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一話 求婚
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「アリアンヌ=ライオット! 君との婚約、ここに破棄させて貰う!」
____ついに来たか。
王宮で開かれたパーティー。その中心で、一人の青年が声を大にしてそう叫ぶ。青年の名はヨハネ=レイグレッド。レイグレッド王国の王太子だ。彼の言葉に、賑やかだった王宮は途端に水を打ったように静まり返った。
一方、その言葉を突きつけられたヨハネの婚約者の公爵令嬢__アリアンヌも、息を呑んで背中を震わせた。
周囲の視線が突き刺さるのを感じられる。そうでなくとも、王宮で開かれているパーティーだ。公爵家の顔に泥を塗らない為にも、醜態を晒しては為らないので、慎重に言葉を選ぶ。
「その......失礼ですが、理由をお聞かせ願えますか?」
震えそうな声を必死に抑え、平静を保ちながら、アリアンヌは対峙する元婚約者の顔を見つめた。
7歳で婚約したときから、ずっと変わらず、10年間見続けた顔。違うところと言えば、彼に身を寄せているのがアリアンヌではなく、別の華奢な少女であることくらいだろうか____
「こう......なんと言い表すのだろうか、そうだな......真実の愛を見つけた、とでも言うべきだろうか?半年前、彼女に、レミリアに出会ったときから、彼女のことしか考えられなくなったんだ!」
そう言って、ヨハネは、彼に身を寄せている少女__レミリアの唇にそっと口付けをする。そのまま、熱っぽい表情のまま、二人は見詰めあい、それをアリアンヌは澄ました顔で、内心に沸き上がる怒りを抑えながらじっと見ていた。
__何も知らなかった、と言えば嘘になる。
ヨハネに浮気っぽいところがあるのは、アリアンヌはよくわかっていたし、今だって彼が侯爵令嬢のレミリアに熱をあげていることを知っていた。アリアンヌはいつ捨てられてしまうのだろうか、と常に内心そわそわしていたものの、もしかしたら本当は、自分だけを愛してくれているのではないだろうか、と思っていた節も0とは言いがたい。
そうしたことがあって、事実上黙認してしまっていたことが裏目に出てしまい、結果的に別の女にヨハネをとられてしまった。
____私を、どうするつもりだろうか。アリアンヌは思考を極限まで働かせる。大衆の前で自分との婚約破棄を宣言したのだ。ここからの展開はかなり絞られる。嘘の罪を並び立てて国外追放にでもするか、爵位を取り上げられ娼婦にでもされるか。
しかし、そんなアリアンヌの思考は、良い方向に、意外な人物によって打ち砕かれる。
「兄様。アリアンヌ嬢との婚約を本当に取り下げるのですね?」
「む……? 居たのかお前。まあ良い。そういっているだろう。」
「であるなら、アリアンヌ嬢。昔の約束、忘れていませんよね? もし兄様と別れる事があれば、その時はこの私に、その身と心を捧げる、と。アリアンヌ嬢今、正式に、貴殿に婚約を申し込みたい。」
そう言って、少年____レイグレッド王国第二王子、ナイトレート=レイグレッドは光を反射して輝く翡翠色の瞳をアリアンヌに向けた。
静まり返っていた会場がざわめき始める。ナイトレートは第二王子で、王位継承権こそヨハネの次だが、あまり表に出たがらない性格と、病弱な体質が相まって、貴族はともかく大半の国民には存在すら知られていないような、居て居ないような王子だ。
そんな彼が突然、たった今婚約を破棄されたアリアンヌに婚約を申し込むと言ったのだ。周りの貴族たちは疎か、ヨハネまでもが目を見開いた。
だが刹那、ヨハネは大きな声をあげて笑い出した。
「はは、ははははははっ! そうだな、私に相応しい女性とは言えなかったが、彼女は悪くはない女性だ! 私は彼女のことをもう婚約者としては見れないが、可愛い妹のように思っている! かわいい弟と妹には幸せになってもらいたいものだろう? どうだい? アリアンヌ?」
