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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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「一緒に住むことが出来るかですか?」
「はい。寮についてその可否を聞きたくてお電話しました」
次の日、僕は寮の件についてを人事課に確認してみることにした。
バイトまでの時間に電話をすると、出てくれたのは係長の方だった。
「そうですね。既に入社をされて数年経っている人の中ではご結婚をされていたり、それこそ同棲というかたちで一緒に入居されている方もいますね。なので出来るか出来ないかといえば、出来ます。しかしそれには双方の親御さんの同意が必要です。あとは同居人申請を書いていただく必要があります」
「なるほどです。ありがとうございます」
「同居人の希望があるってことですか?」
「はい。実は―」
僕は真由の事を伝えた。
「そうですか。ということでしたら、先程言った通り同居人にあたっては、特にサインとかをしてもらう必要はないんですが双方の親御さんから許可をとっていただいて、高橋君には別で同居人申請の用紙を書いてもらうかたちになります。ですので、まずは許可をとってもらえればなというところです」
「分かりました。ありがとうございます。その件を伝えてみます」
そうして通話が終了した。
時間を確認すると、そろそろバイトに行く時間になるところだった。
ということで準備を進めてバイトに出かけた。
***
バイトが終了すると、真由と一緒に帰路についた。話をしている間はなんだかぎこちないというか僕の反応を窺っているような感じがした。きっと昨日の事を気にしているのだろう。
だがLINEで話は済んでいるので、そこは気にせずに話をしていく。
「ところで、寮に一緒に住めるかどうかなんだけどさ」
と言ったところで真由は顕著に反応を示した。
自転車が進んでいく中、いつもの分かれ道の所で止まった。
「住むことは出来るみたいなんだけど、両方の親の許可が必要みたい。あとは僕が別で同居人申請を書いて、それで初めて同居が出来るって聞いたよ」
「そっか。それじゃ両方の両親から許可が出ればいいんだね?」
「そうだけど、でも真由の両親は許可しないんじゃない? それこそ僕が新社会人で落ち着かない状態なわけだしさ」
「それは話してみないと分からないよ。でも多分大丈夫だと思う。翔くんの方は?」
「どうだろう。最近は両親と話す機会がめっきり減っているんだよね。そもそも僕に彼女がいるってこと自体知らないと思うし、そう考えるともしかしたら厳しいかも」
「そっか……」
真由はまた少し不安そうな顔をした。
両親の同意。それは当たり前だろう。それゆえに同棲する場合の最大の壁になることには違いなかった。
「そもそも、本当に一緒に住むの?」
「住みたいよ」
「でも僕は社会人になりたてで絶対に落ち着かないし、仕事が仕事だから生活バランスが安定しないから迷惑になると思うよ?」
「それでも一緒に住みたいよ」
「そうしたら真由は今のバイト先を辞めることになるし、だからといって僕の給料だけじゃ生活は出来ないと思うから、それこそむこうでバイトをすることになると思うよ?」
「それも探してバイトするよ」
真由からは一緒に住みたいという思いがひしひしと伝わってきた。だが、そうなると少し気になることがある。
「なんでそんなに僕と一緒に住みたいの?」
そこまでして同棲をしたい理由である。
離れている距離とはいえ会おうと思えば会える距離である。それに、LINEもあるし滅多には話せないというわけでもないのだ。
なのにも関わらず、どうしてそれにこだわるのかが分からない。
「それは……」
そこで真由の言葉が詰まった。
少し待っていても答えを言ってこなかったので僕が続けた。
「確かに僕と真由は付き合っているけど、特に理由が無いのに一緒に住むのは早い気がするんだよね。それは真由の両親も思うと思うよ?」
「特に理由が無い? 理由が無いと駄目なの?」
「あった方がいいよね」
「それじゃ、私は翔くんとの将来を見据えているよ。だからその為に一緒に住みたいって思ってるよ」
「それって本当の理由? さっき言葉に詰まっていたってことは、他にも何かあるんじゃないの?」
