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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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「それやばくない?」
店長との話が終わって売り場に出た僕は前半の分を終えた。そして休憩をしていると中村さんがやってきてさっきの僕と店長のことを聞いてきた。
もちろん興味本位でというものではなく、心配して聞いてきたという感じだ。
そこでその件を話したところ、中村さんはひきつったというかドン引きに近いような顔になったのだ。
「そうですよね。さすがに変だと思いました。少し怖かったですし」
「そりゃそうよね。そろそろ納得すればいいのに。というかお母さんを出してくるって、いい大人が何してんだかって思ったよ」
「はい。なんかこう、子供が言うところの、お母さんに言いつけてやるみたいな感じですよね」
「そうよ。でもそれでも負けなかったのはよく頑張ったと言えるわね」
「まぁ、はい。同棲をするわけにはいかなかったので。でもそれで最近鈴谷さんの様子がおかしいみたいじゃないですか?」
「あぁ…あれね。私は別に心配をする気はないからどうでも良かったんだけど、周りの他の人達も気にし始めちゃってるから店の環境としては良くないわね。でもそういうことなら、ようは自分の思った通りにいかなくていじけてるだけのようね。大人なんだからその辺はわきまえてほしいんだけどね」
中村さんはやはり真由のことが好きではないようだ。それにもちろんのこと、あの事は許していないようだ。
「でも複雑よね」
「何がですか?」
「だってさ、高橋くんはもう少ししたら卒業じゃない? 店も辞めるわけで、そうなったらこうして楽しくお話が出来る人がいなくなるし、それになによりあの人だけが店に残ることになるのよね。高橋くんが同棲をするならあの人が店からいなくなるから平和になるんだけどね。でもそうなったら高橋くんが大変なことになりそうだし。でもでも、ここまできたら高橋くんの幸せを願った方がいいのかもね」
「ジレンマみたいですね」
「そうね。こんなことならあの時……」
そこで中村さんの口が閉じた。
あの時芹乃さんをもっとしっかり推していれば良かった。
そう言いたかったのだろう。それも以前聞いた。
僕としても確かにあの時もしも芹乃さんを選んでいたらと思うことは増えた。でもあそこで真由を選択してしまったし、それこそ少し前に中村さんが言っていた、真由と別れて芹乃さんを選び直すなんて都合のいいことをするわけにはいかない。
あの時中村さんは、そんなことをしても芹乃さんは気にしないだろうと言っていたが、その根拠が分からないし、なによりも僕自身が芹乃さんにそんな失礼なことをしたくないのだ。
「鈴谷さんは最近中村さんに何かしてきたりとかはないんですか?」
「ないわね。だって店長から聞いたと思うけど、最近のあの人はあんな感じだし。向こうから話かけにくることもなければ私から話しかけにいくこともないわよ」
「鈴谷さんが他の人と話たりとかは?」
「それもないわね。今じゃあの日の出来事を知っている人がほとんどだから、あれを境に話しかけに行かなくなったって言ったほうがいいわね」
どうやら真由は完全に孤立しているようだ。
ここまで聞くとその様子を見てみたいような気もするが、あの電話の後なので会うのは正直気まずい。
だからある意味ではシフトが被らなくて良かったと思った。
「そういえば、ついこの前に芹乃さんに会ったんだけど気になる?」
そこで中村さんが話題を変えてきた。
「ま、まぁ。でも元気そうならそれでいいです」
「それがね、少しお疲れ気味なのよ。芹乃さんの方の職場が結構大変みたいでね。一緒に働いている人はいいんだけど仕事内容が大変みたい。この前私の家でお酒を飲んだ時なんてすぐに酔っぱらっちゃってね。結構ストレスを抱えてるんじゃないかな」
「そうなんですね」
「心配?」
「心配というか、あまり元気ではなさそうだなとは思いますね」
