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「遊ぼう」
23時、小学生の頃からの親友から連絡が来た。久しぶりだ。彼からこのように遊びに誘うことは初めてで、なにかあったのだろうかと感じた。僕は二つ返事で「いいよ」と返した。どんな用事だろうか。車で家まで向かった。
「こんな時間にどうしたんだよ」
古びた親の車に無表情で乗り込んだ彼にまずそう言った。
「実はさ」
そこまで告げて下を向いたまま黙り込んだ。僕はその答えをただ待った。暫し待っても何も言わないので「どうしたんだよ」と催促をする。
「俺さ、オーバードーズしてるんだよ。薬を沢山飲んで気持ちよくなるやつ」
初めて聞いた単語に正直困惑した。つい黙り込んでしまった僕に彼は淡々と付け足して説明する。
「風邪薬とかさ、いっぱい飲むと気持ちよくなれる成分が入ってるんだよ。麻薬みたいなもん。人生がずっと辛くて3年前くらいからずっと飲んでた」
彼のことはなんでも知ってるつもりだった。好きな子にフラれた時、志望の大学に落ちた時、気持ちが沈んでいた彼をよく励ましていた。お互い秘密なんて無いくらいの仲だと思っていた為、少し悲しくなった。
「初めて知った」
適当に車を走らせながら答えた。突然過ぎて頭が少し混乱する。近くのコンビニの駐車場に止まった。
「何が辛いんだよ」
「理由か~……実は中学くらいからずっと死にたかったんだよな。俺障害者で人並みのこともできないし、生きててもなんか楽しくないんだよ」
「そんなことないだろ。志望校は落ちても結構いい大学行ってるじゃん」
「まあそうだけど……結局やりたいことも無くてさ。もう就活する時期じゃん?何がしたいとか分からないし、最近ずっとキツくて。お前とも遊んでなかっただろ?もうどうでもよくなったんだよ。」
「まだまだ人生これからだろ」
ろくな言葉が浮かばなかった。自分は死にたいと思ったことはあっても彼ほどの状態に陥ったことはない。身近な人がこうなった時にどうすればいいかも分からないのが辛い。
「これ、見てよ」
彼が右腕の袖をまくって手首の裏を見せる。そこには何本の傷の線ができていて、見るだけでも痛々しかった。
「キモいよな。自分でもこんなことやりたくないんだけど」
僕は驚愕のあまり固まってしまった。こんなにも苦しんでいたのか。心が窮屈になり手が震える。
「そんなことしちゃダメだろ。なんでもいいから相談してくれよ。俺達ずっと一緒だっただろ」
「ははは」
彼は乾いた笑いを浮かべて涙を流した。こちらもこうなる前に助けてあげられなかったことが苦しくて泣きそうになる。
「まあいいんだよ。今はそんな辛くない」
嘘だ。そんな訳が無い。しかしどうしたらいいか分からない。僕達はただ黙って俯いた。
「そうだ、小学校行こうぜ」
そう言って沈黙を破った。
「……行くか」
何故小学校なのか理由は不明だが、野暮なことは聞かずただ母校へと車を走らせた。途中、彼は取り繕うように明るくたわいも無い話をした。
「懐かしいな~!俺達ずっと2人で遊んでたよな」
車を出て門の前まで歩く。
「小学生の頃は漫才師になるとか言ってつまんないギャグ考えてたよな~」
「あったあった」
小学校を前にすると数日前のように思い出してきた。
「他の友達全然できなかったよな」
「まあ、俺達変な奴だったしな」
2人して笑い合う。僕達はどうにも周りに馴染めず小中高と放課後に遊ぶような友人はできなかった。きっと普通じゃないのだろう。しかしそれを辛いとも思ったことは無かった。彼がいたからだ。これからも、ずっと、彼がいれば楽しいはずだ。
「お前は不動産会社に就職するんだっけ」
「まあ、そのつもりだよ」
「いいな、目標があって」
「お前もいつかできるよ」
「そうかな」
高校時代までずっと一緒に居たからわかる、辛い時の笑い方だ。
「ーー死ぬなよ」
なんとなく呟くようにして言った。腐れ縁で小っ恥ずかしいが、心配でつい発してしまった。
「ははは」
彼は乾いた笑いをするだけだった。
それから夜も遅いので彼を送って帰宅した。「また遊ぼうな」そう言って彼は手を振った。
次の日、彼が自室で首を吊って自殺したことを知った。親が発見した時にはもう亡くなっていた。遺書は無かったらしい。
どうして、どうしてオーバードーズをする前、自傷行為をする前、僕に相談してくれなかった?僕達は親友のはずだ。どんな悩み事も2人で相談しあった。親友だと思っていたのは僕だけか?なんで死んだんだよ。なあ、なんでだよ
