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学園生活最後の日
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いつも通りの時間が流れる。
けれど、リューネにとっては――これがこの日常の、最後の日だった。
他の短期留学生は滞在延長が認められた中で、リューネだけが、たった一人、学園を離れることになる。
わずか3か月の学園生活。
けれど、勉強以外の学びが、あまりにも多かったように思える。
寮で暮らし、自分の力で目を覚まし、身の回りのことをすべて一人でこなす。
掃除も洗濯も初めての経験だったが、クラスメイトの手助けがあったから、どうにか乗り越えることができた。
どの程度成長できたか、正直リューネ自身には分からない。
それでも――確かに、かけがえのない日々だった。
「リューネ君、お疲れ様」
教室の扉のところから、マリールゥの声が届く。
全ての授業を終え、リューネは帰り支度をしていた。もうこの教室に戻ることはない。
荷物は今朝方すでにまとめ、クスラウドへ送る手配も済ませている。
「この教室とも、Bクラスの皆ともお別れだね……。三か月、すごく楽しかった」
教室を見渡すと、つい先ほどまでいたクラスメイトの姿が、なぜかどこにも見当たらない。
「あれ? みんなにお礼を言いたかったんだけど。もう寮に戻っちゃったのかな…」
「リューネ君、少し時間いい? ちょっと、ここに座って?」
そう言うや否や、マリールゥはリューネの肩をぐいっと押し、椅子に座らせた。
そのまま背後に回ると、手早く髪に触れはじめる。
「ちょっと髪を触らせてね?やっぱり思った通り。切れ毛も少なくて、とっても綺麗な髪。普段どんなお手入れしてるのかしら?」
器用に指を動かしながら、彼女は編み込みを施しているようだった。
「お手入れって言っても大したことはしてないよ。ジュウトが用意してくれた香油を、お風呂上がりに少しつけてるだけ」
「ジュウトさんって、あのルブテールズ祭の時に来てた、生真面目そうな人?」
その言葉に、リューネはくすっと笑みをこぼす。
「そう。ジュウトはとても生真面目だけど、思慮深くて心優しい。……意外とユーモアもあるんだよ」
「大切な人なのね。――よし、できた! それじゃ、行くよ、リューネ君!」
「えっ?」
マリールゥが突然リューネの手を取り、走り出す。
あわや椅子から転げ落ちそうになるが、彼女の手に引かれると、体がふわっと軽くなる。
どうやら何か魔法を使ったらしい。
訳も分からぬまま、リューネはその手に導かれる。
「今日は無礼講だよー!」
学園の廊下を、マリールゥと手を繋いで全速力で駆け抜ける。
風を切りながら走るうち、リューネも次第に楽しくなり、息を弾ませながら笑っていた。
「はぁ、はぁ、リューネくん……最後にどうしても、ちょっとだけ悪いこと、一緒にしてみたかったんだ」
悪戯っぽく笑うその顔は、いつもの大人びた雰囲気とは違い、年相応の少女そのものだった。
「ふふっ、マリーさんったら……」
リューネも自然と笑みを浮かべる。
「さ、フィナーレはこれからだよ! Bクラスの皆、カモン!」
たどり着いた先――そこは魔導場。
そこに待っていたのは、Bクラスの仲間たち全員だった。
リューネの頭には花冠が載せられ、手にはアネモネのブーケが渡される。
目の前には真っ直ぐな紅の絨毯。
その先には、凛と立つアルの姿。
「これ……は……?」
魔導科とBクラスの生徒たちが一斉に詠唱を始めると、空には二重の虹が現れ、花びらと煌めく粒が舞い落ちる。
荘厳な旋律が流れ、魔導場の壁面にクリスタルが出現し、降り注ぐ花びらは次第に雪の結晶へと姿を変えていった。
「リューネ君、結婚式は挙げないって言っていたでしょう? でも、何か私たちにできないかなってずっと考えてたの。魔導科の仲間にも協力してもらって……魔力だけで式場を再現してみたの。どう? 結構すごいでしょ!」
「マリーさん……みんな……」
「ほら、アルステルス様が待ちきれなくなっちゃう。早く行ってあげて?」
皆に背中を押され、リューネは一歩ずつ、アルへと歩みを進める。
