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士官学校編
攻城戦と見知った顔
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ロペスの魔法障壁の陰で思いついたことを聞いてみる。
「やっぱり街を焼くのはだめかな」
「急に何を言い出すんだ」
「ほら、防衛側はいくらでも飲み薬飲めるからいつまでたっても終わらないと思ってさ」
「確かにそうだな、でも今回はないな、街焼いて飯をくれとは言いづらいだろう」
「じゃあ、門の破壊も手加減しなきゃいけないんじゃない?」
「普通は破壊されても影響が出ないよう門からまっすぐ道を引くから多少やりすぎても大丈夫だ」
「破壊と再生を司る大神よ」
「おい、まて、なんだその詠唱は」
「ルイス教官も前に言ってたでしょ、破壊神だけは信仰に関係なく力貸してくれるって」
「そうだったか? ならいい」
信仰なしで祝福できることを心配してくれた様だ。
「そんなにうかつじゃないさ、心配してくれてありがとう」
空に向かって手を掲げ、神へと祈った。
「破壊と再生を司る大神よ!
誉れ高い我が神よ!
宇宙の真理たる御身より出ずる力を我に貸し給え!
吠え猛る御身が力! 捧ぐるは我が魔力!
求むは我らが敵の破壊と再生の祝福を!」
「破壊の輝き!」
私の両手に生まれた破壊の力は魔力をぐんぐん吸って大きくなり、バスケットボールより大きな破壊の力の塊となり、完成したと思った瞬間、どこからか注ぎ込まれ初めて大きめのバランスボールの大きさに膨らんだ。
「おい、カオル」
「今ちょっとまって、大きすぎて扱いづらいし安定してくれないの」
ちょっと! 神様! もうすこし小さく……!
手の中で暴れる光球に魔力を込めてぐぐっと小さくしていく。
バリバリと音を立てながら砕けるロペスの魔法障壁の音を聞きながら降りかかる炎の矢が収まるのを待つ。
「もう平気なのか?」
「大分落ち着いたね、気は抜けないけど。そろそろ落ち着く?」
光球から目を離さずに答えた。
「もうそろそろだ」
「早く唱えすぎた」
光球の維持に疲れてきた。
遠くの方で笛の音が聞こえる。
「よし、いまだ!」
破壊の輝きには2つの使い方がある。
1つは火炎球の様に飛ばして着弾地点で破壊のエネルギーを開放する、もう1つは破壊のエネルギーを収束して光線とする使い方だ。
直接放り投げてもいいのだけど、初めて使う魔法なので、どれだけの破壊をばらまくかわからないことに心が決まらなかったので、途中で切り上げられる光線で使用することにした。
破壊の輝きを開放し、光の束が放たれた。
収束された破壊の力はまばゆい光を放ち術者の私の目を眩ませながら門扉に突き刺さり爆発音が轟いた。
「ロペス! 前が見えない!」
「アホな魔法を使うからだ! だが魔法障壁を貫いて扉を破壊した! もう止めていいぞ」
「止めかたがわからん! 無くなるまでとまらないんじゃないか」
「感心したらいいのか、がっかりしたらいいのか、わからんな」
そう言って笑うと
「ついでだ、街の防壁も破壊してしまおう! ゆっくり左を向け!」
「ほんとに!? いいの!?」
「まかせろ!」
ロペスの声に従ってゆっくり左を向くと少し向いた所でそこまでだ、と止められた。
何が起こっているかは私からは見えないが、爆発音と瓦礫の音が響きロペスの指示に従って破壊の輝きで薙ぎ払った。
しばらく破壊を撒き散らして段々と弱くなって来た所で、破壊の力の残滓を門があった辺りに投げつけた。
煌々と輝く光球が着弾すると爆発音と共に土煙が立ち、瓦礫がバラバラと落ちてきた。
