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ティエラ ドラゴネス王国記
信頼と忠義
しおりを挟む「私達が王と王妃だって認識はある?」
レンが人差し指を立てると、ロロシュがピクリと震えた。
これは無意識に昔の躾けの癖が出たのか、わざとなのかは分からない。
「当たり前だ・・・も、もちろん存じ上げております」
おお?
今でも効果大だ。
「そう? 即位式の宴会に来てくれなかったから、私達の事を、認めてくれていないのだと思ってたわ」
真っすぐに見つめ続けるレンに、ロロシュは居心地悪そうにもじもじとしているが、やはりオッサンだと可愛いいとは言い難い。
「そ・・・そんな事ねぇよ。あ・・・ないです。陛下が神話以来、初の獣人の王に即位したのは、めちゃくちゃ嬉しかったし、ちびっ子が王配、じゃなくて王妃? になったのだって誇らしかったよ」
「でも私は、あなたが来てくれなくて悲しかったわ。私達はそれほど仲良くはなかったし、マークさんの事もあって、ガミガミ怒ってばかりで、ロロシュさんだって、年下の私からあれこれ言われるのは嫌だったでしょ? だから私には、ロロシュさんに好かれる要素は何もないし、貴方が表面的な付き合いしか、したがらないのも理解してます」
「そんな積りじゃあ・・・なかったです」
「そうなの? 押しつけがましく聞こえるかもしれないけれど、多くの苦難を共にした、命の恩人の貴方には、一緒に祝って欲しかったわ」
「恩人って・・・」
招来の夜。
ミーネの奥の院に現れたレンは、今思い出しても震えがくるほどの深手を、玉の様な肌に負っていた。
それを癒したのは、紛れもなくロロシュだ。
初顔合わせの時から、レンにとってロロシュは、ずっと警戒対象だった。
何がそうさせるのかは分からなかったが、単に馬が合わない訳ではないような・・・。
その後のマークに対するロロシュの態度を見ると、レンが警戒するのも尤もだと感じたが、出会って数分もしない内に全てを見抜いたのだとしたら、レンの勘の良さは驚嘆に値する。
それでも尚、受けた恩を忘れないのはレンらしいと言えるだろう。
「別に、人としてやって当たり前の事をしただけだぜ?」
恩人と言われ、照れたロロシュは無精ひげの生えた頬を、ショリショリと撫でている。
しかし、ロロシュが謙遜して見せるとは、明日は嵐が来るのではないか?
「当たり前?」
レンの瞳がきらりと光った。
まるで獲物を捕らえた獣の様で、見て居るだけでゾクゾクしてくる。
俺もあんな目で見てもらいたい。
「俺だって弱ってる人間を放り出すほど、外道じゃねぇよ」
ものの数ミンで元に戻ったか。
やはり2.3発、雷撃を落しておくべきだったか?
「ふ~ん。なら当然幼気な子供に、侯爵家のあれやこれやを押し付けるなんて、外道な行いはしないわよね?」
「は?」
「困っている人を助けるのは当然なんでしょ? 他人の私を助けてくれたんだもの、可愛い息子なら、なおの事大事にするのよね?」
「え・・・あっいや。俺には暗部の・・・」
いい歳したオッサンが、しどろもどろとは。
どれ、ここらで一発、デカいのをお見舞いしてやるか。
「暗部の心配は必要ない。お前には辞めてもらう」
「はあ? やっ? 辞めっ!? はあぁ?!」
寝耳に水、とはこういう事か?
