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士官学校編
そして戦端は開かれる
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いつもの講義室にABC班が集められた。
14人いたメンバーも色々あって全員集めても9人、1個上の4年生は40人ほど、1個下でも26人。
ただでさえ少ない人数がますます少なくなった、と改めて感じる。
ルイス教官とヴィク教官とたしか、ブルーノとかいう教官が前に立つ。
ヴィク教官が苛立たしげにこれからの予定を私達に告げた。
「予想していたものもいるだろうが、戦況はあまりよくない。
中立であるはずのティセロスがアールクドットに呼応して兵を挙げた。
食料の購入で出し渋りをするなど怪しい動きは見せていたがここに来て挙兵するという暴挙に出た」
ヴィク教官は私達の反応を待たずに続ける。
「我々が相手をするのは商人が雇った烏合の衆である。
ククルゴを経由してティセロスへ向かい、この烏合の衆を制圧、一般兵と共に帰還せよ。
一般兵は昨日のうちにククルゴを経由せずにティセロスに向けて出立させた。
ルイスと共にこの後すぐに出るように」
軍属と言っても前の世界のように一糸乱れぬ行軍の訓練なんてものは私達にはなかったので
身体強化をしてルイス教官を先頭にして後ろをついていくだけになる。
お久しぶりですね、とフェルミンに挨拶をすると
「デウゴルガ要塞の方も聞いているより悪いらしい、早めにこっちを片付けてデウゴルガ要塞へ向かうぞ」
「勘弁してほしいですね」
「一騎当千が5人もいるのだ。 そなたらがいればそれなりに早く片付くと期待しているからな」
「ますます勘弁してほしいですね」
「吾輩も貴様も持つものだ、諦めるがいい」
常人の徒歩移動で3日半、私達が急ぎで4時間弱。
ククルゴという街へたどり着いた。
街のゲートから入り、戦況を聞くためにルイス教官が街の長の元へ向かった。
「この辺は食料を差し出しているので、特に破壊や連れ去りが発生したということはありませんね」
長、というからおじいさん的な人がでてくるのかと思ったら性格のきつそうな、お姉さんが出てきた。
「そうですか、では一晩ここに宿を取ることにします、情報提供ありがとうございます」
よそ行きの笑顔でルイス教官が礼を述べると、お姉さんの視線が私の後ろ、ドアの前にいた男に一瞬移った。
「今はどこも食料が足りなくなってしまって大変ですが、もうすぐ落ち着くという話ですから協力は惜しみませんよ」
「色々大変ですね」
ルイス教官が立ち上がり、ではこれで、と私達に退室を促した。
足早に街の長の元から立ち去り、身体強化を使った高速かつ優雅な動きで
「カオルだけついてこい、後は門の前で待機、手を出すんじゃないぞ」
「どうしたんです?」
「まずはパン屋だ、詳しくは街を出てからだ」
というルイス教官に着いて歩き、全員分の堅パンを買って入り口に向かった。
街の入口について目に入った光景は、この街の警備隊10人と2人の戦士と向かい合っている我が仲間たちの姿だった。
彼らに見つかる前にルイス教官のイリュージョンボディで認識阻害が掛けられた。
「警備隊には手を出すな、戦士は殺すな、だが無力化しろ、お前は左だ。 3、2、1、いけ!」
命令と号令がいっぺんにされ、慌てて向かって左の男に向かってヌリカベスティックを突き立てて気絶するのに十分な速度で打ち上げ、もう1人の戦士の顎を鮮やかな蹴りで撃ち抜いた所だったのでついでに打ち上げておいた。
「落ちてくるんで受け止めてください」
ルイス教官とお姫様抱っこで戦士を受け止めると、何が起こったかわかっていない警備隊に投げつけ転んでいる間に姿を表し、ルイス教官を先頭に逃げ出した。
街道から外れしばらく走った後に、フェルミンとニコラがルイス教官にどういうことかと聞くと、
「あれが、あの街の長ができる最大限の情報提供だった」
あの場にいたのは街の長ともう1人はアールクドットの監視で、不用意な発言をすると長の首が物理的に飛ぶのだそうだ。
あの目配せはアールクドットの監視に兵を呼ぶように伝えたもので、その際にこの街はもうアールクドットの占領下にある、と教えてくれた。
中立のはずの土地を占拠して早々に裏切られるというのは何をすればそんなことになるのか。
