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ティエラ ドラゴネス王国記
副団長は損をする
しおりを挟む虫篭に閉じ込めた後のマンティスの殲滅は簡単だった。
マイオールの騎士達には荷が重かった作業も、うちの騎士達なら難なくこなせてしまう。
貴族の私兵と帝国騎士団との実力差を改めて見せ付けられ、王国の今後を考えると、王国騎士団を今の基準で維持していくのは、骨が折れそうだとうんざりした気分になった。
しかし、ゴトフリーという国で虐げられてきた獣人達に、広く門戸を開けば、埋もれていた逸材が見つかるかもしれん。
そう悲観的になる必要も無いか。
あとは魔力に見合ったラシルの木を用意できれば、時間はかかるが国民の能力も底上げできるだろう。
そうなるには何世代待たねばならんのか。
気が遠くなりそうだ。
「陛下。すべて燃やしてしまって宜しいのですか?」
「うむ。ワイバーンの骨とマンティスの鎌を回収したら、囲いを広げるから、その後は焼いてしまって問題ない」
ワイバーンの骨より皮の方が素材として使い勝手も良いし、高値が付くのだが、マンティスに食い荒らせれてしまっては、使いようがない。
マンティスの鎌は、剣や槍の素材になるが、子供の鎌で作るならナイフが良いところだろう。
「はぁ。延焼を防ぐためには囲いは必要ですが、今のままでも宜しいのでは?」
「出来るだけ広く、とレンに言われていてな」
「レン様にですか?」
「うむ。レンはこの草原全体を焼いてしまっても良いと言っていたのだが、さすがにそれは山火事の危険があるだろ? だからワイバーンを討伐した辺りを燃やしてくれと言っていたな」
「レン様は何故そんな事を?」
首を捻るマークの横で、アベルが掌に拳をポンと打ち付けた。
「分かった! 焼き畑ですね?」
「その通り。 お前良く知っていたな」
「いやあ。自慢じゃないですが、自分の実家は鉱山持ちなんですが、土地は痩せていて、農耕には不向きなんです」
「農耕に不向きだと、土地を燃やすのですか?」
「はい。同じ土地で毎年作物を育てると、収穫率が下がっちゃうんですよ。それに家の領地は雨も多いから、作物が病気になりやすいんです。だから一年おきに土地を変えて、苗やら種やらを植えるんですけど、秋の収穫の後に残った藁なんかを畑で焼くと、病気の元も一緒に焼けちゃうし、肥料にもなるんです」
「藁灰程度で肥料になるのか?」
モーガンに聞かれたアベルは、ないないと顔の前で手を振って見せた。
「焼いた畑は翌年休耕地にするんですけど、灰を梳き込んだ後、ワザと雑草の種を撒くんです」
「雑草? 夏には茫々じゃないか」
「そうなんですよ。でもそこにピガーとかゴートを放牧すると、雑草が餌になるし、排泄物が肥料になるんです」
「ほぉ。よく考えられている」
「そうでしょ? そしたら次の年には大収穫なんですよ」
自慢気に胸を張るアベルは、騎士よりも農耕の方が向いているのかもしれない。
「レンも同じような話をしていたな」
「へぇ~、レン様は何でもご存知なんですね」
「まあな。ここは開墾予定地だろ? 早期に開墾する為に、レンには秘策があるのだが。マイオールで試してみたら、それを使うためには草木が邪魔なようでな。開墾予定地の草木と魔物の死骸を一緒に焼けば、肥料にもなるし、邪魔な草木を取り除けると言っていた」
「なるほど」
「ただ、焼き畑は、あ~~何だったかな。かん・・・かんきょうはかい? に繋がる、とか言っていて、何度も使いたい手ではない。とも言っていた」
「焼いちゃダメなんですか?」
「いや。自然に人間が手を加えると、と言っていたから、出来上がっている農耕地とは違うのじゃないか?」
慌てた様子を見せたアベルだが、俺の話を聞いてほっと胸を撫でおろす姿は、やはり農耕向きであるか、地元に思い入れが強い様だ。
この雄に領地を持たせたら、面白いかもしれんな。
