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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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「昨日と一昨日はありがとうございました」
中村さんとバイトの休憩時間が被ったのでお礼を告げた。
そんな中村さんは一瞬何のことだか分からない顔をしていたが、少しして
「あぁ、私は別にいいのよ。特に何もしていなかったし。お礼は芹乃さんに言ったら?」
と言った。
そんな中村さんの顔は少しだけ浮腫んでいた。一昨日から昨日にかけての酒の影響にしてはだいぶ残っているなと思ったので、これはきっと昨日もあれから一人で飲んだのだろうということが想像出来た。
それにしても、芹乃さんは浮腫んでいなかったのでこの差はなんだろうと思っていると、中村さんは芹乃さんよりも年上であることを思い出した。
「芹乃さんには今朝LINEで伝えました。実際あの日―」
「高橋くん」
「はい」
続きを言おうとした時、まるで待ったと言っているかのように制止させてきた。そして中村さんが先に口を開くと、周りに誰もいないことを確認してから小さな声で言った。
「あの日のことはここで大声で言ったら駄目よ?」
「どうしてですか?」
「確かに今日はあの子はいないけど、こういう情報はどこから漏れるか分からないものなのよ? 何かがあった時に不利な状況になるのは嫌でしょ?」
「まぁそうですね」
「なら、そういう話題は時と場合を選ばないとね。それこそ、芹乃さんにもあらぬ疑いが掛けられかねないし」
「分かりました。忠告ありがとうございます」
「いいのよ。それに、あの日のこともいいのよ」
中村さんはそう言って僕のお礼だけでも汲み取ってくれた。そこで僕は話を換えてある事を伝えた。
「鈴谷さんとのことなんですけど」
「うん。もしかして前に来ていたLINEで気が変わったとか?」
「いえ、いい機会を得たので終わらせる目途が立ちました」
「へぇ。それなら良かった。で、そのいい機会って?」
「はい。実は―」
そこで僕はLINEでの会話の内容や明日会って話をするということを伝えた。
「そう。確かにいい機会ね。でも明日で終わらせられる勝算というか、自信はあるの?」
「それは、はい。切り札を用意してあるので大丈夫かなと思います」
「少し気になるわね。それは何?」
「いや、流石にそれは言えませんよ。でも全部が終わったら切り札の正体を明かします」
「ふーん。ちなみに芹乃さんは知ってるの?」
「僕が明日鈴谷さんと話すことをですか?」
「それもだけど、その切り札ってやつ」
「話すことは知らないです。なにせバイトに来る前に急に決まったことですから。切り札は知ってますね」
「そう。その切り札については何か言ってなかった?」
「いえ、なにも」
「そう。なら危険な方法ではなさそうね」
「それはそうですよ。これを使うことで芹乃さんや、ましてや中村さんにだって迷惑をかけたりはしませんので安心してください」
「私への配慮は別にいいんだけど、せめて芹乃さんには明日話をするってことは伝えておいたほうがいいんじゃない? だって高橋くんのあの決断を最初に聞いたのは芹乃さんでしょ? きっと芹乃さんも高橋くんがいつ行動をするのか気になっているだろうし」
「分かりました。芹乃さんにはバイト後に連絡します」
「それがいいわ。それで、全部終わったらそれもちゃんと伝えるのよ?」
「はい。それはもうしっかりと」
僕がそう言うと中村さんは微笑んだ。というか、少し安心した顔になった。
「ちなみに、今日も芹乃さんと飲むんですか?」
「飲まないわよ。実はさっき誘ってみたんだけど、なんか明日は用事があるって言われて断られちゃったのよ。だから今日は帰ったら一人で飲むわ」
「ほどほどにしてくださいね。それこそ、浮腫みますよ?」
「そうなんだよね。でも仕事終わりのお酒は美味しいからやめられないのよ」
確かに一昨日の中村さんは美味しそうに飲んでたもんな。僕も中村さんと同じくらいになったら分かるようになるのだろうか。
