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第一章 『マルとバツ』
第十九話
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マルの言葉に,アルフレートは動揺する。
「マ,マ,マ,マルくん,な,な,な,何を言っているんだい?」
誰から見ても明らかなくらい,動揺する。
(こいつ,動揺しすぎだろ。)
アルフレートはハッとし,「コホン」と咳ばらいをした。
「すまない。あまりにも予想外の反応に取り乱してしまった。・・・それで,どうして生き返りたくないんだ?親友のバツを殺されたんだぞ。復讐したいとは思わないのかい?」
その言葉に,マルは自分の気持ちを確かめるように,ゆっくりと口を開く。
「・・・アルフレートさん。俺はな,バツが一番だったんだ。俺は,あいつを自由にしたかった。あいつと一緒に自由になりたかったんだ。・・・もちろん,スペクタ達に復讐したい気持ちはある。あの野郎は,あいつらは,俺とバツの思いを踏みにじった。それに加えてあいつらは,俺たちを殺した後で,自分たちもつらいみたいなことを言ってやがった。『自分たちも被害者なんだ』っていう感じで,『自分たちにも事情があるんだ』っていう感じで・・・。マジで許せねぇふざけんじゃねぇいい人ぶってんじゃねぇよッ・・・!!お前らは加害者なんだから同情を誘おうとしてんじゃねぇっつうんだっ,なにこの期に及んで善人ズラしてんだよ気持ちわりぃっ!!マジでイラつくムシャクシャするッ,心底腹立たしい今すぐぶっ殺してやりたいッ!!でもッ!!!」
怒りを撒き散らしていたマルは,途端に静かになる。
「・・・でも,そんな風に復讐したところで,バツは生き返らない。せいぜい俺の心がスッとするだけだ。・・・残りの人生,俺は一人で生きていかなきゃいけない。生き返ったところで,先がねぇんだよ。俺には・・・。」
マルのその言葉は,悲しみをはらんでいた。
アルフレートはマルの言葉を受け,しばし考える仕草をする。
「・・・時空の裂け目を探して,元の世界に帰るんじゃなかったのか?」
その言葉に,再びマルは自分の心を見つめる。
「・・・確かに,元の世界に帰りたいって思いはある。親に会ってみてぇし,故郷がどんなところなのかも知りてぇ。夢で呼ばれた『ケン』って名前が,俺の本当の名前かどうかも確かめてみてぇ。・・・けど,足らねぇんだ。そのために生き返りたいと思えるほどのもんじゃあねぇんだよ。・・・いま,改めて考えてみて,ようやく自分の気持ちが理解できた。俺は,バツと一緒に戻りたかった。バツと一緒に自由になりたかった。あいつと一緒に幸せに─いや,あいつに幸せになってほしかったんだよ。あいつが俺のことをどう思ってたのかは分からねぇけど,少なくとも俺にとっては,あいつは親友で,兄弟みたいなもんで,身体の一部のような存在だったんだ。小さい頃からずっと一緒にいて,ずっと助けてもらってて,側にいるのが当たり前の奴だったんだ。いつか助けてもらった分,あいつを助けてやりてぇ,幸せになってもらいてぇって,ずっと思ってたんだ。」
目頭が,クゥーっと熱くなる。
「バツが死んだ以上,もう生き返ることがねぇ以上,俺にはもう,生き返って生き続けるだけの気力がねぇ。・・・だから,生き返らねぇ。生き返れねぇ。それが俺の選択だ。」
マルは,アルフレートを真っすぐ見つめ,そう答えた。
アルフレートは顎をさする。
(なるほど。人生をかけて成し遂げたい何かを二度目の人生に見出だせないから,生き返りたくないのか。)
「・・・面白いな。」
「えっ?」
「ああいや,すまん。誤解しないでくれ。私の考え方からはあまりにもかけ離れた思想だったものでな。つい面白いと発言してしまった。」
「ああ,いや,別にいいよ。怒ってねぇし。」
