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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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僕は中村さんの口調の中にある違和感と、前に聞いたあの時の話を思い出した。
「もしかしてなんですけど、中村さんは今でも鈴谷さんには店を辞めてほしいんですか?」
だから聞いてみることにした。
まだ芹乃さんがいる時に中村さんは、僕が芹乃さんと付き合った場合は真由は店にいられなくなって辞めるしかなくなるだろうということを話していた。
それに、真由は中村さんと芹乃さんに対して問題行動を起こし精神的に大きな迷惑をかけた。店長もそれを知っていて、一時期は真由を解雇することを視野に入れていたのだ。
もし今回僕が真由と別れて芹乃さんと交際した場合、それが時を経て実行される可能性がある。僕はそう感じ取ったのだ。
僕のその問いに関して中村さんは少し沈黙した。
その沈黙がもはや答えに違いないような雰囲気だったが、それでも中村さんは口を開いた。
「そうよ。私も優しくないから今でも鈴谷さんのことは許せていないわ。さっき芹乃さんが高橋くんと付き合うことに関して芹乃さんとしては願ったり叶ったりって言ったけど、実際私としても御の字なのよ。だってそうすれば今回は本当に辞めるでしょ? 私は高橋くんが辞めてからも鈴谷さんと仕事をするなんて嫌なのよ」
どうやら本音のようだ。
その言葉はやけに語気が強く、もはや憎しみや迷惑を孕んだ声をしていた。
「まぁそうですよね。僕が辞めて同棲をしないってなった場合、鈴谷さんはほぼ間違いなく店に残ることになるでしょう。でも僕がいなかったらそれはそれで大人しくなるのでは?」
「どうだかね。でもやっぱり私はあの子と一緒に仕事をするのは嫌ね。ということだから、高橋くんにはそんな選択をする可能性の未来があるかもしれないのよ。それに、早めに決断をした方が鈴谷さんのためでもあるわ。もちろんそこで高橋くんが本当に芹乃さんを選び直したとしても私は何も言わないし、変にも思わないわ。だって高橋くんに合っていたのは芹乃さんだもの。むしろよくやったわと言うかもね」
そこで中村さんは一息入れて仕切り直す。
「まぁ、まずは同棲のことを話すんだろうからそれで鈴谷さんが何を思い、何を言ってくるのか。その時に高橋くんが何を思うのかよ。それでもし悩んだ時に今の私の言葉を思い出したなら、そんな選択もありだと思うわよ。だって人生は一度きり。不幸にはなりたくないじゃない? 高橋くんにだって幸せになる権利も、幸せの道を選ぶ権利もあるの。だから、決断する時はしっかりと決断するのよ?」
「はい、分かりました」
「そういうことで、そろそろ私は休憩が終わるから戻るね。明日はいつも通りの時間で出勤してくれるって店長には伝えておくからよろしくね。協力してくれてありがとうね」
「いえ、僕もせっかくの休憩時間なのに話を聞いてくれてありがとうございました」
ということで通話が終了した。
「選択と決断か……」
中村さんのその言葉が頭に残っていた。
確かに同棲は出来ないということを話しても真由はすんなりと納得してくれないだろう。真由の方の両親は許可を出しているので、真由としてはほぼ確実に同棲が出来ると思っているに違いないからだ。
それに真由のお母さんの様子からして、もしかすると最悪そのお母さんもまた話し合いの場に出てくるかもしれない。そうなったら二人揃って納得させないといけない。
となればまたため息が増えそうだなぁ。
そもそも、僕と真由の両方の親が許可をしたらということで話をしていたじゃないか。それで僕の方が許可を出さなかったんだから無し。それでいいじゃないか。
まぁ、今色々と考えても仕方ない。
ふと時間を確認すると、まもなく日付が変わろうとしていた。
明日はついに卒研発表か。大勢の教授達の前で研究成果を発表してその出来栄えによって卒業認定が下されるんだ。
まぁ、卒業認定会議を経て結果が下されるわけで、その審査にはある程度の時間がかかるんだけども。実際他の単位は足りているからこれで認定が出れば晴れて卒業だ。
せっかく苦労して就活を終えたんだ。これで卒業出来ませんでしたとなって入社資格を失うのは本当に嫌だ。
それでも明日は気を張らずに落ち着いて発表しよう。そうすれば大丈夫だろう。
大学が終わったらバイトだな。
そういえば明日は真由も出勤って言ってたな。ならその時に同棲のことを話すか。
望み薄だが、すんなりと納得してくれることを願おう。
それから準備が出来ていたゲームをしようと椅子に座ったが、なんだかそんな気分じゃなくなっていたのでまた電源を落としてベッドに入ることにした。
