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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々
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「久しぶりだな」
「そうだな。って言っても卒業資格の発表の日に部室で会ったでしょ」
引っ越しの準備とバイト、そして実家での残りの日々を過ごしていたらいつの間にか卒業式の日になっていた。
それにしても、三月に入ってから時間が経つのが本当に早いと感じる。
ということで、僕は就活以来のスーツを着て卒業式にやってきた。そしてこれが終われば夜は部活の飲み会だ。これが大学の友人や後輩達と飲む本当に最後の飲み会になる。本当に感慨深いものだ。
「男子はスーツか袴か。でも女子はスーツもいるし和服もいる。やっぱり女子のほうが華があるよな」
「それはそうだよ。でも、男子はシンプルゆえに服装で悩むことがないから楽でいいよね」
「まぁ確かに」
会場に入るまではまだ時間があった。だから外で部活の友人と話していると同期や後輩達がやってきた。
「先輩方、卒業おめでとうございます。これで四月からは社会人もとい、社畜となるんですね」
「嬉しくないお祝いだな。俺はまだ遊んでいたいんだよ。な? 高橋」
「もちろん。正直僕だって働きたくない。ずっとゲームをしていたいし遊んでいたい」
「なら留年します? きっと間に合いますよ」
「絶対無理だろ。学費はどうするんだよ。あと単位も」
「それは知らないです。頑張ってください」
そんなふうにからかってくる後輩とからかわれる同期。
僕や他の友人達もそれらを微笑ましく見ていた。
「あ、翔くんじゃん。お疲れ」
「飯菜。和服なんだね」
「スーツは飽きたし、これからたくさんスーツを着ることになるんだから今日くらいはこっちがいいかなって」
「なるほど。でもそれじゃ煙草は吸えないよな。臭いが付くし」
「それは少し我慢。式が終わったら一回家に帰って着替えてから飲み会に行くから、その時までの辛抱」
「そっか」
すると職員の人が開場を宣言し、それぞれが順番に入場しようとして移動を開始した。
「それでは先輩方。式が終わったら盛大に祝わせていただきますから覚悟しておいてくださいね」
「なんか怖いな。去年の先輩もその前の先輩もとんでもない祝われ方をしたからなぁ」
「それは先輩方への愛ゆえにですよ」
「まぁ、そういうことならほどほどに頼むよ」
「もちろんです」
卒業式が終わったら卒業生達は大学の敷地内を歩いて回るのだ。その際に僕達の部活では例年先輩方を盛大に祝っている。それこそ紙吹雪を飛ばしたり、投げつけたり、胴上げをしたりとやりたい放題してきているのだ。
去年はやる側だったから楽しかったけど、今年はやられる側だから覚悟をしなければならない。
それから僕達卒業生は会場に入場すると決められた席に座った。そこからは小中高校の時とは違って名前を呼んだりはせずに代表者が卒業証書を受け取り、学長が話をして吹奏楽団が演奏をして終了となった。
「先輩方、卒業おめでとうございます!」
会場から出た僕達は予定通り敷地内を歩いた。その際に後輩達からは激しい祝いの気持ちを向けられた。もちろん今回も胴上げだったり紙吹雪の投げつけだったりもあったわけだが、その全てに様々な想いが込められており今までの楽しかった大学生生活を思い出すには十分だった。
***
無事に式や他のスケジュールが終わると、夜の飲み会までは部室で後輩や同期達と話をしたりして過ごした。そして時間になるとぞろぞろと移動を開始し、飲み会の会場、といっても普通の居酒屋なんだけどそこがある駅に集合した。
この集合の時に一回帰った人や和服を着ていた女子達が普通の格好をして再集合した。
「みなさんいますか?」
今日の幹事は完全に後輩達に任せてある。だから僕達は思い思いに飲んで話して楽しむだけなのだ。
