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ティエラ ドラゴネス王国記
侵攻と内乱
しおりを挟む「帝国からの返事はまだか?」
「申し訳ございません。通信鳥はまだ戻っておらず」
「魔通信は?」
「こちらからの呼びかけにも応答はなく、回路が塞がれて居ると考えられます」
「クソッ!」
帝国とタランの間で戦端が開かれて2週間。
アーノルドは勿論、ロロシュからの音沙汰もなく、暗部からの連絡も帝国内で内乱勃発。との短い知らせを最後に、帝国との連絡が一切取れなくなった。
シルベスター・オーベルシュタイン・アーベラインを初めとする、帝国の防衛を担う貴族達とも、アーノルドとの魔法契約の為か連絡が取れない状況だ。
三人の侯爵と以前の騎士団であれば、タランの侵攻など簡単に制圧出来る筈だ。何よりアーベラインの下にはセルゲイが居る。
そう信じていた。
しかし、タランの侵攻と時を同じくしての内乱だ、その鎮圧に戦力は分散し、皇都の護りも弱くなる。
ロロシュを中心に、アーノルドは皇家への反逆を企てる者達への牽制と摘発に乗り出していたが、首謀者を制圧することは敵わなかった。
それは騎士団の弱体化と、反乱分子の勢力が大きく育ち過ぎた事が重なったのだと考えられる。
ティエラドラゴネスの王となった時、第2騎士団の殆が俺達についてきてしまった。その後自国の発展に注力していた俺には、帝国騎士団の再建や育成に関わる暇はなかった。
冷静に考えれば他国の王となった俺が、帝国の騎士団の世話をする必要はないし、頼まれてもいないのに俺が手出しをすれば、ただの内省干渉になってしまうのだが、心情的にはもっと面倒を見てやるべきだった、と今更ながら悔やまれてならない。
魔法契約がどの範囲まで及ぶか分からず、部下を犠牲にすることを恐れたロロシュは、全ての情報を止めさせていたが、俺との通信である程度の誤魔化しが効くと判断したらしく、それまで止められていた帝国内の不穏な情報を暗部から受けることが出来た。
それを受けた俺は、この国の防衛を強化させつつ遅ればせながら暗部と影を使い、、タランの帝国侵攻を阻止するための裏工作に奔走した。
タランに対する牽制に、遅れをとった俺は手段を選ばなかった。
タランへの輸出を止め。武器調達を阻止するために、タラン随一の採掘量を誇る鉱山で落盤事故を起こさせ、盗賊に扮した者達に兵站用の食料を強奪もさせた。
家督を継ぎ引退した第5の団長だったランバートと連絡を取り合い、海賊に扮し、タランの商船を数隻沈めさせもした。
その他にも小さな嫌がらせを含め、有りとあらゆる手を使った。
俺がとった手段は、相当の犠牲を伴うものばかりで、レンには聞かせられない話ばかりだ。
それでも帝国と、ティエラドラゴネスを護るためにはやらなければならなかった。
帝国の剣として盾として。
ジルベールとウィリアム。
二人の兄を犠牲にしたのは俺だ。
たった1人の弟を見捨てることなど出来ない。
今度こそ家族を犠牲になどするものか!
そう決意したは良いが、アーノルドは俺の助けを拒み続けている。
意地を張っている場合か?
と言ってやりたいが、小国の王に助けを求めるなど、皇帝となったアーノルドの矜持が許さないのだろうとも思う。
帝国との全ての通信が途絶し、ガルスタの跳ね橋は上げられたまま、属国であるにも関わらず、往来が止められた。
魔法契約を結んでいない、アーチャー伯と皇都から遠く離れたバイスバルト城に居る、ギルバートとエミールとも連絡が取れないのは何故だ?
二人は本当に無事なのか?
何かが可怪しい。
アーノルドが俺の助けを拒む気持ちは理解できる。
賢帝と歌われたウィリアムと、悪鬼、悪魔と恐れられながら、帝国の剣で有り続けた俺への引け目があったのかも知れない。
俺の事を獣と蔑んでいた奴らの多くは、大厄災の日に命を失ったが、全てが居なくなった訳ではない。
そんな奴らが、ウィリアムと俺を引き合いに出し、アーノルドの治世に反発していた事も知っている。
神の恩寵であるレンを、俺と共に手放したことでも嫌がらせを受けただろう。
だとしても。
此処まで徹底して、外部との接触。
正確には俺とレン。
ティエラドラゴネスとの接触を、封じる事に意味はないし、そもそもそんな事が可能だろうか?