港町ティセロスからの中継地点の街が占拠されているということはティセロスも既に支配下に置かれアールクドットの代官かティセロスの中でアールクドットの息がかかった者が議会の長についていることだろう。
で、あればここから先の目的は変更になるはずだ。
「一般兵と合わせてティセロスに常駐するアールクドットの戦士と兵の排除、ティセロスの開放のため、偵察を行うこととする」
「じゃあ、見つかる前に兵の回収して下げないといけませんね」
「ニコラ、地図でいうとこの辺に向かっているはずだから一旦この辺まで下がらせてキャンプの用意をさせておいてくれ」
地図を広げてニコラを呼び、指示を出すとニコラは
「その様な斥候の真似はそこのC班の女にでもやらせればいいと思いますが」
「言いたいことはわかるが統率力のある者が行って言うことをきかせる必要があるが、フェルミンにやらせるわけにはいかないからなニコラが適任なんだ」
統率力のあるもの、と聞いていばるのが大好きなニコラは横目で私を見てニヤリと笑い、目にも留まらぬ速さで駆けていった。
「ルディ、お前は旅装に着替えてティセロスに入り、ルディは幻体を使ってティセロスの一般兵に紛れて、そうだな、カオルのあれ、あの耳障りなやつ」
「煩わしい虫の羽音」
「そう、それを聞いたらこっちに向かって石を投げて一般兵のだれかに当てたらティセロスの街に戻れ」
「戦わなくていいんですか?」
「ティセロスで着替えて戻ってきてくれればいい、無理そうならどこかの宿屋で待機しててくれ」
背の高い茂みの中で旅装に着替えたルディは街道に向かって分かれた。
ティセロス近くの一般兵との集合地点に向かって軽く走りながらイレーネが私の袖を引っ張って耳打ちした。
「ルディのあれ、どういうこと?」
「多分、このまま行っても戦闘にならないから、向こうに戦端を開かせるんだよ」
「だってやるのはルディでしょ?」
口の前に人差し指を立ててから
「だれだかわからない兵士が勝手に石を投げて、先制攻撃をした、そういうことだよ」
そう告げると、目を見開いて私に小声で抗議した。
「そんなの卑怯よ」
「じゃあ、食料の輸送を妨害するには卑怯じゃない?」
「卑怯ね」
「ファラスは戦争以外の戦いを知らないうちに仕掛けられて負けた。
たぶん、前に戦士があっちこっちに出てたのもその辺の動きに関係してたんだね、今更だけどさ」
「そんなのわかるわけないじゃない」
「そうだね、私達は現状維持したかったしね」
「そんな状況でも国と国はいきなり攻め込むことはできないから、ニコラだけ先に行かせてアールクドットから潜り込ませない様に警戒させるのさ、向こうもファラスを滅ぼしたいみたいだから」
「それでルディに先制攻撃をさせることにしたってこと?」
「そ。
食料がなくなって買ってこようにも邪魔される。
全員で飢えるくらいなら邪魔を取り除こう、でも悪者にはなりたくない」
「わがままだね」
「ルディが石を投げて魔力を探られる前に煩わしい虫の羽音で魔力をばらまいてルディの魔力を見つけられないようにしてルディを逃がす、
私達は先制攻撃を受けたといえば正当な理由を付けてアールクドットを排除するために行動できる」
「あたしには中隊長以上にはなれそうにないわ」
そう言って残念そうに笑った。
「部下がどれくらいいるかなんて関係ないよ、英雄は一人だからね」
「たしかにそうね!」
しばらく走り、背の高い草を踏み倒して外からあまり見えないような陣地を作った一般兵とニコラが待つ集合場所へたどり着いた。
「どうだ、我が統率力は」
ニコラが長く伸びた銀色の髪の毛をかきあげると一糸乱れぬ動きで一般兵が敬礼をした。
「さすがですね! 私じゃあ、こうはいきませんよ」
よいしょしてあげると嬉しそうにフェルミンの後ろにいたトミーに絡みに行って嫌な顔をされていた。
明るいうちに寝れるだけの高さの平たいテントを設営させ、上に草を積む。
カモフラージュの意味がなくなってしまうので光も火も使用できない。
しかたなく堅パンを噛みながら就寝する。
野営した朝は体がバッキバキになる痛みで目が覚めるが
踏み潰しただけの草の上にテントを置いただけなので草がクッションになって多少マシになった代わりに湿気がひどい。
むしろ背中が濡れているくらいだ。
私達以外はキビキビと動きあっという間にテントが片付けられ、ルイス教官の前にすばやく整列した。
「今日は恐らく戦闘になると思うが、こちらから手を出すことは許さん、命令違反をした者は即刻処分する」