ということで点呼をとっている後輩を微笑ましく見ていると、スマホに通知が入った。それを確認するとなんと芹乃さんからだった。
『卒業おめでとう。式が終わってこれから飲み会よね? 最後なんだし羽目を外し過ぎないように楽しんできてね』
ということだった。
それを見て僕は、気にかけてくれていたんだと思って嬉しくなった。
「高橋、何かあったのか? もしかして彼女か?」
「おっさんみたいな絡みをするなって。彼女じゃないけどバイト先とかでお世話になった人だよ」
「女性か?」
「まぁ」
「年上? 年下? 同い年?」
「年上」
「お前、本当に年上が好きだよなぁ。前の彼女も年上だっただろ?」
「そうだけど、この人はそうじゃないって。心配して連絡をしてくれたんだ」
「どうだかな」
「本当だって」
そんなふうに友人がからかってきた。すると、少し離れたところから声が聞こえた。
「あ、遅れました。ごめんねぇ」
飯菜の声だった。そしてその隣に目を向けた時、僕は思わず驚いて目が離せなくなった。それに気付いた飯菜が僕にひそかに話しかけた。
「びっくりしたでしょ? 最後だしダメもとで声をかけてみたんだよ。そうしたら来てくれることになったの。翔くんが昔告白した先輩。もしまだ気になってるとか、もう一度話したかったとかなら今日が最後のチャンスだよ」
「って言っても。というかよく来てくれたな。前に聞いた情報だと先輩は今けっこう忙しいって。それに、振った相手がいるのに来てくれるって驚きだよ」
そんな時その先輩と目が合った。それを察した飯菜が僕の背中を押した。そして僕は思いきって話しかけてみることにした。
「あの…お疲れ様です。先輩」
「うん、お疲れ様。最近は元気でやってる?」
「はい、まぁ。先輩はどうですか? お忙しいって聞いてますけど」
「そうだね。少しドタバタしてるよ。でももう少ししたら落ち着くと思うよ」
「そうですか」
先輩はあの時と変わらず優しく接してくれて話してくれた。それが嬉しくもあったけど、僕としてはなんだが少しだけ緊張した。
すると、点呼を取り終えた後輩達を先導に飲み会の会場へ移動が開始された。
この道や風景は部活に入ってから何度も見ているのだが、これももう見納めかと思うとこれもまた少し寂しい。そして後輩や同期達の楽しそうな背中もまたここまでの大人数で見ることはきっともうないだろうと思うと、やはり寂しいものだった。
店に到着するとぞろぞろと中に入っていき適当に席に着いた。無論僕の周りはさっき移動の時に近くにいた人達がいるわけで、飯菜や先輩が隣になった。
それから目の前のテーブルには所狭しと料理と酒が並んで一気に宴会ムードとなった。
「それではみなさん、お酒はありますか」
「こっちはグラスが無いよ」
「あ、すぐに」
幹事の後輩が仕切り始めると、僕達やみんながそれに協力し始めてみんなで場を作った。
「ではあらためまして、先輩方。この度はご卒業おめでとうございます。今日はたくさん飲んでいただいて潰れてください。介抱はしませんので帰りは道に捨てていきますから」
そんなお決まりのようなセリフを聞くと同期達はみな一様に気合いを入れて飲もうといきりたった。
それからあらためて全員に酒が行き渡ったのが確認されると乾杯の音頭とともに飲み会が開始された。
「高橋先輩、おめでとうございます」
「ありがとう」
僕のところにも多くの後輩達が来てくれて乾杯をしていった。そして僕もまた席を練り歩いて同期や後輩、そして他にも来てくれた先輩達とグラスを重ねた。
もちろん隣にいた飯菜と先輩にも。でも先輩はお酒が飲めないのでジュースだった。
「翔くんさ、聞いたけど就活はけっこう大変だったんだって?」
「まぁ。一時はどうなることかと思ったよ」
「だよね。就活浪人はさすがにねぇ。でもYouTubeで生計を立てるってのもあったじゃん?」
「あれが出来るのは本当に限られた人だけ。確かに収益化の審査はおりてるしスパチャも貰ってるけど、それでも生計となると難しいよ」
