732 / 765
ティエラ ドラゴネス王国記
感動と憂鬱
しおりを挟む「ごめんなさい。言い方が悪かったわ。あなた達の努力が無駄だとか、そういう話ではないのよ?」
「そうだぞ。俺達は、お前達が生まれる前に多くの事を話し合った。子供達の教育について、将来について。親として何が最善かとな」
「そうなのですか?」
「うむ。その結果子供達の誰にも、王座を強要しない。と言う結論に至ったのだ。為りたくないなら、為らなくていい。そういう事だ」
「でも王族には責任が有りますよね?」
俺の息子が聡明に育ってよかった。
レンが育てたのだ、ゴートフリーのエスカルの様にはなるまいと信じていた。
しかしだ、ギルバートは少々真面目過ぎるきらいが有るな。
「俺達獣人は、番と出会えたその時から、番の存在と幸せが人生の全てになる。もし、お前の番が王配になる事を拒めば、お前は全てを捨て、番の元へ走るだろう。それは下の3人も同じ事だ」
「もし番が見つからなかったら? 誰か王配にふさわしい人を娶る事になりますよね?」
「いや。俺達は強要はしない。ただお前達が番を見つけられず、友人として、恋人としてでも、番の代わりに傍にいて欲しいと願う者が現れたのなら、好きにすれば良い。だが、王家を存続する為だけに、婿を取らせたりはしないと約束する。俺とレンは、お前達がどれだけ寂しくとも、番以外を傍に侍らせる事は勧められん」
「何故ですか?」
「一番の理由は、相手に対して不誠実だからだ。もし番でない相手と婚姻後に、番と出会ってしまったら? 獣人であるお前は、その相手を捨て、番選ぶ。そのための法も有る。しかし相手を捨てる事に変わりはない」
「そうですね」
「獣人の本能とは厄介なものでな。番以外の人間を、伴侶として愛する事は出来ない。せいぜいが親友か、信頼できるビジネスパートナーにしかなり得ない」
「・・・親友とは、母上とアーチャー卿のような関係ですか?」
「そうねぇ。私にとってマークさんは、家族かしら?」
「家族」
「マークにとっては、番以上の存在だな」
「えぇ~? アーチャー卿の本能は壊れているのですか?」
「まあ。傍から見ればそうかも知れん。だが相手がレンだから、仕方ない」
「仕方ないで済むのですか?」
「当然だ」
「どんな理屈?」
ギルバートは納得いかない様子だ。
「お前、母親の偉大さを理解していないな?」
「は・・・母上が素晴らしい方なのは知っています。尊敬もしています」
目に軽く威圧を込めると、ギルバートはぎくりと肩を揺らした。
この程度で怖気づくとは、まだまだ子供だな。
「もう! アレクったら、ギルちゃんを虐めちゃ駄目。それに論点がずれちゃってるわ」
「ん? あ~。つい熱くなってしまった」
「アレクのそういう処、嫌いじゃないけど、話が進まないでしょ?話を振ったのは私だけど、今はそこは深堀しなくても良いのじゃない?」
「そうだな」
ぷりぷりと怒って見せても、レンは可愛いし綺麗だ。
俺は一生この人を、恋焦がれて行くのだろう。
そんなお花畑な俺の脳内とは裏腹に、俯いて考え込んでしまったギルバートの肩を、レンは優しく撫でてやっている。
レンは元から慈愛の人だったが、子供達には更に優しい気がする。
俺の母はあんな人だったが、母親と言うものは、こう有るべきなのだろうな。
この後俺とレンは、何故ギルバートが全ての教科を受講するべきだと考えたのか、それとなく聞き出し、その理由にレンは眉を顰め、俺は口の中が苦くなった気がした。
それはそれとして、探求心が有るのは結構だが、無理は禁物。しかし本人の意欲も無下には出来ない。
と言うことで、アカデミー入学から1年は、条件付きだが本人の希望通り、全ての教科を受講する事を認め、入学から3年間は、王族の執務を免除してやることにした。
「執務を免除してもらって良いのですか?」
「政務や執務は、後でうんざりする程出来る。それよりも子供時代にしか出来ない事を、大事にして欲しい」
「でも、仲の良いお友達が出来ても、長期休暇の半分は、王宮に帰って来て欲しいわ。そうじゃないと、お母さん寂しくて泣いちゃうかも」
「え~~と。帰っては来ますけど。母上は父上が居れば、基本満足ですよね?」
「ギルちゃんはおませさんなのね。でも其れはそれ。此れはこれ。約束を破ったらクオンとノワールを迎えに行かせますから」
「過保護だと思います」
「そう? でも成人するまでは、私の可愛いギルちゃんでいて欲しいの」
「・・・父上」
「レンの言う事は絶対だ。諦めろ」
「えぇ~~? 父上も母上も、本当にそういう処ですよ?」
親の愛が鬱陶しい時期だよな?
