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暗躍①
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「よう、三年振りじゃねぇか、放蕩息子」
謁見の間へフラリと現れたアルに、父王は豪快な笑みを向ける。
「金の無心なら無駄だぜ?それとも――絵描きは諦めて、ようやく帰ってくる気になったか?」
国王の声には、揶揄とも期待ともつかぬ色が含まれている。
だが、アルはひとつ息を吐き、静かに言葉を返す。
「当たらずとも遠からずってところか。利用できるものを最大限に利用しに来た」
「探索用の人形をいくつか用意してくれ。それと、俺の魔力と魔術の封印を解いてほしい。この魔力量じゃ動くに動けねぇんだよ」
国王は瞬時に表情を引き締める。
「おいおい、久々に帰ってきたかと思えば、穏やかじゃねぇこと言いやがる。他国から見りゃ、お前の魔力量は脅威以外の何物でもねぇんだよ」
一息置いて父王は続ける。
「俺たちの目の届かないところにいるお前を制御できねぇのは、都合が悪い。魔術の封印も解いたら、攻撃魔法も使えるようになっちまう。で――どういうこった?ワケありか?」
国王は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら「――女か?」とだけ言い放つとアルを見据えた。
アルは肩をすくめ、無言のまま思案する。
(いずれは分かることだ……親父を先に味方に引き込んだ方が得策か)
沈黙の末、アルは口を開く。
「親父、クスラウド王国のことは知っていると思うが――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日前、昼下がりの街中のカフェでリューネが魔術の攻撃を受けた。
騒がしいオープンテラスでの出来事は、表向きは単独犯による無差別な犯行として処理され、街の喧騒の中に次第に埋もれつつあった。だが、アルの胸には拭いきれない違和感が渦巻いていた。
(偶発的な犯行にしては、あまりにも動きが整いすぎている……)
リューネの居場所は秘匿されていた。それにも関わらず、まるで待ち伏せしていたかのように襲撃が起こった。場所も人目がある王都のオープンテラスのカフェ。
それはあまりにも騒がしすぎる舞台だった。
アルは探索用のドールに指示を出した。魔力を用いたこの使い魔は、人目を避けるように夜の街に紛れ込み、ひそかに人々の会話や動きを観察していく。
今回は、襲撃犯の残した痕跡や、不審な集まりの情報に絞って探索を命じた。
やがて、夜空が深い藍色に染まる頃、ドールが静かに帰還した。
舞い戻ったドールの額に手をかざし、アルは魔力の回路を通じて、集められた記憶を受け取る。
最初に映ったのは、街の北端にある古びた建物の裏路地。そこに集っていたのは三人の男たち。顔はフードで隠され、周囲を警戒しながら何かを囁き合っている。「失われた系譜」「誤情報」「処理」など、意味深な単語が浮かぶ。
(……この連中が、何らかの指示を出していた?)
直接手を下した実行犯ではない。だが、何らかの判断を下し、それを誰かに伝えたのは間違いない。指示役。しかし、その上にさらに黒幕がいる可能性も捨てきれない。
続いて浮かんだのは、街の外れ、旧街道沿いにある廃墟。
その二階の部屋に、長衣をまとった複数の魔導士たちが潜んでいた。
彼らの姿は、襲撃時に確認された魔力の痕跡と一致する。
(ここが、実行部隊の潜伏先か?)
ドールはその場での会話まで収集していた。彼らは「無駄に目立った」「奴はただの少年だった」という不満を交えながらも、「血の系譜を断つ」という、意味深な目的に言及していた。アルの眉がわずかに動く。
(『血の系譜』……何を指している?)
