獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
549 / 765
千年王国

純愛とストーカー?

しおりを挟む
「案外、セルゲイの言う通りかもしれんぞ?」

「閣下まで、何を言って居るんですか?!」

 声を上げたシエルは、泣き続けているリアンを気にして、チラチラと視線を送っている。

「私も、アレクの言う事に一票」

「レン様まで?!」

「シエル、そんなに眼を三角にしたら、綺麗なお顔が台無しよ?」

「レン様!今は巫山戯ている場合ではないでしょう?!」

「巫山戯てなんか居ないわよ?シエルは美人さんよ?」

「そうだぞ。シエルは美人だ」

「セルゲイ!!皆で僕を揶揄ってるんですか?!」

「そんな事ないわよねぇ」

 うんうんと頷くセルゲイは、番補正が掛かっているかも知れないけれどね?

 マークさんのような美しさではないけれど、ぱっちりした大きな目と、長い睫毛。意思の強そうな、きりりとした眉に小麦色の肌。

 シエルは南国情緒たっぷりの、魅惑的な美人さんだもの、本当の事を言って居るだけなのに・・・。

 まぁ、今の状況では、不謹慎な言い方だったのは認めます。

 ごめんなさい。

「シエルの言いたい事は分かるけど、多分セルゲイとアレクの言って居る事は、当たっていると思うの」

「だとしても!」

「そうよね。リアンには嫌な話よね。けど、其処はあまり重要ではないのよ?」

「何故ですか?他国の王子が、殿下に横恋慕しているんですよ?」

「だって。ねぇ?」

「そうだな」

 見上げたアレクさんも頷いています。
 訳の分からないシエルは、イライラしているようです。

 流石南国生まれは、感情が豊かだわね。

「あのね。たまに居るのよ。自分が好きになったら、相手の気持ちなんてお構いなしに、相手の人も自分の事を好きなはず!って思い込んじゃう人が」

「レンが招来したばかりの頃。俺はちょうど誰かの尻拭いで、ミーネで討伐中でな?レンは一人で留守番だった。レンも体調が今一な時だったし、愛し子であることも公表する前でな。その時ウィリアムの推薦で、レンの侍従を任せた奴がいたのだが。そいつはウィリアムに懸想していたのだ」

「そんな話は初耳です」

「だろうな。あの時は、メリオネス家のアルケリスが絡んだ大捕物で、詳細が伏せられていることが多かった」

「そうだったんですか」

「それでね。私はこっちに来たばかりで、何も分からないし、兎に角こちらの食事が苦手で、全然食べられなくなってしまったの」

「レン様・・・」

 そんな、申し訳なさそうな、顔をしなくてもいいのに。

「だがな。レンが食事を摂れなくなったのは、その時の侍従の所為だったのだ」

「侍従のせいですか?」

 話しに付いて来られないのか、シエルは首を傾げているし、リアンも涙が引っ込んだようですね。

「神殿からも、レンを遠ざけて置かなければならなかったし、レンはこの宮に移るまで、貴賓室に閉じこもっている事の方が多かった。俺が留守にしている間、ウィリアムは足繁くレンのもとに通って、話し相手になってくれていたのだが、件の侍従がレンとウィリアムの仲を誤解してな」

「ウィル兄とレン様の仲を?そんなのあり得ない」

「だろ?しかしあの時は、俺が何処かの子供を攫って来ただの、なんだのと皇宮の中は下種な噂が流されていた。その噂も有って件の侍従は、レンを男娼だと思い込み、レンに嫌がらせをしていたのだ」

「だっ男娼?!愛し子のレン様を?!」

「そうみたい。私はあの時は嫌がらせされてるなんて、全然気が付かなくて。ヴィースのお料理は、物凄く味が濃ゆいのだ思ってた。だから後になって、アレクに教えてもらった時はビックリしたの」

「あの時の侍従は・・・ラドクリフの息子でしたね?」

「そうだ。レンに対する嫌がらせは、セルジュとローガンの告発で対処することが出来たのだが。ラドクリフはウィリアムへの想いを募らせ、レンを排除しようとしていた。あいつには、アルケリス絡みで余罪も有ってな。取り調べを行ったが、その最中話す事は、ウィリアムの事ばかり。ラドクリフの頭の中では、ウィリアムは奴の事を愛していて、何時か王配になれると、本気で信じていたのだ」

「それ、メチャクチャ怖くないですか?」

「怖いわよね?でも本人はいたって真剣だし、悪い事をしている積りなんて、これっぽっちもないの。こういう人を向こうではストーカーって言うのだけど、自己愛が異常に強い人が為り易いらしいですよ?」