魔物の討伐も一段落し、その後はワイバーンの営巣地と、マンティスの取りこぼしが無いか、成体のマンティスが居ないかの確認作業だ。
マンティスは卵鞘を産み付けた後、自分が子供に喰われない様に、その場を離れる習性がある。
もし近くに居たとすれば、親ではない別の個体か、余っ程の間抜けだろう。
予想通り成体のマンティスの姿はなく、子供が数体見つかったが。これは直ぐに処理できた。
ワイバーンの営巣地には、親が数体残っていたが、卵を守ろうと巣から離れようとしなかったため、こちらの討伐も比較的楽に終わらせることが出来た。
「しかしあれだな。魔獣とは言え、子を守ろうとする姿を見ると、後ろめたいと言うか、哀れだな」
親になった今、モーガンの言いたいことは良く分かる。
だが、この魔獣に情けを掛けた結果、後に自分の子供がこいつらに喰われたらと思うと、情けを掛ける気にはなれない。
「人間の子が喰われるよりましだ」
「・・・うむ。そうだな、陛下の言う通りだ」
ぼそぼそと答えるモーガンは、やはり心優しく生真面目な雄だと感じた。
割れずに残った卵は、全て回収させた。
上手く孵化させられるかは分からんが、飼育できればそれなりに使い道がある。
この国のテイマーが、ワイバーンを使役できるかは、今のところ未知数。
しかし、もし使役できたとすれば、軍事でも民間でも、それなりに使い道があるだろう。
ティム出来なかったとしても、ワイバーンの体は、全て素材として取引され捨てる所がない。
特に皮は、傭兵の皮鎧として人気が高く、一般の皮製品としては高級品になる。それにレンに言ったら嫌な顔をされそうだが、ワイバーンの肉は美味いのだ。
生態の研究にも役立つだろう。
まあそれも、卵が上手い事孵れば、の話しだ。
しかし、やってみて損はない。
何事も実験してみなければ、答えは出ないからな。
こうして討伐は無事に終了し、後始末と帰還の指揮はショーンとモーガンに頼み、俺とマークは予定通り、一足先にスクロールで王城へ戻る事にした。
急を知らせるダンプティーは来なかったが、討伐が一段落ついてからマークはそわそわし通しで、それは俺の内心も同じだった。
「ではな。後を頼む」
「あっ! 陛下! 団長も! まだ確認したいことがっ!!」
これ以上待って堪るかっ!
俺は番の元へ帰るのだ!
慌てて腕を伸ばすショーンの前で、これ見よがしにスクロールを破ってやった。
その瞬間ぐにゃりと視界が歪み、俺とマークは愛しい番が待つ王城へ帰還したのだ。
「あ~~~。本当に行っちゃったよ~~」
「ショーン。副団長とは損な役回りも多いが、遣り甲斐のある役職だぞ」
「モーガン団・・・教授。そうなんですけどね」
「アーチャーも、陛下によく仕えていただろう?」
「そうなんですけど、そうなんですけどね。団長のあれは、ほとんど趣味みたいなもんで、自分は昇進して初めての遠征で、置き去りとか酷くないですか?」
「陛下は鷹揚な方だが、甘えてはいかん。俺は副団長に就任した最初の遠征で、団長が大怪我を負った。何もかも自分で決めねばならなかったし。戻ったら戻ったで、団長は職を辞してしまったから、なし崩しで団長に就任だ。それでも何とかやって来たのだから、お前は恵まれている方だと思うぞ?」
「陛下が鷹揚とか、教授の感覚はおかしいですって」
「お前、地味に失礼な奴だな。まあいい。陛下にも頼まれているし、今回は手伝ってやるから、ベソベソと泣き言をいうな」
「うぅぅ。教~~授~~」
「はぁ。泣く子も黙る第2騎士団が、こうもユルユルだとは思わなかったな。陛下が仰る通り、風通しが良すぎるのかも知れん」
と言う顛末が有ったとか、無かったとか。
後日ロドリックが面白半分で話していたから、話3分の1程度で聞き流すことにしようと思う。
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