ハードスキンの合唱魔法を使う、2人で600人にかけるのはその後に差し支える可能性があるのでイレーネの他にロペスも呼んでハードスキンをかけた。
魔法使い同士でかけるほど強くなくていいので消費も思ったより少なかった。
私はルイス教官の脇に立ち、
4つに分けた兵を横に長く展開させた。
イレーネやロペス達はそれぞれフェルミン達AB班のサブについて雑務と遊撃に回る。
リーダーが前に立ち、サブリーダーが兵の後ろに立ち、投石の動きがあった場合に対応できるようにする。
ティセロスにたどり着くと、ティセロス商人の私兵とアールクドット兵が展開していてククルゴから連絡はすでに行っていたようだ。
ティセロスとアールクドット兵の数を合わせてもこちらより少ないがなぜ籠城しないのか。
アールクドットはそれなりに練度と士気が高そうだが、ティセロスの私兵は明らかに士気が落ちていた。
「ファラスの騎士殿! 兵を率いて恫喝とかどういう了見ですかな!」
アールクドットの戦士が前に立って叫ぶ。
もう立場を隠そうともしていないのが不快だ。
見える範囲で戦士は6人、上位の戦士でなければ全員でなんとか対応できそうだ、と少し安心した。
「我々も食料を多く必要としましてな! 暇をしている兵を連れて買付に来た所だ!」
ルイス教官が叫んだ。
「こちらとしてもお分けしたいのは山々だが余っていないので心苦しいがお引取り願いたい!」
よく言う、と思ってやり取りを聞いていると、
小声でやれというので煩わしい虫の羽音を使ってティセロスの兵の頭の周りにまとわりつかせる。
一瞬耳元で羽音がして不快な表情を浮かべた瞬間に魔法を打ち切った。
だいぶ離れているはずのティセロス兵の後ろから石つぶてが飛んでくるのが見えた。
1個2個かと思ったらどうやら握れるだけ握って両手で投げたらしい。
大小合わせて10個前後の石が私の後ろの方でガチンゴチンと当たる音がする。
「なんてことだ! 先制攻撃を受けたぞ! かかれ!」
わざとらしくルイス教官が叫んだ。
頭使ってるのか使ってないのかわからない切られ方をした戦端はルイス教官の声によって開かれ、フェルミン達を先頭にしたはらぺこの兵達と
アールクドット兵を先頭にしたわがもの顔で街を跋扈するいけすかない奴らに協力しなきゃいけない兵と、やればやっただけ結果が帰ってくるアールクドット兵が入り乱れる戦場となった。
14人いたメンバーも色々あって全員集めても9人、1個上の4年生は40人ほど、1個下でも26人。
ただでさえ少ない人数がますます少なくなった、と改めて感じる。
ルイス教官とヴィク教官とたしか、ブルーノとかいう教官が前に立つ。
ヴィク教官が苛立たしげにこれからの予定を私達に告げた。
「予想していたものもいるだろうが、戦況はあまりよくない。
中立であるはずのティセロスがアールクドットに呼応して兵を挙げた。
食料の購入で出し渋りをするなど怪しい動きは見せていたがここに来て挙兵するという暴挙に出た」
ヴィク教官は私達の反応を待たずに続ける。
「我々が相手をするのは商人が雇った烏合の衆である。
ククルゴを経由してティセロスへ向かい、この烏合の衆を制圧、一般兵と共に帰還せよ。
一般兵は昨日のうちにククルゴを経由せずにティセロスに向けて出立させた。
ルイスと共にこの後すぐに出るように」
軍属と言っても前の世界のように一糸乱れぬ行軍の訓練なんてものは私達にはなかったので
身体強化をしてルイス教官を先頭にして後ろをついていくだけになる。
お久しぶりですね、とフェルミンに挨拶をすると
「デウゴルガ要塞の方も聞いているより悪いらしい、早めにこっちを片付けてデウゴルガ要塞へ向かうぞ」
「勘弁してほしいですね」
「一騎当千が5人もいるのだ。 そなたらがいればそれなりに早く片付くと期待しているからな」
「ますます勘弁してほしいですね」
「吾輩も貴様も持つものだ、諦めるがいい」
常人の徒歩移動で3日半、私達が急ぎで4時間弱。
ククルゴという街へたどり着いた。
街のゲートから入り、戦況を聞くためにルイス教官が街の長の元へ向かった。
「この辺は食料を差し出しているので、特に破壊や連れ去りが発生したということはありませんね」
長、というからおじいさん的な人がでてくるのかと思ったら性格のきつそうな、お姉さんが出てきた。
「そうですか、では一晩ここに宿を取ることにします、情報提供ありがとうございます」
よそ行きの笑顔でルイス教官が礼を述べると、お姉さんの視線が私の後ろ、ドアの前にいた男に一瞬移った。