すると中村さんが不敵な笑みを浮かべた。
「芹乃さんはね、酔うと必ず高橋くんの話をするのよ。それも今の高橋くんみたいに最近元気なの?とか色々とね。で、元気って伝えるとすごく安心するの。でも本当の高橋くんは大変なのにね。もちろんそんなことを言えるわけがないから誤魔化すんだけどね」
「どうしてです?」
「だって言ったらそれはそれで大変なのよ? 安心するまでうじうじするし、なんなら電話してみれば?って言うと、それはちょっと…みたいになるのよ。いい年して乙女かよって思うのよね」
「芹乃さんもそういうところあるんですね。なんかこう、話しやすい大人の女性ってイメージしかなかったので意外です」
「そうなのね。芹乃さんには本当は可愛いところがたくさんあるのよ。なんなら今度会って一緒にお酒飲んでみる? それこそ高橋くんの卒業祝いでもセッティングしようか?」
「それは……要検討で」
「芹乃さんに会うのは気まずい?」
「まぁ、はい」
「大丈夫よ。そんなこともう気にしてないし、芹乃さんだって会えば嬉しくなって元気になるから」
「そういうことなら…… いや、でも考えておきます」
「そう。前向きな検討を期待するわね」
確かに会ってみたい気がしないでもない。でも今さら会ってどうしようというのだろう。それこそ最近のことがあるせいで会ったら芹乃さんに惚れてしまうのではないか?なんて思ってしまう。
いやそれは駄目だろう。仮にも真由と付き合っているんだから。
そういう気持ちがあって僕は要検討と答えたのだ。それに、そんな不安定な気持ちで芹乃さんと会っては駄目だ。普通の時に会わないと。でないと人の気持ちなんてものはひょんな事で変わってしまうとどこかで聞いたことがあるからだ。
「そろそろ休憩が終わるので行きますね」
「うん。芹乃さんに会いたくなったら私に言ってね。LINEは持ってても自分からメッセージを送る勇気は無いでしょ?」
「そう言われるとなんか悔しいですね。まぁ当たってますけども」
話しながらも片付けを済ませた僕は事務所を出ようと扉に向かっていった。
「もっと推さないとかなぁ……」
「なにか言いました?」
「なんでもないよ」
事務所から出る直前に何か聞こえた気がしたが、なんでもないとのことなので特に気にせずに売り場に出て行った。
それから後半も働き終えたので本日の勤務が終了した。
店長との話が終わって売り場に出た僕は前半の分を終えた。そして休憩をしていると中村さんがやってきてさっきの僕と店長のことを聞いてきた。
もちろん興味本位でというものではなく、心配して聞いてきたという感じだ。
そこでその件を話したところ、中村さんはひきつったというかドン引きに近いような顔になったのだ。
「そうですよね。さすがに変だと思いました。少し怖かったですし」
「そりゃそうよね。そろそろ納得すればいいのに。というかお母さんを出してくるって、いい大人が何してんだかって思ったよ」
「はい。なんかこう、子供が言うところの、お母さんに言いつけてやるみたいな感じですよね」
「そうよ。でもそれでも負けなかったのはよく頑張ったと言えるわね」
「まぁ、はい。同棲をするわけにはいかなかったので。でもそれで最近鈴谷さんの様子がおかしいみたいじゃないですか?」
「あぁ…あれね。私は別に心配をする気はないからどうでも良かったんだけど、周りの他の人達も気にし始めちゃってるから店の環境としては良くないわね。でもそういうことなら、ようは自分の思った通りにいかなくていじけてるだけのようね。大人なんだからその辺はわきまえてほしいんだけどね」
中村さんはやはり真由のことが好きではないようだ。それにもちろんのこと、あの事は許していないようだ。
「でも複雑よね」
「何がですか?」
「だってさ、高橋くんはもう少ししたら卒業じゃない? 店も辞めるわけで、そうなったらこうして楽しくお話が出来る人がいなくなるし、それになによりあの人だけが店に残ることになるのよね。高橋くんが同棲をするならあの人が店からいなくなるから平和になるんだけどね。でもそうなったら高橋くんが大変なことになりそうだし。でもでも、ここまできたら高橋くんの幸せを願った方がいいのかもね」