「そっか。先輩知ってました? 翔くんがYouTubeをやってること」
「うん。前に教えてくれたよね。それで私もたまに観てるよ。色々と大変そうだけど頑張ってて偉いなって思うよ」
「いやぁ、ありがとうございます。というか先輩が観てくれているなんて知りませんでした。ユーザー名とかって聞いても?」
「それは恥ずかしいから秘密。でもどこかにいるからね」
なんか恥ずかしいな。でも嬉しいな。これは本当に下手なコメントも配信も出来なくなったな。
色々と話しているうちに全体的に酒が進んでいく。
すると、同期の一人が言った。
「誰だよ、こんなに頼んだの」
「えっ? 先輩達が飲みたいって」
すると店員の人がトレーに大量のグラス、ウイスキーがロックで注がれたものを運んできたのだ。そしてそれをまとめてテーブルに置いていった。
これも恒例行事だった。そう、これらをみんなで分け合って一気に飲み干すのだ。
ちなみに酒が弱い人は大体これで潰れてしまう。
「翔。お前ももちろんやるよな?」
「高橋先輩は逃げませんからやりますよね?」
そんな流れで呼ばれるのも恒例である。
こうなったらもう逃げることは出来ない。だからその渦中へ行くとあれよあれよと言う間にグラスを持たされ、
「乾杯!!」
の言葉とともに一気に飲み干した。
まぁもはや慣れたもので、僕はこの一回や二回で潰れるほどではない。もちろんそんな回数で終わるわけもなく、三回四回、多い時で十回くらいやった時もあった。もちろんその時は潰れたわけだが。
「おかえり。大丈夫だった?」
「はい。もう恒例ですので」
席に戻るとそれらを見ていた先輩が少し心配の目を向けてくれた。
「翔くん、もう一回」
その渦中には飯菜もいてグラスを二つ持っていた。もちろん一つは僕の分に違いない。
さらに後輩達も呼んでいた。なのでこれは行かないわけにはいかない。
「また行ってきます」
「最後でも無理しちゃ駄目よ?」
その言葉を聞いた途端になぜか芹乃さんからのLINEを思い出した。
確かに無理は出来ないな。それこそ最後とはいえ自力で帰れるくらいにしておかないと。
「はい、ありがとうございます」
ということで二回目に参加した。いや、することになったのでグラスを受け取った。そして
「乾杯!!!」
の合図で一気に飲み干した。
いやぁ、この鼻に抜けていくアルコール感がなかなか。
これも最初の頃はキツかったなぁ。でも慣れたもので時間の流れを感じるよ。
という感じで五回くらい繰り返した。
するとそんな時、幹事の後輩が話し始めた。
「ではここで、卒業される先輩方にプレゼントをしたいと思います。私達の役職から先輩方の役職へ、役職をお待ちでなくてもみんなで渡したいと思います」
「くれるんか? 何かくれるんか?」
少し出来上がってきている同期が期待の眼差しを向けた。
僕はまだ酔ってきてはいないので平気だが、そろそろ飯菜も完成しそうな感じだ。
後輩達はきっと僕らのペースが早かったことと、完全に潰れる前にということで少し予定を早めたのかもしれない。
ということで、役職毎に引き継いだ後輩から順番にプレゼントを受け取っていった。
「次は、高橋先輩!」
呼ばれたので前に出ていくと、役職を引き継いだ後輩が何やら持っていた。そして
「高橋先輩、今までありがとうございました! たくさん勉強しました」
とこの後輩もまた出来上がってきているので顔を赤くしながらも一生懸命に言ってくれた。
「僕もありがとう。それに、役職を引き受けてくれてありがとう。これからは後輩達を指導してやってくれ」
「はい! ありがとうございます。これ、どうぞ。先輩はやっぱりこれかなと思って選びました」
そしてプレゼントを受け取ると、中は僕が好きな漫画の先生の作品の画集だった。
「ありがとう。嬉しいよ」
「先輩! 就職しても暇になったら遊びにきてください!」
そうして僕はその後輩と多くの後輩達に祝福されて席に戻った。
その時に見た全員の顔と景色は今後思い出す度に懐かしいと思うに違いない。
