我,帰還セントス

トリニク

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第一章 『マルとバツ』

第八話

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ふぅ・・・ふぅ・・・

(ほんっと進みにくいなぁ。)



匍匐前進で黙々と,穴の奥へと進んでいくマル。



ただでさえ,子供一人がやっと通れるくらいの暗くて狭い穴。



鍾乳石や石筍でゴツゴツしており,固くて進みずらい。



帰る時のことも考えて,邪魔になりそうな鍾乳石や石筍は拾った石(青色鉱石の採掘中に拾っておいた石や,以前折って隠し通路にそのままにしている鍾乳石や石筍のかけら)を使って折って進んでいく。



今回は匍匐前進の最中にいい感じの石を拾ったのでそれを用いて折っていく。



ガンッ



パキッ



ガッ



パキッ



(あれっ?)



今日はやけに鍾乳石や石筍が簡単に折れる。いつもなら何度打ち付けてもなかなか折れないのに,今日はどの石も一回か二回打ち付けただけで折れてしまう。



(今日の石はやけに折れやすいな。内部にひびでも入ってたのか?・・・まぁいいや,俺にとっちゃ都合のいい話だ。さっさと奥まで進むか。)



そんなふうに考えながら,マルはずるずると進み続ける。



そうして20分程経った頃,マルはようやく,この隠し通路の行き止まりにたどり着いた。



(おっしゃ,やっとここまで来たぜ。)



行き止まり,そう行き止まりである。この隠し通路は行き止まりだったのだ。それもそのはずだ。そもそもこの通路は人為的に作られたものではない。自然にできたものである。そんな都合よく外に繋がっている方がおかしいのだ。



そのことを理解していたマルでも,三カ月前に初めてここにたどり着いたときはひどく落胆した。



せっかくここまで頑張って来たのに・・・

一縷の望みがマルの目の前でガラガラと崩れ落ちた。しかし,マルは懲りることなく,その後も何度もここへ訪れ続けた。何故か?



聞えたからである。音が。

ヒュー,ヒューという音が。



絶望に打ち砕かれ,地べたにおでこを擦り付け泣き崩れていたマルの耳に,行き止まりの向こう側から聞こえたのである。



その瞬間,マルはすぐさま顔を上げ,確かめようと急いで左耳を目の前の壁に擦り付けた。



ヒュー,ヒュー

カサカサ

ピーピー



(この音は・・・風?それに,生き物の・・・。)



その瞬間,マルの遠い記憶の彼方にあった外の世界の光景が蘇り,活力がみなぎった。



ここを崩せば外に出られるはずだ!



それからマルは,新たな希望を抱き,目の前の岩壁を崩さんとエネルギーを燃やし,奮闘し続けているのだ。



目の前の壁には,ヒビができている。三カ月の賜物だ。来る日も来る日も,何度も何度も,何十回も何百回も何千回も,諦めることなく打ち付けてきたのだ。小さな衝撃でもコツコツと続ければこれだけのヒビができるのだ。まぁ正直,壁を崩すにはまだまだ時間がかかるとは思うが。



(普段は他の奴らが戻ってくる前に帰れるように一時間くらいしか時間を使えなかったからな。今日は一日フリーだ!今日中にはぜってぇに開通させてみせっからな!)



マルは意気揚々と目の前の壁に石を打ち付ける。



ガンッ



ガラッ



「へっ?」



その瞬間,ヒビの入っていた壁の一部が崩れ,強い光の光線が,マルの目の前に差し込んだ。
人差し指がぎりぎり通るほどの,小さな隙間から。
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