獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

大蜘蛛討伐

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「う~~~む」

 これはレンを連れて来なくて正解だったな。

 砦の谷と砦の外郭は、蜘蛛の巣だらけ。

 餌を求めて壁をよじ登ってくる蜘蛛達が、砦の騎士と魔法師が張った結界に触れるたび、バチバチと火花が上がり、焼け焦げた匂いが漂ってくる。

「増えているな?」

「そうですね。おい! 今何匹だ?!」

「確認できているのは、31匹です!!」

 報告を受けたカイルも、一晩で10匹以上増えるとは想定していなかったようだ。

「これは、生け捕りとか言っている場合ではなさそうです」

「そうか?」

「そうかって・・・陛下」

「俺達はウジュカで、あり得ない数の魔物を見ているからな。少し感覚が麻痺しているのかも知れん。だがこの程度なら、対処できるのは経験済みだ」

「は・・・はあ」

「糸玉も回収してやるから。大船に乗った気で見ていればいい」

「さっ左様ですか?」

 信じられない気持ちも分かるが、ウジュカに比べたら、どうと言う事もない。

「始めるぞ!! ショーンとロドリックは防御! マークと俺は攻撃だ!」

「「「ハッ!!」」」

「カイル! 結界を歩廊の内側に張り直せ! 王国騎士団は歩廊に立て!!」

「「「わぁーーーーツ!!」」」

「「「ウォーーーーーーツ!!」」」

 王国騎士団の名で士気が上がったか。

 俺達はもう帝国の庇護の下にある、第2騎士団ではない。

 王国の盾。王国の剣になったのだ。

「いいか! 火は使うな!! マーク!」

「はい!!」

「ウジュカで蛹を落とした要領で糸を切れ!」

「了解っ!!」

 マークの率いる部隊が歩廊の上に立ち、氷魔法を使い一斉に蜘蛛の糸を壁から切り離した。

 支えを失った蜘蛛達が、谷や地面へぼろぼろと落ちていく。

 しかし大蜘蛛は直ぐに体制を立て直すと、壁に飛びつき歩廊の人間目掛け、よじ登り始めた。

「お前たちに恨みはないが。レンとリアンの為に死んでくれ」

 俺の呟きは、ガルスタを渡る風に攫われ、誰の耳にも届かなかった。

 あ・・・。

 レンに教えてもらった、物語の主人公を真似してみたが、柄じゃなかった。

 物語として聞いている時は気にならなかったが、口にしてみると中々に恥ずかしい。

 舞台の台詞は、大概大袈裟なものだが、物語もさして変わらんな。

 誰も聞いていなくて、本当によかった。

 気を取り直し、仕事だ仕事。

 大蜘蛛が現れたのは、王国側の谷だ。

 カインは俺が手伝う事に恐縮していたが、王国内の問題は俺が処理するべきなのだ。

「良く聞けっ! 火魔法は使うなっ! マーク! 腹を狙え! 魔法で腹を覆えば、蜘蛛は窒息する! アベル!」

「はい!」

「お前たちは脚だ! 蜘蛛の動きを止め、マーク達が腹を狙い易くせよ!!」

「了解!!」

 アベルは前任の将校ニコラスが、年齢を理由に退いたことで、繰上りで俺の直属の部隊長になった。

 前任者は折り目正しく、控えめな雄だったが、アベルは少々性格が荒っぽい。その分腕は確かなのだが、王宮の近衛騎士には向いていない。

 それとニコラスは紳士的で、一部の令息たちに人気があったが、冷酷な一面もあり、公に出来ないあれこれも淡々と熟し、マークとも気が合っていたようだ。

 アベルは腕は確かだが、どちらかと言うと、セルゲイ寄りの性格をしていて前線向きだ。

 王都に入ったら、部隊編成を見直さねばならんだろう。


 大蜘蛛の討伐は順調に進んだ。

 ウジュカでレンから、甲虫は腹が弱点だと教わったのが、今回も役に立った。

 これまで蜘蛛の討伐は、命の危険が伴う大仕事だった。(第2の騎士以外だが)

 レンが招来されてから、第2騎士団の死傷率は激減した。

 レンが齎してくれた異界の知識には、感謝しかない。

 俺の指示通り、蜘蛛の腹を魔法で覆うと、凶悪な肉食の大蜘蛛達は窒息し、コロコロとその場で腹を見せて転がっていった。

 また谷に落ちて、そこで卵を産み落とされては敵わんから、ロドリックに谷の口に傾斜を付けた結界を張らせ、王国側へ転がす様にさせた。

 面白いほど簡単に処理されていく大蜘蛛を前に、カインは口をあんぐりと開けたままだ。

 そうこうするうちに、大蜘蛛31匹の討伐は完了した。


「討伐25、生け捕り6。そのうち1匹は、糸玉の回収は難しそうだ」

「これだけの数をあっという間に・・・。流石は第2騎士団。感服いたしました」

"元" だがな?