それからも同期達はプレゼントと言葉を受け取っていき、会場のお祝いムードはさらに高くなっていった。
「そうだな。って言っても卒業資格の発表の日に部室で会ったでしょ」
引っ越しの準備とバイト、そして実家での残りの日々を過ごしていたらいつの間にか卒業式の日になっていた。
それにしても、三月に入ってから時間が経つのが本当に早いと感じる。
ということで、僕は就活以来のスーツを着て卒業式にやってきた。そしてこれが終われば夜は部活の飲み会だ。これが大学の友人や後輩達と飲む本当に最後の飲み会になる。本当に感慨深いものだ。
「男子はスーツか袴か。でも女子はスーツもいるし和服もいる。やっぱり女子のほうが華があるよな」
「それはそうだよ。でも、男子はシンプルゆえに服装で悩むことがないから楽でいいよね」
「まぁ確かに」
会場に入るまではまだ時間があった。だから外で部活の友人と話していると同期や後輩達がやってきた。
「先輩方、卒業おめでとうございます。これで四月からは社会人もとい、社畜となるんですね」
「嬉しくないお祝いだな。俺はまだ遊んでいたいんだよ。な? 高橋」
「もちろん。正直僕だって働きたくない。ずっとゲームをしていたいし遊んでいたい」
「なら留年します? きっと間に合いますよ」
「絶対無理だろ。学費はどうするんだよ。あと単位も」
「それは知らないです。頑張ってください」
そんなふうにからかってくる後輩とからかわれる同期。
僕や他の友人達もそれらを微笑ましく見ていた。
「あ、翔くんじゃん。お疲れ」
「飯菜。和服なんだね」
「スーツは飽きたし、これからたくさんスーツを着ることになるんだから今日くらいはこっちがいいかなって」
「なるほど。でもそれじゃ煙草は吸えないよな。臭いが付くし」
「それは少し我慢。式が終わったら一回家に帰って着替えてから飲み会に行くから、その時までの辛抱」
「そっか」
すると職員の人が開場を宣言し、それぞれが順番に入場しようとして移動を開始した。
「それでは先輩方。式が終わったら盛大に祝わせていただきますから覚悟しておいてくださいね」
「なんか怖いな。去年の先輩もその前の先輩もとんでもない祝われ方をしたからなぁ」
「それは先輩方への愛ゆえにですよ」
「まぁ、そういうことならほどほどに頼むよ」
「もちろんです」
卒業式が終わったら卒業生達は大学の敷地内を歩いて回るのだ。その際に僕達の部活では例年先輩方を盛大に祝っている。それこそ紙吹雪を飛ばしたり、投げつけたり、胴上げをしたりとやりたい放題してきているのだ。
去年はやる側だったから楽しかったけど、今年はやられる側だから覚悟をしなければならない。
それから僕達卒業生は会場に入場すると決められた席に座った。そこからは小中高校の時とは違って名前を呼んだりはせずに代表者が卒業証書を受け取り、学長が話をして吹奏楽団が演奏をして終了となった。
「先輩方、卒業おめでとうございます!」
会場から出た僕達は予定通り敷地内を歩いた。その際に後輩達からは激しい祝いの気持ちを向けられた。もちろん今回も胴上げだったり紙吹雪の投げつけだったりもあったわけだが、その全てに様々な想いが込められており今までの楽しかった大学生生活を思い出すには十分だった。
***
無事に式や他のスケジュールが終わると、夜の飲み会までは部室で後輩や同期達と話をしたりして過ごした。そして時間になるとぞろぞろと移動を開始し、飲み会の会場、といっても普通の居酒屋なんだけどそこがある駅に集合した。
この集合の時に一回帰った人や和服を着ていた女子達が普通の格好をして再集合した。
「みなさんいますか?」
今日の幹事は完全に後輩達に任せてある。だから僕達は思い思いに飲んで話して楽しむだけなのだ。
ということで点呼をとっている後輩を微笑ましく見ていると、スマホに通知が入った。それを確認するとなんと芹乃さんからだった。
『卒業おめでとう。式が終わってこれから飲み会よね? 最後なんだし羽目を外し過ぎないように楽しんできてね』
