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序章
序章
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春の陽気に包まれた街は日常と言う名のぬるま湯にどっぷりと浸かっていた。
しかし、この世界の日常はわたくし守矢蒼太には熱湯に感じられるのだ。
ガタンガタン
っと鉄の箱に揺られながら四十分が経過した。
進行方向に対して右手側のドアが開き、癖のある声が駅名を告げる。
『光国高校前、光国高校前です』
見れば分かる。
平地に雨避けだけ建てたお粗末な駅だ。雨避けの外にベンチを配置してる時点でどうかと思う。しかも、何の塗装も無い防御力0の木製だ。属性耐性は、オールマイナス2と言ったところだろう。
電車を降りたのは俺一人だった。
電車に乗っていたのも俺一人だった。
最近の高校生は電車なんて乗らなくても遠くから登校してくる。そんなのはこの世界では当たり前だ。
改札へ近づくと賑やかな声が聞こえてきた。
光国高校の生徒達だ。どうやってここまで来たかと言うと移動魔法を使ったのだ。
各駅に魔法陣が配置されておりその上に立てばあっという間に行きたい駅へ行けてしまうのだ。
電車なんていらねぇと思うかもしれないが移動目的と言うよりも観光目的で使用されることがほとんどだ。
そのお陰で俺は助かっている。運賃が高いので懐は冷えている。
つまり、この世界の日常は熱湯に感じられ、電車賃は俺の懐を凍てつかせる。
外は熱湯、中は氷結なーんだ?
俺だ。
俺も一回だけ魔法陣で旅行に行った事がある。
十一年前まだ五歳だった俺は、父さんと母さんに連れられて最寄り駅に行った。
親子三人で手を繋いで魔法陣の上に立ち目的地へ飛んだ。
俺はてっきり、目の前が湖で自然豊かな観光地へあっと言う間に移動したと思った。
っが……実際に移動したのは父さんと母さんと俺の服と靴だったようだ。
全裸で立ち尽くす俺に駅員さんはただただぽかんっとしていたのをよく覚えている。これを人々はトラウマと呼ぶ。
訂正しよう。俺も一回だけ魔法陣の上に立ち尽くしたことがある。
以降このトラウマのお陰で、魔法陣を使ったことはない。
過去のトラウマを思い出している間に学校へとやって来た。
光国高校前駅といっても降りてから五分ほど歩く。そこに電車の四十分と家から駅までの十五分。計一時間も無駄な時間を過ごす。
下駄箱に魔法陣があればいいのにね、とか言ってる奴を見ると腹が立ってしょうがない。
お前らどれだけ恵まれてるか、とわたくし守矢創太は心の拳を握ることが日常茶飯事なのです。
皮肉にも特技は魔法陣を描くことだ。
円周率を百桁言える人間と同レベルとでも言っておこう。
知っていたとしても使えない。
要するにそう言うことだ。周りの人から誉められて終了。正直ちやほやされるだけでも嬉しいから余計に空回りする。
いつの間にかステージを昇りすぎたようで自分で新しい魔法陣を作ったり、定規やコンパス、分度器を使わずとも描けるようになっていた。
しかも、あっという間に。
円周率に換算すると10万桁言えるレベルだ。多分。
一般人なんて、3.1415……何だっけ? ってレベルだろ。
たった5桁かゴミめ。
俺に描かれた魔法陣は効果を使用せずにその生涯を終える。
可哀想な俺から作られた魔法陣も遺伝なのかは分からないが可哀想だ。
と、頭の中で独り言を呟いているうちに教室へ着いた。
守矢のクラスは少し特殊な作りだ。教室の中まで廊下が続いているクラスなのだ。
その分他クラスよりも広く解放感溢れる教室だ。
守矢の席は窓側最前列。一番左の一番前だ。
授業中にスマホをいじるのも一苦労だ。何度没収されたことか……スマホ没収期間中の俺を人々は原始回帰と呼ぶようだ。誰が原始人だよ。
聞くところによると右利きの教師は右側の前より席が死角になるらしい。やはりこの世界は俺に対して意地悪だ。前世で何をしでかしたのだろうか……
俺にとってのスマホは皆にとっての魔法だ。魔法の使えない守矢さんは科学の力無しには生きていけない。
と、この世界に文句を言っていると午前中の授業が終わり弁当の時間になった。
魔法が使えないからといって友達がいないわけではない。
一緒に弁当を食べる仲間が守矢さんにはこんなにも……
守矢さんには二人もいる。
本日も仲間″達″のおかげで美味しく楽しく弁当が食えたのでそれだけで幸せだ。
そして午後の授業が始まった。
この世界で魔法を使うにはマナというエネルギーが必要である。
残念な事にわたくし守矢創太はマナが貯まらないという奇病に犯されている。
物でさえもマナが宿っていのに対して守矢さんは人間という肩書きを持っているのにも関わらずマナが枯渇している。
どんなに野菜を食べようが早寝早起きしようが貯まらないモノは貯まらない。
穴の開いたバケツ>守矢創太。魔法面から見たらこう言うことだ。
マナが宿っていなければ魔法陣で移動することすら出来ないと言うことを中学生で初めて知った。
荷物は運べても守矢さんは運べませんと告げられたも同然だった。守谷さんはお荷物以下……ここで悲しき訂正、以下ではなくより下が正しい。
マナは自然界に満ちている。人間はマナを体に溜め込み魔法を使用することでマナを消費する。
消費されたマナは個人差はあるが再び自然界から取り込む。修行することで回復スピードも飛躍させる事ができる。溜め込める量も同様だ。
この世界でも類は友を呼ぶ。
友達と遊ぶ時マナが少ない人とマナが多い人では行動範囲等々制限がかかる。
よって似たようなマナ量、回復速度の者同士で集まりやすくなっているようだ。
そんなこんなで、本日の授業も終わりマナの貯まらない守矢さんはホームで電車を待っているのだ。
「科学って素晴らしいな」
っと、守矢さんは染々と科学の有り難みを感じながら帰宅するのであった。
しかし、この世界の日常はわたくし守矢蒼太には熱湯に感じられるのだ。
ガタンガタン
っと鉄の箱に揺られながら四十分が経過した。
進行方向に対して右手側のドアが開き、癖のある声が駅名を告げる。
『光国高校前、光国高校前です』
見れば分かる。
平地に雨避けだけ建てたお粗末な駅だ。雨避けの外にベンチを配置してる時点でどうかと思う。しかも、何の塗装も無い防御力0の木製だ。属性耐性は、オールマイナス2と言ったところだろう。
電車を降りたのは俺一人だった。
電車に乗っていたのも俺一人だった。
最近の高校生は電車なんて乗らなくても遠くから登校してくる。そんなのはこの世界では当たり前だ。
改札へ近づくと賑やかな声が聞こえてきた。
光国高校の生徒達だ。どうやってここまで来たかと言うと移動魔法を使ったのだ。
各駅に魔法陣が配置されておりその上に立てばあっという間に行きたい駅へ行けてしまうのだ。
電車なんていらねぇと思うかもしれないが移動目的と言うよりも観光目的で使用されることがほとんどだ。
そのお陰で俺は助かっている。運賃が高いので懐は冷えている。
つまり、この世界の日常は熱湯に感じられ、電車賃は俺の懐を凍てつかせる。
外は熱湯、中は氷結なーんだ?