「あ、ちなみにだけど、私からは高橋くんが明日あの事の話をするってことは芹乃さんに言わないからね? だから高橋くんが忘れてもどうにかなっていましたなんてことはないからね?」
「してくれないんですか?」
「しないわよ」
「まぁ、そういう冗談は置いておいて、大丈夫ですよ。ちゃんと僕が伝えますから」
「それならいいわよ」
そんなこんなで話をしていると、あっという間に休憩時間が終了した。なので中村さんが先に仕事に戻っていった。僕はというと、仕事が終わった時に連絡を忘れるのが怖かったので、今このタイミングで芹乃さんにLINEを送ることにした。
きっと仕事中かもしれないからまだ既読は付かないだろうけど。
***
バイトが終了してスマホを見たらLINEが二つ来ていた。
一つは真由である。明日の確認と、それに併せて同棲のことをもう一回ちゃんと考えてほしいという内容だった。
それは何も言わずに、明日は時間通りにファミレスでという内容と実際に話してからどうなるかであるという内容で返信した。
もう一つが芹乃さんからだった。
そっちはやはり僕が明日真由との関係を終わりにする件は大丈夫なのかという内容だった。
大丈夫もなにも、僕としては特に心配していなかった。それに、どうにも話にならなかった時のための切り札もあるわけだし。
もちろんその切り札というのは、昨日の帰りに芹乃さんの車の中から見た真由と見知らぬおじさんが仲睦まじく歩いている様子を撮ったものである。いわゆるパパ活というやつをしていた証拠写真だ。
でもなんだろう。芹乃さんのこの文面の感じからして別のことを心配をしている感じがするんだよな。気のせいならいいんだけど、やっぱり気になるな。
ということで一旦は芹乃さんの方のLINEは返信せずに帰路に着き、帰宅後にやることを済ませてから返信することにした。
『お疲れ様です。明日は大丈夫だと思いますよ。写真もあるので』
あとはもう寝るだけの状態になってから自分の部屋でそう返信すると、案外すぐに既読が付いた。
そのまま反応を待っていると、まずはおつかれさまというスタンプが送られてきた。そして文面が続いた。
『高橋くん的には大丈夫って思うわよね。でもなんだろうね、何かが引っかかるのよね。これを言われたら高橋くんはきっと困るだろうなってやつが』
『そうですか?』
『そうよ。私の勘が、というよりも女の勘がそう言ってるのよ』
『それは当たるんですか?』
『こういう時の私の勘は外れないわ。だって前に私が、高橋くんはあの人と一緒にいても幸せになれないって言ったけど、それも勘からくるものだったのよ? 実際に幸せじゃなかったからこうして別れることにしたんでしょ?』
『まぁ確かにそうですけど。それなら、その勘って今回はどういうことを言ってるんですか? そこんところを詳しく知りたいですね』
『そうねぇ…… それが分からないのよ。ただ、そう感じるってだけ。でもそう感じているってことは、きっと私が見てきたことが関係しているはずなのよ』
そこで芹乃さんはまるで考えている様子のスタンプを送ってきた。
一説では、というか都市伝説みたいな部類で女の勘は恐ろしいものだと聞いたことがある。男には無いそんな超能力みたいなそれは、時として予言にも近いとかなんとか。
なら何にそんな勘が働いているのだろうか。と僕も考えるけれど、男だからか全く想像が出来なかった。
『私があの人の立場で、別れ話になったとして、高橋くんが切り札の写真を出すのよね。きっとそこまでは上手くいくと思うの。上手くいくっていうと語弊があると思うけど、ほぼその流れになると思うのね。そこからどうなるのかなのよ』
『ですね。なんやかんやで切り札は使うことになると思うのでその流れはほぼ確定でしょう』
『うん。ねぇ、その切り札の写真を一回私に送ってみてくれない? そうしたら何かが分かるかも』
『分かりました』
ということで僕はその写真を送ってみた。すると、少ししてからLINEではなく電話がかかってきた。
どうやら何か思いついたのか、勘の正体がはっきりしたのかもしれない。
「もしもし」
「あ、急にごめんね。今は大丈夫?」
「はい。部屋に一人なので大丈夫です」
「そう。それで、分かったのよ。きっと高橋くんはこれを言われたら返答に困ると思うわ」
まさに確信を得た声音だった。
