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第6話 好きな食べ物

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「ただいま」
「おかえりなさい」

 今日も彼女は帰りの遅い俺を待っていてくれた。しかし、今日はまだ料理ができてないのか、エプロン姿のままであった。

「ごめんね、今日はちょっと時間かかっちゃってね。今できるよ」
「そんな無理はしなくていいのに」
「そういうわけではなくてね、私が食べたくなった料理がたまたま時間がかかるものだっただけ」
「そうか、楽しみだな」

 そんなに手のかかる料理とは一体何で何なのか気になるし、楽しみになる。
 
「ちょっと座って待ってて」
 
 自分の席に座って待つことにする。いつもなら横になりたくなるのだが、最近は彼女が料理を作ってくれるので仕事の疲労がだいぶとれている気がする。そのため、待つために横になる方が億劫である。

 待つこと数分、

「はい、お待たせ」
「おー、コロッケか」
「どうぞ、召し上がれ」

 目の前に出されたのはコロッケであった。実際お惣菜でない限りは結構手間がかかるので出来立てを食べれるのは久しぶりである。そして、目の前にあるコロッケはしっかりと形が均一であり、茶色というより黄金色に近いきれいな色をしていた。そして、なんといっても出来立てであることがわかるように湯気が立っている。
 

 一口食べてみる。これはうまい。一口噛めばサクサクの衣が音を上げ、なかのじゃがいもの風味が口全体に広がる。もちろん熱々である。

「あっつ」
「も~出来立てなんだから気を付けてよ」

 正直やけどするのはわかっていたけど、こんなにおいしそうなものにかぶりつかない方が無理である。まあ、食べ終わったら口の中は相当痛いだろうけど。

「久しぶりに食べた」
「だよね、作るのもなかなか工程がいるから避けがちなんだよね」

 俺は料理をそんなにするわけではなく、詳しいことはわからないが、コロッケの構造上やることが多くなるのはわかる。

「あっこっちのやつとかも食べて」
「こっちのやつ?」

 これはもしかして中身が違うやつってことか?それは時間がかかるわけだ。

「じゃあ、これもらうかな」

 口に入れ噛んだ途端、中からクリームがあふれてくる。そして、そのクリームはカニの風味も混じっている。

「カニクリームコロッケか!本当に手が込んでるね」
「そうでしょ、頑張ったんだよ」

 そして、カニクリームコロッケ以外にもコーンクリーム、メンチコロッケもあるそうだ。大盤振る舞い過ぎてうれしすぎる。

「急にこんなにたくさん作ろうと思ったんだ?」
「えー、私が食べたくなったから?」
「何で疑問形なんだよ」

 まあ、本人が食べたかったならそうなんだろう。これ以上聞くのも野暮だろう。

 いろいろな種類のコロッケを味わっていると、

「まあ、私が食べたかったのはあるけどあなたの好きな食べ物がわかんないから、思い切っていろいろ試そうと思ったの」
「えっ」

 彼女の突然の告白に俺は何を話していいかわからなくなる。

「いやね、聞いてない私も悪いんだけど、教えてくれるかなって考えちゃってさ」
「ふっ」
 
 彼女の照れながらもじもじと話している姿が、いつもの気が強い感じとはかけ離れていて少し面白く感じてしまった。

「何で笑うのよ!」
「そりゃ、普段そんなこと言わない君が急にそんなことを言ったら面白いじゃないか」

 彼女は悔しそう表情をしながらも黙ってしまう。図星なんだろうな。

「そうだな、好きな食べ物は煮物かな」
「どうしたのさ、私が哀れになって仕方なく答えたってわけ?」
「そんなわけないだろ。そういえば言ってなかったなって思ってさ」
「そう…」
「あ、あとは今日新しく好きな食べ物はコロッケってのも追加されたな」

 彼女は俺の言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべた。

「お世辞じゃないでしょうね?」
「何でここでうそをつかないといけないんだよ」
「それもそうね!」

 彼女は満面の笑みのまま夕食を再開した。俺もそろそろ食べないと冷めるから食べないとな。


「ごちそうさまでした。すごくおいしかったよ」
「お粗末様でした。まあ私の料理は嗜好品に通ずるものがあるからね」

 すごくドヤ顔である。ここでなんか言うと怒られそうなので今回は黙っておくとしよう。

「あ、そうだわ。ちなみに私の好きな食べ物はスイーツ系とお寿司ね」
「なんだよ急に」
「なんでしょうね」

 これは食べさせてねってことだろうな。普段お世話になってるし今度連れていくしかないよな。

「わかったよ、今度の休みに連れて行けばいいんだろ」
「わかってるじゃない」

 仕方ないから高い店に行くとするか。いい感じの寿司屋探しておくとしよう。


 次の休みの日、回らない寿司屋に連れていき、数万円飛んだのはまた別の話である。
 
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