情報は揃った。密談を交わしていた指示役の男たち、そして直接手を下した魔導士たちの居所。
アルは即座に転移魔法の詠唱に入った。
詠唱が終わると同時に、空間が揺らぎ、アルは双子の兄、デュラテスの執務室の一角に姿を現した。
「……お前、相変わらず突然だな」
デュラテスは眉一つ動かさずに書類に目を落としたまま、ぼやくように言った。
だが、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。
「悪いな、急いでるんだ」
「知ってるさ。親父から、"うちの可愛い末っ子が想い人のために随分と奔走してるらしい"って聞いてる」
「余計な詮索はいい」
「可愛らしく照れちゃって。まあ座れよ、久しく帰ってきて、その態度か?」
デュラテスが手近な椅子を軽く蹴って寄越すが、座る時間すら惜しく話を続ける。
「数日前、知人が真昼間のカフェで襲撃された。表向きは無差別犯の犯行ってことになってるが……状況が不自然すぎた。偶発じゃない、明らかに待ち伏せてた動きだった」
「知人ねぇ…」
向けられた生暖かい笑みは無視し、言葉を続ける。
「ドールの記録確認してみてくれ」
ドールの額に手をかざし、デュラテスは魔力の回路を通じて、集められた記憶を受け取った。
――密談する三人の男たち、そして旧街道沿いの廃墟に潜伏する魔導士たちの姿――。
「廃墟に潜伏していたのは、実行犯の魔導士たち。もう一つ、街の裏路地で密談していた連中もいた。こっちは指示を出していた形跡があるが、襲撃には直接関わっていないと思われる」
数秒の沈黙の後、デュラテスはゆっくりと息を吐き、背もたれに体を預けた。
「……なるほど。で、俺に何をしろと?」
「廃墟にいた魔導士の捕縛を手伝って欲しい。俺一人で出向いて取り逃がす事だけはしたくない」
「やれやれ、久々に会った弟から頼まれるのが、こんな物騒な依頼とはね」
「断るか?」
「まさか。ただし、その分、事件が片付いたらきっちり働け。処理しきれないほどの仕事がある」
デュラテスはデスクの上に山積みとなった書類の山に視線を送る。
「…善処する…」
「よしっ!じゃあ俺は動くよ。久しぶりに暴れるか。あ、恋バナも聞かせてくれよ?俺にとっちゃアルの恋バナの方が重要案件だ」
デュラテスはすっと立ち上がると、ウインクを一つ投げた瞬間その身体は音もなく霞のように掻き消え、部屋には静寂だけが残った。
「まさか、無詠唱で転移したか……」
アルは、デュラテスを追う為再び転移魔法を唱えた。
謁見の間へフラリと現れたアルに、父王は豪快な笑みを向ける。
「金の無心なら無駄だぜ?それとも――絵描きは諦めて、ようやく帰ってくる気になったか?」
国王の声には、揶揄とも期待ともつかぬ色が含まれている。
だが、アルはひとつ息を吐き、静かに言葉を返す。
「当たらずとも遠からずってところか。利用できるものを最大限に利用しに来た」
「探索用の人形をいくつか用意してくれ。それと、俺の魔力と魔術の封印を解いてほしい。この魔力量じゃ動くに動けねぇんだよ」
国王は瞬時に表情を引き締める。
「おいおい、久々に帰ってきたかと思えば、穏やかじゃねぇこと言いやがる。他国から見りゃ、お前の魔力量は脅威以外の何物でもねぇんだよ」
一息置いて父王は続ける。
「俺たちの目の届かないところにいるお前を制御できねぇのは、都合が悪い。魔術の封印も解いたら、攻撃魔法も使えるようになっちまう。で――どういうこった?ワケありか?」
国王は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら「――女か?」とだけ言い放つとアルを見据えた。
アルは肩をすくめ、無言のまま思案する。
(いずれは分かることだ……親父を先に味方に引き込んだ方が得策か)
沈黙の末、アルは口を開く。
「親父、クスラウド王国のことは知っていると思うが――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日前、昼下がりの街中のカフェでリューネが魔術の攻撃を受けた。
騒がしいオープンテラスでの出来事は、表向きは単独犯による無差別な犯行として処理され、街の喧騒の中に次第に埋もれつつあった。だが、アルの胸には拭いきれない違和感が渦巻いていた。
(偶発的な犯行にしては、あまりにも動きが整いすぎている……)
リューネの居場所は秘匿されていた。それにも関わらず、まるで待ち伏せしていたかのように襲撃が起こった。場所も人目がある王都のオープンテラスのカフェ。
それはあまりにも騒がしすぎる舞台だった。
アルは探索用のドールに指示を出した。魔力を用いたこの使い魔は、人目を避けるように夜の街に紛れ込み、ひそかに人々の会話や動きを観察していく。
今回は、襲撃犯の残した痕跡や、不審な集まりの情報に絞って探索を命じた。
やがて、夜空が深い藍色に染まる頃、ドールが静かに帰還した。
舞い戻ったドールの額に手をかざし、アルは魔力の回路を通じて、集められた記憶を受け取る。
最初に映ったのは、街の北端にある古びた建物の裏路地。そこに集っていたのは三人の男たち。顔はフードで隠され、周囲を警戒しながら何かを囁き合っている。「失われた系譜」「誤情報」「処理」など、意味深な単語が浮かぶ。
(……この連中が、何らかの指示を出していた?)