「ところで,急な質問で申し訳ないが,もし仮に生き返るかどうか問われているのが君ではなくバツだった場合,彼は君のように生き返らないと選択していたと思うか?」
「・・・本当に急な質問だな。バツが俺の立場で生き返るかどうか問われた場合か?」
「ああ,そうだ。」
マルは,アルフレートの質問に怪訝な顔をしながらも,バツの言動を振り返る。
「そりゃあバツなら・・・」
─僕には皆を見捨てて逃げることなんてできない─
「・・・バツなら,生き返る選択をしたと思う。あいつは採掘場のみんなのことが大好きだった。採掘場のみんなを救うために,あいつは生き返ったはずだ。」
マルの回答を聞き,アルフレートは静かに口を開く。
「それなら,君は生き返るべきじゃないのか?」
「・・・なに?」
「君がバツのことを大切に思っているように,バツも採掘場のみんなのことを大切に思っていた。でも,バツは生き返れず,みんなを救えない。しかし,君なら救うことができる。バツが望んでいたであろうことを,君は成し遂げることができるんだ。」
「・・・俺に,バツの意思を継いで生き返れっていうのか?」
「ああ,そのとおりだ。もし本当に,バツを大切に思っているのなら,バツの幸せを願うなら,バツの望みを叶えるために君は行動するべきだ。さぁ,もうタイムリミットは迫っている。君はあと数秒もすれば本当に死んでしまうだろう。これが最後のチャンスだ。今は亡きバツのためにも,復活と唱えるんだ。」
アルフレートの真紅の瞳がマルを見つめる。
「・・・どうしてあんたは,そんなに俺を生き返らせようとしてくるんだ。」
アルフレートはニンマリする。
「私はただ,君の手助けがしたいだけさ。」
(手助けがしたいってなんだよ,うさんくせぇ。・・・でも,そうだな。)
─絶対に,みんなで逃げ切ろうね。
もちろんだ・・・!! ─
(約束したもんな,そういや。)
マルはフッと笑い,決心する。
「分かった。アルフレート,のるよあんたに。」
「Good。」
「復活・・・!!」
その瞬間,マルの視界は白い光に包まれた。
「マ,マ,マ,マルくん,な,な,な,何を言っているんだい?」
誰から見ても明らかなくらい,動揺する。
(こいつ,動揺しすぎだろ。)
アルフレートはハッとし,「コホン」と咳ばらいをした。
「すまない。あまりにも予想外の反応に取り乱してしまった。・・・それで,どうして生き返りたくないんだ?親友のバツを殺されたんだぞ。復讐したいとは思わないのかい?」
その言葉に,マルは自分の気持ちを確かめるように,ゆっくりと口を開く。
「・・・アルフレートさん。俺はな,バツが一番だったんだ。俺は,あいつを自由にしたかった。あいつと一緒に自由になりたかったんだ。・・・もちろん,スペクタ達に復讐したい気持ちはある。あの野郎は,あいつらは,俺とバツの思いを踏みにじった。それに加えてあいつらは,俺たちを殺した後で,自分たちもつらいみたいなことを言ってやがった。『自分たちも被害者なんだ』っていう感じで,『自分たちにも事情があるんだ』っていう感じで・・・。マジで許せねぇふざけんじゃねぇいい人ぶってんじゃねぇよッ・・・!!お前らは加害者なんだから同情を誘おうとしてんじゃねぇっつうんだっ,なにこの期に及んで善人ズラしてんだよ気持ちわりぃっ!!マジでイラつくムシャクシャするッ,心底腹立たしい今すぐぶっ殺してやりたいッ!!でもッ!!!」
怒りを撒き散らしていたマルは,途端に静かになる。
「・・・でも,そんな風に復讐したところで,バツは生き返らない。せいぜい俺の心がスッとするだけだ。・・・残りの人生,俺は一人で生きていかなきゃいけない。生き返ったところで,先がねぇんだよ。俺には・・・。」
マルのその言葉は,悲しみをはらんでいた。
アルフレートはマルの言葉を受け,しばし考える仕草をする。
「・・・時空の裂け目を探して,元の世界に帰るんじゃなかったのか?」
