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第8部 ストーリー類型

2 ストーリー類型論(1)

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 なろう小説のストーリーは、下記のように類型化することができるが、複数の類型(要素)を複合して執筆するのが普通なので、ある作品を一つの類型に特定することは困難である。ただし、大枠(基本的枠組み)の途中のエピソードに別の類型を採用しているケースも少なくないが、あくまで大枠とは峻別して捉えるべきである。
 総じて、スキル・ジョブが登場する作品については、生涯1つしか得られないスキル等という不自然な設定は向き不向きはあれど訓練すれば複数の技能を得られたり転職が可能な現実世界からはかけ離れているし、強いスキルがあれば必ず効果を発揮できるとするのも不自然なので、リアリティを重視する読者には不人気である。
 また、ステータスが登場する作品は、ステータスの数値表を毎度記載することになるため、字数の水増しだとする批判を受けやすく、スキル・ジョブ同様不自然であるため、リアリティを重視する読者には不人気である。
 テンプレとして批判されがちなのは、人気ランキングトップ10を独占しがちな、単純冒険系、狭義のいきなり最強系、無自覚最強系、冒険者成り上がり系、非花形系(外れスキル系)、追放系各種である。
(1)冒険系
a 単純冒険系(王道少年漫画系):
 少しひねたところがあっても冒険者・勇者として冒険・魔王打倒を目指す。主人公は夢に対して概ね真っ直ぐでありながら、独り善がりで、正義感があって、ハーレムメンバーからの好意に対して極めて鈍感である。
 主人公は、まず、冒険者ギルドに登録し、その際に素行の悪い冒険者に絡まれて返り討ちにすることで一目置かれ、奴隷商人から重体の美少女奴隷を購入して即座にこれを治療し、奴隷はその恩義から裏切らないヒロインとなる。冒険者ギルドの依頼をこなすうちに、美人受付嬢にも好かれつ、ドラゴンを狩ってギルドマスターなどを驚かせたり、魔物を狩ったり、スタンピード殲滅に貢献したりして金を貯め、別の町に移る。馴染みの冒険者もできたり、人間や獣人の仲間が増えたり、貴族や王子王女、有力商人との知己を得たりしたら、竜人の国やエルフの隠れ里、ドワーフの国、地底や海底、天空の国、精霊界、神界や遺跡を巡る。国王とも面会して褒美としての叙爵を不可解な理由で断り、魔王退治に出かける。孤児院を見かけると意味もなく大金を寄付し、孤児の中から有力な仲間を見つける。教会でも、信仰心など皆無なのに不可解な理由を付けて大金を寄付する。
 鈍感・バカが嫌いな読者には人気がない。
b いきなり最強系(いきなり無双系):
 いわゆる俺TUEEE系。
 強化コピー型転生などによりいきなり強いスキルや戦闘力を得て、あるいは特に強くはなっていないが転移前の知識・身体能力が転移先異世界の平均よりも遙かに強いために、現れる敵を簡単に倒せるというもの。
 SF出身系、日本列島転移系、村づくり・農園経営系もこの一種である(広義)が、テンプレ批判の対象とはなっていないようであるから、これらを除いたものを狭義のいきなり最強系とする。無自覚最強系もこの一種といえなくはないが、主人公が自らを平均以下の能力しか持たないと強固に誤解し続けている点が爽快感を求める読者にとってはイマイチ腑に落ちないため、別の系統の類型と思われる。
 バッタバッタと敵を倒し問題を解決していく爽快感を求める読者には人気だが、小説の中ですら努力が大事、努力が大好き、天才など認めないという読者には人気がない。
c 無自覚最強系(無自覚無双系):
 いわゆる「俺何かやっちゃいました?」系である。
 主人公は次のいずれかの生い立ちにより、戦闘力に関して一般常識とは乖離した常識を持ち、かつ自己の実力を通常人レベル以下であると頑なに思い込み、自身を過小評価し、人里に下りてからもその認識を頑として決して改めない。
①(村人全員が異常に強い)ド田舎・僻地中の僻地出身であった
②長年師匠と2人きりで人里離れた魔境(魔界や魔の森)で生活していた
③スキルやジョブが無い又は低価値であることにコンプレックスを持って自身を異常な強さにまで鍛え上げたにもかかわらず自己評価が低い
④冒険者パーティーや職場から不当な評価をされ解雇・追放されてトラウマを持っている
⑤強者が大勢いた古代から転生した


 一般(人里)の人々の反応に対して、一貫して、①「これくらい普通では?」、②「何かやっちゃったか?」、③「自分のレベルが低すぎるから皆に呆れられた」のいずれかの受け止め方をするが、「どうやら自分(や師匠)は世間的には異常に強い部類のようだ」という受け止め方はしないし、認識を改めることはない。
 主人公が重度の認知の歪みを患っている可能性が高い。
 認識能力が異様に低いため、主人公の前世が賢者であるなど、主人公の前世・今世に高知能である・あったという設定とは相性が極めて悪い。仮にそのような設定をした上で、上記のような認識をさせたいのであれば、①あくまで初期・序盤に止め、それ以降については「今世の人々はどうやら前世よりも弱いようだ」というように認識を改めさせるか、②今世の脳機能に重大な問題があるため、上記のような認識を改められないとする必要がある。①であれば、序盤こそ無自覚最強系ではあるものの、それ以降はジャンルが変わることになるし、②であれば、そのような設定の主人公にすることで面白くするのが難しくなるという弊害があるが、いずれにせよ、前世が知能系なのに今世では認識能力が極めて低いままゴリ押しするよりはマシである。
 また、直前の会話を毎回解説口調でほぼ繰り返すとか、通常の知識・理解力を有する読者にとって改めて説明されるまでもないような簡単なことを懇切丁寧に詳しく解説するなど、地の文が異常にクドい作品が全類型の中でトップクラスに多い。
 バカが嫌いな読者や、いつまで経ってもズレた認識を頑迷に固持する主人公をギャグとして捉えられない読者には人気がない。ただ、物語開始時点以前に相当に努力していたという説明が入るためか、努力大好きな読者からの批判は少なさそうである。
 いきなり最強系の一種ともいえる。

