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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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「いやぁ、疲れたわよ。こんな時間まで仕事なんだから……あれ?」
訪れた芹乃さんの家。
そして僕は芹乃さんが買ったPS5の設定をした。芹乃さんもまた他に買ったものを整理し終えてくつろごうとしている時だった。
「お、お疲れ様です……中村さん」
「……ん?」
夜も遅い中で中村さんがやってきたのだ。
ここにいるはずもない僕がいたことで中村さんの動きが、というか思考が停止したようでしばらく僕と見つめ合った状態となった。
その沈黙を破ったのは中村さんだった。
「どうして高橋くんがここにいるの? ここは芹乃さんの家よ?」
「はい。分かってます。逆に、どうして中村さんがここに?」
「私は少し前に芹乃さんから急に家で飲まないかって誘われて」
芹乃さんがあの時車の中でスマホをいじっていたのは、どうやら中村さんを呼び出していたということだったようだ。
「うーん……まぁいいや。芹乃さん、ちょっと来て。高橋くんは少し待っててね」
「はい」
それから中村さんは芹乃さんを連れて外に出て行った。
***
「説明してもらうわよ? 芹乃さん」
「もちろんです……」
芹乃加奈は今頃になって中村を呼び出してしまったことを後悔した。いや、罪悪感でいっぱいになった。
なぜなら中村には真実を伝えず、単にいつもの感じで飲みにこないかと誘ったのだから。また、もし今自分が陥っている状況を説明したら来ないに違いないと思い、なによりも高橋を何が何でも家に帰すように言うだろうと思ったからだった。そうなれば話が長くなり、それを見ている高橋は本当に帰る可能性が高くなるのだ。
芹乃からしても今日この日はまだ高橋と一緒にいたかった。だから本音としては帰したくはなかったのだ。とはいえあの時は気が動転していた。だからこんなことになってしまったのである。
ということで芹乃が中村に事の経緯を説明した。
「嘘はついてない?」
「全部本当のことです。嘘をついてまで高橋くんを家につれてこないです。でも、いざつれて行くってなったらどうしようって思っちゃって、それで万が一のことを考えて中村さんを呼んだんです」
「ふーん。万が一って、つまりそういうことよね?」
「……」
「無言の肯定ね。もう一つ聞くわね。高橋くんは本当に鈴谷さんと別れるって言ったのよね? これが嘘だったらあの時以上の修羅場を見ることになるわよ?」
「それも本当です。高橋くんの口から言っていたので私から言わせたということもありません。もちろん聞き返しました。それでも確かに別れると言っていました」
「そう」
二人の様子はまるで警察と容疑者のようだった。
それほどまでに中村は慎重に事の真偽を確かめ、それでいてこれから先において高橋と芹乃が変な事に巻き込まれないかどうかを考えつつもその可能性を消していくように質問をしていた。
中村はしばらく考えながら外の遠くの方を見ていた。それからまた少しして芹乃の方に向きなおった。
「……分かった。今回はもうつれてきちゃったんだし仕方ないわ。でも、高橋くんはあの人と別れるとは言っていてもまだ付き合っていることには変わりはないんだからね? 完全に別れたということが確認出来るまでは何もしないこと。分かった?」
「分かってます。もうあんな修羅場は嫌ですので。それに、高橋くんは今日初めて私の家に来たので、それで何かするなんてことはないと思います」
「高橋くんが何もしなくても、芹乃さんが何かをするかもしれないのよ。私はその心配をしているの」