「それは……」
またここで真由の言葉が詰まった。
それを見た僕は自転車のペダルに足を置いた。
「言えない理由なら一緒に住むのは考え直すべきだと思うよ。僕としても真由としてもね」
「言える。言うから。その……」
僕はもう少しだけ待った。そして真由は恐る恐る僕の顔を見て言った。
「翔くんはモテるから……私が近くにいないと他の新卒の子とか、もう働いている人に取られるんじゃないかって思って。だから……私が近くにいないとって思って」
「それだけ?」
「それだけ。もう本当にそれだけ」
先日の芹乃さんの件があったからそのあたりが心配なのだろう。まぁもちろん分からないでもない。それゆえに、真由が芹乃さんや中村さんに何をしたのかを思い出してしまう。
「仮に一緒に住んだとして、同期のみんなも同じ寮の別の部屋にいるんだよね。前のこともあるし、その同期の人にも迷惑をかけそうな気がするんだよ。だって中村さんや芹乃さんを監視していたし、嫌がらせだってしていただろ? それが怖いんだよね」
「そんなことはもうしない。しないから。だから一緒に住みたいよ」
真由のその言葉は信じられるものなのだろうか。
僕は今までの出来事を思い返して考える。だが、今すぐには結論を出せそうもなかった。
「……まぁ、一緒に住むかどうかはもう少し考えよう。でも念の為真由はご両親にその件はどうなのかを聞いておいてほしいんだよね」
「……分かった」
真由は悲しそうにうつむいた。その声もまた小さく残念そうだった。
だが僕としては慎重に進めたい。それこそ入社したてで他人に迷惑をかけたり、仕事に支障を出すわけにはいかないからだ。
それに、一緒に住むということは必然的に将来のことを考える時がやってくるに違いない。真由はその事を考えているようだが、僕はまだそれには至れない。もちろん真由の事は好きだ。でもそれとこれとは話が違うし、社会に出たての自分にはまだ難しい問題なのだ。
「それじゃ、今日ももう遅いし帰ろう。とりあえずはさっき言った通りでね」
「……」
真由は何も言わずに自転車をこいで帰っていってしまった。
その背中はなんだかとても悲しそうで寂しそうだった。
少し酷い事をしてしまったかな。でもこれについてはちゃんと考えたいし、そもそも両親の意見が必要だ。
そう思って僕も帰路についた。
「はい。寮についてその可否を聞きたくてお電話しました」
次の日、僕は寮の件についてを人事課に確認してみることにした。
バイトまでの時間に電話をすると、出てくれたのは係長の方だった。
「そうですね。既に入社をされて数年経っている人の中ではご結婚をされていたり、それこそ同棲というかたちで一緒に入居されている方もいますね。なので出来るか出来ないかといえば、出来ます。しかしそれには双方の親御さんの同意が必要です。あとは同居人申請を書いていただく必要があります」
「なるほどです。ありがとうございます」
「同居人の希望があるってことですか?」
「はい。実は―」
僕は真由の事を伝えた。
「そうですか。ということでしたら、先程言った通り同居人にあたっては、特にサインとかをしてもらう必要はないんですが双方の親御さんから許可をとっていただいて、高橋君には別で同居人申請の用紙を書いてもらうかたちになります。ですので、まずは許可をとってもらえればなというところです」
「分かりました。ありがとうございます。その件を伝えてみます」
そうして通話が終了した。
時間を確認すると、そろそろバイトに行く時間になるところだった。
ということで準備を進めてバイトに出かけた。
***
バイトが終了すると、真由と一緒に帰路についた。話をしている間はなんだかぎこちないというか僕の反応を窺っているような感じがした。きっと昨日の事を気にしているのだろう。
だがLINEで話は済んでいるので、そこは気にせずに話をしていく。
「ところで、寮に一緒に住めるかどうかなんだけどさ」
と言ったところで真由は顕著に反応を示した。
自転車が進んでいく中、いつもの分かれ道の所で止まった。
「住むことは出来るみたいなんだけど、両方の親の許可が必要みたい。あとは僕が別で同居人申請を書いて、それで初めて同居が出来るって聞いたよ」
「そっか。それじゃ両方の両親から許可が出ればいいんだね?」
「そうだけど、でも真由の両親は許可しないんじゃない? それこそ僕が新社会人で落ち着かない状態なわけだしさ」