土煙のせいでティセロスの街の様子はわからない。
制御するのは大変だったが、祝福を得て顕現した力なのであまり魔力は使わなかったからまだ動ける。
飛来する炎の矢に備えると、後ろから脳天に衝撃を受けた。
「おで!」
振り向くと呆れた顔をしたルイス教官がチョップのポーズで立っていた。
「なにするんですか」
「やりすぎだ、何を使った」
「すみません、初めて使ったもので。 破壊の輝きを使いました。」
「破壊の輝き? そんな威力は出ないはずだが」
「破壊と再生を司る大神に祈りを捧げていたので間違いはないと思います」
「小さな街ならまるごと1つ消えるな……」
「え? そんな威力でした?」
「ああ、制御できる様になるまで、よほどのことがない限り使わないほうがいいな」
せっかく覚えたのに使い物にならないなんて。
もうもうと立ち込める土煙の中から一人の太った中年男性が両手をあげて出てきた。
「ティセロス議会の議長ステファノと申します。 無事だったアールクドットの戦士たちは先ほどの爆発をみて撤退してしまいましたよ」
ルイス教官は兵たちと街に入り、瓦礫を片付けて道を作らせると代表のおじさんと何か話しをしながら街の奥の方へ行った。
取り残された私達は帰還の指示が出るまでやることがなくなってしまった。
「下敷きになってるアールクドットの戦士はいいの?」
ロペスに聞くと
「敵だからな、意識があるなら止めくらいは差したほうがいいかもな、まあ兵達がやるだろう」
装備の略奪とか色々配慮して上げる必要があるそうな。
ペドロが残って監督をする、というので任せてルディを迎えに行くために街に入る。
街の入口付近の建物は私の破壊の輝きが入り口近くの建物の外壁を壊して申し訳ないことになっていた。
戦闘地域になった辺りに住んでいた市民は避難していたおかげで怪我人がいないようでほっとした。
石畳が敷かれた石か土かわからない建物が建ち並ぶ大きな通りをヒソヒソされながら歩き、議会所の近くにある高級そうな宿泊施設に案内された。
カルロ・デ・ペゲティニアというティセロス議会員だという商人はフェルミン達にへりくだりながら、ティセロスでは12階建ての議会所に次ぐ我が9階建ての宿泊施設は、精鋭の魔法使いを呼んで大金と技術の粋を集めて建てたという自慢話を聞き流しながらルイス教官とこの街に潜んでいるルディがやってくるのを待った。
「どうです? ロビーのこの像! 旅と商いの守護をするイーマスをかたどった物です、イーマスの神官も一度は祈りを捧げに来ることを夢見るらしいですよ」
と自慢話の中にイーマスという神がいるという話を聞いた。
あ、アーテーナの他にもいるんだ、とよく考えればいるに決まっているだろうことに今更驚いてカルロに聞いた。
「今は神官様はいらっしゃいますか」
と、聞くと邪魔そうな目で私を見て、今日はいらっしゃらないようですな、というと再びフェルミンに建物と像の自慢をし始めた。
何度目かのここいらにはこれ以上の建物はありませんからね。という自慢とフェルミンのお父様によろしくという話を聞いていると噂を聞きつけてルディが来たのをイレーネが見つけた。
「あ、ルディだ、よく場所わかったね」
「すごい音してたけどカオルがまた何かしてたの?」
「聞く前から私がやったと決めつけるのはいかがなものかな」
「実際は?」
「私がやりました」
ルディはそうだよね、知ってた、と笑うと、ペドロを連れてどこかに行った。
ロペスはイレーネにトランプを出させると小声で話し始めた。
「破壊神の祝福だが、異常な威力になったのはやはりカオルが祝詞を唱えたことが原因だろう」