「今はどこも食料が足りなくなってしまって大変ですが、もうすぐ落ち着くという話ですから協力は惜しみませんよ」
「色々大変ですね」
ルイス教官が立ち上がり、ではこれで、と私達に退室を促した。
足早に街の長の元から立ち去り、身体強化を使った高速かつ優雅な動きで
「カオルだけついてこい、後は門の前で待機、手を出すんじゃないぞ」
「どうしたんです?」
「まずはパン屋だ、詳しくは街を出てからだ」
というルイス教官に着いて歩き、全員分の堅パンを買って入り口に向かった。
街の入口について目に入った光景は、この街の警備隊10人と2人の戦士と向かい合っている我が仲間たちの姿だった。
彼らに見つかる前にルイス教官のイリュージョンボディで認識阻害が掛けられた。
「警備隊には手を出すな、戦士は殺すな、だが無力化しろ、お前は左だ。 3、2、1、いけ!」
命令と号令がいっぺんにされ、慌てて向かって左の男に向かってヌリカベスティックを突き立てて気絶するのに十分な速度で打ち上げ、もう1人の戦士の顎を鮮やかな蹴りで撃ち抜いた所だったのでついでに打ち上げておいた。
「落ちてくるんで受け止めてください」
ルイス教官とお姫様抱っこで戦士を受け止めると、何が起こったかわかっていない警備隊に投げつけ転んでいる間に姿を表し、ルイス教官を先頭に逃げ出した。
街道から外れしばらく走った後に、フェルミンとニコラがルイス教官にどういうことかと聞くと、
「あれが、あの街の長ができる最大限の情報提供だった」
あの場にいたのは街の長ともう1人はアールクドットの監視で、不用意な発言をすると長の首が物理的に飛ぶのだそうだ。
あの目配せはアールクドットの監視に兵を呼ぶように伝えたもので、その際にこの街はもうアールクドットの占領下にある、と教えてくれた。
中立のはずの土地を占拠して早々に裏切られるというのは何をすればそんなことになるのか。
港町ティセロスからの中継地点の街が占拠されているということはティセロスも既に支配下に置かれアールクドットの代官かティセロスの中でアールクドットの息がかかった者が議会の長についていることだろう。
で、あればここから先の目的は変更になるはずだ。
「一般兵と合わせてティセロスに常駐するアールクドットの戦士と兵の排除、ティセロスの開放のため、偵察を行うこととする」
「じゃあ、見つかる前に兵の回収して下げないといけませんね」
「ニコラ、地図でいうとこの辺に向かっているはずだから一旦この辺まで下がらせてキャンプの用意をさせておいてくれ」
地図を広げてニコラを呼び、指示を出すとニコラは
「その様な斥候の真似はそこのC班の女にでもやらせればいいと思いますが」
「言いたいことはわかるが統率力のある者が行って言うことをきかせる必要があるが、フェルミンにやらせるわけにはいかないからなニコラが適任なんだ」
統率力のあるもの、と聞いていばるのが大好きなニコラは横目で私を見てニヤリと笑い、目にも留まらぬ速さで駆けていった。
「ルディ、お前は旅装に着替えてティセロスに入り、ルディは幻体を使ってティセロスの一般兵に紛れて、そうだな、カオルのあれ、あの耳障りなやつ」
「煩わしい虫の羽音」
「そう、それを聞いたらこっちに向かって石を投げて一般兵のだれかに当てたらティセロスの街に戻れ」
「戦わなくていいんですか?」
「ティセロスで着替えて戻ってきてくれればいい、無理そうならどこかの宿屋で待機しててくれ」
背の高い茂みの中で旅装に着替えたルディは街道に向かって分かれた。
ティセロス近くの一般兵との集合地点に向かって軽く走りながらイレーネが私の袖を引っ張って耳打ちした。
「ルディのあれ、どういうこと?」
「多分、このまま行っても戦闘にならないから、向こうに戦端を開かせるんだよ」
「だってやるのはルディでしょ?」
口の前に人差し指を立ててから
「だれだかわからない兵士が勝手に石を投げて、先制攻撃をした、そういうことだよ」
そう告げると、目を見開いて私に小声で抗議した。
「そんなの卑怯よ」
「じゃあ、食料の輸送を妨害するには卑怯じゃない?」
「卑怯ね」
「ファラスは戦争以外の戦いを知らないうちに仕掛けられて負けた。
たぶん、前に戦士があっちこっちに出てたのもその辺の動きに関係してたんだね、今更だけどさ」
「そんなのわかるわけないじゃない」
「そうだね、私達は現状維持したかったしね」