性格が悪いと言われるだろうが、ロロシュの狼狽えた姿を見るのは、小気味いい。
「なっなんでだよ?! 俺の働きが足りないって言うのか?!」
「いや。お前の働きには満足している」
「ならどうして!!」
激高して立ち上がり、俺を睨み付けるロロシュの目には、絶望と憎しみが宿って見えた。
ロロシュには、暗部の長としての矜持があるのだろう。
俺も暗部の長としてだけなら、ロロシュの右に出る者は居ないと確信している。
まさに天職。
甥を影に放り込んだ侯爵は、先見の明があったと言う事だ。
しかし・・・。
「お前。、俺の召喚状を、何度無視した?」
「召喚状? お、おぼえてねぇよ」
「だろうな。お前は仕事熱心だし。内容も文句の付けようがないほど見事だ」
「そこまで褒めてくれるんならよう」
「お前も知っての通り、獣人の身で王になった俺には敵が多い。これからも暗部を頼りにする事案は多いだろう。だからこそ王の命令を軽んじる者を、暗部の長に据えて置く訳にはいかん」
「あれは・・・仕事の呼び出しじゃなかっただろ?」
「それはお前の勝手な判断と、思い込みだろう? 俺はただ王城に出仕せよ、としか書かなかったはずだがな」
「そうだったかも」
「俺がお前の意見を求めていると、一度も考えなかったのか?」
「だってさぁ」
だって?
子供か?
不惑を超えたオッサンが何を言う。
「暗部は、国の極秘事項に直結している。その長に、王の命よりも己の判断を優先されては秩序も保てん。それにな命に背くなら、いつ国を裏切ってもおかしくはない。そうは思わんか?」
「なっ! なんだと?! 俺が裏切るって言うのか?!」
「さあな。召喚にすら応じない相手をどこまで信じればいいか、頭の痛い問題だな」
「なんだよそれ・・・」
長年の忠義心を疑われたロロシュは、かなりショックを受けている。
俺も権力に物を言わせた、こんな姑息な手は使いたくはなかった。
たしかにロロシュと侯爵の間には確執がある。
それでも、アルケリスたちを追い出し、後継の座に収まったロロシュが、病に倒れた侯爵を一度たりとも見舞いもせず。全てをマークとエミールに丸、投げするとは思いもしなかった。
「お前の忠義心は信じたい。しかしな、お前を知らぬ者に、それは通用せんぞ」
「・・・」
「忘れた訳ではないだろうが、メリオネス家は帝国きっての大貴族だ。にも拘らず、当主が病に伏していると言うのに、後継ぎのお前が、表にまったく顔を出さないだけでなく、屋敷に近寄りもしない。俺はな、アーノルドから、何故お前を帝国に返さないのか。と叱責を受けた」
「なんで皇帝陛下が」
「お前なあ、分かっててわざと聞いているのか? 侯爵家の豊かで広大な領地、所有する数多くの商団。良質な鉱山と貿易の販路。その他諸々を含め、侯爵家が傾きでもしたら、帝国の土台が揺れる。アーノルドが気にかけるのは当然だ」
「分かってるよ」
「分かってない。お前は帝国を支える侯爵家の重圧を、たった10歳の息子に押し付け、自分だけが好き勝手に、自由を謳歌しようとしている。そんな奴を俺は信用できない」
「ああ! そうかよ!! だったらクビにでも何でも、好きにすればいいだろ?!」
拳を震わせ、傷ついた顔を見せようと、憎しみの籠った眼で睨もうと、責任を放棄し、逃げようとばかりする、惰弱な雄など恐るるに足らん。
「そうか。ならここにお前の首を置いて行け」
「はあ? あんた気が狂ったのか?!」
「極めて冷静だ。国家機密を知り尽くした人間を、世に解き放つとでも?」
「俺が情報を漏らすと思ってんのかよ?!」
「漏らすかもしれんし、漏らさないかもしれん。だがお前の首1つで、確実に国が守れる」
「はっ!! あんた達兄弟はそういう所がそっくりだ!! ウィリアム陛下の命令で、仲間が何人処理されたと思ってんだ!」
「知らんな。だがウィリアムは、賢明な皇帝だった」
「ケッ! 最後は狂っちまったけどな!」
ウィリアムが、心に抱えていた懊悩と鬱屈を、何も知らぬお前が!!
パンッ!!
俺が剣を抜くより先に、レンの平手がロロシュの頬を叩いたのだ。
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