「あの光、そんなのだったんだ」
「カオルが祈ればとりあえず何か祝福してもらえるんじゃないか?」
「そんな罰当たりな、あ、それあがり」
「ぐっ……、とはいえファラスだと主神信仰が強すぎて試すのも面倒だな。 ニコラスさんの故郷は色々な神の分身の信仰が多いそうだから機会があったら試してみてくれ」
「船で何日もかかるような所なんて、行くことはなさそうだ」
「退役したら連れてってね」
「退役なんて何年先の話になるかわからんな」
そう言って笑っていると、話が終わったらしいルイス教官が議長ステファノと一緒にやってきた。
「兵たちは外壁の代わりに警備をさせ、お前らはここで1泊してから帰還する」
外でキャンプにならなくてよかった、という安心感からか、みんなで良い返事をして部屋に案内してもらった。
私とイレーネは2階、ロペス達は3階、ルイス教官は6階に部屋を割り当てられ、シャワーを浴びて夕食を取りながら明日の予定をルイス教官から聞いた。
食料輸送にニコラとルディ、ペドロが残り、フェルミン、トミー、アイラン、ロペス、イレーネ、私が先にファラスに戻ってからデウゴルガ要塞に向けて出発しろ、という話だった。
朝、せっかくなので飲み薬や素材を買おうと表に出ようとした時、裕福ではない感じの旅装の男とすれ違った。
男は受付に行くわけでもなく、イーマスの像の前で跪くと、静かに祈りを捧げ始めた。
本当に祈りに来るんだ、と驚き、彼の祈りが終わるのを待った。
祈り終えた男は受付に行くとどうやら心づけを渡して表に出た。
「すみません、イーマス神の神官様とお見受けしますが、お話を聞かせていただきたく、お時間よろしいでしょうか」
胡散臭いスカウトの様に男と並行して歩きながら話しかけた。
勉強中の身の学生だ、というと神官の男は嫌な顔ひとつせずにイーマス神について教えてくれた。
幸運と富を司り、旅人と商人の守護をするイーマス神は、神話では策略に長け、遠くの地にいる父神へ策を授けにだれよりも速く走り、その脚力は死の国へ忍びこんでも冥府の番人に捕まることなく戦に巻き込まれて死んだ妻を連れて帰るほど、というもので、あっちこっちの神が時間とともに同一視されたのだろうと推測した。
その後、一緒に朝食を取りながら祝福と祝詞を教えてもらい、本格的に学びたくなった時は海を越えて西に向かい、ツィオーニウスで学びなさい、とイーマス神を表す印を教えてくれた。
思ったより大量の情報を一気にもらったがなんとかメモに取ることができ、昨日の今日で新しい神様情報がもらえるとは思っていなかったので、大満足でカルロさんご自慢の宿泊施設へ戻り、出発の準備を終えた。
眠い目をこすりながらフラフラするイレーネを連れてロペス達と街の外に出た。
キャンプの見張りをしている兵に挨拶でもしようかとウロウロしていると、何か起こったようで兵たちがバタバタと走り回っていた。
「どうしました?」
と、近くにいた兵に話しかけると気をつけの姿勢を取り、報告してくれた。
「ファラスから伝令が来たためルイス様に報告を行うところです! 伝令係は傷を負っているため治療中です!」
不用意に歩き回って話しかけてしまったことを後悔しつつ
「では報告をお願いします。 私は伝令の傷を見ます」
そう言って報告に行かせると、リュックの中から3級飲み薬を取り出して治療中の伝令に近づいた。
「様子はどうですか」
「命に別状は有りませんが、体力の消費もあり見た目よりよくありません!」
「では、この飲み薬を飲ませてください」
布に包んだ飲み薬の小瓶を渡すと、ルイス教官の所へ戻った。