「しませんよ。万が一にもそうならないように中村さんを呼んだんですよ」
「それはつまり一人だとどうなるか、自分でも自分をコントロール出来なくなる可能性があるってことよね?」
「だって高橋くんがまだ家に帰りたくないっていうものですから。それに私はまだ……」
彼が好きだから。
そう言おうとしたところで恥ずかしくなって口を閉じたのだった。
「……まぁ、いいわ。今日のところは芹乃さんのストッパーとしてここにいてあげるから。でも、逆に高橋くんが芹乃さんに変な事をしようとしても止めるからね? あなたがいくら望んでいても今回は絶対に止めるからね?」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、今日はどうするの? 時間も時間だけど、高橋くんは泊めていくの?」
「それは……お酒を飲んだら車の運転は出来ないですし。中村さんも飲んで泊まっていくつもりで来たんですよね?」
「そうだけど。……仕方ない。一人で帰すわけにもいかないから泊まってもらおうか。でもご両親には連絡させるのよ?」
「はい、それはもちろん」
二人は今日この後の事の決め事を定めると、再び部屋に戻った。
****
「高橋くん、ごめんね。とりあえず事情は聞いたわ」
二人が戻ってくると、中村さんが口を開いた。
どうやら中村さんは今日の僕と芹乃さんの状況と、僕が今おかれている状況を把握したようだ。きっとさっき芹乃さんから聞いたのだろう。そして自分がなぜここに来たのかもあらためて説明してくれた。
「分かりました。知ってはいましたが、中村さんは芹乃さんとそれなりの頻度で飲んでいるようなので今回もそれなんですね。それで、芹乃さんは僕と二人だけで家にいると僕が変に気を遣いそうだからと中村さんを呼んだのだと。それで、ついでだから酒を飲もうと。そういうことですね?」
「そうよ。だから持ってきたのよ」
芹乃さんは僕が中村さんと話している間は特に何も言わずに見ていた。
それから中村さんは手に持っているレジ袋をテーブルに置くと、そこから酒の瓶と缶チューハイを取り出して見せてきた。
「だからね、高橋くんには悪いんだけど今日はこのまま泊まってもらうからね? お酒を飲んだら誰も運転出来ないし、なんやかんやでここから駅までは離れているから歩いて帰るのは大変だし。ということで、高橋くんはご両親に泊まる事を連絡してね。あ、でも私の家に泊まるとは言わないで。友達の家に泊まるって言ってくれると助かるかな」
「分かりました。その辺は大丈夫ですよ。もう大学生なので急に友人の家に泊まるなんてことはありますし、それくらいでどうこう言う親じゃないです。それに、最初のLINEででも泊まるならそれでいいって言われましたし」
「そう。男の子って案外そんなものなのね」
芹乃さんは安堵した様子だった。同時に中村さんもそんな芹乃さんを見て安心したようだった。
「ということで、高橋くんと芹乃さんはもうご飯は食べちゃったのよね?」
「はい。でもお酒なら飲みます」
「それは嬉しいわね。前は芹乃さんだけ飲まなかったから寂しかったけど、これで三人で飲めるわね」
「中村さんは飲み過ぎて帰りはぐっすりだったじゃないですか」
「まぁそういうこともあったわね。どうする? もう飲んじゃう? それか先にお風呂に入ってきちゃう?」
「風呂ですか? いや、さすがに借りるのは…… ねぇ? 芹乃さん」
「貸してあげるわよ。夕飯がハンバーグだったわけだし、それこそ髪とかには油が付いてるわよ。入らなかったら明日はギトギトかもしれないわよ? 別に遠慮しなくていいわ」
「そうですか。まぁそういうことならお言葉に甘えて。でも急だったので他に服は持っていませんよ?」
「それも貸してあげるわよ。オーバーサイズの服が一式あるし」
「ありがとうございます」
いくらオーバーサイズでもメンズとレディースでは大分サイズは変わるぞ?