ということだった。
それを見て僕は、気にかけてくれていたんだと思って嬉しくなった。
「高橋、何かあったのか? もしかして彼女か?」
「おっさんみたいな絡みをするなって。彼女じゃないけどバイト先とかでお世話になった人だよ」
「女性か?」
「まぁ」
「年上? 年下? 同い年?」
「年上」
「お前、本当に年上が好きだよなぁ。前の彼女も年上だっただろ?」
「そうだけど、この人はそうじゃないって。心配して連絡をしてくれたんだ」
「どうだかな」
「本当だって」
そんなふうに友人がからかってきた。すると、少し離れたところから声が聞こえた。
「あ、遅れました。ごめんねぇ」
飯菜の声だった。そしてその隣に目を向けた時、僕は思わず驚いて目が離せなくなった。それに気付いた飯菜が僕にひそかに話しかけた。
「びっくりしたでしょ? 最後だしダメもとで声をかけてみたんだよ。そうしたら来てくれることになったの。翔くんが昔告白した先輩。もしまだ気になってるとか、もう一度話したかったとかなら今日が最後のチャンスだよ」
「って言っても。というかよく来てくれたな。前に聞いた情報だと先輩は今けっこう忙しいって。それに、振った相手がいるのに来てくれるって驚きだよ」
そんな時その先輩と目が合った。それを察した飯菜が僕の背中を押した。そして僕は思いきって話しかけてみることにした。
「あの…お疲れ様です。先輩」
「うん、お疲れ様。最近は元気でやってる?」
「はい、まぁ。先輩はどうですか? お忙しいって聞いてますけど」
「そうだね。少しドタバタしてるよ。でももう少ししたら落ち着くと思うよ」
「そうですか」
先輩はあの時と変わらず優しく接してくれて話してくれた。それが嬉しくもあったけど、僕としてはなんだが少しだけ緊張した。
すると、点呼を取り終えた後輩達を先導に飲み会の会場へ移動が開始された。
この道や風景は部活に入ってから何度も見ているのだが、これももう見納めかと思うとこれもまた少し寂しい。そして後輩や同期達の楽しそうな背中もまたここまでの大人数で見ることはきっともうないだろうと思うと、やはり寂しいものだった。
店に到着するとぞろぞろと中に入っていき適当に席に着いた。無論僕の周りはさっき移動の時に近くにいた人達がいるわけで、飯菜や先輩が隣になった。
それから目の前のテーブルには所狭しと料理と酒が並んで一気に宴会ムードとなった。
「それではみなさん、お酒はありますか」
「こっちはグラスが無いよ」
「あ、すぐに」
幹事の後輩が仕切り始めると、僕達やみんながそれに協力し始めてみんなで場を作った。
「ではあらためまして、先輩方。この度はご卒業おめでとうございます。今日はたくさん飲んでいただいて潰れてください。介抱はしませんので帰りは道に捨てていきますから」
そんなお決まりのようなセリフを聞くと同期達はみな一様に気合いを入れて飲もうといきりたった。
それからあらためて全員に酒が行き渡ったのが確認されると乾杯の音頭とともに飲み会が開始された。
「高橋先輩、おめでとうございます」
「ありがとう」
僕のところにも多くの後輩達が来てくれて乾杯をしていった。そして僕もまた席を練り歩いて同期や後輩、そして他にも来てくれた先輩達とグラスを重ねた。
もちろん隣にいた飯菜と先輩にも。でも先輩はお酒が飲めないのでジュースだった。
「翔くんさ、聞いたけど就活はけっこう大変だったんだって?」
「まぁ。一時はどうなることかと思ったよ」
「だよね。就活浪人はさすがにねぇ。でもYouTubeで生計を立てるってのもあったじゃん?」
「あれが出来るのは本当に限られた人だけ。確かに収益化の審査はおりてるしスパチャも貰ってるけど、それでも生計となると難しいよ」
「そっか。先輩知ってました? 翔くんがYouTubeをやってること」
「うん。前に教えてくれたよね。それで私もたまに観てるよ。色々と大変そうだけど頑張ってて偉いなって思うよ」