だが、無条件で愛してもらえるのは、贅沢な事なんだぞ?
そんな遣り取りを経た入学当日。
これまで儀礼的に参加してきたアカデミーの入学式も、我が子が参加するとなれば感慨もひとしおだ。
入学性代表として挨拶を述べる息子の姿に、誕生からこれまでの記憶が重なり、大きくなったものだと感動してしまう。
感動のあまり、そっと涙を拭うレンの肩を抱き、息子の将来に幸多かれ、と願うのだった。
◇◇◇
「殿下を寄宿舎に入れてしまって、宜しいのですか?」
「俺とウィリアムは、成人前に辺境に飛ばされた。それに比べたら甘いものだろ?」
「そうなんですけどね。もし悪い遊びを覚えたらどうされます?」
思案気に問うてきたミュラーは、本気でギルバートの事を案じているようだ。
ミュラー夫夫は、息子の反抗期に相当苦労したらしい。アーノルドの事も心配で、気が気ではないのだろう。
「ギルバートは真面目過ぎる。少しくらい遊んでも良かろう」
「陛下。真面目な人間が悪い遊びを覚えると、沼ってしまうそうですよ?」
「沼? 変な言い回しだな?」
「レン様に教えてもらったんですけど。夢中になり過ぎて、泥沼に嵌ったように抜け出せなくなるって意味らしいです」
なるほど。
言い得て妙ってやつだな。
「酒程度ならいいですが、ギャンブルや娼館通いに嵌ったら、流石に拙いですよね?」
「酒も過ぎれば問題だがな。マークがエミールに言い含めているから、問題ないのではないか?」
「エミール殿も大概純粋ですが」
「あれはマークの子だ。見た目ほど純粋ではない」
「そうですか? まあ・・・そうか」
レンの前では見せないが、マークは元々腹黒いところが有るからな。
エミールはマークの子供の頃と瓜二つ。
所謂、絶世の美少年と言うやつだ。
マーク自身の経験を基に、エミールには身を守る方法と同時に、あれやこれやを教育していると聞いている。
それに、暗部から一人。
レンの影からも一人。
内密にギルバートに付けてある。
何かあれば逐一報告が来るのだ、ギルバートが問題を起こせるとは思えんな。
「万が一悪さをした場合、騎士団の鍛錬に放り込めばいい。うちの連中は、俺の子だからと遠慮はせん」
「はは。確かに。おっと、そろそろレン様とのお約束の時間ですね」
「そんな時間か」
互いの執務の間に共に過ごす時間を取れる事は、ご褒美のようで普段の俺なら大喜びをする処だ。
しかし今日は、気の重い面談が待っている。
レンも朝から溜息を何度も吐いて、共有された感覚も、憂鬱の一言だった。
今回の面談は、あくまでも私的なものだが、他に洩らしたくない内容だ。
よって面談は、俺達の居住エリアにある一室で行われる。
「待たせてすまん」
「大丈夫。私もさっき来たばかりよ。セルジュ。アレクにもお茶を」
セルジュの淹れた薫り高い茶を啜りつつ、待つこと数ミン。
侍従に案内されたベイが姿を見せた。
「久しいな。恙なく過ごしているか?」
「お陰様で」
「リヒャルトさんはお元気?」
「リヒャルトは・・・あいつは最近めっきり弱っちまって、今年の夏は越えられないかもしれません」
「そうか・・・」
陰鬱な空気が流れる中、マイオールで拾った命で、余生を静かに過ごせてよかった。とベイは目元の皺を深くした。
「今日、お前を呼んだ理由は分かるな?」
「はい。俺も確信が有った訳じゃないんで、報告が遅れて申し訳ありませんでした」
ベイが差し出した封筒には、分厚い書類が入っていた。
「凄い。これ全部ベイさんが調べたの?」
「いえ。俺は専門家じゃないんで、知り合いに手伝ってもらいました」
「そうか・・・」
ベイが差し出した書類は、ギルバートの世話を任せていた、イワンに対する報告書だった。
70
あなたにおすすめの小説
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?
梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。
そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。
何で!?
しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に?
堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる