しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第一章 第4話 就活と日々の中で

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「それで、結論は出たの?」

 僕と真由は予定していた通り件のファミレスにやってきた。
 料理も一通り食べ終えてテーブルにはお互いの飲み物だけが残っている。
 時間的にもまだ団体客や学校終わりの学生達がやってくる時間ではないので店内は話しやすい環境となっている。

 僕はコーヒーを一口飲んで喉を潤す。
 真由は俯いて次の言葉を迷っている様子だ。

「この一週間二人の様子を見ていたんだよね? どうだった?」
「……うん。変だった。なんか二人とも私のことを警戒してるというか、よそよそしいというかで居心地が悪かった」
「そりゃ真由が二人にあんなことをしたんだからな」

 僕は真由のあの行動を擁護しない。
 仕事は仕事。そこに公私混同は避けなければならないのにも関わらず、真由はそれを犯したのだ。そこでもしあの二人や、それこそ他の人達からどんな避難を浴びせられていようが全て自業自得なのだから。

「この一週間で翔くんが一回だけ店に来たけど、店長に連れて行かれちゃってて、そこであの二人がどういう感じになるのかを見たかったんだけどそれも見れなかったし。でもその後の二人には特に変化は無かったし」

 真由はいきさつを話しつつ結論を言うのを渋っているように見えた。

「そうだろうな。僕とあの二人はただの職場だけの仲なんだから。それで、どうするんだ? それでもまだ二人が僕に別の感情を抱いているように見えるか?」
「それは……」

 真由が口を閉じて黙りこむ。
 僕はその回答を聞くまで静かに待つ。
 それからいくらかの時間が経過し、それでも真由は何も言わないので

「分かった。そういうことなら、僕と真由との関係はここまでだ」
「待って。違うの。なんて言おうか迷っていただけなの」
「迷っていたってことは、まだあの二人と僕の事を疑っているってことだろ? 前に僕は真由に、僕のことを信じてくれているかぎり好きでいると言ったよね? ならそういうことだよ。僕らは潔白だ。何もしていないし、何かをするつもりもない。ただ仲がいいだけの同僚だ」
「分かってるけど……」
「分かっているけど信じていないんだろ? それならもう終わりだ。―じゃあな」

 僕は会計を済ませるために残っていたコーヒーを飲み干す。
 カップを置いたその時

「待って。翔くんだけで納得しないで。私は……翔くんを信じるよ。芹乃さんと中村さんは翔くんに対して何もしていないし、何も思ってない。全部私の勘違いだったから。だから……」

 真由が僕のその手を掴むと縋り付くような目で僕を見つめた。
 さらにその手には力がこもり、必死さが伝わってきた。
 僕は真由の次の言葉を待った。

「だから、別れたくない。私は翔くんのことが好きだから。だからお願い、私を捨てないで」
「本当に信じるの?」
「うん」
「芹乃さんと中村さんには?」
「ちゃんと謝るから。今までのこと全部、ちゃんと謝るから」
「ちなみに、この話は店長にまで行ってるけど?」
「店長にも謝るから。もう、しないから。信じるから……」

 真由の目には涙が溜まり始めた。
 僕は前が前だった分、こういった感情に訴えてくる行為に関して屈する人ではない。だが、それは別として真由はあの二人にちゃんと謝ると明言し、いずれやってくる店長との話に関しても謝罪すると言った。
 僕はこの言葉を信じていいのだろうか……

「二回目だよね? それは自覚ある?」
「うん、分かってる。でももうちゃんと信じるから」

 僕の手を握る真由の手の力がさらに強くなった。
 そうして僕は考える。

 あれからあまり日にちは経っていない。
 確かに僕は今回の選択肢において、真由に誤解を認めて謝ってくれるなら別れないという事にしていた。だが、今日のこの感じからしてしぶしぶ納得したというか、腹の底ではどう考えているかは分からないものの強引に納得したという気がしてならない。
 であれば、ここで僕がすんなりとと許してしまった場合、再発してしまう可能性は否めない。
 だからといって許さずに別れるのは、言っていた約束とは違う気がする。なら、

「……分かったよ。それなら僕も真由が二人にやったように一週間様子を見るから。それで真由が二人にどういう感じで接するのかとか、色々見定めるから。いいよね? 真由も二人を監視したんだから」
「そんな……」
「なんか、本当に二人と僕を信じてくれているか分からないんだ。真由も僕を信じてくれていなかったんだから、僕だってそれに足る事をして確認してもいいよね?」

 きっと真由はこれにて解決すると思っていたのかもしれない。
 その目からは涙が零れ落ちて項垂れた。

「もちろん、僕の一週間の様子見を断ってもいいよ。でもそうなったら僕はこの場で結論を出さないといけないし、ちなみに僕が真由に対して抱いているのは好きとか嫌いではなく、疑いなんだよね。ここで僕が、分かった、また付き合っていこうって言うのは簡単だけど、僕自身がそう思っている以上はこのまま真由を好きでいられる保障は無いよ。どうする? 断る?」
「……分かった。それじゃその間に翔くんが安心したらまた私を好きでいてくれるんだよね?」
「安心すればね」
「それならいいよ。分かった。中村さんと芹乃さんに謝って仲良くして、翔くんに安心してもらうから」

 すると店の扉がけたたましい騒ぎ声とともに開け放たれて団体客が入店してきた。
 見たところ学校終わりの学生のようだ。
 それからまもなくしてもう一組、もう一団体と一気に店の中の人口密度と騒音が増していった。

「―それじゃ、そういうことで」

 話も終わりになってきており、キリも良かったので僕達は店を出た。
 今回の真由もまた先に歩いて行ってしまい、信号が変わる直前で渡って行ってしまったので僕は反対側に取り残された。
 向こうに渡りきった真由は僕の方を振り返らずにそのまま雑踏の中に消えた。

 信号が青に変わる頃にはもう真由の姿は見当たらなくなっていた。
 僕は今回もその足でバイト先に向かった。
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