獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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ティエラ ドラゴネス王国記

感動と憂鬱

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「ごめんなさい。言い方が悪かったわ。あなた達の努力が無駄だとか、そういう話ではないのよ?」

「そうだぞ。俺達は、お前達が生まれる前に多くの事を話し合った。子供達の教育について、将来について。親として何が最善かとな」

「そうなのですか?」

「うむ。その結果子供達の誰にも、王座を強要しない。と言う結論に至ったのだ。為りたくないなら、為らなくていい。そういう事だ」

「でも王族には責任が有りますよね?」

 俺の息子が聡明に育ってよかった。

 レンが育てたのだ、ゴートフリーのエスカルの様にはなるまいと信じていた。

 しかしだ、ギルバートは少々真面目過ぎるきらいが有るな。

「俺達獣人は、番と出会えたその時から、番の存在と幸せが人生の全てになる。もし、お前の番が王配になる事を拒めば、お前は全てを捨て、番の元へ走るだろう。それは下の3人も同じ事だ」

「もし番が見つからなかったら? 誰か王配にふさわしい人を娶る事になりますよね?」

「いや。俺達は強要はしない。ただお前達が番を見つけられず、友人として、恋人としてでも、番の代わりに傍にいて欲しいと願う者が現れたのなら、好きにすれば良い。だが、王家を存続する為だけに、婿を取らせたりはしないと約束する。俺とレンは、お前達がどれだけ寂しくとも、番以外を傍に侍らせる事は勧められん」

「何故ですか?」

「一番の理由は、相手に対して不誠実だからだ。もし番でない相手と婚姻後に、番と出会ってしまったら? 獣人であるお前は、その相手を捨て、番選ぶ。そのための法も有る。しかし相手を捨てる事に変わりはない」

「そうですね」

「獣人の本能とは厄介なものでな。番以外の人間を、伴侶として愛する事は出来ない。せいぜいが親友か、信頼できるビジネスパートナーにしかなり得ない」

「・・・親友とは、母上とアーチャー卿のような関係ですか?」

「そうねぇ。私にとってマークさんは、家族かしら?」

「家族」

「マークにとっては、番以上の存在だな」

「えぇ~? アーチャー卿の本能は壊れているのですか?」

「まあ。傍から見ればそうかも知れん。だが相手がレンだから、仕方ない」

「仕方ないで済むのですか?」

「当然だ」

「どんな理屈?」

 ギルバートは納得いかない様子だ。

「お前、母親の偉大さを理解していないな?」

「は・・・母上が素晴らしい方なのは知っています。尊敬もしています」

  目に軽く威圧を込めると、ギルバートはぎくりと肩を揺らした。

 この程度で怖気づくとは、まだまだ子供だな。

「もう! アレクったら、ギルちゃんを虐めちゃ駄目。それに論点がずれちゃってるわ」

「ん? あ~。つい熱くなってしまった」

「アレクのそういう処、嫌いじゃないけど、話が進まないでしょ?話を振ったのは私だけど、今はそこは深堀しなくても良いのじゃない?」

「そうだな」

 ぷりぷりと怒って見せても、レンは可愛いし綺麗だ。

 俺は一生この人を、恋焦がれて行くのだろう。

 そんなお花畑な俺の脳内とは裏腹に、俯いて考え込んでしまったギルバートの肩を、レンは優しく撫でてやっている。

 レンは元から慈愛の人だったが、子供達には更に優しい気がする。

 俺の母はあんな人だったが、母親と言うものは、こう有るべきなのだろうな。

 この後俺とレンは、何故ギルバートが全ての教科を受講するべきだと考えたのか、それとなく聞き出し、その理由にレンは眉を顰め、俺は口の中が苦くなった気がした。

 それはそれとして、探求心が有るのは結構だが、無理は禁物。しかし本人の意欲も無下には出来ない。

 と言うことで、アカデミー入学から1年は、条件付きだが本人の希望通り、全ての教科を受講する事を認め、入学から3年間は、王族の執務を免除してやることにした。

「執務を免除してもらって良いのですか?」

「政務や執務は、後でうんざりする程出来る。それよりも子供時代にしか出来ない事を、大事にして欲しい」

「でも、仲の良いお友達が出来ても、長期休暇の半分は、王宮に帰って来て欲しいわ。そうじゃないと、お母さん寂しくて泣いちゃうかも」

「え~~と。帰っては来ますけど。母上は父上が居れば、基本満足ですよね?」

「ギルちゃんはおませさんなのね。でも其れはそれ。此れはこれ。約束を破ったらクオンとノワールを迎えに行かせますから」

「過保護だと思います」

「そう? でも成人するまでは、私の可愛いギルちゃんでいて欲しいの」

「・・・父上」

「レンの言う事は絶対だ。諦めろ」

「えぇ~~? 父上も母上も、本当にそういう処ですよ?」

 親の愛が鬱陶しい時期だよな?

