しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第二章 第2話 毎日が勉強の連続

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 今日が終われば加奈さんに会える。
 そんな気分で起床し仕事に行った。そして残すは最後の十五分休憩のみとなった午後には急激に客数が増えて忙しくなった。

「滝沢君は1B、高橋君は2B、鎌田君は3B、山本君は4B、手島さんは5Bの島を巡回してもらってランプが点いたら取っていって」

 ホールの遊技台があるエリアであるところの島は中央通路を挟んでA側とB側に分れている。そのA側は比較的に人気機種が多く設置されているため混雑しやすい。そのため僕達新卒生はまだ落ち着いているB側をそれぞれで任された。

 玉箱接客や交換業務も慣れてきたので一気に複数のランプ―お客さんからの呼び出しがあっても順番に対応出来るくらいにはなった。
 ということで、僕は任された2Bを巡回しながら時折遊技台を見ては汚れていたりしたら持たされているダスターで清掃してまわった。そんな時だった。インカムが急に騒がしくなった。

「高橋君、3Bのフォローに行けるかな。急にランプがたくさん点いた」

 返事は出来ない。なぜならまだ僕達はインカムを使う許可を得ていないからだ。
 そういうことなので僕は言われるがままに3Bに向かって玉箱を渡したり交換をしていった。担当の鎌田さんはというと、彼も同じく忙しなく動いて対応を進めていた。

 どうにか落ち着いたので僕が持ち場に戻ると、いつもとは明らかに様子が異なる様子をしたお客さんに呼ばれた。

「お待たせしました」
「玉が出ないんだけど」
「玉が…出ないですか?」

 初めて聞くことだった。ということで僕は一旦そのまま待ってもらうことにして中央通路に出た。すると運良く藤久ふじくさんがいたので対応を代わってもらった。
 そんな藤久さんがお客さんのところに行くと持っていた鍵で遊技台を開けて何やらしていた。そして台が閉められるとまもなくして玉が出始めた。察するに玉が詰まっていたようだ。
 お客さんはそれを確認すると再び席に座って遊技を再開した。そうして僕のところに藤久さんがやってきて

「あとで教えるね」

 と言うとすぐに中央通路に戻って別の島のランプを取りに行った。そこでもまた台を開けて何やら対応をしてから閉めては解決させたようだ。そして中央通路に戻ってはまた別のランプを取りに行ったのだった。

***

「藤久さん。さっきのあれは何だったんですか?」

 遅番がやってきてホールの人数が十分になった時、僕達五人と藤久さんがホールを離れた。そしてスタッフルームで今日の振り返りシートを書いていた。

「あれは台の裏側で玉が詰まっちゃって出てこないってトラブルだね。玉詰まりっていうんだけど、今回は台の鍵がないと対応出来ないやつだったんだよね」
「鍵が無くても出来るものもあるんですか?」
「あるよ。各台の上には上に開く幕板ってのがあるんだけど、それを開けると各台に玉を供給しているホースがあるのね。そこで詰まっていたんだったら開けなくても対応は出来るよ。でもまだやらなくていいよ。トラブル関係は追々教えていくから」
「分かりました」

 そんなこんなでそれぞれが振り返りシートを書き終えたところで東田ひがしだチーフとわたりチーフがスタッフルームにやってきた。
 東田チーフは早番にいた。ということは渡チーフが遅番ということになる。

「藤久君。インカムの件、どう思う?」
「はい。正直問題ないかと思います。今日もそれぞれで聞きながら動いて、適宜言われた通りにフォローに行ったり任された島を巡回出来ていましたし。なので来週からはインカムで話し始めてもいいと思います」
「渡チーフはどう思います?」
「はい……俺はいいと思い…ます。東田チーフがいいと思うなら…来週からで」
「分かりました。それじゃ藤久君。来週からインカムの使用開始で。残りの時間でやり方とか注意することとか教えといて。上にはオレから言っておくから」
「分かりました」

 そうしてチーフ二人が去って行った。

「そういうことだから、来週の早遅で分かれるタイミングでみんなにはインカムを使ってもらうよ。注意点はと言っても、普通に会話するのと同じで誰かが話していたら割り込んだり遮ったりしないこと。あとは全体周知とか個別に指示をもらったら『了解しました』って返事をすること。それで、もしも特定の誰かに用事がある場合は先に『〇〇さんよろしいでしょうか』って言うこと。これくらいかな」
「分かりました」
「あ、そうだ。話す時はマイクの側面にあるボタンを押しながらじゃないと話せないのと、会話の回線はみんな同じものを使っているから自分が発した声がそのまま自分にも聞こえるけどそのうち慣れるからね」
「分かりました」

 ついに僕達にも使う時がやってくるのか。
 今日は週末だったこともあって終盤は忙しくてインカムも忙しなかったけど、そういう感じの会話をやっていくんだな。

「ってことは、今後もしも困ったことがあればインカムで助けを呼べるんですね」
「そうだね。遅番は俺でもいいし他でもいいよ。早番だと江田えださんか。あ、そうだ。江田さんを紹介しておかないと」

 ということで藤久さんがインカムで江田さんを呼ぶと、少しして江田さんがやってきた。

「この人が江田さんね。俺と同期だよ」

 彼は藤久さんよりも身長が高く中肉中背の人だった。それでなんとも言えないにこにこ顔で、どことなく人が良さそうな感じだった。

「みんな、よろしくね。えっと早番になるのは、高橋君と滝沢君と手島さんか。三人は先に僕と早番で先のことをやっていこう。遅番は藤久君がまた閉店作業とかの新しいことを教えていくと思うから頑張ってね」

 いずれ僕も遅番を経験するけど、早番は早番で踏み込んだことを教えてくれるっぽいからいいか。
 その後は僕達の方も一通り自己紹介をすると、今日の早番での業務が終了となった。

 帰り道で今日は昨日買い忘れたものを買いにスーパーに寄るため他の四人とは一緒に帰らなかった。でも早く帰らないと加奈さんと電話で明日のことを決めるから間に合わなくなる。時間はたしか十七時半だったな。

 ということで僕はスーパーで野菜と肉と、あと例の便利なソースも何種類か買った。そして急いで寮に向けて自転車を走らせた。
 だがこういう時に限ってよく信号で止められ、道を渡ろうにも車が途絶えずに渡れないということが起きた。そんなこんながあって角を曲がってようやく寮が見えた。

 時刻は約束の五分前。これならどうにかなりそうだ。
 そして到着して自転車を置くと、部屋がある二階への階段を駆け上がった。
 もうすぐで着く。そう思って長い廊下に出た途端に僕の目にある光景が飛び込んできた。

「あ、おかえり」
「加奈さん……?」

 そう。加奈さんが僕の部屋の前に立っていたのだ。しかも少し大きな鞄も持って。

「どうして?」
「早く会いたくて来ちゃった」

 加奈さんは凛と微笑んだ。
 会えるのは明日だと思っていた。明日までの残りの時間が長く感じるに違いない。そう思っていた。だからこそその突然の来訪は嬉しかった。だから

「翔くん?」

 僕は気が付くとそんな加奈さんを抱きしめていた。

「会いたかった。来てくれてありがとう」
「私も会いたかったわよ。部屋、入ろうか」
「うん」

 そうして思いがけずに二人となって帰宅した。
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