後ろからしっかりしろ! 閃光の聖女様の飲み薬だ! と聞こえたが聞かなかったことにした。
「よく来た、昨日と指示が変わる。
今来た伝令によると、デウゴルガ要塞が落ちたそうだ。アールクドットはデウゴルガを越えてファラスに向かっているらしい。 この伝令がその報告を持ってデウゴルガをでたのが5日前だ」
私達がファラスを出たときにはすでに落とされた後だったらしい。
「まだ持ちこたえているだろうから急ぎファラスに戻り全員で救援にあたる、以上」
結構な量をデウゴルガ要塞に送り出してしまっているから、長くは持たないんじゃないかと心配をしつつ急いで帰還する。
合間に休憩をはさみながらファラスにたどり着く頃には日が落ち、閉門の時間が過ぎてしまっていたので、少し離れた所で野営をして朝早く、開門と同時に状況の確認にゆくことにする。
朝になっても門は開けられず、出入りするハンターや商人達が門の前で困惑していた。
様子がおかしいので離れた所から何か動きがあるまで観察することにした。
堅パンを噛みながらアールクドットが来るまで閉鎖しつづけるのかな、と考えていると門が開き、中から兵士が出てきてテーブルのようなものを設置した。
「遅かったか」
ルイス教官が諦めたようにつぶやいた。
テーブルの上にアールクドットの戦士が恭しく首を並べていった。
中には見知った顔もあったがほとんどしらない顔ばかりだった。
イレーネがワモンの名前を呼び、フェルミンの父の顔もあったらしい。
エリーは無事だろうか。
「本日、聖王国ファラスはアールクドットの一部となった!」
ああ、やっぱりそうか。
「代官はダニエル・ヴォクレール第8階戦士が務める!」
やっと第3階戦士に勝てる程度の私達では第8階戦士なんて逆立ちしたって勝てないだろう。
あの人がダニエル・ヴォクレールだろうか、と深く見通す目で顔を見てみる。
読み上げている紙の陰になっていて見えない。
今後のファラスの話を読み終わり、紙を下ろすと見知った顔が現れ、私と目が合い、ニヤリと笑った。
そこには戦士の軍服を着た私がいた。
「不服あるものは直ちに第6階戦士、アイダショウのもとへ申し出るように!」
アイダショウと名乗った私は、隠れて見ていた私の目を見てそういった。
「やっぱり街を焼くのはだめかな」
「急に何を言い出すんだ」
「ほら、防衛側はいくらでも飲み薬飲めるからいつまでたっても終わらないと思ってさ」
「確かにそうだな、でも今回はないな、街焼いて飯をくれとは言いづらいだろう」
「じゃあ、門の破壊も手加減しなきゃいけないんじゃない?」
「普通は破壊されても影響が出ないよう門からまっすぐ道を引くから多少やりすぎても大丈夫だ」
「破壊と再生を司る大神よ」
「おい、まて、なんだその詠唱は」
「ルイス教官も前に言ってたでしょ、破壊神だけは信仰に関係なく力貸してくれるって」
「そうだったか? ならいい」
信仰なしで祝福できることを心配してくれた様だ。
「そんなにうかつじゃないさ、心配してくれてありがとう」
空に向かって手を掲げ、神へと祈った。
「破壊と再生を司る大神よ!
誉れ高い我が神よ!
宇宙の真理たる御身より出ずる力を我に貸し給え!
吠え猛る御身が力! 捧ぐるは我が魔力!
求むは我らが敵の破壊と再生の祝福を!」
「破壊の輝き!」
私の両手に生まれた破壊の力は魔力をぐんぐん吸って大きくなり、バスケットボールより大きな破壊の力の塊となり、完成したと思った瞬間、どこからか注ぎ込まれ初めて大きめのバランスボールの大きさに膨らんだ。
「おい、カオル」
「今ちょっとまって、大きすぎて扱いづらいし安定してくれないの」
ちょっと! 神様! もうすこし小さく……!