____どうすべきだろうか?
アリアンヌは再び、思考を巡らせる。ナイトレートとの約束……には全く心当たりがないと言っても良いのだが、状況が状況だ。私を窮地から救う為の策なのかも知れない。
ヨハネからの肯定は予想外だったが、ヨハネの驚いた顔を見るに、元々二人で取り決めていたことというわけではないのだろう。であるなら、これはチャンスだ。何度も浮気をした上に自分を捨てた男を、王太子の座から引きずり下ろすための。
しかし、こんなにあっさり決めてしまっても良いのだろうか。ナイトレートとはヨハネの婚約者として何度か会ったことはあるが、病弱でいつ亡くなるかもわからない。
そこまで考えアリアンヌは漸く口を開いた。
「少し……考えさせてください。」
アリアンヌは澄ました顔を崩さない様にしながら、パーティー会場を後にした。
____ついに来たか。
王宮で開かれたパーティー。その中心で、一人の青年が声を大にしてそう叫ぶ。青年の名はヨハネ=レイグレッド。レイグレッド王国の王太子だ。彼の言葉に、賑やかだった王宮は途端に水を打ったように静まり返った。
一方、その言葉を突きつけられたヨハネの婚約者の公爵令嬢__アリアンヌも、息を呑んで背中を震わせた。
周囲の視線が突き刺さるのを感じられる。そうでなくとも、王宮で開かれているパーティーだ。公爵家の顔に泥を塗らない為にも、醜態を晒しては為らないので、慎重に言葉を選ぶ。
「その......失礼ですが、理由をお聞かせ願えますか?」
震えそうな声を必死に抑え、平静を保ちながら、アリアンヌは対峙する元婚約者の顔を見つめた。
7歳で婚約したときから、ずっと変わらず、10年間見続けた顔。違うところと言えば、彼に身を寄せているのがアリアンヌではなく、別の華奢な少女であることくらいだろうか____
「こう......なんと言い表すのだろうか、そうだな......真実の愛を見つけた、とでも言うべきだろうか?半年前、彼女に、レミリアに出会ったときから、彼女のことしか考えられなくなったんだ!」
そう言って、ヨハネは、彼に身を寄せている少女__レミリアの唇にそっと口付けをする。そのまま、熱っぽい表情のまま、二人は見詰めあい、それをアリアンヌは澄ました顔で、内心に沸き上がる怒りを抑えながらじっと見ていた。
__何も知らなかった、と言えば嘘になる。
ヨハネに浮気っぽいところがあるのは、アリアンヌはよくわかっていたし、今だって彼が侯爵令嬢のレミリアに熱をあげていることを知っていた。アリアンヌはいつ捨てられてしまうのだろうか、と常に内心そわそわしていたものの、もしかしたら本当は、自分だけを愛してくれているのではないだろうか、と思っていた節も0とは言いがたい。
そうしたことがあって、事実上黙認してしまっていたことが裏目に出てしまい、結果的に別の女にヨハネをとられてしまった。
____私を、どうするつもりだろうか。アリアンヌは思考を極限まで働かせる。大衆の前で自分との婚約破棄を宣言したのだ。ここからの展開はかなり絞られる。嘘の罪を並び立てて国外追放にでもするか、爵位を取り上げられ娼婦にでもされるか。
しかし、そんなアリアンヌの思考は、良い方向に、意外な人物によって打ち砕かれる。
「兄様。アリアンヌ嬢との婚約を本当に取り下げるのですね?」
「む……? 居たのかお前。まあ良い。そういっているだろう。」
「であるなら、アリアンヌ嬢。昔の約束、忘れていませんよね? もし兄様と別れる事があれば、その時はこの私に、その身と心を捧げる、と。アリアンヌ嬢今、正式に、貴殿に婚約を申し込みたい。」
そう言って、少年____レイグレッド王国第二王子、ナイトレート=レイグレッドは光を反射して輝く翡翠色の瞳をアリアンヌに向けた。
静まり返っていた会場がざわめき始める。ナイトレートは第二王子で、王位継承権こそヨハネの次だが、あまり表に出たがらない性格と、病弱な体質が相まって、貴族はともかく大半の国民には存在すら知られていないような、居て居ないような王子だ。
そんな彼が突然、たった今婚約を破棄されたアリアンヌに婚約を申し込むと言ったのだ。周りの貴族たちは疎か、ヨハネまでもが目を見開いた。
だが刹那、ヨハネは大きな声をあげて笑い出した。
「はは、ははははははっ! そうだな、私に相応しい女性とは言えなかったが、彼女は悪くはない女性だ! 私は彼女のことをもう婚約者としては見れないが、可愛い妹のように思っている! かわいい弟と妹には幸せになってもらいたいものだろう? どうだい? アリアンヌ?」
____どうすべきだろうか?
アリアンヌは再び、思考を巡らせる。ナイトレートとの約束……には全く心当たりがないと言っても良いのだが、状況が状況だ。私を窮地から救う為の策なのかも知れない。
ヨハネからの肯定は予想外だったが、ヨハネの驚いた顔を見るに、元々二人で取り決めていたことというわけではないのだろう。であるなら、これはチャンスだ。何度も浮気をした上に自分を捨てた男を、王太子の座から引きずり下ろすための。
しかし、こんなにあっさり決めてしまっても良いのだろうか。ナイトレートとはヨハネの婚約者として何度か会ったことはあるが、病弱でいつ亡くなるかもわからない。
そこまで考えアリアンヌは漸く口を開いた。
「少し……考えさせてください。」
アリアンヌは澄ました顔を崩さない様にしながら、パーティー会場を後にした。
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