まぁその辺りは仕方ない。あるだけいいし、貸してくれるのだから文句は言えない。
「あ、でも先に入るのは芹乃さんでどうぞ。家主よりも先に入るのはさすがに違うと思うので」
「そう。そういうことなら私が先に入ってくるわね。ということで高橋くん。少し壁の方を向いていてくれるかしら?」
「どうしてです? 着替えるのは脱衣所でしょう?」
「下着を取るのよ。しまってある場所を知られるのは恥ずかしいものなのよ?」
「そうなんですね。分かりました」
ということで壁の方を向いていると、後ろでガサゴソし始めた。そして少しして止むと、前を向いて良いと許しが出たので元に戻った。すると僕の着替えも準備されていた。
「それじゃお風呂に入ってくるから、中村さんと仲良くね」
「はい。着替えありがとうございます」
それから芹乃さんは浴室に入っていった。
訪れた芹乃さんの家。
そして僕は芹乃さんが買ったPS5の設定をした。芹乃さんもまた他に買ったものを整理し終えてくつろごうとしている時だった。
「お、お疲れ様です……中村さん」
「……ん?」
夜も遅い中で中村さんがやってきたのだ。
ここにいるはずもない僕がいたことで中村さんの動きが、というか思考が停止したようでしばらく僕と見つめ合った状態となった。
その沈黙を破ったのは中村さんだった。
「どうして高橋くんがここにいるの? ここは芹乃さんの家よ?」
「はい。分かってます。逆に、どうして中村さんがここに?」
「私は少し前に芹乃さんから急に家で飲まないかって誘われて」
芹乃さんがあの時車の中でスマホをいじっていたのは、どうやら中村さんを呼び出していたということだったようだ。
「うーん……まぁいいや。芹乃さん、ちょっと来て。高橋くんは少し待っててね」
「はい」
それから中村さんは芹乃さんを連れて外に出て行った。
***
「説明してもらうわよ? 芹乃さん」
「もちろんです……」
芹乃加奈は今頃になって中村を呼び出してしまったことを後悔した。いや、罪悪感でいっぱいになった。
なぜなら中村には真実を伝えず、単にいつもの感じで飲みにこないかと誘ったのだから。また、もし今自分が陥っている状況を説明したら来ないに違いないと思い、なによりも高橋を何が何でも家に帰すように言うだろうと思ったからだった。そうなれば話が長くなり、それを見ている高橋は本当に帰る可能性が高くなるのだ。
芹乃からしても今日この日はまだ高橋と一緒にいたかった。だから本音としては帰したくはなかったのだ。とはいえあの時は気が動転していた。だからこんなことになってしまったのである。
ということで芹乃が中村に事の経緯を説明した。
「嘘はついてない?」
「全部本当のことです。嘘をついてまで高橋くんを家につれてこないです。でも、いざつれて行くってなったらどうしようって思っちゃって、それで万が一のことを考えて中村さんを呼んだんです」
「ふーん。万が一って、つまりそういうことよね?」
「……」
「無言の肯定ね。もう一つ聞くわね。高橋くんは本当に鈴谷さんと別れるって言ったのよね? これが嘘だったらあの時以上の修羅場を見ることになるわよ?」
「それも本当です。高橋くんの口から言っていたので私から言わせたということもありません。もちろん聞き返しました。それでも確かに別れると言っていました」
「そう」
二人の様子はまるで警察と容疑者のようだった。
それほどまでに中村は慎重に事の真偽を確かめ、それでいてこれから先において高橋と芹乃が変な事に巻き込まれないかどうかを考えつつもその可能性を消していくように質問をしていた。
中村はしばらく考えながら外の遠くの方を見ていた。それからまた少しして芹乃の方に向きなおった。
「……分かった。今回はもうつれてきちゃったんだし仕方ないわ。でも、高橋くんはあの人と別れるとは言っていてもまだ付き合っていることには変わりはないんだからね? 完全に別れたということが確認出来るまでは何もしないこと。分かった?」
「分かってます。もうあんな修羅場は嫌ですので。それに、高橋くんは今日初めて私の家に来たので、それで何かするなんてことはないと思います」
「高橋くんが何もしなくても、芹乃さんが何かをするかもしれないのよ。私はその心配をしているの」
「しませんよ。万が一にもそうならないように中村さんを呼んだんですよ」
「それはつまり一人だとどうなるか、自分でも自分をコントロール出来なくなる可能性があるってことよね?」
「だって高橋くんがまだ家に帰りたくないっていうものですから。それに私はまだ……」
彼が好きだから。
