獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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ティエラ ドラゴネス王国記

基本理念



「は・・・母上。なんか怖いです」


「そう? ヒイラギ。あなた貴族や私達王家の人間が、贅沢な暮らしを出来るのは何故だと思う?」


「え? えっと・・・国を守ったり、大きな功績を残したから、その対価として、領地を授かって・・・」


「そうね。でもそれは初代の話でしょ? お父様はあなた達と同じくらいの歳から、魔物と戦い続け、帝国とその国民を守ってこられた。その功績を認めた帝国の皇帝、アーノルド陛下が、この国をお父様に任せられたのは知っているわよね?」

「はい。母上や帝国の騎士団の人たちと力を合わせ、魔物を駆逐、浄化したからです」

「その通り。あなた達はお父様のことを、そこら辺の父親と同じ様に考えているかも知れないけれど、実はと~~~っても偉大な方なのよ?」

「あのそれはもう、耳にタコが出来るくらい聞きました」

「聞いたけど? 実感は湧かないかしら? 言っておくけど、クレイオス様とあそこまで戦えるのは、全人類でお父様だけ。あなたは自分の魔力を過信しているところがあるけど、お父様と比べたら、鼻くそくらいでしか無いの」

「はな? 母上が鼻くそって?」

「お父様の爪の垢でもいいわよ?」

「そんなあ」

 レンは怒ると口が悪くなるが、汚い言葉を使うことは稀だ。

 そんなレンが自分の息子に、鼻くそとは・・・ヒイラギには衝撃だったかも知れんな。

「お父様は、偉大な功績をたてられた。そして今も、国と国民の為に身を削るように働いてくださっているの。その対価、報酬として、お父様が財貨を蓄えるのは、貴方の言う通りなら当然なことなのよね?」

「あ・・・はい。」

「では、あなたは? 国のため国民のために何かしたのかしら?」

「・・・まだ、何もしていません」

「だけど、あなたは大きなお城に住んで、乳母や侍従たちに世話をして貰い、素敵な服を来て、美味しいご飯とお菓子を食べ、高度な教育を受けさせてもらっている。それはどうしてかしら?」

「全て父上と母上のお陰です」

 ヒイラギの返事に、レンはタンッとテーブルを叩いた。

「ヒイラギ・シトウ・クロムウェル。それは間違いです」

「え? だって」

 うむ。

 考え違いも甚だしい。

 これが家庭教師の影響なら、俺は人選を間違えてしまったと言うことだ。

「お父様はご自身の能力で、創世神話以来、初の獣人の王となられた。けれどあなた達はまだ、アレクと私の子供だと言うだけで何者でもないの」

「あ・・・う・・・」

「いいこと? あなた達が庶民よりいい暮らしが出来て、贅沢な教育を受けられるのは、国民の皆さん達が、あなた達の将来に先行投資してくれているからなのよ」

「先行・・・投資ですか?」

「高い地位に居るものには、地位に見合った義務があるの。でもあなた達はまだ子供で、義務を果たすだけの知識も能力も足りていない。だから将来あなた達が、国を守り、民を導き、国民の暮らしを豊かにしてくれるだろうと信じて、彼らは収めた税を、あなた達の為に使うことを許してくれているのよ」

「・・・それは・・・」

「そうなのよ? 帝国の貴族の人達は、この基本理念を忘れちゃっている人が多いのだけどね」

「・・・はい」

 おお。
 流石レンだな。
 あのヒイラギを大人しくさせたぞ。

「話しを戻すと、モーガンさんは貴族でもあり、アカデミーの学長という高い地位についているわ。彼には地位に見合った義務がある。それは学生の権利を守り、アカデミーを公平で円滑に運営することなの。その義務を果たせないのであれば、その理由を彼は私達に報告しなければならない。それがどんなに私的なことであっても。ううん、私的なことなら尚更ね。彼の個人的な事情で、組織の運営を滞らせることは出来ない。してはならないからよ」