不安だった留学生活。
でも今、振り返れば――毎日が充実し、楽しくて、幸せだった。
たった三か月過ごしただけの自分のために、こんなにも時間と想いを注いでくれた皆に、胸がいっぱいになる。
アルの元にたどり着く頃には、リューネの瞳から涙があふれていた。
「あ……る……」
「なんだよ、涙でぐしょぐしょじゃねぇか」
アルは笑いながら、リューネの目元をそっと拭う。
「いい友達持ったな」
そして、溢れそうになった涙を唇でそっと受け止める。
「コホン、疑似の式場につき、式も簡易的ではありますが……僭越ながら、私マリールゥが進行を務めさせていただきます!では、アルステルス様、誓いの言葉をどうぞ!」
「予告なしで突然連れてこられてるんだぞ。用意なんかしてねぇっての」
「そこをなんとか!」
クラスメイトの期待に満ちた視線が、容赦なく突き刺さる。
「……仕方ねぇな」
アルはリューネの左手を取り、その薬指に静かに口づけた。
「リューネ。どんな困難が待っていようと、お前を守り、慈しみ、命の果てるその時まで、愛し抜くと誓う。――どうか、俺と同じ想いで、生涯を共にしてほしい」
「アル……」
まっすぐな言葉に胸を打たれ、リューネは何も言えず、ただその瞳を見つめる。
「じゃあ、誓いのキスだな」
そう言うや否や、アルはリューネの唇を優しく奪った。
クラスメイトたちの歓声が魔導場に響く。
ところが魔力の消耗と共に、幻想の式場は少しずつ霞んでいく。
「お前ら、もっと修行に励めよ」
と笑いながら、アルが詠唱を唱えると――
魔導場は再び光に包まれ、今度は一面に蒼いアネモネの花が咲き誇った。
「リューネ、名残は尽きないだろうが、皆と気が済むまで別れを惜しんでこい。俺は外で待ってる」
瞼にそっとキスを落とし、アルは転移して姿を消した。
その後、リューネはクラスメイト一人ひとりに言葉を交わし、ときにはハグを交わして、別れを惜しんだ。
最後にはきちんとブーケトスも行い――もちろん、それを見事にキャッチしたのは、空気を読まずに飛び出したゴリ君。
女子たちから盛大なブーイングを浴びながら、リューネの学園生活と疑似結婚式は、あたたかな笑いの中、幕を閉じたのだった。
けれど、リューネにとっては――これがこの日常の、最後の日だった。
他の短期留学生は滞在延長が認められた中で、リューネだけが、たった一人、学園を離れることになる。
わずか3か月の学園生活。
けれど、勉強以外の学びが、あまりにも多かったように思える。
寮で暮らし、自分の力で目を覚まし、身の回りのことをすべて一人でこなす。
掃除も洗濯も初めての経験だったが、クラスメイトの手助けがあったから、どうにか乗り越えることができた。
どの程度成長できたか、正直リューネ自身には分からない。
それでも――確かに、かけがえのない日々だった。
「リューネ君、お疲れ様」
教室の扉のところから、マリールゥの声が届く。
全ての授業を終え、リューネは帰り支度をしていた。もうこの教室に戻ることはない。
荷物は今朝方すでにまとめ、クスラウドへ送る手配も済ませている。
「この教室とも、Bクラスの皆ともお別れだね……。三か月、すごく楽しかった」
教室を見渡すと、つい先ほどまでいたクラスメイトの姿が、なぜかどこにも見当たらない。
「あれ? みんなにお礼を言いたかったんだけど。もう寮に戻っちゃったのかな…」
「リューネ君、少し時間いい? ちょっと、ここに座って?」
そう言うや否や、マリールゥはリューネの肩をぐいっと押し、椅子に座らせた。
そのまま背後に回ると、手早く髪に触れはじめる。
「ちょっと髪を触らせてね?やっぱり思った通り。切れ毛も少なくて、とっても綺麗な髪。普段どんなお手入れしてるのかしら?」
器用に指を動かしながら、彼女は編み込みを施しているようだった。
「お手入れって言っても大したことはしてないよ。ジュウトが用意してくれた香油を、お風呂上がりに少しつけてるだけ」
「ジュウトさんって、あのルブテールズ祭の時に来てた、生真面目そうな人?」
その言葉に、リューネはくすっと笑みをこぼす。
「そう。ジュウトはとても生真面目だけど、思慮深くて心優しい。……意外とユーモアもあるんだよ」
