しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

文字の大きさ
107 / 153
第一章 第4話 就活と日々の中で

4-16

しおりを挟む
「好きなものを頼んでいいぞ」

 店長に連れられてやってきたのは近くのファミレスだった。
 窓の外を見ればバイト先の看板が僅かに見える。

「高級焼き肉店でもと思ったのだが、遠慮してしまうと思ってな。こっちの方が気楽だろ?」
「はい。そうですね。ありがとうございます」

 そうして僕は店長のお言葉に甘えて好きな物を注文する。
 注文し終えると店長が席を立ってコーヒーを持って戻ってきた。

「こういうドリンクバーってのはいくつになってもわくわくするものだな。噂ではコーラに紅茶を入れて飲む人もいるそうじゃないか」
「はぁそうですね。それじゃ僕も取ってきます」

 そうしてテーブルに飲み物が揃うと

「それじゃ面談をしよう」
「結局面談なんですね」
「そういう建前だ。こうでもしていないと仕事っぽくないだろ? これでも高橋君の業務時間内なんだ。まぁ俺は時間外だけどな」

 基本的に店長は気さくで話しやすい。それでも鈴谷さんと芹乃さんが入った時にはほぼ強引に教育担当にしてきたけども。それはそれで、前々から僕のことはもちろん、全スタッフの事をよく見ている。

 それからはあくまで建前として最近の仕事はどうだとか、就活や卒研はどうだとかそういう近況報告的な話をした。そして冗談かは定かではないが、ウチも新卒募集をしているから受けてみてはどうだなんて事を聞かれた。
 どうしても駄目だった時はという感じで社交辞令的に返答すると、店長も同じ感じでそうかそうかと言った。

 料理が到着するとお互いに舌鼓を打つ。
 僕はビーフシチューオムライス。店長はスパゲティだった。

「なんだ、高橋君は案外小食なんだな。もっと食え。肉を食え肉を。大きくなれないぞ」
「既に成長期は止まってますよ。あとは太るだけです」
「いいじゃないか。痩せ細っているよりかは断然いい」

 すると店長は唐揚げを追加注文してきた。

「さっき唐揚げを注文しようとして迷ってやめていただろう? 遠慮をするな。気にせず頼め」
「あ、ありがとうございます」

 確かに遠慮して注文していなかった。
 本当、店長はよく見ている。

***

「それで、最近は鈴谷さんとはどうなんだ?」

 食器が片付けられてお互いに飲み物を飲みながら落ち着いた時だった。
 きっとこの話が本来の目的なのだろうと察した。

「どうと言われましても、最近は就活に卒研と遊ぶ機会なんてほとんどありませんよ。それに、バイトでも今日久々に会ったくらいで」
「なるほど。まぁそうだよな。でも少し前にちゃんと話をしたんだろ?」
「はい、まぁ。店長」

 そこで僕は頭を下げた。

「店長が言おうとしている事は分かります。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。僕がちゃんとしていれば皆さんにご迷惑をおかけすることもなかったはずです」

 そこで店長はコーヒーを一口飲んで喉を潤わせた。

「別に俺が店長としてその件で高橋君を責めようなんてことは思っていないよ。ただ、まぁ店としては見過ごせない域にきていることは確かだ。中村さんか芹乃さんあたりから聞いたかもしれないが、今回高橋君が出した選択とその答えによっては鈴谷さんには店を辞めてもらおうかと思っている。ちなみにこれは不当解雇ではない」

 店長はバイト採用時に誰にでも書いてもらう業務規則の用紙を出した。

「ここに、店舗もしくは周囲環境において著しく迷惑もしくは損害を与えた場合における解雇に関しては異議申し立てをすることなく受け入れる。と書いてある。そしてこの書類に関してもちろん鈴谷さんはしっかりと読んで直筆でサインまでしている。つまり今回の件はこれに該当するわけで、改めなければこれを行使する権限が店長の俺にはあるんだ。もちろん、それを受け入れる義務は鈴谷さんにある」
「なるほどです」
「そうなった場合、高橋君は彼女と別れるのだろう?」
「はい。そうするつもりです」
「であれば、鈴谷さんがもう店に関わる理由も無くなる。これは残酷だと思うかな?」
「いえそんなことは。店長として当然の事かと思います」

 それを聞いて店長は少し安堵の表情をみせた。

「俺は店長として店の利益はもちろん、他スタッフも守らなければならない。せっかくみんなが働いてくれているんだ。嫌な職場だったら嫌だろ? 俺はそう思われることが嫌なんだ。それを守るために、まぁそうだな。少しかっこよく言うなら、大多数の安全と幸福を守るために少数の異端を取り除かなければならない。もちろんそれによって生じる責任や不利益は全て俺が負うと決めているよ。まぁそんな事は起こらないと思うがね」

 確かに真由の件は本人が一番悪い。
 中村さんや芹乃さんは実際何もしていないのだから。
 全て真由の妄想と勘違いが生んだ結果なのだ。

「もしも改めた場合は?」
「その時は解雇はしない。ただ厳重注意はするよ。もちろん高橋君や中村さんと芹乃さんの潔白の事実を交えてね。流石に俺が話して信じないわけはないと思うが、それでもどうしても信じなかったり、一時は信じても時間が経った時に繰り返しになるようだったら、その時は然るべき手段を取るしかなくなってくるよね」
「そうですね。本当、ご迷惑をおかけします」
「いいさ。これは一人の学生の手には余る事だ。そういう時は大人の手を借りるものだよ」
「ありがとうございます」

 すると店内に数名の大学生とも思える人がやってきた。
 サークルや部活の帰りなのだろう、大きな鞄を持っていた。

「話しこんでしまったな。それじゃ今日の面談はここまでだ。引き続きよろしく頼むよ」

 そうして僕と店長はファミレスを出た。
 僕はそのまま帰る事になったのだが、店長は店に忘れものをしたとのことで一度戻るようだ。

 一人帰路に立った僕は時計を見ると、普段のバイトの終わり時間にしてはかなり早かった。
 どこかで時間を潰そうにもさっき食事を済ませたばかりだし、図書館といってもそろそろ閉館の時間だ。

 帰るか。

 無駄に時間を消費するのも嫌なので、素直に帰ることにした。
 当然親には早い事を聞かれたが、シフト調整と言って自分の部屋にこもった。
 そして久々にゲームをしようとパソコンを開いた。すると、メールが来ていた。そのメールはスマホでも確認が出来るので見てみると、結果待ちをしていた企業の筆記試験の結果だった。
 一社だけだったものの、それを開くと

「そうか……」

 不合格の文字とお祈りメッセージがつづられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...