でもなんだろう。何かは分からないが男が困りそうな事に気が付く芹乃さんは少し怖いなぁ。でも今は味方だから心強いけど。
「それとはいったい」
「それじゃ言うわね。―これってどこから撮ったの? なんか窓ガラスと変な枠みたいなものが映ってるけど。高橋くんは車を持っていなかったよね? 誰の車?」
そう言われて僕はすぐにその写真を確認した。
すると、確かに車の中だと分かるような窓の形だとかその端の枠や、なんならボンネットまで少し映ってしまっていた。
「確かにそれを言われたら痛いですね。というか困りますね」
「でしょ? もしこうなったら、高橋くんはあの人と別れるために話をしていたはずなのにいつの間にか自分の潔白を証明することに集中しなければならなくなるのよ。そうなったらもう別れるどころじゃなくなるし、なんなら、お互いに何も見なかったことにしてあげるから、その条件として同棲ねっていう方向にも持っていかれかねないわよ?」
「本当になりそうで恐ろしいです。というか、潔白って言いましたけど僕は潔白ですよ?」
「いやいや、あの人から見たら潔白じゃないわよ。だって今はまだあの人と付き合っているんでしょ? なのにあの人の知らないところで私の家に来て、なんなら今だってこうして話をしているし明日は一緒にゲームをするじゃない? あの人からしたら、というか、人によっては浮気に値する行為よ? まぁ、それをさせてしまっている私も私なんだけどさ。つまりね、高橋くんはそんなことも根掘り葉掘り聞かれる可能性があるの」
そう言われて納得してしまった。
たしかに僕のこれは潔白とはほど遠い行動だよな。それなのに真由のあれだけを詰めていくのはなかなかに至難の技だろう。ならば、僕の落ち度を知られるわけにはいかない。ましてや芹乃さんが発見した、写真に写っているそれらに注意が向かないようにしないといけないのだ。でないと……いや、そんな未来は起こしてはいけないのだ。
「だったらどうします? 切り札が無くてもどうにかなる可能性はありますけど、絶対に長期化しますよ?」
「大丈夫よ。私に任せて。ということで一旦切るわね。出来たらまた電話するから待ってて」
そこで電話が切れた。
いったいどうやってこの状況を打破するのだろう。
僕はそんな疑問を抱きながら芹乃さんの電話を待った。
中村さんとバイトの休憩時間が被ったのでお礼を告げた。
そんな中村さんは一瞬何のことだか分からない顔をしていたが、少しして
「あぁ、私は別にいいのよ。特に何もしていなかったし。お礼は芹乃さんに言ったら?」
と言った。
そんな中村さんの顔は少しだけ浮腫んでいた。一昨日から昨日にかけての酒の影響にしてはだいぶ残っているなと思ったので、これはきっと昨日もあれから一人で飲んだのだろうということが想像出来た。
それにしても、芹乃さんは浮腫んでいなかったのでこの差はなんだろうと思っていると、中村さんは芹乃さんよりも年上であることを思い出した。
「芹乃さんには今朝LINEで伝えました。実際あの日―」
「高橋くん」
「はい」
続きを言おうとした時、まるで待ったと言っているかのように制止させてきた。そして中村さんが先に口を開くと、周りに誰もいないことを確認してから小さな声で言った。
「あの日のことはここで大声で言ったら駄目よ?」
「どうしてですか?」
「確かに今日はあの子はいないけど、こういう情報はどこから漏れるか分からないものなのよ? 何かがあった時に不利な状況になるのは嫌でしょ?」
「まぁそうですね」
「なら、そういう話題は時と場合を選ばないとね。それこそ、芹乃さんにもあらぬ疑いが掛けられかねないし」
「分かりました。忠告ありがとうございます」
「いいのよ。それに、あの日のこともいいのよ」
中村さんはそう言って僕のお礼だけでも汲み取ってくれた。そこで僕は話を換えてある事を伝えた。
「鈴谷さんとのことなんですけど」
「うん。もしかして前に来ていたLINEで気が変わったとか?」
「いえ、いい機会を得たので終わらせる目途が立ちました」
「へぇ。それなら良かった。で、そのいい機会って?」
「はい。実は―」
そこで僕はLINEでの会話の内容や明日会って話をするということを伝えた。
「そう。確かにいい機会ね。でも明日で終わらせられる勝算というか、自信はあるの?」