「自己愛?」

「純愛とストーカーは、紙一重なのですよ」

「そうそう。うちの管轄でも似たようなことが有ったよ。被害者はお貴族様じゃなくて、街のパン屋の跡取り息子だったけどな。跡取り息子に一目惚れた雄が、相手の迷惑も考えずに付き纏った挙句。息子の恋人をブスッ!!とやっちまったんだよ」

「こっ怖い!怖すぎる!」

「だろ?さっきの録画を見た限り、アセンって奴は、かなり我儘な性格じゃん。王子様って立場もあって、今までなんでも思い通りになって来たんじゃねぇか?だから、自分が惚れたんだから、殿下も自分に惚れてるに違いない!って思い込んでんのかも知れねぇよ?」

 育ちの良いリアンやシエルには、刺激の強い話しだったみたい。

 2人とも顔色が悪くなっちゃったわ。

「そんな怖い相手なのに、何故重要じゃないのですか?」

「横恋慕は横恋慕。重要なのはアーノルドさんだから」

「僕・・・私ですか?」

 どうしてすっ頓狂な声を出しているの?
 問題があるとしたら、どう考えても貴方なのよ?

「その通り。アーノルドがアセンを相手にせず。毅然とした態度で拒絶すればいいだけだ」

「それは勿論です!」

「でもなあ、ほんとかなぁ。じゃあなんで、今まで好き放題やらせてたんだよ。殿下は側室を迎える気なんじゃねぇの?」

「そんな事はない!」

 セルゲイの言葉を否定すると、今度はマークさんの番です。

「本当に身に覚えはないのですか?アセンが誤解を招くような誘惑をしたとか?」

「してない!してないよ!!」

「そんじゃあ、あれか?お若い殿下は、誘惑されて我慢がしきれなくなって、ついつい、摘まみ食いしちゃったとか?」

 ロロシュさん。
 幾らなんでも言い過ぎよ。

「ぼっ僕は!まだ清いままだっ!!」

「・・・あら、まあ」

 そんなに真っ赤になっちゃって。
 こんな大勢のお兄様方の前で、チェリー宣言しちゃったもの。
 恥ずかしいわよね?

「お前達、揶揄い過ぎだ。アーノルドは兎も角、リアンが可哀そうだろう」

「兄上!僕の事はどうでも良いのですか?!」

「そうだな。割とどうでもいい」

「は?」

「公人としては、俺はお前を守る義務もあるし、大事な弟を守ってやりたいとも思っている。だが同じ雄としては、恋愛絡みで婚約者を泣かせるような、腑抜けの面倒は見たくない」

「ちょっと。アレク」

 その言い方はどうなの?

「なにを弱気になって居るのか知らんが、最初からアーノルドが毅然とした態度を取って居れば、こんな騒ぎにはならなかったし、リアンも傷付かずに済んだんだ。帝位云々の前に、自分の伴侶も守れなければ、一人前の雄とは言えんだろう?」

「そうだけど・・・」

 そんな言い方したら、自信なくしちゃうよ?

「そうですね。全部僕の責任です。僕は婚約者も守れないダメな雄なんだ。やっぱり僕は、兄上達の様に強くはなれない」

 ほら~~!
 言わんこっちゃない。
 戴冠式まであと少しだって言うのに、自信を無くしちゃったじゃない。

 またまた、気まずい雰囲気になりかけた時、アレクさん達騎士のメンバーが、そろって窓の方を向きました。

「ルナコルタが来たようだな」

 さっすが~~!
 騎士さんって、本当に気配に敏感よね。
 こう言うのって、地味にかっこいいと思います。

「ローガンさん。リアンの侍従さん達は、リアンの衣装も持って来てくれている?」

「はい。一通り持ち込まれております。そろそろ部屋の片付けも終わった頃かと思います」

「そう。侍従の皆さんにはお帰り頂いてから。パーティーの衣装を、ここに運んでくれる?」

「畏まりました」

「あと、私とアレクのお揃いの衣装を、出来るだけ沢山持って来て?」

「仰せのままに」

 恭しく頭を下げたローガンさんが部屋を出て行くと、皆が私の方を不思議そうに見てきました。

「アセンの鼻を明かす、良い手を思いついたの。でもルナコルタさんの意見も聞かないとね?」

 気分は魔法少女。
 きらりん、シャランと問題解決!

 と言いたいとこだけど。
 いい歳して、魔法少女は無いですよね?

 魔法とドレスって言ったら、年齢的にも、シンデレラの魔法使い。
 かな?
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...