手の中で暴れる光球に魔力を込めてぐぐっと小さくしていく。
バリバリと音を立てながら砕けるロペスの魔法障壁の音を聞きながら降りかかる炎の矢が収まるのを待つ。
「もう平気なのか?」
「大分落ち着いたね、気は抜けないけど。そろそろ落ち着く?」
光球から目を離さずに答えた。
「もうそろそろだ」
「早く唱えすぎた」
光球の維持に疲れてきた。
遠くの方で笛の音が聞こえる。
「よし、いまだ!」
破壊の輝きには2つの使い方がある。
1つは火炎球の様に飛ばして着弾地点で破壊のエネルギーを開放する、もう1つは破壊のエネルギーを収束して光線とする使い方だ。
直接放り投げてもいいのだけど、初めて使う魔法なので、どれだけの破壊をばらまくかわからないことに心が決まらなかったので、途中で切り上げられる光線で使用することにした。
破壊の輝きを開放し、光の束が放たれた。
収束された破壊の力はまばゆい光を放ち術者の私の目を眩ませながら門扉に突き刺さり爆発音が轟いた。
「ロペス! 前が見えない!」
「アホな魔法を使うからだ! だが魔法障壁を貫いて扉を破壊した! もう止めていいぞ」
「止めかたがわからん! 無くなるまでとまらないんじゃないか」
「感心したらいいのか、がっかりしたらいいのか、わからんな」
そう言って笑うと
「ついでだ、街の防壁も破壊してしまおう! ゆっくり左を向け!」
「ほんとに!? いいの!?」
「まかせろ!」
ロペスの声に従ってゆっくり左を向くと少し向いた所でそこまでだ、と止められた。
何が起こっているかは私からは見えないが、爆発音と瓦礫の音が響きロペスの指示に従って破壊の輝きで薙ぎ払った。
しばらく破壊を撒き散らして段々と弱くなって来た所で、破壊の力の残滓を門があった辺りに投げつけた。
煌々と輝く光球が着弾すると爆発音と共に土煙が立ち、瓦礫がバラバラと落ちてきた。
土煙のせいでティセロスの街の様子はわからない。
制御するのは大変だったが、祝福を得て顕現した力なのであまり魔力は使わなかったからまだ動ける。
飛来する炎の矢に備えると、後ろから脳天に衝撃を受けた。
「おで!」
振り向くと呆れた顔をしたルイス教官がチョップのポーズで立っていた。
「なにするんですか」
「やりすぎだ、何を使った」
「すみません、初めて使ったもので。 破壊の輝きを使いました。」
「破壊の輝き? そんな威力は出ないはずだが」
「破壊と再生を司る大神に祈りを捧げていたので間違いはないと思います」
「小さな街ならまるごと1つ消えるな……」
「え? そんな威力でした?」
「ああ、制御できる様になるまで、よほどのことがない限り使わないほうがいいな」
せっかく覚えたのに使い物にならないなんて。
もうもうと立ち込める土煙の中から一人の太った中年男性が両手をあげて出てきた。
「ティセロス議会の議長ステファノと申します。 無事だったアールクドットの戦士たちは先ほどの爆発をみて撤退してしまいましたよ」
ルイス教官は兵たちと街に入り、瓦礫を片付けて道を作らせると代表のおじさんと何か話しをしながら街の奥の方へ行った。
取り残された私達は帰還の指示が出るまでやることがなくなってしまった。
「下敷きになってるアールクドットの戦士はいいの?」
ロペスに聞くと
「敵だからな、意識があるなら止めくらいは差したほうがいいかもな、まあ兵達がやるだろう」
装備の略奪とか色々配慮して上げる必要があるそうな。
ペドロが残って監督をする、というので任せてルディを迎えに行くために街に入る。
街の入口付近の建物は私の破壊の輝きが入り口近くの建物の外壁を壊して申し訳ないことになっていた。
戦闘地域になった辺りに住んでいた市民は避難していたおかげで怪我人がいないようでほっとした。
石畳が敷かれた石か土かわからない建物が建ち並ぶ大きな通りをヒソヒソされながら歩き、議会所の近くにある高級そうな宿泊施設に案内された。