「謝辞は仕上げの後だ」

「仕上げですか?」

「谷の中を一掃せねば、また這い出てくるかもしれんだろう?」

「あっ確かに」

「まあ、今後の収入源として、温存したい、と言うのであれば手は出さんが、どうする?」

「・・・可能であれば一掃して頂きたいです」

「分かった。マークとアベルは、5人ずつ連れて俺と来い。ショーンとロドリックは糸玉の回収を手伝ってやれ」

「了解」

「陛下、回収後の死骸はどういたしましょう?」

「うむ・・・。浄化は必要だが、レンに死骸は見せられん。糸玉以外の素材も回収し終わったら、燃やしてしまえ」

「宜しいのですか?」

「瘴気の浄化に、死骸は必要ない」

「承知いたしました」

「ショーン、ロドリック。俺達が下に降りたら、もう一度谷の口に結界を張れ。ただし人が二人通れるくらいの隙間は、開けておくように」

 谷の中がどうなっているか分からん以上、撤退口は必要だ。それに人間二人分なら、大蜘蛛は通れない。

 通れるくらいの小さい蜘蛛なら、逆に 捕まえて飼育すればいいだけだ。

「行くぞ」

 風を纏い飛び降りた谷の内部は、両側の崖が思ったよりすべらかだった。

 恐らく風雨の浸食によるものだろう。

 谷の口に近いところには、小さな草や壁一面の根を伸ばした灌木が見て取れたが、どれもひょろひょろとして、栄養が足りている様には見えなかった。

 大蜘蛛を警戒し、谷底を目指しゆっくり降下していくと、さほど広くもない谷は次第に暗くなっていった。

 陽の光が届かなくなると、すべらかだった岩壁はゴツゴツとしたものに変わっていき、その様子は谷と言うより、亀裂と言った方が正しい気がした。

 どれくらい降りて来ただろうか、辺りは闇色に染まり、俺達が飛び降りた谷の入り口が、蛇行する光の線にしか見えなくなった。

 その頃には亀裂の崖に、蜘蛛の巣の残骸がちらほら見えるようになった。

「陛下、そろそろ光玉を飛ばしますか?」

「そうだな・・・少し多めに飛ばそう。暗がりから飛び掛かられるのは避けたい」

「了解」

 一旦下降を止め、それぞれが光玉をいくつか飛ばすと、闇に沈んでいた辺りの様子が、はっきりと見えるようになった。

 白い蜘蛛の巣が岩壁をベールのように覆い隠しているが、大蜘蛛の姿は見当たらない。

「もっと下でしょうか?」

「うむ」

「でも底が見えませんよ? どこまで続いてるんでしょう」

「ふむ・・・」

 既に1ヤールは降りた筈だ、それでも底が見えんとは・・・。

「ん?・・・水の匂いがするな」

「水ですか?」

 俺の指摘に、部下たちが一斉に鼻を鳴らし匂いを嗅ぎ始めた。

「本当だ」

「地下水脈?」

「だろうな」

 ゴトフリーは山や森が多いが、何故か川が少ない。

 地盤の影響からか、雨が降ってもみな地面に吸い込まれてしまうのだ。

 カルが引き籠っていた魔素湖も、神殿の地下深くにある。

 この国の地下には、地下水の流れや地底湖が相当数ありそうだ。

 それからも警戒しながら下降を続けたが、大蜘蛛を 見つける事は出来なかった。

 異変が起きたのは、地上から3ヤールは過ぎた頃だった。

「なにか、変な感じがしませんか?」

「確かに・・・魔素が濃いようだが・・・」

「それだけではない気がします」

「なんか、ゾワゾワするな」

 マークとアベルは、そわそわと落ち着かない様子で、辺りを見回している。

「下からだな」

「どうしますか?」

「どうもこうも、確かめる以外あるまい?」

「それもそうですね」

 マークは見た目と違い豪胆な雄だ。

 それが今は、顔を強張らせている?

 そうか、怯えだ!

 マークは今怯えているのだ。

 妙な感じがすると思ったら、これは獣人が放つ威嚇に似ている。

 となれば、この下に厄介なものが居ると確定だ。

「マークとアベル以外の者は地上へ戻り、代わりにショーンとロドリックに、降りてくるように伝えろ。急げ!」

「りっ了解!!」

 おっおーーー?

 凄い速さで上がっていったな。

 マークが青ざめるくらいだ、あいつらが耐えられなくても仕方がないな。

「宜しいのですか?」

「良いも何も、あれじゃあ役に立たんだろ?」

 自分が出した光玉を連れ、猛スピードで登っていく部下を指さすと、マークは如何にもやれやれと言いた気に首を振った。

「ショーンとロドリックが降りてくるまで、そう時間は掛からんだろうが、一旦休憩だ」

 少し上に、岩が張り出している場所があった。

 そこまで戻り3人で休憩する事にした。

 下に何が居るのかは分からんが、厄介な相手であることは確実だった。

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