「そんな状況でも国と国はいきなり攻め込むことはできないから、ニコラだけ先に行かせてアールクドットから潜り込ませない様に警戒させるのさ、向こうもファラスを滅ぼしたいみたいだから」
「それでルディに先制攻撃をさせることにしたってこと?」
「そ。
食料がなくなって買ってこようにも邪魔される。
全員で飢えるくらいなら邪魔を取り除こう、でも悪者にはなりたくない」
「わがままだね」
「ルディが石を投げて魔力を探られる前に煩わしい虫の羽音で魔力をばらまいてルディの魔力を見つけられないようにしてルディを逃がす、
私達は先制攻撃を受けたといえば正当な理由を付けてアールクドットを排除するために行動できる」
「あたしには中隊長以上にはなれそうにないわ」
そう言って残念そうに笑った。
「部下がどれくらいいるかなんて関係ないよ、英雄は一人だからね」
「たしかにそうね!」
しばらく走り、背の高い草を踏み倒して外からあまり見えないような陣地を作った一般兵とニコラが待つ集合場所へたどり着いた。
「どうだ、我が統率力は」
ニコラが長く伸びた銀色の髪の毛をかきあげると一糸乱れぬ動きで一般兵が敬礼をした。
「さすがですね! 私じゃあ、こうはいきませんよ」
よいしょしてあげると嬉しそうにフェルミンの後ろにいたトミーに絡みに行って嫌な顔をされていた。
明るいうちに寝れるだけの高さの平たいテントを設営させ、上に草を積む。
カモフラージュの意味がなくなってしまうので光も火も使用できない。
しかたなく堅パンを噛みながら就寝する。
野営した朝は体がバッキバキになる痛みで目が覚めるが
踏み潰しただけの草の上にテントを置いただけなので草がクッションになって多少マシになった代わりに湿気がひどい。
むしろ背中が濡れているくらいだ。
私達以外はキビキビと動きあっという間にテントが片付けられ、ルイス教官の前にすばやく整列した。
「今日は恐らく戦闘になると思うが、こちらから手を出すことは許さん、命令違反をした者は即刻処分する」
ハードスキンの合唱魔法を使う、2人で600人にかけるのはその後に差し支える可能性があるのでイレーネの他にロペスも呼んでハードスキンをかけた。
魔法使い同士でかけるほど強くなくていいので消費も思ったより少なかった。
私はルイス教官の脇に立ち、
4つに分けた兵を横に長く展開させた。
イレーネやロペス達はそれぞれフェルミン達AB班のサブについて雑務と遊撃に回る。
リーダーが前に立ち、サブリーダーが兵の後ろに立ち、投石の動きがあった場合に対応できるようにする。
ティセロスにたどり着くと、ティセロス商人の私兵とアールクドット兵が展開していてククルゴから連絡はすでに行っていたようだ。
ティセロスとアールクドット兵の数を合わせてもこちらより少ないがなぜ籠城しないのか。
アールクドットはそれなりに練度と士気が高そうだが、ティセロスの私兵は明らかに士気が落ちていた。
「ファラスの騎士殿! 兵を率いて恫喝とかどういう了見ですかな!」
アールクドットの戦士が前に立って叫ぶ。
もう立場を隠そうともしていないのが不快だ。
見える範囲で戦士は6人、上位の戦士でなければ全員でなんとか対応できそうだ、と少し安心した。
「我々も食料を多く必要としましてな! 暇をしている兵を連れて買付に来た所だ!」
ルイス教官が叫んだ。
「こちらとしてもお分けしたいのは山々だが余っていないので心苦しいがお引取り願いたい!」
よく言う、と思ってやり取りを聞いていると、
小声でやれというので煩わしい虫の羽音を使ってティセロスの兵の頭の周りにまとわりつかせる。
一瞬耳元で羽音がして不快な表情を浮かべた瞬間に魔法を打ち切った。
だいぶ離れているはずのティセロス兵の後ろから石つぶてが飛んでくるのが見えた。
1個2個かと思ったらどうやら握れるだけ握って両手で投げたらしい。
大小合わせて10個前後の石が私の後ろの方でガチンゴチンと当たる音がする。
「なんてことだ! 先制攻撃を受けたぞ! かかれ!」
わざとらしくルイス教官が叫んだ。
頭使ってるのか使ってないのかわからない切られ方をした戦端はルイス教官の声によって開かれ、フェルミン達を先頭にしたはらぺこの兵達と
アールクドット兵を先頭にしたわがもの顔で街を跋扈するいけすかない奴らに協力しなきゃいけない兵と、やればやっただけ結果が帰ってくるアールクドット兵が入り乱れる戦場となった。
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