 だが、無条件で愛してもらえるのは、贅沢な事なんだぞ?

 そんな遣り取りを経た入学当日。

 これまで儀礼的に参加してきたアカデミーの入学式も、我が子が参加するとなれば感慨もひとしおだ。

 入学性代表として挨拶を述べる息子の姿に、誕生からこれまでの記憶が重なり、大きくなったものだと感動してしまう。

 感動のあまり、そっと涙を拭うレンの肩を抱き、息子の将来に幸多かれ、と願うのだった。


 ◇◇◇


「殿下を寄宿舎に入れてしまって、宜しいのですか?」

「俺とウィリアムは、成人前に辺境に飛ばされた。それに比べたら甘いものだろ?」

「そうなんですけどね。もし悪い遊びを覚えたらどうされます?」

 思案気に問うてきたミュラーは、本気でギルバートの事を案じているようだ。

 ミュラー夫夫は、息子の反抗期に相当苦労したらしい。アーノルドの事も心配で、気が気ではないのだろう。

「ギルバートは真面目過ぎる。少しくらい遊んでも良かろう」

「陛下。真面目な人間が悪い遊びを覚えると、沼ってしまうそうですよ?」

「沼? 変な言い回しだな?」

「レン様に教えてもらったんですけど。夢中になり過ぎて、泥沼に嵌ったように抜け出せなくなるって意味らしいです」

 なるほど。

 言い得て妙ってやつだな。

「酒程度ならいいですが、ギャンブルや娼館通いに嵌ったら、流石に拙いですよね?」

「酒も過ぎれば問題だがな。マークがエミールに言い含めているから、問題ないのではないか?」

「エミール殿も大概純粋ですが」

「あれはマークの子だ。見た目ほど純粋ではない」

「そうですか? まあ・・・そうか」

 レンの前では見せないが、マークは元々腹黒いところが有るからな。

 エミールはマークの子供の頃と瓜二つ。
 所謂、絶世の美少年と言うやつだ。

 マーク自身の経験を基に、エミールには身を守る方法と同時に、あれやこれやを教育していると聞いている。

 それに、暗部から一人。
 レンの影からも一人。

 内密にギルバートに付けてある。

 何かあれば逐一報告が来るのだ、ギルバートが問題を起こせるとは思えんな。

「万が一悪さをした場合、騎士団の鍛錬に放り込めばいい。うちの連中は、俺の子だからと遠慮はせん」

「はは。確かに。おっと、そろそろレン様とのお約束の時間ですね」

「そんな時間か」

 互いの執務の間に共に過ごす時間を取れる事は、ご褒美のようで普段の俺なら大喜びをする処だ。

 しかし今日は、気の重い面談が待っている。

 レンも朝から溜息を何度も吐いて、共有された感覚も、憂鬱の一言だった。

 今回の面談は、あくまでも私的なものだが、他に洩らしたくない内容だ。

 よって面談は、俺達の居住エリアにある一室で行われる。

「待たせてすまん」

「大丈夫。私もさっき来たばかりよ。セルジュ。アレクにもお茶を」

 セルジュの淹れた薫り高い茶を啜りつつ、待つこと数ミン。

 侍従に案内されたベイが姿を見せた。

「久しいな。恙なく過ごしているか?」

「お陰様で」

「リヒャルトさんはお元気?」

「リヒャルトは・・・あいつは最近めっきり弱っちまって、今年の夏は越えられないかもしれません」

「そうか・・・」

 陰鬱な空気が流れる中、マイオールで拾った命で、余生を静かに過ごせてよかった。とベイは目元の皺を深くした。

「今日、お前を呼んだ理由は分かるな?」

「はい。俺も確信が有った訳じゃないんで、報告が遅れて申し訳ありませんでした」

 ベイが差し出した封筒には、分厚い書類が入っていた。

「凄い。これ全部ベイさんが調べたの?」

「いえ。俺は専門家じゃないんで、知り合いに手伝ってもらいました」

「そうか・・・」

 ベイが差し出した書類は、ギルバートの世話を任せていた、イワンに対する報告書だった。


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