「いやぁ、ありがとうございます。というか先輩が観てくれているなんて知りませんでした。ユーザー名とかって聞いても?」
「それは恥ずかしいから秘密。でもどこかにいるからね」
なんか恥ずかしいな。でも嬉しいな。これは本当に下手なコメントも配信も出来なくなったな。
色々と話しているうちに全体的に酒が進んでいく。
すると、同期の一人が言った。
「誰だよ、こんなに頼んだの」
「えっ? 先輩達が飲みたいって」
すると店員の人がトレーに大量のグラス、ウイスキーがロックで注がれたものを運んできたのだ。そしてそれをまとめてテーブルに置いていった。
これも恒例行事だった。そう、これらをみんなで分け合って一気に飲み干すのだ。
ちなみに酒が弱い人は大体これで潰れてしまう。
「翔。お前ももちろんやるよな?」
「高橋先輩は逃げませんからやりますよね?」
そんな流れで呼ばれるのも恒例である。
こうなったらもう逃げることは出来ない。だからその渦中へ行くとあれよあれよと言う間にグラスを持たされ、
「乾杯!!」
の言葉とともに一気に飲み干した。
まぁもはや慣れたもので、僕はこの一回や二回で潰れるほどではない。もちろんそんな回数で終わるわけもなく、三回四回、多い時で十回くらいやった時もあった。もちろんその時は潰れたわけだが。
「おかえり。大丈夫だった?」
「はい。もう恒例ですので」
席に戻るとそれらを見ていた先輩が少し心配の目を向けてくれた。
「翔くん、もう一回」
その渦中には飯菜もいてグラスを二つ持っていた。もちろん一つは僕の分に違いない。
さらに後輩達も呼んでいた。なのでこれは行かないわけにはいかない。
「また行ってきます」
「最後でも無理しちゃ駄目よ?」
その言葉を聞いた途端になぜか芹乃さんからのLINEを思い出した。
確かに無理は出来ないな。それこそ最後とはいえ自力で帰れるくらいにしておかないと。
「はい、ありがとうございます」
ということで二回目に参加した。いや、することになったのでグラスを受け取った。そして
「乾杯!!!」
の合図で一気に飲み干した。
いやぁ、この鼻に抜けていくアルコール感がなかなか。
これも最初の頃はキツかったなぁ。でも慣れたもので時間の流れを感じるよ。
という感じで五回くらい繰り返した。
するとそんな時、幹事の後輩が話し始めた。
「ではここで、卒業される先輩方にプレゼントをしたいと思います。私達の役職から先輩方の役職へ、役職をお待ちでなくてもみんなで渡したいと思います」
「くれるんか? 何かくれるんか?」
少し出来上がってきている同期が期待の眼差しを向けた。
僕はまだ酔ってきてはいないので平気だが、そろそろ飯菜も完成しそうな感じだ。
後輩達はきっと僕らのペースが早かったことと、完全に潰れる前にということで少し予定を早めたのかもしれない。
ということで、役職毎に引き継いだ後輩から順番にプレゼントを受け取っていった。
「次は、高橋先輩!」
呼ばれたので前に出ていくと、役職を引き継いだ後輩が何やら持っていた。そして
「高橋先輩、今までありがとうございました! たくさん勉強しました」
とこの後輩もまた出来上がってきているので顔を赤くしながらも一生懸命に言ってくれた。
「僕もありがとう。それに、役職を引き受けてくれてありがとう。これからは後輩達を指導してやってくれ」
「はい! ありがとうございます。これ、どうぞ。先輩はやっぱりこれかなと思って選びました」
そしてプレゼントを受け取ると、中は僕が好きな漫画の先生の作品の画集だった。
「ありがとう。嬉しいよ」
「先輩! 就職しても暇になったら遊びにきてください!」
そうして僕はその後輩と多くの後輩達に祝福されて席に戻った。
その時に見た全員の顔と景色は今後思い出す度に懐かしいと思うに違いない。
それからも同期達はプレゼントと言葉を受け取っていき、会場のお祝いムードはさらに高くなっていった。
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