「大切な人なのね。――よし、できた! それじゃ、行くよ、リューネ君!」
「えっ?」
マリールゥが突然リューネの手を取り、走り出す。
あわや椅子から転げ落ちそうになるが、彼女の手に引かれると、体がふわっと軽くなる。
どうやら何か魔法を使ったらしい。
訳も分からぬまま、リューネはその手に導かれる。
「今日は無礼講だよー!」
学園の廊下を、マリールゥと手を繋いで全速力で駆け抜ける。
風を切りながら走るうち、リューネも次第に楽しくなり、息を弾ませながら笑っていた。
「はぁ、はぁ、リューネくん……最後にどうしても、ちょっとだけ悪いこと、一緒にしてみたかったんだ」
悪戯っぽく笑うその顔は、いつもの大人びた雰囲気とは違い、年相応の少女そのものだった。
「ふふっ、マリーさんったら……」
リューネも自然と笑みを浮かべる。
「さ、フィナーレはこれからだよ! Bクラスの皆、カモン!」
たどり着いた先――そこは魔導場。
そこに待っていたのは、Bクラスの仲間たち全員だった。
リューネの頭には花冠が載せられ、手にはアネモネのブーケが渡される。
目の前には真っ直ぐな紅の絨毯。
その先には、凛と立つアルの姿。
「これ……は……?」
魔導科とBクラスの生徒たちが一斉に詠唱を始めると、空には二重の虹が現れ、花びらと煌めく粒が舞い落ちる。
荘厳な旋律が流れ、魔導場の壁面にクリスタルが出現し、降り注ぐ花びらは次第に雪の結晶へと姿を変えていった。
「リューネ君、結婚式は挙げないって言っていたでしょう? でも、何か私たちにできないかなってずっと考えてたの。魔導科の仲間にも協力してもらって……魔力だけで式場を再現してみたの。どう? 結構すごいでしょ!」
「マリーさん……みんな……」
「ほら、アルステルス様が待ちきれなくなっちゃう。早く行ってあげて?」
皆に背中を押され、リューネは一歩ずつ、アルへと歩みを進める。
不安だった留学生活。
でも今、振り返れば――毎日が充実し、楽しくて、幸せだった。
たった三か月過ごしただけの自分のために、こんなにも時間と想いを注いでくれた皆に、胸がいっぱいになる。
アルの元にたどり着く頃には、リューネの瞳から涙があふれていた。
「あ……る……」
「なんだよ、涙でぐしょぐしょじゃねぇか」
アルは笑いながら、リューネの目元をそっと拭う。
「いい友達持ったな」
そして、溢れそうになった涙を唇でそっと受け止める。
「コホン、疑似の式場につき、式も簡易的ではありますが……僭越ながら、私マリールゥが進行を務めさせていただきます!では、アルステルス様、誓いの言葉をどうぞ!」
「予告なしで突然連れてこられてるんだぞ。用意なんかしてねぇっての」
「そこをなんとか!」
クラスメイトの期待に満ちた視線が、容赦なく突き刺さる。
「……仕方ねぇな」
アルはリューネの左手を取り、その薬指に静かに口づけた。
「リューネ。どんな困難が待っていようと、お前を守り、慈しみ、命の果てるその時まで、愛し抜くと誓う。――どうか、俺と同じ想いで、生涯を共にしてほしい」
「アル……」
まっすぐな言葉に胸を打たれ、リューネは何も言えず、ただその瞳を見つめる。
「じゃあ、誓いのキスだな」
そう言うや否や、アルはリューネの唇を優しく奪った。
クラスメイトたちの歓声が魔導場に響く。
ところが魔力の消耗と共に、幻想の式場は少しずつ霞んでいく。
「お前ら、もっと修行に励めよ」
と笑いながら、アルが詠唱を唱えると――
魔導場は再び光に包まれ、今度は一面に蒼いアネモネの花が咲き誇った。
「リューネ、名残は尽きないだろうが、皆と気が済むまで別れを惜しんでこい。俺は外で待ってる」
瞼にそっとキスを落とし、アルは転移して姿を消した。
その後、リューネはクラスメイト一人ひとりに言葉を交わし、ときにはハグを交わして、別れを惜しんだ。
最後にはきちんとブーケトスも行い――もちろん、それを見事にキャッチしたのは、空気を読まずに飛び出したゴリ君。
女子たちから盛大なブーイングを浴びながら、リューネの学園生活と疑似結婚式は、あたたかな笑いの中、幕を閉じたのだった。
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