「それは、はい。切り札を用意してあるので大丈夫かなと思います」
「少し気になるわね。それは何?」
「いや、流石にそれは言えませんよ。でも全部が終わったら切り札の正体を明かします」
「ふーん。ちなみに芹乃さんは知ってるの?」
「僕が明日鈴谷さんと話すことをですか?」
「それもだけど、その切り札ってやつ」
「話すことは知らないです。なにせバイトに来る前に急に決まったことですから。切り札は知ってますね」
「そう。その切り札については何か言ってなかった?」
「いえ、なにも」
「そう。なら危険な方法ではなさそうね」
「それはそうですよ。これを使うことで芹乃さんや、ましてや中村さんにだって迷惑をかけたりはしませんので安心してください」
「私への配慮は別にいいんだけど、せめて芹乃さんには明日話をするってことは伝えておいたほうがいいんじゃない? だって高橋くんのあの決断を最初に聞いたのは芹乃さんでしょ? きっと芹乃さんも高橋くんがいつ行動をするのか気になっているだろうし」
「分かりました。芹乃さんにはバイト後に連絡します」
「それがいいわ。それで、全部終わったらそれもちゃんと伝えるのよ?」
「はい。それはもうしっかりと」
僕がそう言うと中村さんは微笑んだ。というか、少し安心した顔になった。
「ちなみに、今日も芹乃さんと飲むんですか?」
「飲まないわよ。実はさっき誘ってみたんだけど、なんか明日は用事があるって言われて断られちゃったのよ。だから今日は帰ったら一人で飲むわ」
「ほどほどにしてくださいね。それこそ、浮腫みますよ?」
「そうなんだよね。でも仕事終わりのお酒は美味しいからやめられないのよ」
確かに一昨日の中村さんは美味しそうに飲んでたもんな。僕も中村さんと同じくらいになったら分かるようになるのだろうか。
「あ、ちなみにだけど、私からは高橋くんが明日あの事の話をするってことは芹乃さんに言わないからね? だから高橋くんが忘れてもどうにかなっていましたなんてことはないからね?」
「してくれないんですか?」
「しないわよ」
「まぁ、そういう冗談は置いておいて、大丈夫ですよ。ちゃんと僕が伝えますから」
「それならいいわよ」
そんなこんなで話をしていると、あっという間に休憩時間が終了した。なので中村さんが先に仕事に戻っていった。僕はというと、仕事が終わった時に連絡を忘れるのが怖かったので、今このタイミングで芹乃さんにLINEを送ることにした。
きっと仕事中かもしれないからまだ既読は付かないだろうけど。
***
バイトが終了してスマホを見たらLINEが二つ来ていた。
一つは真由である。明日の確認と、それに併せて同棲のことをもう一回ちゃんと考えてほしいという内容だった。
それは何も言わずに、明日は時間通りにファミレスでという内容と実際に話してからどうなるかであるという内容で返信した。
もう一つが芹乃さんからだった。
そっちはやはり僕が明日真由との関係を終わりにする件は大丈夫なのかという内容だった。
大丈夫もなにも、僕としては特に心配していなかった。それに、どうにも話にならなかった時のための切り札もあるわけだし。
もちろんその切り札というのは、昨日の帰りに芹乃さんの車の中から見た真由と見知らぬおじさんが仲睦まじく歩いている様子を撮ったものである。いわゆるパパ活というやつをしていた証拠写真だ。
でもなんだろう。芹乃さんのこの文面の感じからして別のことを心配をしている感じがするんだよな。気のせいならいいんだけど、やっぱり気になるな。
ということで一旦は芹乃さんの方のLINEは返信せずに帰路に着き、帰宅後にやることを済ませてから返信することにした。
『お疲れ様です。明日は大丈夫だと思いますよ。写真もあるので』
あとはもう寝るだけの状態になってから自分の部屋でそう返信すると、案外すぐに既読が付いた。
そのまま反応を待っていると、まずはおつかれさまというスタンプが送られてきた。そして文面が続いた。
『高橋くん的には大丈夫って思うわよね。でもなんだろうね、何かが引っかかるのよね。これを言われたら高橋くんはきっと困るだろうなってやつが』
『そうですか?』
『そうよ。私の勘が、というよりも女の勘がそう言ってるのよ』
『それは当たるんですか?』