眠りに落ちていく直前、心の片隅で思った。
もしもあの時芹乃を選んでいたら、仮に今から選び直したらこの心も、これからの未来もどうなるのだろう…と。
「もしかしてなんですけど、中村さんは今でも鈴谷さんには店を辞めてほしいんですか?」
だから聞いてみることにした。
まだ芹乃さんがいる時に中村さんは、僕が芹乃さんと付き合った場合は真由は店にいられなくなって辞めるしかなくなるだろうということを話していた。
それに、真由は中村さんと芹乃さんに対して問題行動を起こし精神的に大きな迷惑をかけた。店長もそれを知っていて、一時期は真由を解雇することを視野に入れていたのだ。
もし今回僕が真由と別れて芹乃さんと交際した場合、それが時を経て実行される可能性がある。僕はそう感じ取ったのだ。
僕のその問いに関して中村さんは少し沈黙した。
その沈黙がもはや答えに違いないような雰囲気だったが、それでも中村さんは口を開いた。
「そうよ。私も優しくないから今でも鈴谷さんのことは許せていないわ。さっき芹乃さんが高橋くんと付き合うことに関して芹乃さんとしては願ったり叶ったりって言ったけど、実際私としても御の字なのよ。だってそうすれば今回は本当に辞めるでしょ? 私は高橋くんが辞めてからも鈴谷さんと仕事をするなんて嫌なのよ」
どうやら本音のようだ。
その言葉はやけに語気が強く、もはや憎しみや迷惑を孕んだ声をしていた。
「まぁそうですよね。僕が辞めて同棲をしないってなった場合、鈴谷さんはほぼ間違いなく店に残ることになるでしょう。でも僕がいなかったらそれはそれで大人しくなるのでは?」
「どうだかね。でもやっぱり私はあの子と一緒に仕事をするのは嫌ね。ということだから、高橋くんにはそんな選択をする可能性の未来があるかもしれないのよ。それに、早めに決断をした方が鈴谷さんのためでもあるわ。もちろんそこで高橋くんが本当に芹乃さんを選び直したとしても私は何も言わないし、変にも思わないわ。だって高橋くんに合っていたのは芹乃さんだもの。むしろよくやったわと言うかもね」
そこで中村さんは一息入れて仕切り直す。
「まぁ、まずは同棲のことを話すんだろうからそれで鈴谷さんが何を思い、何を言ってくるのか。その時に高橋くんが何を思うのかよ。それでもし悩んだ時に今の私の言葉を思い出したなら、そんな選択もありだと思うわよ。だって人生は一度きり。不幸にはなりたくないじゃない? 高橋くんにだって幸せになる権利も、幸せの道を選ぶ権利もあるの。だから、決断する時はしっかりと決断するのよ?」
「はい、分かりました」
「そういうことで、そろそろ私は休憩が終わるから戻るね。明日はいつも通りの時間で出勤してくれるって店長には伝えておくからよろしくね。協力してくれてありがとうね」
「いえ、僕もせっかくの休憩時間なのに話を聞いてくれてありがとうございました」
ということで通話が終了した。
「選択と決断か……」
中村さんのその言葉が頭に残っていた。
確かに同棲は出来ないということを話しても真由はすんなりと納得してくれないだろう。真由の方の両親は許可を出しているので、真由としてはほぼ確実に同棲が出来ると思っているに違いないからだ。
それに真由のお母さんの様子からして、もしかすると最悪そのお母さんもまた話し合いの場に出てくるかもしれない。そうなったら二人揃って納得させないといけない。
となればまたため息が増えそうだなぁ。
そもそも、僕と真由の両方の親が許可をしたらということで話をしていたじゃないか。それで僕の方が許可を出さなかったんだから無し。それでいいじゃないか。
まぁ、今色々と考えても仕方ない。
ふと時間を確認すると、まもなく日付が変わろうとしていた。
明日はついに卒研発表か。大勢の教授達の前で研究成果を発表してその出来栄えによって卒業認定が下されるんだ。
まぁ、卒業認定会議を経て結果が下されるわけで、その審査にはある程度の時間がかかるんだけども。実際他の単位は足りているからこれで認定が出れば晴れて卒業だ。
せっかく苦労して就活を終えたんだ。これで卒業出来ませんでしたとなって入社資格を失うのは本当に嫌だ。
それでも明日は気を張らずに落ち着いて発表しよう。そうすれば大丈夫だろう。
大学が終わったらバイトだな。
そういえば明日は真由も出勤って言ってたな。ならその時に同棲のことを話すか。
望み薄だが、すんなりと納得してくれることを願おう。
それから準備が出来ていたゲームをしようと椅子に座ったが、なんだかそんな気分じゃなくなっていたのでまた電源を落としてベッドに入ることにした。
眠りに落ちていく直前、心の片隅で思った。
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