 アカデミー開校当初、剣術科の教授に就任していたモーガンは、現在アカデミーの学長を務めている。

 より多くの専門的な分野の知識を。との求めに応じ、細分化され巨大な組織に膨れ上がった学びの園を、総括できる人材は限られて居る。

 学長就任を打診すると、モーガンには ”自分は剣と魔法を以外、能のない人間だ” と固辞されたが、騎士団長として万単位の騎士を率いていた手腕と、真摯に生徒たちに向き合ってきた実績を考え合わせると、学長にふさわしい人物は、モーガン以外に考えられなかったのだ。

 学長就任から現在に至るまで、モーガンはその責務をしっかりと果たしてくれていた。

 それが報告なしに、休み勝ちになるとはな。生真面目なモーガンとは思えない無責任さだ。

「レンの言うことは正しい。モーガンはお前達にとって、親戚のような存在かも知れん。俺にとっても旧知の仲だが、公私の別は分けなくてはいかんのだ。為政者がその線引ができなくなれば、国は腐敗し、そう遠くない未来に滅びてしまう」

「大袈裟でしょ?」

「大袈裟と捉えるなら、ヒイラギ、お前に王族としての利益を享受する資格はないな」

「なんで僕ばっかり」

「甘えるな。いいか。もし、モーガンの私的な理由が、何処かの間諜に家族を人質に取られてるためだとしたらどうだ? ナディーの命を助ける代わりに、レンを害せと脅されていたら?」

「そんな事、起きるわけ無いじゃん」

 ヒイラギは不貞腐れてボソッと呟いたが、俺の耳にははっきりと聞こえて来た。

 図体ばかりデカくなっても、中身は子供のままだ。

「いいや。起きないとは言えんな。お前達の母は、神の愛し子なのだぞ。レンが招来され、その存在が広く知られてから現在に至るまで、レンを手に入れようと暗躍する連中は枚挙に暇がない。この国の前身であったゴトフリーなど2度も、レンの誘拐を企てたのだからな」

「2度も?」

「2度目はレンの誘拐だけでなく、身の程知らずにも帝国へ侵攻してきたのでな、国ごと叩き潰してやった」

「あ・・・ははは・・・そうでした」

 うむ。その辺りは、しっかり勉強しているようだな。


「でも、でも今は? 母上は安全なんですよね?」

 身を乗り出して聞いてきたのは、サクラだった。

 サクラは兄ギルバート同じく、母上大好きな甘えたなのだ。

「そうとも限らん。お前達は忘れてしまったかも知れんが、昔お前達をつれてピクニックに行った事がある。その時ハーピーの大群の襲撃を受けてな」

「それ、何となく覚えてます」

「うむ、ハーピーを召喚した奴らを捕らえて調べたのだが、そいつらはゴトフリーの残党と、とある小国が手を組み、レンを拉致しようと企んでおったのだ。それにな、裏社会でレンに掛けられた懸賞金は、今も取り下げられておらんし、日照りや飢饉が起こった国は、神の恩寵を欲しがるからな。安心は出来ん」

「母上は視察とか、浄化とかで、よく外出をなさいますよね? 大丈夫なんですか?」

「お父様が一緒なのよ。大丈夫に決まってるでしょ」

 俺を信じ胸を張るレンは、母の顔をしていても可愛らしい。

「そうだよサクラ。父上だけじゃなくて、母上には沢山の従魔も、クオン兄様とノワール兄様も居るじゃない」

「師匠は今はあれだけど、めちゃくちゃ強いしな」

「そうそう。母上だって異次元の強さだし。母上にちょっかい掛けようなんて、おつむりが弱いとしか思えないよ」

「でも、万が一ってこともあるだろ?」

 不安げな表情を見せるサクラを落ち着かせる様に、レンはニッコリと微笑み返した。

「要するに、これはレンに限った話ではないと言うことだな。国の重要な役職に就いている彼らにも、何某かの被害を受ける可能性があるのだ」

「ね? だから高い地位にいる人ほど、公私の別なく、身辺で変化が起こった時は、報告をしてもらいたいの」

 楽しいはずの晩餐が、すっかり説教の場になってしまった。 

 それでも息子達が、王家の責任について、考えるキッカケになったのであれば、良しとしよう。

     
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