「それは話してみないと分からないよ。でも多分大丈夫だと思う。翔くんの方は?」
「どうだろう。最近は両親と話す機会がめっきり減っているんだよね。そもそも僕に彼女がいるってこと自体知らないと思うし、そう考えるともしかしたら厳しいかも」
「そっか……」
真由はまた少し不安そうな顔をした。
両親の同意。それは当たり前だろう。それゆえに同棲する場合の最大の壁になることには違いなかった。
「そもそも、本当に一緒に住むの?」
「住みたいよ」
「でも僕は社会人になりたてで絶対に落ち着かないし、仕事が仕事だから生活バランスが安定しないから迷惑になると思うよ?」
「それでも一緒に住みたいよ」
「そうしたら真由は今のバイト先を辞めることになるし、だからといって僕の給料だけじゃ生活は出来ないと思うから、それこそむこうでバイトをすることになると思うよ?」
「それも探してバイトするよ」
真由からは一緒に住みたいという思いがひしひしと伝わってきた。だが、そうなると少し気になることがある。
「なんでそんなに僕と一緒に住みたいの?」
そこまでして同棲をしたい理由である。
離れている距離とはいえ会おうと思えば会える距離である。それに、LINEもあるし滅多には話せないというわけでもないのだ。
なのにも関わらず、どうしてそれにこだわるのかが分からない。
「それは……」
そこで真由の言葉が詰まった。
少し待っていても答えを言ってこなかったので僕が続けた。
「確かに僕と真由は付き合っているけど、特に理由が無いのに一緒に住むのは早い気がするんだよね。それは真由の両親も思うと思うよ?」
「特に理由が無い? 理由が無いと駄目なの?」
「あった方がいいよね」
「それじゃ、私は翔くんとの将来を見据えているよ。だからその為に一緒に住みたいって思ってるよ」
「それって本当の理由? さっき言葉に詰まっていたってことは、他にも何かあるんじゃないの?」
「それは……」
またここで真由の言葉が詰まった。
それを見た僕は自転車のペダルに足を置いた。
「言えない理由なら一緒に住むのは考え直すべきだと思うよ。僕としても真由としてもね」
「言える。言うから。その……」
僕はもう少しだけ待った。そして真由は恐る恐る僕の顔を見て言った。
「翔くんはモテるから……私が近くにいないと他の新卒の子とか、もう働いている人に取られるんじゃないかって思って。だから……私が近くにいないとって思って」
「それだけ?」
「それだけ。もう本当にそれだけ」
先日の芹乃さんの件があったからそのあたりが心配なのだろう。まぁもちろん分からないでもない。それゆえに、真由が芹乃さんや中村さんに何をしたのかを思い出してしまう。
「仮に一緒に住んだとして、同期のみんなも同じ寮の別の部屋にいるんだよね。前のこともあるし、その同期の人にも迷惑をかけそうな気がするんだよ。だって中村さんや芹乃さんを監視していたし、嫌がらせだってしていただろ? それが怖いんだよね」
「そんなことはもうしない。しないから。だから一緒に住みたいよ」
真由のその言葉は信じられるものなのだろうか。
僕は今までの出来事を思い返して考える。だが、今すぐには結論を出せそうもなかった。
「……まぁ、一緒に住むかどうかはもう少し考えよう。でも念の為真由はご両親にその件はどうなのかを聞いておいてほしいんだよね」
「……分かった」
真由は悲しそうにうつむいた。その声もまた小さく残念そうだった。
だが僕としては慎重に進めたい。それこそ入社したてで他人に迷惑をかけたり、仕事に支障を出すわけにはいかないからだ。
それに、一緒に住むということは必然的に将来のことを考える時がやってくるに違いない。真由はその事を考えているようだが、僕はまだそれには至れない。もちろん真由の事は好きだ。でもそれとこれとは話が違うし、社会に出たての自分にはまだ難しい問題なのだ。
「それじゃ、今日ももう遅いし帰ろう。とりあえずはさっき言った通りでね」
「……」
真由は何も言わずに自転車をこいで帰っていってしまった。
その背中はなんだかとても悲しそうで寂しそうだった。
少し酷い事をしてしまったかな。でもこれについてはちゃんと考えたいし、そもそも両親の意見が必要だ。
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