「ジレンマみたいですね」
「そうね。こんなことならあの時……」
そこで中村さんの口が閉じた。
あの時芹乃さんをもっとしっかり推していれば良かった。
そう言いたかったのだろう。それも以前聞いた。
僕としても確かにあの時もしも芹乃さんを選んでいたらと思うことは増えた。でもあそこで真由を選択してしまったし、それこそ少し前に中村さんが言っていた、真由と別れて芹乃さんを選び直すなんて都合のいいことをするわけにはいかない。
あの時中村さんは、そんなことをしても芹乃さんは気にしないだろうと言っていたが、その根拠が分からないし、なによりも僕自身が芹乃さんにそんな失礼なことをしたくないのだ。
「鈴谷さんは最近中村さんに何かしてきたりとかはないんですか?」
「ないわね。だって店長から聞いたと思うけど、最近のあの人はあんな感じだし。向こうから話かけにくることもなければ私から話しかけにいくこともないわよ」
「鈴谷さんが他の人と話たりとかは?」
「それもないわね。今じゃあの日の出来事を知っている人がほとんどだから、あれを境に話しかけに行かなくなったって言ったほうがいいわね」
どうやら真由は完全に孤立しているようだ。
ここまで聞くとその様子を見てみたいような気もするが、あの電話の後なので会うのは正直気まずい。
だからある意味ではシフトが被らなくて良かったと思った。
「そういえば、ついこの前に芹乃さんに会ったんだけど気になる?」
そこで中村さんが話題を変えてきた。
「ま、まぁ。でも元気そうならそれでいいです」
「それがね、少しお疲れ気味なのよ。芹乃さんの方の職場が結構大変みたいでね。一緒に働いている人はいいんだけど仕事内容が大変みたい。この前私の家でお酒を飲んだ時なんてすぐに酔っぱらっちゃってね。結構ストレスを抱えてるんじゃないかな」
「そうなんですね」
「心配?」
「心配というか、あまり元気ではなさそうだなとは思いますね」
すると中村さんが不敵な笑みを浮かべた。
「芹乃さんはね、酔うと必ず高橋くんの話をするのよ。それも今の高橋くんみたいに最近元気なの?とか色々とね。で、元気って伝えるとすごく安心するの。でも本当の高橋くんは大変なのにね。もちろんそんなことを言えるわけがないから誤魔化すんだけどね」
「どうしてです?」
「だって言ったらそれはそれで大変なのよ? 安心するまでうじうじするし、なんなら電話してみれば?って言うと、それはちょっと…みたいになるのよ。いい年して乙女かよって思うのよね」
「芹乃さんもそういうところあるんですね。なんかこう、話しやすい大人の女性ってイメージしかなかったので意外です」
「そうなのね。芹乃さんには本当は可愛いところがたくさんあるのよ。なんなら今度会って一緒にお酒飲んでみる? それこそ高橋くんの卒業祝いでもセッティングしようか?」
「それは……要検討で」
「芹乃さんに会うのは気まずい?」
「まぁ、はい」
「大丈夫よ。そんなこともう気にしてないし、芹乃さんだって会えば嬉しくなって元気になるから」
「そういうことなら…… いや、でも考えておきます」
「そう。前向きな検討を期待するわね」
確かに会ってみたい気がしないでもない。でも今さら会ってどうしようというのだろう。それこそ最近のことがあるせいで会ったら芹乃さんに惚れてしまうのではないか?なんて思ってしまう。
いやそれは駄目だろう。仮にも真由と付き合っているんだから。
そういう気持ちがあって僕は要検討と答えたのだ。それに、そんな不安定な気持ちで芹乃さんと会っては駄目だ。普通の時に会わないと。でないと人の気持ちなんてものはひょんな事で変わってしまうとどこかで聞いたことがあるからだ。
「そろそろ休憩が終わるので行きますね」
「うん。芹乃さんに会いたくなったら私に言ってね。LINEは持ってても自分からメッセージを送る勇気は無いでしょ?」
「そう言われるとなんか悔しいですね。まぁ当たってますけども」
話しながらも片付けを済ませた僕は事務所を出ようと扉に向かっていった。
「もっと推さないとかなぁ……」
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