カルロ・デ・ペゲティニアというティセロス議会員だという商人はフェルミン達にへりくだりながら、ティセロスでは12階建ての議会所に次ぐ我が9階建ての宿泊施設は、精鋭の魔法使いを呼んで大金と技術の粋を集めて建てたという自慢話を聞き流しながらルイス教官とこの街に潜んでいるルディがやってくるのを待った。
「どうです? ロビーのこの像! 旅と商いの守護をするイーマスをかたどった物です、イーマスの神官も一度は祈りを捧げに来ることを夢見るらしいですよ」
と自慢話の中にイーマスという神がいるという話を聞いた。
あ、アーテーナの他にもいるんだ、とよく考えればいるに決まっているだろうことに今更驚いてカルロに聞いた。
「今は神官様はいらっしゃいますか」
と、聞くと邪魔そうな目で私を見て、今日はいらっしゃらないようですな、というと再びフェルミンに建物と像の自慢をし始めた。
何度目かのここいらにはこれ以上の建物はありませんからね。という自慢とフェルミンのお父様によろしくという話を聞いていると噂を聞きつけてルディが来たのをイレーネが見つけた。
「あ、ルディだ、よく場所わかったね」
「すごい音してたけどカオルがまた何かしてたの?」
「聞く前から私がやったと決めつけるのはいかがなものかな」
「実際は?」
「私がやりました」
ルディはそうだよね、知ってた、と笑うと、ペドロを連れてどこかに行った。
ロペスはイレーネにトランプを出させると小声で話し始めた。
「破壊神の祝福だが、異常な威力になったのはやはりカオルが祝詞を唱えたことが原因だろう」
「あの光、そんなのだったんだ」
「カオルが祈ればとりあえず何か祝福してもらえるんじゃないか?」
「そんな罰当たりな、あ、それあがり」
「ぐっ……、とはいえファラスだと主神信仰が強すぎて試すのも面倒だな。 ニコラスさんの故郷は色々な神の分身の信仰が多いそうだから機会があったら試してみてくれ」
「船で何日もかかるような所なんて、行くことはなさそうだ」
「退役したら連れてってね」
「退役なんて何年先の話になるかわからんな」
そう言って笑っていると、話が終わったらしいルイス教官が議長ステファノと一緒にやってきた。
「兵たちは外壁の代わりに警備をさせ、お前らはここで1泊してから帰還する」
外でキャンプにならなくてよかった、という安心感からか、みんなで良い返事をして部屋に案内してもらった。
私とイレーネは2階、ロペス達は3階、ルイス教官は6階に部屋を割り当てられ、シャワーを浴びて夕食を取りながら明日の予定をルイス教官から聞いた。
食料輸送にニコラとルディ、ペドロが残り、フェルミン、トミー、アイラン、ロペス、イレーネ、私が先にファラスに戻ってからデウゴルガ要塞に向けて出発しろ、という話だった。
朝、せっかくなので飲み薬や素材を買おうと表に出ようとした時、裕福ではない感じの旅装の男とすれ違った。
男は受付に行くわけでもなく、イーマスの像の前で跪くと、静かに祈りを捧げ始めた。
本当に祈りに来るんだ、と驚き、彼の祈りが終わるのを待った。
祈り終えた男は受付に行くとどうやら心づけを渡して表に出た。
「すみません、イーマス神の神官様とお見受けしますが、お話を聞かせていただきたく、お時間よろしいでしょうか」
胡散臭いスカウトの様に男と並行して歩きながら話しかけた。
勉強中の身の学生だ、というと神官の男は嫌な顔ひとつせずにイーマス神について教えてくれた。
幸運と富を司り、旅人と商人の守護をするイーマス神は、神話では策略に長け、遠くの地にいる父神へ策を授けにだれよりも速く走り、その脚力は死の国へ忍びこんでも冥府の番人に捕まることなく戦に巻き込まれて死んだ妻を連れて帰るほど、というもので、あっちこっちの神が時間とともに同一視されたのだろうと推測した。