その言葉に,再びマルは自分の心を見つめる。
「・・・確かに,元の世界に帰りたいって思いはある。親に会ってみてぇし,故郷がどんなところなのかも知りてぇ。夢で呼ばれた『ケン』って名前が,俺の本当の名前かどうかも確かめてみてぇ。・・・けど,足らねぇんだ。そのために生き返りたいと思えるほどのもんじゃあねぇんだよ。・・・いま,改めて考えてみて,ようやく自分の気持ちが理解できた。俺は,バツと一緒に戻りたかった。バツと一緒に自由になりたかった。あいつと一緒に幸せに─いや,あいつに幸せになってほしかったんだよ。あいつが俺のことをどう思ってたのかは分からねぇけど,少なくとも俺にとっては,あいつは親友で,兄弟みたいなもんで,身体の一部のような存在だったんだ。小さい頃からずっと一緒にいて,ずっと助けてもらってて,側にいるのが当たり前の奴だったんだ。いつか助けてもらった分,あいつを助けてやりてぇ,幸せになってもらいてぇって,ずっと思ってたんだ。」
目頭が,クゥーっと熱くなる。
「バツが死んだ以上,もう生き返ることがねぇ以上,俺にはもう,生き返って生き続けるだけの気力がねぇ。・・・だから,生き返らねぇ。生き返れねぇ。それが俺の選択だ。」
マルは,アルフレートを真っすぐ見つめ,そう答えた。
アルフレートは顎をさする。
(なるほど。人生をかけて成し遂げたい何かを二度目の人生に見出だせないから,生き返りたくないのか。)
「・・・面白いな。」
「えっ?」
「ああいや,すまん。誤解しないでくれ。私の考え方からはあまりにもかけ離れた思想だったものでな。つい面白いと発言してしまった。」
「ああ,いや,別にいいよ。怒ってねぇし。」
「ところで,急な質問で申し訳ないが,もし仮に生き返るかどうか問われているのが君ではなくバツだった場合,彼は君のように生き返らないと選択していたと思うか?」
「・・・本当に急な質問だな。バツが俺の立場で生き返るかどうか問われた場合か?」
「ああ,そうだ。」
マルは,アルフレートの質問に怪訝な顔をしながらも,バツの言動を振り返る。
「そりゃあバツなら・・・」
─僕には皆を見捨てて逃げることなんてできない─
「・・・バツなら,生き返る選択をしたと思う。あいつは採掘場のみんなのことが大好きだった。採掘場のみんなを救うために,あいつは生き返ったはずだ。」
マルの回答を聞き,アルフレートは静かに口を開く。
「それなら,君は生き返るべきじゃないのか?」
「・・・なに?」
「君がバツのことを大切に思っているように,バツも採掘場のみんなのことを大切に思っていた。でも,バツは生き返れず,みんなを救えない。しかし,君なら救うことができる。バツが望んでいたであろうことを,君は成し遂げることができるんだ。」
「・・・俺に,バツの意思を継いで生き返れっていうのか?」
「ああ,そのとおりだ。もし本当に,バツを大切に思っているのなら,バツの幸せを願うなら,バツの望みを叶えるために君は行動するべきだ。さぁ,もうタイムリミットは迫っている。君はあと数秒もすれば本当に死んでしまうだろう。これが最後のチャンスだ。今は亡きバツのためにも,復活と唱えるんだ。」
アルフレートの真紅の瞳がマルを見つめる。
「・・・どうしてあんたは,そんなに俺を生き返らせようとしてくるんだ。」
アルフレートはニンマリする。
「私はただ,君の手助けがしたいだけさ。」
(手助けがしたいってなんだよ,うさんくせぇ。・・・でも,そうだな。)
─絶対に,みんなで逃げ切ろうね。
もちろんだ・・・!! ─
(約束したもんな,そういや。)
マルはフッと笑い,決心する。
「分かった。アルフレート,のるよあんたに。」
「Good。」
「復活・・・!!」
その瞬間,マルの視界は白い光に包まれた。
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