そして俺が執拗に邪魔をしたにも関わらず、結局タランは戦を選び、帝国へ攻め入った。
この違和感は、ヨナスの呪いを受けたウジュカに通じるものを感じる。
もしやヴァラクの残した負の遺産が関わっているのだろうか?
だとすれば、黙って見過ごすことは出来ない。
そうなると誰かを直接帝国へ送るべきか?
いや、ひよこ達をグリフォンで帝国へ向かわせるにしても、レンのスクロールで帝国へ転移するにしても、今の状態で帝国内に入った者と連絡を取り合うことが可能だろうか?
そうなるとカル達の不在が痛い。
カルとアーロンなら、クレイオスと同じく空間を開き、好きな場所へ移動することも可能だし、クオンとノワールなら空を行き来することも出来る。
しかし、龍とドラゴンはレンの願いで、アミーのクレイオス神殿へ避難してしまった。
「勝手なことをしてごめんなさい」
とレンは謝っていたが、レンの判断は正しかったと思う。
人間の争いに、ドラゴンと龍を関わらせてはならない。
レンは単純にカル達に人を殺めさせたくなかっただけの様だが、ドラゴン達の強さは次元が違いすぎるのだ。
カル達の力ならタランを平らげるどころか、ヴィースの全てを焦土と化すことも可能だろう。
だからこそ人智を超えた存在を、人間の争いに関与させてはならない。
野心を抱く者達にとって、彼らの力は魅力的すぎるのだ。
現に俺も動もすれば、彼らに頼りたくなってしまう。
ドラゴンを手に入れた者が世界を制す。
そんな考えを抱かせてはならない。
ドラゴンと龍は人の争いに関与しない。
彼らには愛し子の眷属として、神の恩寵のシンボルで居続けてもらわねばならんのだ。
「タラン側の国境の様子は?」
「睨み合いが続いております」
「ガルスタはだんまりか?」
「跳ね橋を上げたまま。歩哨の姿も見えないそうです」
それもおかしな話だ。
いくらこの国が属国と入っても、国境の警備は必要だろ?
「うむ。少しでも動きがあれば報告しろ」
「了解しました。・・・あの」
「なんだ?」
「それが、カル様のお住まいに侵入したものを捕らえたとの報告がありました」
レンが予想したとおりだったか。
思うところはあるが、カルの卵には罪はない。
無事で良かった、と喜ぶべきだよな。
「タランの戦士か?」
「はい。ですがその中の1人が、行方が分からなくなっていた、アカデミー剣術科の教授でした」
「なに?」
モーガンの休暇願いと手紙を横取りし、モーガンが不在の間騎士団への推薦状を偽造したあいつか?
しかし、あいつの出身はタランではなく、この国の人間だったはずだが・・・。
「取り調べはこれからなのだろ?そいつは優先的に締め上げろ」
「了解しました」
「それと、奴の推薦で入団してきた使えない奴らが居たな。そいつらも全員拘束しておけ」
「入団したての小僧ですよ?」
こいつは・・・・。
魔物の討伐に明け暮れていた頃は、こんな鈍いやつは俺の周りには居なかった。今が戦時下だと認識していないのか?
この20年近く騎士の育成に努めてきたが、実戦が減るとこういう緊張感の無い奴が増えて困る。
「だそうだ。ミュラーどう思う?」
「彼はこの場に団長が居なかった事に感謝するべきですね。忙しいアーチャー団長の手を煩わせるのは考えものです。私の権限でも罰を与えることは出来ますが、どうされますか?」
「宰相に任せる。今が戦時下だということを骨身に染み込ませてくれ。そうすれば他の者も緊張感を取り戻すだろう?」
「え? ええ?」
「では陛下御前を失礼いたします。君は私と一緒に来なさい」
「えぇ~?!」
何を驚く。
礼節を守り、上官の八つ当たりを上手く捌ける様になって一人前だ。
ひよこ達が真っ当になるまでも時間が掛かったが、こいつも少し揉まれれば、使い物に成る日が来るだろう。
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