俺だ。
俺も一回だけ魔法陣で旅行に行った事がある。
十一年前まだ五歳だった俺は、父さんと母さんに連れられて最寄り駅に行った。
親子三人で手を繋いで魔法陣の上に立ち目的地へ飛んだ。
俺はてっきり、目の前が湖で自然豊かな観光地へあっと言う間に移動したと思った。
っが……実際に移動したのは父さんと母さんと俺の服と靴だったようだ。
全裸で立ち尽くす俺に駅員さんはただただぽかんっとしていたのをよく覚えている。これを人々はトラウマと呼ぶ。
訂正しよう。俺も一回だけ魔法陣の上に立ち尽くしたことがある。
以降このトラウマのお陰で、魔法陣を使ったことはない。
過去のトラウマを思い出している間に学校へとやって来た。
光国高校前駅といっても降りてから五分ほど歩く。そこに電車の四十分と家から駅までの十五分。計一時間も無駄な時間を過ごす。
下駄箱に魔法陣があればいいのにね、とか言ってる奴を見ると腹が立ってしょうがない。
お前らどれだけ恵まれてるか、とわたくし守矢創太は心の拳を握ることが日常茶飯事なのです。
皮肉にも特技は魔法陣を描くことだ。
円周率を百桁言える人間と同レベルとでも言っておこう。
知っていたとしても使えない。
要するにそう言うことだ。周りの人から誉められて終了。正直ちやほやされるだけでも嬉しいから余計に空回りする。
いつの間にかステージを昇りすぎたようで自分で新しい魔法陣を作ったり、定規やコンパス、分度器を使わずとも描けるようになっていた。
しかも、あっという間に。
円周率に換算すると10万桁言えるレベルだ。多分。
一般人なんて、3.1415……何だっけ? ってレベルだろ。
たった5桁かゴミめ。
俺に描かれた魔法陣は効果を使用せずにその生涯を終える。
可哀想な俺から作られた魔法陣も遺伝なのかは分からないが可哀想だ。
と、頭の中で独り言を呟いているうちに教室へ着いた。
守矢のクラスは少し特殊な作りだ。教室の中まで廊下が続いているクラスなのだ。
その分他クラスよりも広く解放感溢れる教室だ。
守矢の席は窓側最前列。一番左の一番前だ。
授業中にスマホをいじるのも一苦労だ。何度没収されたことか……スマホ没収期間中の俺を人々は原始回帰と呼ぶようだ。誰が原始人だよ。
聞くところによると右利きの教師は右側の前より席が死角になるらしい。やはりこの世界は俺に対して意地悪だ。前世で何をしでかしたのだろうか……
俺にとってのスマホは皆にとっての魔法だ。魔法の使えない守矢さんは科学の力無しには生きていけない。
と、この世界に文句を言っていると午前中の授業が終わり弁当の時間になった。
魔法が使えないからといって友達がいないわけではない。
一緒に弁当を食べる仲間が守矢さんにはこんなにも……
守矢さんには二人もいる。
本日も仲間″達″のおかげで美味しく楽しく弁当が食えたのでそれだけで幸せだ。
そして午後の授業が始まった。
この世界で魔法を使うにはマナというエネルギーが必要である。
残念な事にわたくし守矢創太はマナが貯まらないという奇病に犯されている。
物でさえもマナが宿っていのに対して守矢さんは人間という肩書きを持っているのにも関わらずマナが枯渇している。
どんなに野菜を食べようが早寝早起きしようが貯まらないモノは貯まらない。
穴の開いたバケツ>守矢創太。魔法面から見たらこう言うことだ。
マナが宿っていなければ魔法陣で移動することすら出来ないと言うことを中学生で初めて知った。
荷物は運べても守矢さんは運べませんと告げられたも同然だった。守谷さんはお荷物以下……ここで悲しき訂正、以下ではなくより下が正しい。
マナは自然界に満ちている。人間はマナを体に溜め込み魔法を使用することでマナを消費する。
消費されたマナは個人差はあるが再び自然界から取り込む。修行することで回復スピードも飛躍させる事ができる。溜め込める量も同様だ。
この世界でも類は友を呼ぶ。
友達と遊ぶ時マナが少ない人とマナが多い人では行動範囲等々制限がかかる。
よって似たようなマナ量、回復速度の者同士で集まりやすくなっているようだ。
そんなこんなで、本日の授業も終わりマナの貯まらない守矢さんはホームで電車を待っているのだ。
「科学って素晴らしいな」
っと、守矢さんは染々と科学の有り難みを感じながら帰宅するのであった。
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