氷の華を溶かしたら

こむぎダック

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氷の華を溶かしたら

133話



 馬車での午睡から目覚めたキャニスを部屋に送り届けたシェルビーは、その足で父王のもとへ赴き、裁判の様子と判決を報告した。

 話しを聞いた王は、少し考え込みはしたが「私個人としては思う処がない訳ではないが、判決が出た以上、異議を申し立てる気はないから安心しなさい」

「はい。ヒューゴ伯の処分は如何致しますか?」

「それこそ私の一存では決めかねる。大臣達との会議は手配済み故、その場での裁可次第だ。まあヒューゴ家は歴史は古いが、最近はどうも振るわないようでな。味方をする者は居ないだろう。それ故に伯爵はお前とリリアナの婚姻に拘ったのだろうよ」

「私も同意見です」

「ふむ、だがな王家の特質を考えれば、お前の興味を引けなかったところで、諦めるべきであったろうに。モンテとヒューゴは目先の欲に負け多くを失った。私達は番を見分けることは出来ないが、好みには煩いからな」

 シェルビーへにやりと笑ってみせた王は、隣に座る王妃の手を取り、指先に口付けた。

「陛下。お話が残っているのではなくて?」

 嗜められた王は、持ち上げたままの王妃の手を優しく撫でて、にこりと微笑みを返した。

「如何なる時でも、愛を伝えるのは大切なことだろ? 特にキャニスは特異な人物であるからな。シェルビーには王家のためにも自分のためにも、常人以上に頑張って貰わねば」

「そうね。わたくしも今更キャニスさん以外のお婿さんなんて考えられませんわ。でもこの子は本当に朴念仁ですの。いつか捨てられてしまうのじゃないかと。もう、心配で心配で」

「母上。何もそこまで言わなくても」

 俺だってキャニス本人へのアプローチ以外にも、キャニスには言えないあれやこれやを裏で手を回したり、必死で頑張ってるんだぞ?

「キャニスの優しさに甘えてばかりではいかんぞ」

「父上まで・・・」

 同じ男として味方にになってくれると信じていた父の言葉は、シェルビーは心を抉られる思いだ。

 確かにキャニスに比べたらあれだけど、実の息子なんだから、もうちょっと優しくしてもらえない?

「情けない顔をするな。ジューンに続きリリアナまでも・・・。勘違い娘二人のせいで、キャニスに愛想を尽かされたらどうする?」

 正論すぎて言い返せない。

「・・・あの日、キャニスを攫ってくれば来ればよかったなぁ」

「あーたしかに」

「親子揃って、なんて物騒なことを」

 と同じ様に遠くを見つめる父と息子に、王妃は呆れ返って居る。

「でも母上、あの時キャニスを攫ってきていたら、キャニスは無駄に辛い思いをしなくて済んだんですよ?」

「え?・・・まぁ・・・そうね」

「それにな。私達は獣人の本能が薄れてしまったが、もしかしたら、キャニスは本当にシエルの番かもしれないじゃないか。子供ではあったが、シエルは番を見分けていたのかも知れんぞ?」

「そう言われるとそんな気が・・・・って! 一国の王と王太子が、犯罪者まがいの発言をしてはいけません!」

 と王と王太子は、扇子をバサバサと振る王妃から、10分以上も小言を貰うことになった。

「えーーー、ゴホン。そう云う事で、ヒューゴの処分を決める会議には、お前達も出席を求められるだろうから、そのつもりで居るように」

 そう云うことって、どういう事だよ?

「承りました」

「お前も気が張って疲れただろう? 今日はもう休みなさい」

「いえ。この後はカラロウカ公爵夫人と少し話があるので」

 これを聞いた王妃は「外堀を埋めるのも大切よね。シエル頑張るのよ」と目をキラキラさせ、朴念仁な息子へ拳を握ってみせたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「お疲れ様で御座いました。それで首尾の方は如何でしたの?」

 扇子で口元を隠しながら、茶を勧める公爵婦人は今日も貴婦人の鑑のように優雅だ。

 キャニスの所作の優雅さは、王太子妃教育の賜物でもあるだろうが、それよりも夫人の影響が大きいのではないかと、シェルビーは考えている。

「恙無く。と一応言えるかな」

 歯切れの悪いシェルビーの返事に、カラロウカ公爵夫人エミリーの瞳がギラリと光った。

「一応? 詳しく聞かせてくださる?」

 身を乗り出したエイミーだが、シェルビーは最初から裁判の話を夫人に聞かせるつもりで居たため否やはない。

 それに今頃は傍聴者の口から、王都中に裁判の内容は野火の如く拡がっているだろうし、明日の昼までには新聞があること無いことを書立てる事だろう。

 ならば無責任な憶測や偏見混じりの情報よりも、当事者の口から正確な事実だけを話して聞かせるべきだ、とシェルビーは考えている。

 真剣な眼差しを向ける夫人へ、シェルビーは裁判の一部始終を詳しく語って聞かせた。

 時々質問を挟みながらも、シェルビーの話の腰を折ることもなく、最後まで今日の報告を聞き終えた夫人は、紅茶のカップに朱唇をつけると、冷めてしまった紅茶をベラに入れ直させた。

「そう・・・キャニスに庇ってもらいながら、大勢の前であの子を呪うと言ったのね?」

 夫人の態度も言葉も静かだったが、その瞳には怒りの炎が燃え上がっている。

 そしてシェルビーの背後からも、ベラの怒りに満ちた殺気が・・・。

 カラロウカの過保護振り恐るべし。

 いや、ベラの忠誠心を恐れるべきか?

「ベラ? ここはもういいから、殿下と2人にして頂戴」

「でも、奥様」

「心配ならパトリックを呼んできて」

「・・・畏まりました」

 追い出すのは可哀想だが、ベラはキャニスの過去を知らされていない。

 この先の話しを聞かれる訳にはいかないと、察しの良い夫人は理解したのだ。

 渋々ベラが部屋から出た数分後、パトリックが静かに部屋に入ったのを確認したシェルビーは、再び口を開いた。

「騒動直後、キャニスから王太子の権限でリリアナを助けられないか? と聞かれたんだけどな。俺は秩序を守る側だし俺がリリアナを庇えば、俺とリリアナの関係を疑う者も出るだろ? それにキャニスへの寵愛も疑われて、キャニスが貴族たちから見下されるかも知れない。だから俺はキャニスの頼みを断った」

「当然ですわね。殿下の判断は間違っていなくてよ」

「うん。俺もそう思う。だがキャニスは過去の自分とリリアナを重ねて居たようだ。それにリリアナのことを、恋に惑った子供だと言っていた」

「あの子らしいこと。でもねヒューゴ家はキャニスの商会と取引があったはず。誰のお陰であの家が潰れずに済んだと思っているのかしら? 恩知らずにもほどがあるわ」

「そうなのか? キャニスは何も言っていなかったが」

「キャニスはリリアナ嬢に同情していたのでしょう? ならそんな事は口にしないでしょうね」

 と夫人は手にした扇子をイライラと振っている。

「それで? 殿下はこんな不愉快な話しを聞かせるために、夫と息子抜きでと指定までして、わたくしを訪ねていらした訳では無いのでしょう? 裁判であの子に何があったの?」

 流石と言うか、公爵夫人は全てをお見通しだな。

「報告、相談、確認の三点だ」

「まあ。盛りだくさんですこと。では順に拝聴いたしますわ」

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