗しく……くるしいです……」

「堅苦しい挨拶はよい。今年の冬はいつになく厳しいが、体調は崩していないだろうか?」

「お心遣いありがとうございます、お兄様。ジュウトが体調管理をしっかり行ってくれています。私もできるだけ日中に散歩に出掛け、体力が落ちないように努力しております」

「そうかそうか!」

レステュユルニはリューネの頭をひとしきり撫でると、満足そうに微笑む。
ジュウトがティーセットワゴンを運んでくると、リューネはするりと抱擁から抜け出した。

「お兄様、本日は私がお茶をお淹れ致しますね。習い立てなので……美味しく淹れられるか不安ですが」

慎重に、落ち着いて。リューネは紅茶の準備に取りかかる。
ぎこちなさはあるものの、一つ一つの作業を丁寧にこなしていった。

「リューネ……お前の淹れた紅茶を飲める日が来るとは……」

レステュユルニは、感慨もひとしおだ。
その目がほんの少し潤んでいるようにさえ見えた。
リューネが紅茶をカップに注ぐと、部屋中に香りが広がる。

「お兄様、どうぞ……スコーンも私が昨日焼きました。宜しければこちらも。見た目はあまり良くありませんが……」

レステュユルニはスコーンとリューネを交互に見つめる。

「うわぁぁぁぁぁ!」

感激のあまり、今にも泣きそうな勢いだった。
苦笑を浮かべながら、リューネは自分の紅茶を用意し、席に着く。


「それで、お兄様……本日はどのような?」

紅茶を一口含みながら、レステュユルニに問う。

「そうであった、リューネに説明を。」

控えていた側近が話し始める。
レステュユルニはスコーンを堪能することに決めたらしい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「リューネ様が襲撃を受けられた件について、調査の進捗をご報告申し上げます」

リューネが目を伏せながら軽くうなずくと、側近は続けた。

「襲撃の動機につきましては、“第五王子として”狙われたものではないと判断されております。むしろ、リューネ様が身分を隠しておられた時に見せた、高貴な立ち居振る舞いや風貌――それが誤認を招いたのではないかと」

「……誤認?」

リューネが顔を上げると、側近はわずかに頷いた。

「はい。実は近隣諸国におきましても、過去に“失われた王家の血筋”や“貴族の隠し子”に関する伝説や噂が存在しており、その影響で、似た雰囲気を持つ人物が襲撃される事件がいくつか確認されております」

「そのすべてに共通していたのは、端正な身なり、礼儀に優れた立ち振る舞い……そして、目立たぬ場においても漂う気品でした」

リューネは手を握りしめながら、静かに息を呑んだ。

「リューネ様もまた、その“伝説の血筋”を持つ者と誤解され、消すべき存在と見なされた……それが今回の襲撃の背景にあると推察されます」

部屋の空気が、ひときわ重くなった。

「また、襲撃を受けた他の者の中には、重傷を負った方もおり、ひとりは命を落としております。今回、リューネ様がご無事であったのは――」

側近はそこで言葉を切り、リューネの表情をそっとうかがった。

「……まさに奇跡に近いものでした」

レステュユルニはスコーンを口に運びながら、ふとリューネを見つめる。

「ということだ。リューネ、このスコーン、もう一つもらってもいいか?」

強張った空気をほどくように、柔らかく話しかける。
ジュウトがすかさずスコーンを差し出す。
リューネは 気持ちを切り替えるように 紅茶を口に運ぶ。
しかし、今日の紅茶はひどく苦く感じる。

「ところで、リューネ」

紅茶を片手に持ったまま、レステュユルニは静かに言った。

「お兄様・・に……何か言うことはないか?」

その声には、王太子としての威厳ではなく、 兄としての温かさ が滲んでいた。

「最近のお前は……いや、あの襲撃の翌日から変わった。何を考えているのか、悩んでいるのか。私には分からぬ」

「お前の側にいるジュウトはもちろん、私や城の者たちも、皆お前を心配しているのだ」

レステュユルニはリューネの頬をそっと撫でる。

「話してごらん?」

その言葉は、どこまでも優しく――慈しむような微笑みとともに、リューネへと届けられた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない

結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。 人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。 その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。 無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。 モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。 灰銀の狼と金灰の文官―― 異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。

処理中です...