『こういう時の私の勘は外れないわ。だって前に私が、高橋くんはあの人と一緒にいても幸せになれないって言ったけど、それも勘からくるものだったのよ? 実際に幸せじゃなかったからこうして別れることにしたんでしょ?』
『まぁ確かにそうですけど。それなら、その勘って今回はどういうことを言ってるんですか? そこんところを詳しく知りたいですね』
『そうねぇ…… それが分からないのよ。ただ、そう感じるってだけ。でもそう感じているってことは、きっと私が見てきたことが関係しているはずなのよ』
そこで芹乃さんはまるで考えている様子のスタンプを送ってきた。
一説では、というか都市伝説みたいな部類で女の勘は恐ろしいものだと聞いたことがある。男には無いそんな超能力みたいなそれは、時として予言にも近いとかなんとか。
なら何にそんな勘が働いているのだろうか。と僕も考えるけれど、男だからか全く想像が出来なかった。
『私があの人の立場で、別れ話になったとして、高橋くんが切り札の写真を出すのよね。きっとそこまでは上手くいくと思うの。上手くいくっていうと語弊があると思うけど、ほぼその流れになると思うのね。そこからどうなるのかなのよ』
『ですね。なんやかんやで切り札は使うことになると思うのでその流れはほぼ確定でしょう』
『うん。ねぇ、その切り札の写真を一回私に送ってみてくれない? そうしたら何かが分かるかも』
『分かりました』
ということで僕はその写真を送ってみた。すると、少ししてからLINEではなく電話がかかってきた。
どうやら何か思いついたのか、勘の正体がはっきりしたのかもしれない。
「もしもし」
「あ、急にごめんね。今は大丈夫?」
「はい。部屋に一人なので大丈夫です」
「そう。それで、分かったのよ。きっと高橋くんはこれを言われたら返答に困ると思うわ」
まさに確信を得た声音だった。
でもなんだろう。何かは分からないが男が困りそうな事に気が付く芹乃さんは少し怖いなぁ。でも今は味方だから心強いけど。
「それとはいったい」
「それじゃ言うわね。―これってどこから撮ったの? なんか窓ガラスと変な枠みたいなものが映ってるけど。高橋くんは車を持っていなかったよね? 誰の車?」
そう言われて僕はすぐにその写真を確認した。
すると、確かに車の中だと分かるような窓の形だとかその端の枠や、なんならボンネットまで少し映ってしまっていた。
「確かにそれを言われたら痛いですね。というか困りますね」
「でしょ? もしこうなったら、高橋くんはあの人と別れるために話をしていたはずなのにいつの間にか自分の潔白を証明することに集中しなければならなくなるのよ。そうなったらもう別れるどころじゃなくなるし、なんなら、お互いに何も見なかったことにしてあげるから、その条件として同棲ねっていう方向にも持っていかれかねないわよ?」
「本当になりそうで恐ろしいです。というか、潔白って言いましたけど僕は潔白ですよ?」
「いやいや、あの人から見たら潔白じゃないわよ。だって今はまだあの人と付き合っているんでしょ? なのにあの人の知らないところで私の家に来て、なんなら今だってこうして話をしているし明日は一緒にゲームをするじゃない? あの人からしたら、というか、人によっては浮気に値する行為よ? まぁ、それをさせてしまっている私も私なんだけどさ。つまりね、高橋くんはそんなことも根掘り葉掘り聞かれる可能性があるの」
そう言われて納得してしまった。
たしかに僕のこれは潔白とはほど遠い行動だよな。それなのに真由のあれだけを詰めていくのはなかなかに至難の技だろう。ならば、僕の落ち度を知られるわけにはいかない。ましてや芹乃さんが発見した、写真に写っているそれらに注意が向かないようにしないといけないのだ。でないと……いや、そんな未来は起こしてはいけないのだ。
「だったらどうします? 切り札が無くてもどうにかなる可能性はありますけど、絶対に長期化しますよ?」
「大丈夫よ。私に任せて。ということで一旦切るわね。出来たらまた電話するから待ってて」
そこで電話が切れた。
いったいどうやってこの状況を打破するのだろう。
僕はそんな疑問を抱きながら芹乃さんの電話を待った。
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