その後、一緒に朝食を取りながら祝福と祝詞を教えてもらい、本格的に学びたくなった時は海を越えて西に向かい、ツィオーニウスで学びなさい、とイーマス神を表す印を教えてくれた。
思ったより大量の情報を一気にもらったがなんとかメモに取ることができ、昨日の今日で新しい神様情報がもらえるとは思っていなかったので、大満足でカルロさんご自慢の宿泊施設へ戻り、出発の準備を終えた。
眠い目をこすりながらフラフラするイレーネを連れてロペス達と街の外に出た。
キャンプの見張りをしている兵に挨拶でもしようかとウロウロしていると、何か起こったようで兵たちがバタバタと走り回っていた。
「どうしました?」
と、近くにいた兵に話しかけると気をつけの姿勢を取り、報告してくれた。
「ファラスから伝令が来たためルイス様に報告を行うところです! 伝令係は傷を負っているため治療中です!」
不用意に歩き回って話しかけてしまったことを後悔しつつ
「では報告をお願いします。 私は伝令の傷を見ます」
そう言って報告に行かせると、リュックの中から3級飲み薬を取り出して治療中の伝令に近づいた。
「様子はどうですか」
「命に別状は有りませんが、体力の消費もあり見た目よりよくありません!」
「では、この飲み薬を飲ませてください」
布に包んだ飲み薬の小瓶を渡すと、ルイス教官の所へ戻った。
後ろからしっかりしろ! 閃光の聖女様の飲み薬だ! と聞こえたが聞かなかったことにした。
「よく来た、昨日と指示が変わる。
今来た伝令によると、デウゴルガ要塞が落ちたそうだ。アールクドットはデウゴルガを越えてファラスに向かっているらしい。 この伝令がその報告を持ってデウゴルガをでたのが5日前だ」
私達がファラスを出たときにはすでに落とされた後だったらしい。
「まだ持ちこたえているだろうから急ぎファラスに戻り全員で救援にあたる、以上」
結構な量をデウゴルガ要塞に送り出してしまっているから、長くは持たないんじゃないかと心配をしつつ急いで帰還する。
合間に休憩をはさみながらファラスにたどり着く頃には日が落ち、閉門の時間が過ぎてしまっていたので、少し離れた所で野営をして朝早く、開門と同時に状況の確認にゆくことにする。
朝になっても門は開けられず、出入りするハンターや商人達が門の前で困惑していた。
様子がおかしいので離れた所から何か動きがあるまで観察することにした。
堅パンを噛みながらアールクドットが来るまで閉鎖しつづけるのかな、と考えていると門が開き、中から兵士が出てきてテーブルのようなものを設置した。
「遅かったか」
ルイス教官が諦めたようにつぶやいた。
テーブルの上にアールクドットの戦士が恭しく首を並べていった。
中には見知った顔もあったがほとんどしらない顔ばかりだった。
イレーネがワモンの名前を呼び、フェルミンの父の顔もあったらしい。
エリーは無事だろうか。
「本日、聖王国ファラスはアールクドットの一部となった!」
ああ、やっぱりそうか。
「代官はダニエル・ヴォクレール第8階戦士が務める!」
やっと第3階戦士に勝てる程度の私達では第8階戦士なんて逆立ちしたって勝てないだろう。
あの人がダニエル・ヴォクレールだろうか、と深く見通す目で顔を見てみる。
読み上げている紙の陰になっていて見えない。
今後のファラスの話を読み終わり、紙を下ろすと見知った顔が現れ、私と目が合い、ニヤリと笑った。
そこには戦士の軍服を着た私がいた。
「不服あるものは直ちに第6階戦士、アイダショウのもとへ申し出るように!」
アイダショウと名乗った私は、隠れて見ていた私の目を見てそういった。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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