そう言おうとしたところで恥ずかしくなって口を閉じたのだった。
「……まぁ、いいわ。今日のところは芹乃さんのストッパーとしてここにいてあげるから。でも、逆に高橋くんが芹乃さんに変な事をしようとしても止めるからね? あなたがいくら望んでいても今回は絶対に止めるからね?」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、今日はどうするの? 時間も時間だけど、高橋くんは泊めていくの?」
「それは……お酒を飲んだら車の運転は出来ないですし。中村さんも飲んで泊まっていくつもりで来たんですよね?」
「そうだけど。……仕方ない。一人で帰すわけにもいかないから泊まってもらおうか。でもご両親には連絡させるのよ?」
「はい、それはもちろん」
二人は今日この後の事の決め事を定めると、再び部屋に戻った。
****
「高橋くん、ごめんね。とりあえず事情は聞いたわ」
二人が戻ってくると、中村さんが口を開いた。
どうやら中村さんは今日の僕と芹乃さんの状況と、僕が今おかれている状況を把握したようだ。きっとさっき芹乃さんから聞いたのだろう。そして自分がなぜここに来たのかもあらためて説明してくれた。
「分かりました。知ってはいましたが、中村さんは芹乃さんとそれなりの頻度で飲んでいるようなので今回もそれなんですね。それで、芹乃さんは僕と二人だけで家にいると僕が変に気を遣いそうだからと中村さんを呼んだのだと。それで、ついでだから酒を飲もうと。そういうことですね?」
「そうよ。だから持ってきたのよ」
芹乃さんは僕が中村さんと話している間は特に何も言わずに見ていた。
それから中村さんは手に持っているレジ袋をテーブルに置くと、そこから酒の瓶と缶チューハイを取り出して見せてきた。
「だからね、高橋くんには悪いんだけど今日はこのまま泊まってもらうからね? お酒を飲んだら誰も運転出来ないし、なんやかんやでここから駅までは離れているから歩いて帰るのは大変だし。ということで、高橋くんはご両親に泊まる事を連絡してね。あ、でも私の家に泊まるとは言わないで。友達の家に泊まるって言ってくれると助かるかな」
「分かりました。その辺は大丈夫ですよ。もう大学生なので急に友人の家に泊まるなんてことはありますし、それくらいでどうこう言う親じゃないです。それに、最初のLINEででも泊まるならそれでいいって言われましたし」
「そう。男の子って案外そんなものなのね」
芹乃さんは安堵した様子だった。同時に中村さんもそんな芹乃さんを見て安心したようだった。
「ということで、高橋くんと芹乃さんはもうご飯は食べちゃったのよね?」
「はい。でもお酒なら飲みます」
「それは嬉しいわね。前は芹乃さんだけ飲まなかったから寂しかったけど、これで三人で飲めるわね」
「中村さんは飲み過ぎて帰りはぐっすりだったじゃないですか」
「まぁそういうこともあったわね。どうする? もう飲んじゃう? それか先にお風呂に入ってきちゃう?」
「風呂ですか? いや、さすがに借りるのは…… ねぇ? 芹乃さん」
「貸してあげるわよ。夕飯がハンバーグだったわけだし、それこそ髪とかには油が付いてるわよ。入らなかったら明日はギトギトかもしれないわよ? 別に遠慮しなくていいわ」
「そうですか。まぁそういうことならお言葉に甘えて。でも急だったので他に服は持っていませんよ?」
「それも貸してあげるわよ。オーバーサイズの服が一式あるし」
「ありがとうございます」
いくらオーバーサイズでもメンズとレディースでは大分サイズは変わるぞ?
まぁその辺りは仕方ない。あるだけいいし、貸してくれるのだから文句は言えない。
「あ、でも先に入るのは芹乃さんでどうぞ。家主よりも先に入るのはさすがに違うと思うので」
「そう。そういうことなら私が先に入ってくるわね。ということで高橋くん。少し壁の方を向いていてくれるかしら?」
「どうしてです? 着替えるのは脱衣所でしょう?」
「下着を取るのよ。しまってある場所を知られるのは恥ずかしいものなのよ?」
「そうなんですね。分かりました」
ということで壁の方を向いていると、後ろでガサゴソし始めた。そして少しして止むと、前を向いて良いと許しが出たので元に戻った。すると僕の着替えも準備されていた。
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「はい。着替えありがとうございます」
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