23時、小学生の頃からの親友から連絡が来た。久しぶりだ。彼からこのように遊びに誘うことは初めてで、なにかあったのだろうかと感じた。僕は二つ返事で「いいよ」と返した。どんな用事だろうか。車で家まで向かった。
「こんな時間にどうしたんだよ」
古びた親の車に無表情で乗り込んだ彼にまずそう言った。
「実はさ」
そこまで告げて下を向いたまま黙り込んだ。僕はその答えをただ待った。暫し待っても何も言わないので「どうしたんだよ」と催促をする。
「俺さ、オーバードーズしてるんだよ。薬を沢山飲んで気持ちよくなるやつ」
初めて聞いた単語に正直困惑した。つい黙り込んでしまった僕に彼は淡々と付け足して説明する。
「風邪薬とかさ、いっぱい飲むと気持ちよくなれる成分が入ってるんだよ。麻薬みたいなもん。人生がずっと辛くて3年前くらいからずっと飲んでた」
彼のことはなんでも知ってるつもりだった。好きな子にフラれた時、志望の大学に落ちた時、気持ちが沈んでいた彼をよく励ましていた。お互い秘密なんて無いくらいの仲だと思っていた為、少し悲しくなった。
「初めて知った」
適当に車を走らせながら答えた。突然過ぎて頭が少し混乱する。近くのコンビニの駐車場に止まった。
「何が辛いんだよ」
「理由か~……実は中学くらいからずっと死にたかったんだよな。俺障害者で人並みのこともできないし、生きててもなんか楽しくないんだよ」
「そんなことないだろ。志望校は落ちても結構いい大学行ってるじゃん」
「まあそうだけど……結局やりたいことも無くてさ。もう就活する時期じゃん?何がしたいとか分からないし、最近ずっとキツくて。お前とも遊んでなかっただろ?もうどうでもよくなったんだよ。」
「まだまだ人生これからだろ」
ろくな言葉が浮かばなかった。自分は死にたいと思ったことはあっても彼ほどの状態に陥ったことはない。身近な人がこうなった時にどうすればいいかも分からないのが辛い。
「これ、見てよ」
彼が右腕の袖をまくって手首の裏を見せる。そこには何本の傷の線ができていて、見るだけでも痛々しかった。
「キモいよな。自分でもこんなことやりたくないんだけど」
僕は驚愕のあまり固まってしまった。こんなにも苦しんでいたのか。心が窮屈になり手が震える。
「そんなことしちゃダメだろ。なんでもいいから相談してくれよ。俺達ずっと一緒だっただろ」
「ははは」
彼は乾いた笑いを浮かべて涙を流した。こちらもこうなる前に助けてあげられなかったことが苦しくて泣きそうになる。
「まあいいんだよ。今はそんな辛くない」
嘘だ。そんな訳が無い。しかしどうしたらいいか分からない。僕達はただ黙って俯いた。
「そうだ、小学校行こうぜ」
そう言って沈黙を破った。
「……行くか」
何故小学校なのか理由は不明だが、野暮なことは聞かずただ母校へと車を走らせた。途中、彼は取り繕うように明るくたわいも無い話をした。
「懐かしいな~!俺達ずっと2人で遊んでたよな」
車を出て門の前まで歩く。
「小学生の頃は漫才師になるとか言ってつまんないギャグ考えてたよな~」
「あったあった」
小学校を前にすると数日前のように思い出してきた。
「他の友達全然できなかったよな」
「まあ、俺達変な奴だったしな」
2人して笑い合う。僕達はどうにも周りに馴染めず小中高と放課後に遊ぶような友人はできなかった。きっと普通じゃないのだろう。しかしそれを辛いとも思ったことは無かった。彼がいたからだ。これからも、ずっと、彼がいれば楽しいはずだ。
「お前は不動産会社に就職するんだっけ」
「まあ、そのつもりだよ」
「いいな、目標があって」
「お前もいつかできるよ」
「そうかな」
高校時代までずっと一緒に居たからわかる、辛い時の笑い方だ。
「ーー死ぬなよ」
なんとなく呟くようにして言った。腐れ縁で小っ恥ずかしいが、心配でつい発してしまった。
「ははは」
彼は乾いた笑いをするだけだった。
それから夜も遅いので彼を送って帰宅した。「また遊ぼうな」そう言って彼は手を振った。
次の日、彼が自室で首を吊って自殺したことを知った。親が発見した時にはもう亡くなっていた。遺書は無かったらしい。
どうして、どうしてオーバードーズをする前、自傷行為をする前、僕に相談してくれなかった?僕達は親友のはずだ。どんな悩み事も2人で相談しあった。親友だと思っていたのは僕だけか?なんで死んだんだよ。なあ、なんでだよ
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