d 冒険者成り上がり系:
 途中まで単純冒険系の展開をした後、主人公には転移転生の前後を通じて統治のノウハウどころか冒険者パーティー以外でのリーダー経験など全くないにもかかわらず、国際会議を主宰し、又は国際会議に招待されて発言力を得たり、国を乗っ取ったり、新国家を建設(得た領地を独立国家化)したりする。

e 非花形系:
 主人公は、王侯貴族ではなく、戦闘系スキルがなく、外れとされるスキルしかないか、あるいは外れスキルすらないものの転移・転生前からの専門的知識はあり、外れスキル又は専門的知識を有効活用して冒険者として冒険するというもの。剣術や魔法など作品世界で花形とされるスキル・ジョブを持たない者を主人公とし、花形でないのに最強であることを描く。
 スライムなどの弱小生物に転生するケースもある。
 基本的な展開は、単純冒険系や冒険者成り上がり系に準じることが多い。
 冒険をメインにする点で村づくり・農園経営系とは異なり、王侯貴族でない点で高貴成り上がり系とは異なり、追放されていない点で追放成り上がり・復讐系とは異なる。
 非花形系のうち、外れとされるスキルによって活躍する作品を特に外れスキル系と呼ぶ。
f 聖女系:
 

g SF出身系:
 あまりメジャーではないジャンルなので批判の対象にはなっていない。
 科学技術が高度に発展した宇宙時代において宇宙軍人として宇宙戦艦に乗艦している主人公が艦ごと異世界の宇宙に自然型転移又は召喚型転移し、手近にあるファンタジー惑星に不時着し、高度な科学技術・兵器を活用しつつ冒険する。転移時点で主人公以外の乗員は全滅しており、主人公は艦載AIとともに冒険することになる。
 基本的な展開は、単純冒険系や冒険者成り上がり系に準じることが多い。広義のいきなり最強系の一種であるが、主人公が最強なのは主人公だけが突然特別に力を得たのではなく主人公の出身世界の基礎力が高いからであるため、努力大好き読者は批判しにくそうである。
 転移先異世界が球体つまり惑星であることに明確に言及するのは、日本列島転移系とSF出身系のみであり、他は言及しないか平面世界とする。
(2)やりこみゲーマー系
 自身がやりこんでいたゲーム、又は家族や友人がのめり込んでいて攻略情報のみ豊富に得ていたゲームの世界に転移・転生し、記憶の中に豊富にある攻略情報を頼りにバッドエンドを回避しつつ、目標を立ててその実現を目指す。
 ゲーム世界でスキルアップ・レベルアップを重ねる場合は、システム検証系とも交差するが、スキル等を熱心に検証・研究するわけではない場合はこちらにのみ類する。
 ステータス表示は、あるもの(ゲーム世界)とないもの(準ゲーム世界)がある。
 冒険系、知略系、統治系(特に悪徳領主系)、高貴成り上がり系、追放系に多い。

(3)システム検証系
 ゲーム世界又はゲーム的異世界に転生した主人公が、レベルアップや仲間獲得の度に自身や仲間のスキルの特性等のシステムについて細かく研究・検証する。
 一見知略系のようだが、スキルの検証と有効活用にのみ特化しており、権謀術数は駆使しないし、駆け引きも特に目立ってはしない。
 やりこみゲーマー系とも交差するが、主人公が原作ゲームのユーザーでない場合はこちらにのみ類する。


(4)知略系
 主人公が、戦闘力・知力を駆使して権謀術数の限りを尽くし、宿敵打倒を目指したり、成り上がる。ハーレム系の場合は、全員と成就するパターンと、好意に気づいているが理由を付けて先送りにしている場合がある。主人公は性悪であることが多い。
 ストーリー展開は、冒険系(単純冒険系及び無自覚最強系を除く)、高貴成り上がり系、追放系のいずれか。単純冒険系はよく考えずになんとなく勢いで旅をしたり気持ちの高ぶりから敵を倒したりするため、無自覚最強系は主人公が認知バイアスを患っているため、知略系とは相容れないが、冒険先についてはこれらと同様であることもある。

(5)勘違い系
 主人公以外の登場人物が、主人公の口べたさ・寡黙さや、偶然、錯覚、状況、周囲キャラの天然ぶりによって、主人公の意図や実力を好ましいものに勘違い(善解)する。主人公自身は、勘違いされていることを自覚しつつも訂正する機会がない場合と、自覚していない場合がある。また、鈍感系の場合もありえる。
 ストーリー展開は、冒険系または知略系であることがほとんど。悪徳領主系のケースもある。


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