直接手を下した実行犯ではない。だが、何らかの判断を下し、それを誰かに伝えたのは間違いない。指示役。しかし、その上にさらに黒幕がいる可能性も捨てきれない。
続いて浮かんだのは、街の外れ、旧街道沿いにある廃墟。
その二階の部屋に、長衣をまとった複数の魔導士たちが潜んでいた。
彼らの姿は、襲撃時に確認された魔力の痕跡と一致する。
(ここが、実行部隊の潜伏先か?)
ドールはその場での会話まで収集していた。彼らは「無駄に目立った」「奴はただの少年だった」という不満を交えながらも、「血の系譜を断つ」という、意味深な目的に言及していた。アルの眉がわずかに動く。
(『血の系譜』……何を指している?)
情報は揃った。密談を交わしていた指示役の男たち、そして直接手を下した魔導士たちの居所。
アルは即座に転移魔法の詠唱に入った。
詠唱が終わると同時に、空間が揺らぎ、アルは双子の兄、デュラテスの執務室の一角に姿を現した。
「……お前、相変わらず突然だな」
デュラテスは眉一つ動かさずに書類に目を落としたまま、ぼやくように言った。
だが、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。
「悪いな、急いでるんだ」
「知ってるさ。親父から、"うちの可愛い末っ子が想い人のために随分と奔走してるらしい"って聞いてる」
「余計な詮索はいい」
「可愛らしく照れちゃって。まあ座れよ、久しく帰ってきて、その態度か?」
デュラテスが手近な椅子を軽く蹴って寄越すが、座る時間すら惜しく話を続ける。
「数日前、知人が真昼間のカフェで襲撃された。表向きは無差別犯の犯行ってことになってるが……状況が不自然すぎた。偶発じゃない、明らかに待ち伏せてた動きだった」
「知人ねぇ…」
向けられた生暖かい笑みは無視し、言葉を続ける。
「ドールの記録確認してみてくれ」
ドールの額に手をかざし、デュラテスは魔力の回路を通じて、集められた記憶を受け取った。
――密談する三人の男たち、そして旧街道沿いの廃墟に潜伏する魔導士たちの姿――。
「廃墟に潜伏していたのは、実行犯の魔導士たち。もう一つ、街の裏路地で密談していた連中もいた。こっちは指示を出していた形跡があるが、襲撃には直接関わっていないと思われる」
数秒の沈黙の後、デュラテスはゆっくりと息を吐き、背もたれに体を預けた。
「……なるほど。で、俺に何をしろと?」
「廃墟にいた魔導士の捕縛を手伝って欲しい。俺一人で出向いて取り逃がす事だけはしたくない」
「やれやれ、久々に会った弟から頼まれるのが、こんな物騒な依頼とはね」
「断るか?」
「まさか。ただし、その分、事件が片付いたらきっちり働け。処理しきれないほどの仕事がある」
デュラテスはデスクの上に山積みとなった書類の山に視線を送る。
「…善処する…」
「よしっ!じゃあ俺は動くよ。久しぶりに暴れるか。あ、恋バナも聞かせてくれよ?俺にとっちゃアルの恋バナの方が重要案件だ」
デュラテスはすっと立ち上がると、ウインクを一つ投げた瞬間その身体は音もなく霞のように掻き消え、部屋には静寂だけが残った。
「まさか、無詠唱で転移したか……」
アルは、デュラテスを追う為再び転移魔法を唱えた。
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